あいみょん「本は作家さんの努力の結晶。だからこそ、大切にしたい宝物なんです」

あの人と本の話 and more

公開日:2020/9/4

東京窓景

写真:
出版社:
河出書房新社
発売日:

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、シングル『マリーゴールド』で大ブレイクを果たし、またたく間にトップアーティストに上り詰めた〈あいみょん〉だ。本誌ではあいみょんが10代の頃から惹かれているという写真家・中野正貴の『東京窓景』についての魅力をたっぷりと語ってくれた。そしてここでは、読書家でもあるあいみょんが思う、本を読むこと、文章を書くことについて掘り下げていこう。

あいみょんさん
あいみょん
あいみょん●1995年、兵庫県生まれ。2015年、タワレコ限定シングル『貴方解剖純愛歌〜死ね〜』でインディーズデビュー。その後メジャーデビューを果たし、18年にリリースした『マリーゴールド』で大ブレイク。今年10月からは過去最大規模のツアー「AIMYON TOUR 2020“ミート・ミート”」を開催予定。

 あいみょんは過去のインタビューでも「ブックオフ巡りが好き」と公言している。それくらい本を愛し、読書が好きなあいみょんだが、意外なことに幼少期はあまり本を読まない子どもだったという。

「絵本はたくさんあったんですけど、あまり長い文章が読める子どもではなかったんです。でも、父が読書家だったこともあり、高校生の頃からちょっとずつ本を読むようになりました。最初にハマったのは、父が所有していた東野圭吾さんの作品。そこからミステリーにどっぷり浸かりましたね。その次に官能小説にも手を出して。そう、官能小説からは“語りすぎない表現”について学びました。小説って言葉を尽くしてひとつのシーンを表現するものだと思うんですけど、官能小説って、言い過ぎないんです。エロティックなシーンも、比喩だけで表現する。それは歌詞を書く上で参考にしています」

 今回リリースする最新アルバム『おいしいパスタがあると聞いて』にも、意味深なフレーズが並ぶ曲が収録されている。たとえば「マシマロ」という一曲には次のようなフレーズが綴られる。

〈目の前にあるマシマロの丘 チョコレイトで汚したい〉

「これ、ドエロイですよね(笑)。男性が女体を冒険する様子を、なるべく直接的な言葉を使わずに歌うセックスソングなんです。でも、人によっては気づかない。それで良いんです。一種の遊び心なので、気づいた人が『おぉ!』って思ってくれれば。官能小説に出てくる表現って、とても音楽的だと思います。雫、茂み、丘といった単語で、すごく意味深ん世界を描く。私がやっている音楽は時間的な制限があります。だから、官能小説みたいな比喩を使って、リスナーに想像してもらいたいんです。ちなみに、私は丘って単語が一番好き(笑)」

 最近はノンフィクションやグロテスクな小説にも手を出し、その世界観に圧倒されている。

「衝撃を受けたのは平山夢明さん。あんなにグロテスクな物語が書けるなんてすごいです。もう平山さんの世界にハマっちゃって、しばらくは抜け出せそうにないかも」

 さまざまな作家の作品に触れるようになり、胸の内に芽生えてきたもの。それは「作家へのリスペクト」だ。

「本を書ける人のことを、とにかく尊敬しているんです! だって、一冊分の長い物語を書くなんてすごい作業じゃないですか。とてもじゃないけど、私にはできないです。しかも、アーティストは新曲ができたら歌番組で披露する場をいただけますけど、本にはそういう場所がない。作家さんが自分の作品を朗読して披露することなんて、ほとんどないですよね? 本は、本屋さんで誰かの手に取ってもらうのを、静かにじっと待っているだけ。すごく健気だし、だからこそ大切にしたい宝物です。作家さんが何時間もかけて何万字も紡ぐなんて、まさに努力の結晶だと思います。それを思うと、私は一年間でどれくらいシングルをリリースできているんだろう……。比べるものではない、ってことはわかっているんですけどね」

 作家へのリスペクトがあるからこそ、こまめに書店に足を運び、新刊を常にチェックする。しかし、その都度「焦ってしまう」らしい。

「欲しい本を買うために本屋さんまで行くと、目的の本の隣に、知らない本が置いてある。その隣にも知らない本がある。それを見ると、『世の中には知らない本、知らない言葉がこんなにもあるんだ』って焦っちゃうんです。私はまだ面白い人、面白い本を探しきれていない。もっと読まなきゃ、もっと読みたいって思います」

 作家を愛し、言葉を大切にするあいみょん。その姿勢があるからこそ、彼女が綴る歌詞には物語性が宿るのだろう。

「本を書く人への敬意とともに、憧れもあります。だから、いつか私も本を書く機会があったら、やってみたい。でもいまは、音楽で物語を作るのが一番合っていて。私の作る曲は実体験がまるごとベースになっているものもあれば、実体験に妄想や理想を混ぜたもの、完璧に想像だけのものもあります。そうやってできた物語を、曲に乗せて歌う。いまはそれを突き詰めていきたいです」

取材・文:五十嵐 大 写真:江森康之
ヘアメイク:菅谷征起 スタイリスト:服部昌孝

 

3rdフルアルバム『おいしいパスタがあると聞いて』

3rdフルアルバム『おいしいパスタがあると聞いて』

あいみょん WARNER MUSIC JAPAN/unBORDE 初回限定盤(2CD)4000円(税別)、通常盤(1CD)2800円(税別) 9月9日発売
●前作より約1年7カ月ぶりの新作フルアルバム。あいみょんが「心の底からガチで好き」というクレヨンしんちゃんの映画主題歌『ハルノヒ』、ドラマ主題歌『真夏の夜の匂いがする』『裸の心』など話題曲がズラリ。初回限定盤には10曲入りの弾き語りCDが特典に。

この記事で紹介した書籍ほか

東京窓景

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出版社:
河出書房新社
発売日:
ISBN:
9784309267913