「テレビマンの参入でYouTubeの勢力図は変わるのでは」元テレビマンが仕掛けるYouTube漫画が登録者数80万人超え! 秘密を聞く

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更新日:2020/7/24


 人がバグる瞬間を切り取って人間の闇を映し出す、登録者数80万人超え(2020年7月現在)の漫画系YouTubeチャンネル「ヒューマンバグ大学」。その仕掛け人が、じつは元テレビマンであることをご存じだろうか。YouTubeを中心に映像制作や運営を手掛ける株式会社ケイコンテンツの代表、平山勝雄さんである。

「ダウンタウンDX」「秘密のケンミンSHOW」など、誰もが知る全国ネット番組でディレクター・プロデューサー・演出を務めた敏腕テレビマンが、YouTubeに主戦場を移したのはなぜなのか。そして、その視点の先に見据える今後の映像ビジネスとは。


——YouTubeでさらに漫画系の動画制作というのは、これまで手掛けられたテレビ番組とは全然ジャンルが違うように感じますが、実際はいかがでしょうか。

平山勝雄さん(以下、平山):「ヒューマンバグ大学」でやっていることは、実はテレビで再現ドラマを作っていた頃とあまり変わりません。もともと読売テレビのゴールデン2時間特番で、実話ベースの再現ドラマを扱っていて、長いものになると1つのストーリーが1時間というVTRを演出することもありました。たとえば、線路に落ちた人を助けたお話とか。だから、実話をもとにセリフとナレーションで構成していくスキルはもともと持っていたんです。

 そこで、YouTubeで実話系の漫画チャンネルがちょっとずつ出始めてきた時に、もしかすると自分の範疇に入ってきているかもと。テレビマンが作ったらもっと再生回数を増やしていけるんじゃないかと思ったんですよね。思い切ってやってみたら、チャンネルの立ち上げ後に、どんどん追い抜いていきました。

——テレビマンの頃からネットで動画を観ていたんですか?

平山:観てました。ただ楽しむというより、どんな構成・演出なのかを分解しにいく感じですね。テレビマン時代から映像を見ると自然にそういう見方になってしまうので…。ここでセリフが入って、こっちでリアクションして…ってだいたいの要素を分解して、バズっている動画でも、こうすればもっと数字がとれるんじゃかいかな…という感覚がありました。朝倉未来さんみたいに圧倒的なタレント力、人間力を持った方が相手となると、再現するのは難しいと思いますが(笑)。

——漫画にトライしたことについては、いかがですか?

平山:僕自身が絵に描いたカット割りを、漫画家に渡しているんですよ。これもテレビの頃からやっていたことです。天空から見たシーンを作る時に、撮影したら大変だけど、漫画で描けばあっという間。想像力の極限までいけるので、むしろ表現できるものが増えて助けられています。

——漫画家は何人くらい抱えていますか。

平山:1チャンネルに10人以上いるので、現在運営している漫画系YouTube の3チャンネルで30人以上います。この台本ならこの人にお願いしたいっていうテイストがあるんですよ。漫画のスキルはその人によって違うから、同じ“地獄に落ちる負のイメージ”を依頼するにしても、詳細にわたって説明することもあれば、その人の想像力を奪わないようにざっくり伝えることもあります。最初はネット経由で漫画家を探していましたが、チャンネルの知名度が上がってからは「描かせてください」という人が増えて、もう募集する必要はないですね。


——平山さんご自身が構成を指示されるということは、漫画家がネタやストーリーを考える一般的なコミックのスタイルとは違うということですか?

平山:そうですね。そこは僕らが作っています。世間的にニーズがあることをずっとテレビで追求してきたし、それを表現するための方法も学んできて、「当て勘」は磨かれたと思っています。ただ、人物の表情や背景は漫画のセンスなので、漫画家さんの表現力を借りています。いいものが仕上がってきたら「すごい」と伝えるし、2カ月に1回くらい全コマにバーっとダメ出しを書くこともあって、僕なりの表現の仕方を伝えています。だから、「ヒューマンバグ大学」はテレビのノウハウが生きていますね。


——「ヒューマンバグ大学」は、2019年の立ち上げから、わずか1年で登録者数80万人超えという驚異的な数字を出しています。表現のおもしろさはもちろん、実話ベースであることにも関心が集まっていますが、ネタ探しはどのように?

