今は試練のとき。オンラインで楽しめるプロレスの魅力を配信、今後もさまざまなプランを考えています――新日本プロレスリング社長 ハロルド・ジョージ・メイ
更新日:2020/4/17
ハイネケンジャパン、日本リーバ、サンスター、日本コカ・コーラ副社長、タカラトミー社長……多くの世界的大企業で実践的な経験を積んできたハロルド・ジョージ・メイ氏(56歳)が、残りのキャリアのすべてを捧げたいと選んだのは「新日本プロレス」社長。“プロ経営者”でありプロレスファンでもあるメイ氏は、ビジネスとして、プロレスをどのように捉えているのか。新型コロナウイルスの影響で、イベント業界はいま厳しい状況が続いているが、その対応策についてもうかがった。

Harold George Meij●1963年、オランダ生まれ。ハイネケン、日本リーバ、サンスター、日本コカ・コーラ(副社長)、タカラトミー(社長)を経て、2018年より新日本プロレスリング株式会社社長兼CEOに就任。8歳~13歳まで日本で過ごした後、インドネシアに渡り、アメリカの大学を卒業。日本語を含む6カ国語を話す。ファン有志によるファンクラブ「クラブメイ」が発足するなど、プロレスファンからも人気。 @njpw1972
スポーツマーケティングで重要なものとは?
──ご著書『百戦錬磨 セルリアンブルーのプロ経営者』(時事通信社)には、新日本プロレスの社長としてのお話だけでなく、日本リーバやタカラトミー時代に手掛けられた仕事の話がたくさん掲載されています。特に、メイ社長の発案で実現した「リプトンでの木箱入り紅茶セット販売」、「タカラトミーでの空港へのガチャ設置」のお話が非常におもしろかったのですが、新日本プロレスでは、どんなことを発案されましたか。
メイ 新日本プロレスの応援グッズでぬいぐるみの「マネくま」は、タカラトミー時代の2015年に、私が新日本プロレスに提案・売り込みをして実現した商品です。人気選手をモチーフにした各選手のコスチュームを着ている可愛いクマで、ファンの方々はこれを会場に持ってきて、ひざの上に抱いて選手を応援します。
これまでに約30種類の「マネくま」が発売されています。ベースになるクマは同じなのですが、コスチュームや髪型、ヒゲなどで選手の特徴を出しています。このクマを持っていて何がいいかというと、「あの人は○○選手のファンだ」というのが見た目ですぐわかるわけです。そうすると同じファンの人と仲良くなれたり、選手本人と目が合うこともあります。「マネくま」は1体8500円するのですが、我が社のベストセラーです。

──「マネくま」はタカラトミー時代にご提案された商品だったのですね。そのころから、新日本プロレスとご縁があったのですか。
メイ そうですね。木谷さん(新日本プロレスのオーナー)とは、もともと面識がありました。僕はタカラトミーで社長就任のあいさつをする時に、プロレスの入場曲をかけて登場したんです(笑)。その後も何度かそういったことをしていたので、木谷さんにお会いした時「すみません、プロレスの入場曲をこういうふうに使っていまして……」とお話しして許してもらった(笑)。その後、「マネくま」の提案をさせていただきました。
──木谷さんは、メイ社長の前職退任のニュースが流れた直後に、メイ社長に直接電話をかけて、新日本プロレスの社長をオファーなさったと本書にも書かれていましたが、そういったご縁だったのですね。「マネくま」以外にも何かメイ社長が関わられたグッズはありますか。
メイ 新商品のぬいぐるみ「ぴょんすけ」も、私の発案から生まれたものです。これはお尻のプレートに秘密がありまして……磁石が入っているので、服の表と裏を磁石で挟んで肩の上に乗せることができます。応援している時も落ちてこないし、肩にぴょんと座っていてかわいい。それに、小さいので何体も持っていけるんですよ。お値段も手頃な2500円ですしね。「棚橋選手の試合が終わったから、次は内藤選手のぴょんすけを乗せて応援しよう」と簡単に取り換えられます(笑)。

