【特集:マギアレコード①】『まどか☆マギカ』のクリエイター・劇団イヌカレーが語るクリエイティブの原点

アニメ

公開日:2020/9/12

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 アバンギャルドなコラージュと独創的な世界観で、『魔法少女まどか☆マギカ』の〈魔女〉と〈魔女の結界〉を生み出したのが劇団イヌカレーだ。シリーズの物語構成にも深く関わっているそのクリエイティブの原点はどこにあるのか。『まどか☆マギカ』とともにあった10年の歩みを振り返っていただいた。

魔法少女まどか☆マギカ場面写真

 

独特な世界観をつくる劇団イヌカレーの原点

 幻想的で奇怪、美しくも毒々しい。異空間設計の担当として、『魔法少女まどか☆マギカ(以下、『まどか☆マギカ』)』の〈魔法少女〉と〈魔女〉の世界をつくりあげているクリエイターが劇団イヌカレーだ。彼らはゲーム版、アニメ版『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(以下、『マギアレコード』)』においても重要なポジションを務め、その独特な作風で「まどか」シリーズをかたちづくってきた。

「もともと個人作家として活動している意識が強かったので、あまり空気を読まず、(作品にとって)良かれと思って引き受けてきたんです。今のようなポジションに付いたのも、意図してそうなったわけではないので。個人的には、道に迷っているうち、結果的に現状へたどり着いた感じです」

 劇団イヌカレーは泥犬と2白犬によるアニメーション作家ユニット。映像制作だけでなくイラストやマンガの執筆、個展の開催など多彩な活動をしている。

「ふたりともロシアやチェコのアートアニメーションが好きで、とくに自分は天井桟敷、演劇実験室◉万有引力のような演劇が好きだったので、自分たちで素材を見つけて切ったり貼ったりしながらアニメ作品をつくっていこうと思っていました。2007年の結成当時は個人でもアニメーションがつくれるようになった時期で、自分で描いた絵をデータ化すればアニメがつくれる。コンペ作品をつくろうと思って、劇団イヌカレーという名前をつけたんです。ところがミニシアター系のアニメーションイベントに応募する前に、商業の仕事を請けてしまって。そのままお仕事を引き受けていくうち、現在のような形になったという感じです」

 最初の仕事はアニメーターの2白犬が引き受けた坂本真綾の楽曲『ユニバース』のMV制作。やがて泥犬の専門学校時代の同期である演出家の宮本幸裕(アニメ版『マギアレコード』では副監督)から『獄・さよなら絶望先生』のオープニングアニメの制作を依頼される。

「当時相当ひまだったんで。宮本からオープニングをMAD的につくってくれないかと頼まれました。できたものが良かったら使用するくらいのトーンで。もちろん途中でちゃんと発注の依頼はありましたけど。そうしたら新房昭之監督から『今度は特殊な空間のデザインをしてほしい』と依頼を受けまして。それが『まどか☆マギカ』の異空間設計でした。最初は設定作業までのつもりだったんですけど、結局こちらで異空間全部をつくることになりました」

劇団イヌカレーインタビュー

 

自由な発想で生み出された〈魔女〉と〈魔女の結界〉

『まどか☆マギカ』に登場する〈魔女〉や〈魔女の結界〉は、ビジュアルだけでなく設定にまで劇団イヌカレーのテイストが存分に発揮されている。たとえば「お菓子の魔女」その性質は執着、「人魚の魔女」その性質は恋慕……。

「〈魔女〉の個体ごとの設定はこちらがつくったものです。制作初期では〈魔女〉の個人名やかたちは決まっていませんでした。『まどか☆マギカ』は虚淵玄さんのシナリオが早い段階に完成していたので、それを読みこちらで〈魔女〉はこういうものがいいんじゃないかとつくっていきました。こちらでは〈魔女〉は全体的に植物や欲深い野生をイメージしています。捕食に興味があるものは捕食するし、逆に人間を追い出そうとしたり、遊ぼうとしたり、他人の迷惑をかえりみずに興味や葛藤の追求だけをしているのが〈魔女〉です。メインのお話の邪魔にならない程度、怒られない程度につくって。劇中で具体的に語られなくても〈魔女〉の雰囲気が伝わればと」

 TVシリーズの制作にしっかりと関わるのは『まどか☆マギカ』が初めて。劇団イヌカレーはシャフトの制作現場に入って作業を進めていった。

「当時は、現場からも何をしているかわからない人と思われていました。部分的には設定もつくっているし、絵も描いて、撮影したりもする。〈魔女空間〉に関わる部分は絵コンテに追記したりしていたので、映像制作のはじめらへん(設定)と最後(組み立て加工)に関わっているという感じ。『マギアレコード』でもその感じは変わっていません」