平山:シナリオを書く作家とは別に、リサーチ担当がいて、世界中の事件を調べて企画を提案してくれます。これもテレビのノウハウ。ネタを決める時、救いようがない地獄のような事件はなるべく外すようにしています。ヒューマンバグ大学の基本理念は「危機管理」なんですよ。同じ過ちを起こさないために報道から学ぶことは多いですよね。同じように、怖い事件・歴史を通して学べるものがあるんじゃないかと。たとえば、人の命を奪うような寄生虫のストーリーがあったとすれば、寄生される原因がわかる。ならば気をつけようって思うじゃないですか。知らなくても生きていけるけど、知っていてもいいかもしれない、そういうテーマを取り上げています。

——人の闇のようなものをテーマにしようと思ったのは、なぜですか?

平山:これもテレビの話になりますけど、テレビ番組って必ずメッセージがあるんですよ。「行列のできる法律相談所」とか「秘密のケンミンSHOW」とか、この番組はこういう見方をするんですよっていうコンセプトが必ずあって、それが「おもしろそう」って思ってもらえるきっかけになります。

 チャンネルを立ち上げた頃、コンセプトを打ち出した漫画チャンネルはほとんどなかったんです。あったほうがおもしろいのに、ということでコンセプトを打ち出しつつ、闇系ストーリーと感動系ストーリー、2つの切り口を作って、さらに法律っていうウケそうな切り口を加えました。それが、今運営している「ヒューマンバグ大学」「エモル図書館~時々、エビル~」「バベル裁判所~闇の法律知識~」の3つのチャンネルです。「ヒューマンバグ大学」では、ハッピーみたいな動画は出てきません。コンセプトを打ち出したからには、その期待にちゃんと応えていかないと。再生回数を増やすために、セグメントを狭めすぎないことにもこだわっています。

——実話系や犯罪系など、ギリギリのところを攻めている感じが、おもしろさでもあり、癖になりますね。

平山:“炎上しない感性”みたいなものには自信があります(笑)。テレビでずっと戦ってきたところなので。危ないものは作らないっていうテレビのプロデューサーもいましたけど、あまり極端にやると内容がおもしろくなくなりますよね。ここまでは許されるだろうっていうギリギリ感覚は、テレビ時代に身についたと思います。もちろんテレビにおけるギリギリは飛び越えて、YouTubeにおけるギリギリ許されるラインを目指します。そして、そのギリギリは時代に合わせて刻一刻と変わります。


——毎日更新なのに見応えがあります。大変な作業だと思いますが、運営は何人体制ですか?

平山:基本は、僕を含む2人です。先ほどお話しした通り、漫画家や、企画や台本を書く作家は、外部にお願いしているので。ちなみに台本を書いているメインの作家は僕の弟なんですが…。

——ええっ!?

平山:天才的でしたね。それまで5〜6人の作家で回していましたが、弟が圧倒的な能力で追い抜いてしまいました。もともと警備員をしながら、小説投稿サイトでネット小説を書いていたみたいで、見たらフォロワーが10万人、1日のPVが数百万あったんですよ。すげえなお前、と(笑)。チャンネルを始めてから弟の存在を思い出し、一度書いてもらったら抜群にすばらしくて。もともとが小説なので、ビジュアルをイメージしながら書くスキルを身につけさえすれば、追随を許さない能力を持っているなと。

 ちなみに、佐竹博文っていうキャラクターの西成を舞台にした話は、弟の実体験そのもので、一時は佐竹が弟の分身みたいな感じでした。さすがに弟の実体験をもとにしたネタは尽きましたけど(笑)。

テレビとYouTube、どちらもいい


——あらゆるテレビ時代のノウハウが制作に生かされていますね。そもそも、テレビでご活躍だったのに、YouTubeで起業されたのはなぜですか?

平山:働き方改革で急にヒマになったんですよ。YouTubeって、好きなことで生きていけるって言うじゃないですか。僕は野球が好きで、ちょうど野球の映像を配信するのが流行っていたんですよね。ただ、試合を流しっぱなしにするような動画が多かったので、試しにおもしろいコンセプトの動画を作って配信したら、あっという間にチャンネル登録者数が10万人を超えてしまって。

 そこで、テレビは今でも好きだし、規模の大きな番組を作れることは素晴らしいんだけど、新しいことにもチャレンジしてみようと。最初は趣味でしたけど、走り出してしまったから止められなくなった感じです。みんな、テレビは終わってネットの時代だって言うじゃないですか。でも、2019年の新チャンネル登録者数ランキングで、嵐、Mrs. GREEN APPLEに次いで3位になった「ヒューマンバグ大学」は、テレビマンが作ってますからね(笑)。