新日本プロレスの応援グッズ「マネくま」と「ぴょんすけ」、右は、メイ社長のステッカー
──応援グッズに、非常に力を入れていらっしゃいますね。
メイ はい。某プロ野球チームが女性ファンを増やして大変注目を集めましたが、スポーツを盛り上げたりブームを生み出したりするのは、選手だけでなくファンの方たちからの場合もあると思います。可愛いぬいぐるみの応援グッズがヒットシリーズとして定着することで新しいカルチャーになり、マスコミに取り上げられることも増えました。女性の方がプロレスに入ってきやすくなって女性やお子さんのファンも増え、会場が昔よりも明るく華やかになってきたと思います。こういうグッズからの盛り上がりも、スポーツマーケティングには重要なのです。
僕は日本のプロレスを、日本はもちろん海外にも広げていきたいと思っているのですが、「日本風の応援スタイル」も海外で定着させたい。横断幕を掲げたり、可愛いぬいぐるみなどのグッズを持って応援したりするのは、日本ならでは、です。ぬいぐるみも、もっと選手のキャラクターに似せたリアルなものを作ろうと思えば作れます。でもそれでは、おもしろくない。あえて、可愛いデフォルメされたキャラクターにしたほうがなんとなくアニメの世界観というか……日本的だと僕は思っているので、「マネくま」や「ぴょんすけ」を作りました。
プロレスは、文化・年齢・男女の壁を越える
──海外展開についてのお考えを、さらに詳しくお教えください。
メイ 海外で興行したり、海外に足場を築きファンを増やしていくのは容易なことではありませんが、「人」も「組織」も数多くの経験を積むことが大切で、成功や失敗を何度も重ねてノウハウを蓄積し、強くなります。
僕は、プロレスには世界に広まるポテンシャルがあると信じているんです。マクロ的な話をすれば、現在、日本のGDPの約60%が「モノづくり」で、約40%が「コト体験」です。アメリカでは、その数字が逆転している。アメリカのエンターテインメント業界に他の国が勝てないのは、国が投資しているからです。日本でも、モノを買うことはなくなりませんが、傾向としては減少していく。だから「コト体験」のほうを増やさないといけないと思っています。
「コト体験」で日本が輸出できるものというと、代表的なものはアニメですよね。日本アニメの市場は今、国内と海外ちょうど半々ですが、海外市場がどんどん大きくなっている。じゃあスポーツコンテンツでは?と考えた時に、プロレスにその可能性があると、僕は思っているんです。ルールが単純明快で、言葉があまりいらないですから。
僕が初めて日本に来たのは8歳の時。日本語がまったくできなかったので、日本のテレビで唯一観られたのがプロレスだったんですよ。父もプロレスを好きになったので、二人で一緒に観て楽しめた。そこに年齢の壁はないんです。
新日本プロレスは、数年前から『新日本プロレスワールド』という動画配信サービスを行っていて、英語の解説版もありますが、それがなくても十分観てわかる。文化、年齢、それに男女の壁も乗り越えられるのがプロレスなんです。今、新日本プロレスファンの割合は、4割が女性で、お子さんが1割、5割が男性です。
──『新日本プロレスワールド』は、海外の加入者がとても多いそうですね。
メイ 約半分が海外の方で、世界中の方が観てくださっています。世界で野球が盛んな国というのは10~15カ国くらいなんですが、格闘技というのは万国共通。オーバーに言うと、2000年前、ローマ帝国のころからレスリングをやっているわけですから。まだまだ海外でのポテンシャルはあると思っています。
実際、2019年4月の新日本プロレス「NYマディソン・スクエア・ガーデン大会」では、1万6000席用意したチケットが19分で完売しました。これはマディソン・スクエア・ガーデン60年の歴史の中で、最短だそうです。
昨年は、初のロンドン大会、初のオーストラリア大会も開催しましたが、海外で興行するのは、先行投資でもあります。選手もスタッフもみんなで移動して、何日間も現地に滞在するので、利益率は下がります。なので、お金のことだけ考えれば、日本で大会をやったほうがいい。でも、やっぱり本物を生で観て、あの空気感に触れる体験は特別ですよ。プロレス会場という空間のすべてが、一つの体験を提供する場なんです。試合はもちろん、会場の雰囲気、グッズ、飲食、フォトスポット……すべてセットで考えなければいけない。それを好きになるかどうかはお客さん次第ですが、我々は日本と同じように海外でも新日本プロレスの会場を作らなくてはいけないんです。
試合だけでなく、思い出を提供している
──確かに、日本でもプロレス会場に行くこと自体にワクワクする楽しみがあるように思います。
メイ 来てくださるファンの方にとって試合を観ることが一番の目的であるのは間違いないんですが、我々はただ試合を提供するのではなくて、思い出を提供したいと考えています。すごい試合も一生忘れることのできない思い出になりますが、ほかの形の思い出もありますよね。仲間と一緒に観て楽しい時間を過ごすこともそうだし、好きな選手と一緒に写真を撮れたりすることなどもそうです。ただ、大きい会場では、ファンの方全員が選手と写真を撮るのは時間的に不可能ですよね。グッズの購入とかファンクラブ内での抽選など何らかの条件をつけざるを得ない。
私も会場でファンの方と写真を撮ることがあるんですが、私なら何も条件はありません(笑)。最初はファンのみなさんにお礼を言うために会場に立っていたんです。そのうち、ただ立っているよりも感謝の気持ちをストレートに表現しようと写真を一緒に撮ったり、オリジナルのステッカーをお渡ししたりすることを始めたんです。

