30年後にも聴かれ続ける音楽を。初の「キャラソン・コレクション」が持つ意味とは――中島 愛インタビュー

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更新日:2020/9/29

“アイモ”で幕を明け、“星間飛行”“ライオン”と大ヒット曲が続く、中島 愛のキャラクターソング・コレクション『FULL OF LOVE!!』(9月30日発売)。新曲1曲を含む、全18曲で構成されたこの「コレクション」は、昨年10周年を迎え、ベストアルバムやカバー・ミニアルバムを発表してきた中島 愛の、「もうひとつの歩み」を、鮮やかに映し出している。元来、キャラクターソングというものは、作品自体が巨大なムーブメントを起こしたりしない限り、楽曲を聴く機会も、歌われる機会も、限定的になりがちである。一方で、音楽的にさまざまな意匠を凝らしたキャラソンは、シンプルに「いい曲」であることが多い。だからこそ、こうして「キャラソン・コレクション」として形が残ることにはとても大きな意味があるし、1曲1曲と真剣に対峙してきた中島 愛が歌う楽曲群は、それぞれのアニメ放送から時を経た今も、変わらない輝きを放っている。中島 愛に話を聞くのは、昨秋に発表したシングル『水槽/髪飾りの天使』以来。キャラソン・コレクションのことに加え、2020年に音楽とどう向き合ってきたのか、話を聞いた。

時系列に並べることによって、キャラクターの歩みだけでなく、裏側にいる自分の歩みも感じ取ってほしい

──今回は「キャラクターソング・コレクション」ということで、まずは完成したアルバムについて感じていることを話してもらえますか。

中島:『マクロスF』でデビューさせてもらって、TVアニメの放送中から映画の前編、完結編が終わるまでの約4年の間、ずっとランカとして駆け抜けてきた頃は、その後の自分が声優やソロの歌手として続けていけるとは、想像できなかったです。「出会うキャラクターは、ランカが最初で最後になっちゃうのかな」と思ってたんですけど、そこからいろんな縁がつながって、2009年からアニメの役もいただけるようになって。「キャラソンもたくさん歌わせてもらったから、1枚のアルバムにまとめられたらいいのに。これだけキャラクターと出会えたことを、何か証として残せたらいいのに」と活動休止前に思いつつ、その後5年越しくらいの時を経て、やっと叶えられたので、自分名義のベストとはまた違う感慨があります。

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──構想としては、だいぶ前からあったわけですね。

中島:そうですね。歌を歌うアイドルの役もいただいてましたし、それ以外にもキャラクターソングを歌える機会は多かったし。本当にいい曲ばかりなんですけど、自分のライブではなかなか歌う機会がなかったり、立ち位置が難しい楽曲もあったりするけど、「いや、いい曲なんだよ!」って出せる場が欲しいと思ったのが、活動を休止する前でした。

──実際、キャラソンって難しいですよね。作品が終わると、だいたいの場合、聴く機会も歌う機会も失われる。だけど、キャラクターへの愛情や歌っている人、楽曲への愛情は、いきなりなくなったりするものではない。そこにもう一度フォーカスして届けることは、受け取るリスナーにとっても非常に意味があることだと思います。

中島:それがすごく嬉しいですね。今のお話を聞いて思うのは、わたしも幼稚園のときに『(美少女戦士)セーラームーン』、小学生のときに『怪盗セイント・テール』のキャラクターソング集を買ってもらって、歌詞カードがボロボロになるくらい、ずーっと聴いてたんですよ。作品が好きだったし、1曲1曲も好きだし、キャラクターも好きだけど、今まで一回も生で聴いたことがないんですね。でも、アルバムとして存在するだけで、自分の中にもすごく心に残ってるから。あの頃のわたしと同じように、曲のことを思ってくれてる人がいるんじゃないかなって思って、今回のアルバムをまとめました。

──今回は、新たにレコーディングをするわけではない制作だったと思うんですけど、作品全体のイメージについてはどう考えていましたか。

中島:今のこの時代は、アルバム単位というよりも、単曲で聴かれることがかなり多いですよね。で、それもいいな、と思いつつ、わたしはとにかく時系列おたくなんです(笑)。

