伊集院香織(みるきーうぇい)「たとえ世界でなにが起こっていても、私の目の前にある哀しみは事実」
公開日:2020/8/6
毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれた伊集院香織(みるきーうぇい)さんは、「アッパー系メンヘラ」という強烈なキャッチフレーズを掲げ、思春期の胸の痛みを叫ぶように歌うアーティストだ。そんな彼女が愛してやまないという一冊が、山田詠美さんの小説『放課後の音符』。作詞作曲のみならず、楽曲に寄せたショートストーリーも執筆する伊集院香織さんは、山田詠美さんからどんな影響を受けたのだろうか。そして彼女が表現したい世界とは。
“いじめ”を題材にした1stシングル『カセットテープとカッターナイフ』に見られるように、伊集院香織さんが綴る歌詞は、聴く者の胸を抉るようなものが多い。彼女の存在感が爆発したのは2019年のこと。自身の楽曲をモチーフにした小説「放課後爆音少女」を小説投稿サイトにアップするや否や、月間ランキング1位を獲得したのである。そして今年9月、みるきーうぇいさんは待望の3rdミニアルバム『僕らの感情崩壊音』をリリース。収録されている6曲すべてに小説を書き下ろすことで、音楽と小説を融合させている。
彼女はなぜ、音楽だけではなく小説にも手を伸ばしたのか。
「中学生の頃から表現欲求がずっとくすぶっていました。でも、それをどうしたらいいのか、自分自身をどう出せばいいのかわからなかった。周りを見てみると、スポーツで注目されている子やモデルをやっている子がいて、みんなキラキラしていたんです。でも、私にはなんにもない。そこで飛び込んだのが、芸術の世界でした。同級生が騒いでいる間、私は本を読んだり、バンドを聴いたりしている。それがカッコいいとも思っていたんです(笑)。だから、いつかは小説も書いてみたいなと思っていました」
周囲に馴染めないまま高校生になり、そこで出合ったのがまさに『放課後の音符』だった。
「山田さんからはゴリゴリに影響を受けていると思います。特に私が書く文章にはそれが顕著に表れているかもしれません。山田さんの文章は過剰に装飾されているわけでもなく、とても読みやすい。ふだん読書をしない人でも入り込みやすいと思うんです。でも、だからといってライトというわけでもない。わかりやすいんんだけど、なにかが心に引っかかる感じなんです。私はそれを目指していて。小説もそうですし、歌詞でもカッコつけた表現はせず、なるべく平易な言葉を使うようにしています」
伊集院さんは言葉の持つ力を信じ、大切にしているという。その理由は、「自分のことをわかってもらいたい」から。
「私がこんなに言葉にこだわった活動をしているのは、より伝えたいことをわかってもらうためなんです。言葉は音楽に具体性をもたせるためのツールだと思っていて。たとえば、メロディだけで切なさが伝わる曲ってありますよね? でも、私はその切なさをもっと深く理解してもらわずにはいられない。そのために言葉の力を借りているんだと思います」
そこまで言葉を重んじているみる伊集院さんが「アッパー系メンヘラ」を自称するのはどうしてだろう。ともすれば、ネガティブなイメージにも結びつきかねない。
「『カセットテープとカッターナイフ』のMVをアップしたときに、『メンヘラっぽくて好き、カッコいい』って言われたんです。でも、当時はそれがすごく嫌で。昔から良い子を演じてきていたので、メンヘラだと思われることが怖かった部分もあるかもしれません。ただ、時間が経つにつれて受け入れられるようになって、そうしたらすごく楽になったんです。同時に、『メンヘラ=面倒なヤツ』というイメージを壊してやろうとも思いました。自分らしく生きているだけだし、それのなにが悪いんだって言いたくなったんです」
伊集院さんが言う「メンヘラ」とは、「周囲からはみ出したとしても、自分らしく生きている人」のことだ。彼女はそれを体現し、そして、同じような生きづらさを抱えている子たちを励ましたいともいう。
「『生きるのがつらい』ってこぼすと、『世界には生きたくても生きられない人たちがいるのに、そんなこと言うんじゃない』って正論をぶつけられることがあります。でも、その子が直面している悩みや苦しみを、頭ごなしに否定しないでほしい。たとえ世界でなにが起こっていようとも、私の目の前にある哀しみは事実なんだからって思うんです。それを他の子たちに伝えていきたいし、寄り添ってあげたい。だから私は『アッパー系メンヘラ』を名乗って、生きづらさを歌にしていくんだと思います」
取材・文:五十嵐 大 写真:山口宏之
3rdミニアルバム『僕らの感情崩壊音』
みるきーうぇい ユニバーサルミュージック 1800円(税別) 9月30日発売 ●全6曲を収録。すべての楽曲にショートストーリーが書き下ろされており、聴くことと同時に読むことでも楽しめる。叫びにも似た歌声が胸を打ち、極限の感情を吐露したリリックと文章が涙を誘う。
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