メイ社長が作成したオリジナルステッカー
──メイ社長の似顔絵やライオンマークがプリントされた、素敵なステッカーですね。
メイ ありがとうございます。ステッカーは「あなたは素晴らしい新日本プロレスファンです」という認定証なんです。集めたいと思ってくださるといいなと、いくつかのバージョンを作ってあります。一度会ったからいいや、ではなくて、二度会おう、三度会おうという「続き」がある楽しさを感じていただけるように。
──まさに「体験」であり「思い出」ですね。
メイ 僕にとっては、会場でのこうしたコミュニケーションは、ファンの方から元気をもらえる機会でもあります。「こないだの試合、おもしろかったです」とか「がんばってくださいね」とか直接言っていただけると、“明日からまたがんばろう”と思えるんです。ダイレクトに「もっとこういう試合をしてほしい」という要望をうかがうこともできます。人から伝え聞いたのでは、その人のフィルターが入ってしまいますからね。それもあって、会場に立つことは続けています。
新型コロナウイルス対策、プランB、プランCも、もちろん用意している
──今年はこの後、どんなことを予定されていますか?
メイ 4月からBS朝日で金曜夜8時、たっぷり1時間枠で『ワールドプロレスリングリターンズ』の放送がスタートします。「金曜夜8時」というプロレスファンにとっては特別な時間帯に、プロレス番組が放送されることについて、とても感慨深く嬉しく思っています。
──昔からのプロレスファン、選手のみなさんからも「金曜夜8時」枠の復活を望む声はよく聞かれますね。
メイ 70年代から……特に80年代の新日本プロレスを支えたのが金曜夜8時のテレビ放送でした。子どもさんも大人もみんなが観て、プロレスを好きになって、さあ会場に観に行こうとか、選手を応援しようとか、その先につながっていった。その枠が復活するというのは、選手も社員もみんなが望んでいたことです。BSでの放送にはなりますが、今のテレビはボタン1つで地上波からBSに切り替えられるので、そんなに大きな壁はないと思っています。

──現在、新型コロナウイルスの影響でプロレス業界をはじめイベント業界が大ダメージを受けていますが、メイ社長の今のお考えをお聞かせください。
メイ 新日本プロレス48年の歴史の中で、これほど多くの大会が一斉に中止になったことはないと思いますし、今回の新型コロナウイルス感染拡大は全世界に影響を及ぼしているので逃げ場がなく、試練の時です。ですが絶対にこの試練も乗り越えられると信念を持って、一致団結してがんばろうと思います。
──大会の中止・払い戻しなどの対応をされると共に、すぐに「Togetherプロジェクト」と銘打ったコンテンツを配信されるなど、ファンを楽しませることにも心を砕いていらっしゃいますね。
メイ 試合ではない形で楽しんでいただき、新日本プロレスの存在感も継続させようということで「Togetherプロジェクト」を立ち上げました。定期的に、1~2時間ほど、選手を中心としたインタビュー、トークショーなどのコンテンツを配信しています。過去の試合映像を観ながら、その選手自らが「あの時はこうだった」と生で解説したりもするのですが、それは今だからできることですよね。「Togetherプロジェクト」は(ツイッターの)トレンドワード6位にもなったのですが、それくらいプロレスファン以外の方にも幅広く、響いているのだなと思います。
──企画立ち上げから配信のスピードがとても速いと感じました。
メイ 日頃から選手ともコミュニケーションを図っているので、いざという時に頼みやすいというのはあるかもしれませんね。「そんなの自分の仕事じゃない」と言うような選手はおらず「わかりました!」と気持ちよく引き受けてくれます。
──無観客試合のような形は、お考えではありませんか。
メイ 現在のところ、新日本プロレスは無観客試合を行っておりませんが、世の中の状況や大会再開の見通しなど、様々なことを踏まえて検討したいと思います。
──「Togetherプロジェクト」のようなコンテンツなど、新型コロナウイルス関連のプランはどのくらい先まで考えていらっしゃいますか?
メイ 通常の大会が再開できるまでですが、長引いた時のプランB、プランCももちろん用意しています。そうでなければ、マネジメントとして成り立たないと思っています。
──ありがとうございました。

『百戦錬磨 セルリアンブルーのプロ経営者』
ハロルド・ジョージ・メイ 時事通信社 1500円(税別)
数々の世界的企業で実績を残してきた凄腕の“プロ経営者”による経営論。やわらかな言葉づかいで、各社で発案・成功させてきたことが多くの実例と共に具体的に語られ、読み物としても引き込まれる。経営者として必要なことだけでなく、「プレゼン」の技術やビジネスマンに必要な「マメさ」の話など、若手会社員の参考になる記述も多数。
取材・文:門倉紫麻 撮影:内海裕之
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