──(笑)はい、なんとなく存じ上げてます。

中島:やっぱり声優として、初めてキャラクターを演じたときと同じままを保つんだ、という責任感や美徳があると思うんですけど、時系列に並べると、絶対にそのときにしかない何かが光ってたりするんですよね。なので、単曲で聴いてもいい曲なんだけど、時系列に並べることによって、キャラクターの歩みだけでなく、裏側にいる自分の歩みもどこか感じ取ってほしいな、と思いながらまとめました。

──「キャラクターソング・コレクション」という名称がポイントですよね。「キャラソンアルバム」だと、曲調に合わせて曲順を聴きやすく並べたものになると思うんですけど、「コレクション」と言うからには、いま話してくれた歩みや、シンガーとしての過程も見えるものである必要がある。コレクションとアルバムの違いって、そういうことなのかな、と。

中島:そうですね。コレクターとしては、並べ方に何かしら意味を持たせたいじゃないですか(笑)。耳触りのよさはもちろんだけど――横浜アリーナとかに行くと、年表が壁に飾ってあったり、あと歴代の校長先生の写真が代ごとに載ってたりするのを見ると、美しさを感じるんですね(笑)。

──(笑)まさに時系列おたくの主張。

中島:そうそう。作品への愛もありつつ、自分には根っからコレクター気質なところもあるから、「ベストでもなく、アルバムでもなく、コレクション」なんですね。たとえば、CDを取り込んでもらって、好きな順番で聴いてもらうのは全然いいんですよ。ただ、「1回でいいから、時系列で聴いてよ!」って(笑)。

──(笑)そういう意味では、時系列に合わせてランカ・リーの曲がバラけるのではなく、冒頭に固まってるところにも、明確な意思を感じます。

中島:そう、今までわたしはランカ・リーの曲を「キャラソン」と自分から言ったことは、一度もないんですよ。たぶん、『マクロス』のシリーズ全体で、「キャラクターソング」ってあまり使われない言葉なんですよね。“バサラの歌”とか、“ミンメイの曲”とか、キャラの名前が先にくる。ちょっと独特のフィールドがあるんですね。他の曲と区別したいわけではないんだけど、ひとつだけ「ランカ・リー=中島 愛」とついてるから、バラけさせたくはなかったんです。わたしにとってこの「=」は、すごく重いんです。自分と一緒に人生を歩んでいる、別の宇宙にいる女の子と自分の名前が「=」で繫がれることの、重大な責任感を感じていて。

──たったひとつの記号だけど、これまで「=」をしっかり背負ってきたわけですしね。

中島:しかも、わたしがおばあちゃんになっても、この表記は変わらないわけですよ。そういう意味では、キャラソンなんだけども、またちょっと違う出方をしているから、『マクロスF』の5曲は『マクロスF』だけで時系列にしよう、と思いました。

中島愛

何十年後でもちゃんとアクセスできるアーカイブを残したい」という気持ちになった

──少し話は変わりますが、2020年は音楽を届けたり、ライブをすることが、全世界で当たり前ではない状況になってしまったじゃないですか。音楽がある日常が目の前から一度なくなってしまった時期、何を考え、どんな行動をしていましたか。

中島:わたし、ステイホームの期間中に、音楽的な発信を一切してこなかったんですよ。自分もみんなも、「さて、どのくらい音楽を欲してますか?」って一回考える時間持とう、と思ってたし、一度そこで止まってみたかったんです。だから、すごく静かに考えている時間を過ごしてたんですけど、5月頃になって、みんなと同じように、音楽がないことでまいっちゃってる自分がいたんです。でも、「これっていつまで続くんだろう? しんどいな」と思っていたときに、今までに残されてきた音楽なりアニメなりドラマなりのアーカイブに、すごく救われたんですよね。新しい何かだけじゃなく、今まで残ってるもので、心を満たされたんです。そこで「『今のわたしを!』『今の声を!』だけじゃなく、CDでも配信でもいいから、何十年後でもちゃんとアクセスできるアーカイブを残したい」という気持ちになりました。その気持ちの流れには、わたしとしては悔いがないから、あのとき一度止まってよかった、と思います。

──まさに、「音楽ってどれだけ欲されてるの?」いう命題にぶち当たったのが2020年ですよね。極端な話、音楽は生きるか死ぬかに関係ないですけど、たとえばその状況から世界が前に進む力になることはできる。だから今は待っていよう、というジャッジをしたのは、すごく尊いことだと思います。

中島:そうですね。音楽ではお腹はいっぱいにはならないけど、あの時期って、お腹いっぱいに食べていたとしても、すごく空虚な時間が長かったから。その時間を埋めるものとして、やっぱりエンタメは力を貸してくれるんだと思います。