——テレビを作っていたクリエイターたちは、全然終わっていないと。

平山:ネット配信ができてからテレビがオンリーワンではなくなって、これから大変な時代に入ると思いますけど、そこで働いていたテレビクリエイターはまったく終わっていないし、むしろ活躍の幅が広がったと思います。それに、老若男女、家族全員が楽しめる総合芸術として、いわゆるマスメディアを作れるのはテレビだけなんです。若い女性だけをターゲットにするようなYouTuberはいっぱいいますけれど、家族が同時に見てみんな楽しませるコンテンツ制作は本当に高いスキルが必要。そういう意味で、テレビのすごさは永遠に残ると思うし、テレビクリエイターは作り手として必要な人たちだと思います。

 確かに配信技術が進んで技術革新が起こりましたし、一定の視聴者は離れるかもしれませんが、テレビはオワコンではないですよ。時代の流行りみたいにみんなは否定をしたいかもしれないけど、テレビの力は大きすぎるほど大きいと思います。

——分母の大きいテレビと、狭いセグメントの中で勝負するYouTube。漫画YouTubeに考えられるリスクとは?

平山:漫画YouTubeのリスクでいえば、コストがめちゃくちゃ高いですね。1本作るのに7〜8万円かかりますから、運営するのに1カ月200万円以上は確実にかかります。1本につき制作期間は10日以上、時間もかかりますし。一時、バーッと増えた漫画チャンネルが、今減り始めているのは、コスト面も関係していると思います。ただそれでも、テレビのように大きなチームではない。小さいチームが意外と収益を生むので、そういう意味でのおもしろさはありますね。

YouTubeで好きなことをするだけの時代は終わった


——YouTubeビジネスでうまくいく秘訣は何でしょうか。

平山:YouTubeは完全に激戦区の時代に入っていると思います。YouTubeなら好きなことができるって言われてましたけど、もう好きなだけでは生きていけなくて、「好きなものをプロクオリティで作ったら食べられる」という時代に変わってきた気がします。好きなものって頑張れますよね。数年前なら誰も競争相手がいませんでした。でも、今はそれぞれのジャンルに競合チャンネルがいる。その戦いに勝たないといけない。勝つためにプロクオリティが必要だと。

 今、一流の映像を作るスキルを持ったテレビマンたちが、ちょっとずつYouTubeに手を出し始めています。たとえば、仲の良いタレントがいるディレクターは、タレントと一緒にチャンネルを作って、当たったらYouTube側に身を移そうとしている。今はまだテレビのほうがギャラはいいでしょうし、YouTubeにはリスクもありますけど、テレビマンたちがYouTubeに移ってきたら、本物だらけの映像になって“超激戦区”になるでしょうね。テレビ制作のノウハウをYouTube用にアジャストできれば、今バズってるチャンネルを凌駕するコンテンツがどんどん生まれていってもおかしくないと思います。

——これからの時代、どんな映像が求められていくと思いますか?

平山:どの企業も公式HPを当たり前に持つようになったのと同様、これからはYouTubeチャンネルを当然のように抱える企業が増えると思います。ただ、クオリティの高いものを作ろうと思ったら、圧倒的にクリエイターが足りない。その穴を埋めるために、ワンパターンに当てはめて大量生産するような動画が流行っていきそうです。うちの会社は、クオリティの高い動画も提供しながら、そちらの枠も狙ってます。

——平山さんご自身の今後の展望は?

平山:これはもう、世界配信です。じつは「ヒューマンバグ大学」の英語版を作り始めているんですよ。テレビでは全国ネット、関西ローカルのように配信範囲が決まっていましたけど、YouTubeは全世界で勝負できますから。いずれ、チャップリンのように全世界の誰が見てもおもしろいと思える映像を作りたいと思っています。「『ヒューマンバグ大学』がインドで人気!」とか言われてみたいですね(笑)。

——セグメントが狭めのYouTubeにおいて、マスメディアを作ってきた能力を生かしながら、老若男女が観られるコンテンツづくりを目指していくということでしょうか。

平山:その通りです。これから年代問わず人種すらも超えて、ネット動画の可能性をさらに広げていきたいですね。

取材・文=麻布たぬ、写真=松本祐亮


平山勝雄
1978年生まれ、大阪府出身。読売テレビにて全国ネット番組を中心にプロデューサー・演出等を歴任し、2020年3月に退社。現在、株式会社ケイコンテンツ CEOとして、野球YouTubeチャンネル『トクサンTV』『クニヨシTV』、漫画系YouTubeチャンネル『ヒューマンバグ大学』など超人気コンテンツのプロデューサーを務める。野球YouTuber「アニキ」としても活躍中。

ヒューマンバグ大学
エモル図書館~時々、エビル~
バベル裁判所~闇の法律知識~
トクサンTV【A&R】
クニヨシTV 【with サルトラ】