劇団イヌカレーインタビュー

 劇団イヌカレーのテイストは『まどか☆マギカ』のアクションシーンに発揮されている。

「第1話の(巴)マミさんのアクションシーンで新房監督がマスケット銃を大量に出していたんです。じゃあ、魔女空間内では物量が正義なのかと思って、魔女も魔法少女もいたずらにものを増やすようにしていました。14歳の女子中学生が変身して戦っているんだから、武器そのものに思い入れはないだろうと。マミさんも銃を一発撃ったら捨てて、すぐに次の銃を使う。(美樹)さやかも剣を次々使い捨てるし投げる」

 劇場版『魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語』では、劇団イヌカレーの活躍がさらに多く目立つようになった。

「せっかくだから自分たちでやれることを全部つくってみようという感じが現場では強かったと思います。ナイトメア(劇場版[新編]に登場する敵)をあみぐるみで作って頂いたり、〈魔女〉をロトスコープで描いても誰も疑問を挟まず、やらせてくれた。スケジュール面で苦い顔はされましたが、ありがたいことに魔女の最終的な表現方法はかなり任せて頂きました」

劇団イヌカレーインタビュー

 

本編と外伝、ゲームとアニメ『マギアレコード』の関係

『まどか☆マギカ』で名をあげた劇団イヌカレーは、ここから仕事の幅を広げていく。アニメ『うさぎドロップ』や『ニセコイ』のOP、ED映像を引き受けるだけでなく、スマートフォンゲーム『マギアレコード』の監修もすることになった。

「『まどか☆マギカ』の仕事で自分達の名前を知ってくれた人は増えたように思うのですが、自分自身の展望や未来像みたいなものは全くないです。個人作家から引き返すタイミングだけ見失ってしまった。人生としては遭難感も強いです。遭難している人の特徴として、一端戻ったりせず、根拠もないのにそのまま道を進んで行ってしまう。スルっと行方不明になるかもしれない危険性に絶えず悩まされています」

ゲーム版『マギアレコード』では〈魔女〉の設定だけでなく、〈ウワサ〉の設定やイベントのシナリオも担当している。

「当初は完成後の監修だけだったのですが、良かれと思っていろいろ意見を出していたら、現状のような感じに。初期の『マギアレコード』は設定上の名前もカッコよくて『ゴースト』や『亡霊』という感じだったのですが、『まどか☆マギカ』での魔女らしい、内向的で間抜けな雰囲気が欲しいと思い。〈ドッペル〉や〈ウワサ〉という、ちょっと付け入るスキがあるような名前にして頂きました」

 そしてアニメ版『マギアレコード』では総監督というポジションに就任。シリーズ構成や作品全体を手掛けるようになった。

「『マギアレコード』はたくさんの魔法少女が出てくるんですが、舞台っぽいイメージになれば良いなと思っていました。せっかくなら、手伝ってもらいたい人に頼んでみようと思って、演劇実験室◉万有引力のJ・A・シーザーさんに〈ウワサの空間〉や『ウワサ数え唄』を手掛けてもらいました。アニメ『マギアレコード』はあくまで外伝なので、アニメを観た人がゲームに興味をもってもらえれば良いなと思っているんです。たとえば、『マギアレコード』ではあちこちにたくさんの魔法少女を出していますが、『まどか☆マギカ』本編だったらこういうことはせず、5人の魔法少女に物語を集中させると思うんです。『マギアレコード』では気になる魔法少女がいたらゲーム版をプレイしてもらえればいいと思っています」

劇団イヌカレーインタビュー

 アニメ『マギアレコード』は現在、第2シーズンを制作中。どんな作品になるのだろうか。

「ゲーム版では第1部のクライマックスの戦いであるワルプルギス戦がすごく盛り上がったんです。レイドバトル(ネットワークを介してプレイヤー同士が協力する戦闘)だったのですが、あのプレイヤー全員で殴ってる画面の感動はゲーム特有のものなので、あれを現状の話数とシステムへそのまま導入してもかなり劣化してしまう。アニメオリジナルキャラクターの黒江もいますし、そこをふくめて第2シーズンは原作(ゲーム版)とは違うまとめ方になる予定です」

 来年は『まどか☆マギカ』も10周年。劇団イヌカレーが考える10年後とその先は――?

「こちらは気が付いたら10年経っていたという感じです。追い詰められて、走り続けていただけなので、予想以上に10年前と変わってませんし。先の話としては『マギアレコード』の今後が気になります。スマートフォンゲームはいつかサービスの終了が来る。そのときに、ユーザーに何かの“かたち”として残るといいなと。その一端としてアニメというものもあるのだと思いますが、いちユーザーとして素朴な意見です。自分は遭難しているくせに『お前ごときが言ってもしようがないだろ』ということばかり常に悩んでいるので……今後も遭難人生が続きそうです」

げきだんいぬかれー●泥犬と2白犬によるアニメーション作家ユニット。2007年に坂本真綾のミニアルバム『30minutes night flight』に収録された『ユニバース』のMVで作家デビュー。『天元突破グレンラガン』、〈物語〉シリーズにも参加。

取材・文:志田英邦

 

この記事で紹介した書籍ほか

ダ・ヴィンチ 2020年10月号

出版社:
KADOKAWA
発売日:
ISBN:
4910059871000