──実際、生き死にの問題じゃないのはリスナー側の話であって、音楽を作っている人にとっては命を削ってやってる、人生を懸けてやっている人もいるわけですしね。

中島:ほんとにそう。だから、どうやって生きていくのがいいのかなって、たぶんみんなが考えたと思うけど、わたしも考えました。でも、こういう状況だからこそ、オンラインライブをやると喜んでもらえたり――わたし、もらったファンレターをファイルに入れてるんですけど、この間練習をしながら読んで泣きました。聴いてくれてる人にとって少しでも息抜きになってるんだと思うと、お腹いっぱいにはならないかもしれないけど、このCDを出して、ひとりでも「明日も頑張ろう」と思ってくれる人がいるなら、それだけでいいやって思います。今まで以上に、そう思うかもしれません。むしろ、こっちが元気をもらっちゃったときに、「これがあるべき形なんだなあ」と思ったし、それに気づけてよかったです。

──アーカイブを残したい気持ちが湧き上がってきた中で、この「キャラクターソング・コレクション」が出せることは、すごく大きいですよね。

中島:自分も80年代の音楽が好きだし。30年後とかに掘り起こされたりすることもあるのかな?と思うと、それはそれでロマンがありますね――今、聴いてほしいけど(笑)。

──(笑)それこそ、掘り起こす側だった人ですからね。

中島:そうそう。掘り起こした作品に対してすごく感謝してるし、リスペクトもしているし。残ってさえいれば、30年後の誰かが元気になるかもしれないですから。

中島愛

曲を聴き直してみると、キャラクターたちが「オッケー!」ってしてくれてました(笑)

──今回の収録曲たちを振り返ってみて、どんな気づきがありましたか?

中島:やっぱり、ひとりでは絶対に引き出すことができなかった歌い方を、いっぱいしてるなって思いました。あまりいい言い方じゃないけど――わたしは声が劇的に変わるタイプではないし、それは皆さんに伝わってると思うんですよ。

──それ、いつも言ってるじゃないですか(笑)。

中島:そう(笑)。七色の声を持っているわけではないから。そこにコンプレックスを抱きつつ、キャラクターと向き合って、「あなたはどうやって歌うの?」って目の前にいる彼らに問いかけながら、歌い方を構築していって。当時は、頑張っても頑張っても何か足りない気がしてたし、「この子にとってほんとにこれでよかったのかな?」って思うことも多かったけど、聴き直してみると、そのキャラクターたちが「オッケー!」ってしてくれてました(笑)。「いや、これがこのときのベストだよ! 中島 愛だったらしない歌い方、いっぱいしてるじゃん!」って。

──この話、もう永遠のテーマですね。歌によって声を変えられるわけじゃないから、みたいな。でも、逆に聞きたいんだけど、誰かが中島 愛に「七色の声であれ」って言ったんですか。

中島:どうかなあ? 言ってるとしたら、そのプレッシャーをかけているのは自分ですよね。

──そう、誰も言ってない。誰も言ってなくて、キャラクターもお客さんも、中島 愛の歌声が聴ければいいんです。変な言い方だけど、「七色の声であってほしい」と思ってないですよ(笑)。

中島:(笑)子どもの頃からの憧れなんでしょうね。そうじゃない自分を受け入れたり、対立したりしながら、そこに舞い込んできたキャラクターとどう手をつなごうか、考えてきたんだと思います。

──キャラクターが「オッケー!」って言ってくれるのは、むしろ七色の声ではなく、そのときそのときのベストを尽くしてきたからじゃないですかね。

中島:うん。「いやいや、これだよ」ってキャラが答えてくれた感じがあるなあ、と思います。キャラクターの接し方について、「入り込むタイプですか? 分析するタイプですか?」って聞かれることがあって、わたしは友達みたいな感じになることが多いんですけど――。

──そのとき、彼らはどこにいるんですか? 内側なのか、隣なのか。

中島:目の前! ランカからそうだったんですけど。ランカの歌を歌っていると、緑の髪の毛が見えるんですよ。思い込んでるから。でも、憑依してる感覚ではないんですよね。同化とも、ちょっと違うかもしれない。同化しようと努力はしてるんですけど。少し重なってるけど少しずれている、というか。台本を読むときと、マイク前に立ったときで、ちょっと違うんですね。台本を読んでるときはもうちょっと遠くにいて、「どう思うの?」って窺ってる感じで、マイクを持ったりマイクの前に立つと、ギリギリまで近づく感じ。目の前にいる感覚があるので、曲を改めて聴き直すと、その感覚がより自分の中で強くなりました。

──そのアプローチをした楽曲が集まった結果、非常に多面的なアルバムになりましたね。

中島:嬉しいです。多面的という感想は、とても嬉しいですね。

──「実は当時、これ自信作だったんだよね」みたいな曲もあったりしますか?

中島:あります。『異国迷路のクロワーゼ』の“遠く君へ”という曲を歌わせてもらっていて。アニメはTVシリーズなんだけど、わたしが出たのはDVDにだけ収録されている、4話と5話の間の4.5話に出てくるゲストキャラクターで、歌を歌いながら旅をしているボヘミアンの役だったんですけど、アイドルじゃないけど歌を歌っている役が新鮮だったし、人生として歌を歌っているキャラクターにすごく共感してました。曲として素晴らしかったし、当時からすごく好きな曲だったので、自分のライブにも何回か組み込んだことがあったんですけど、もっと広く、いろんな人に聴いてもらえたらいいなあ、と当時からずっと思っていて。もう、マジ名曲っていう――言葉が軽いな(笑)。

──(笑)。

中島:今の話と繋がるかもしれないけど、10周年のベストアルバムとはまた違って、今回のコレクションは、わたしに興味がない人にも届いてほしいんですよね。ある作品がピンポイントで好きな人にも聴いてほしいし、単純に曲さえ届けばそれでいい、と思っていたりします。作品に思い入れがある人にとって、そのときの感動がうわーっ!て蘇ってくれさえすれば、自分は黒子でいい、くらいの気持ちでいます。そう思ってることがいいのか悪いのかわからないけど、作品のファンに対する感謝や誠意は、ずっと持っていたいですよね。

──シンプルに訊きますけど、自身の名義の曲とキャラソンに向き合うとき、最も違う部分って何ですか?

中島:うーん……個人的な感情がエッセンスとして入ってこないって、些細なことに聞こえるかもしれないけど、意外と違うんですよね。たとえば、歌詞で《あなた》と言ったときに、絶対的にそのキャラクターが思い浮かべる誰かがいるわけじゃないですか。作品の中のシーンにそれほど寄り添ってる曲じゃなかったとしても、そのキャラクターごとに思う情景や想う人は、必ず違うわけで。自分の曲だと、《あなた》は家族、友達、好きな人とか、いろいろ変わるじゃないですか。キャラソンはそこが違っていて、ブレないし楽しいですね。

──そして今回、唯一の新録に“恋のジングル”という曲があって。自ら作り出した「めぐちゃん」というキャラクターのキャラソンなんですよね。

中島:はい。USENで、『れでぃのたしなみ』という番組をやらせていただいてるんですけど、その中に中島 愛とリスナーで理想の80年代アイドルを作り上げるコーナーがありまして。そこで、こつこつ作ってきたキャラクターだったんですよ。なので、わたし得の曲です。架空のキャラを作ってラジオ内で盛り上がったらいいね、キャッキャ、みたいな感じで作ってたんだけど、「新曲作っちゃわない?」となったときに、「マジか! もっと設定固めなきゃ!」と思って――ほら、設定厨だから(笑)。

──(笑)。

中島:設定厨として語り出すと、わたしは1989年生まれなんですけど、ちょうど20年前くらいに生まれてたら80年代に青春を送れたのにっていう気持ちがずっとあって。「お母さんずるい!」みたいな。なので、1969年6月5日生まれにして、85年に16歳でデビューさせようぜ、と。その頃のおニャン子クラブのゆうゆ(岩井由紀子)さんや南野陽子さんに曲を提供していたコモリタミノルさんを、もともと高校生の頃から好きだったので、コモリタさんが引き受けてくれたらその設定を伝えて作ってくださいってお願いしよう!ってなって。コモリタさんもOKだったので、わたしの設定が全部叶いました。で、そこで思うわけですよ、「なんでわたし、31歳なんだろう?」「設定や環境がこんな完璧に整ってるのに、なんでわたし18歳じゃないのっ!?」って(笑)。もしわたしが18歳でデビューしてたら、誰に憧れて、どういう歌い回しをする人になるのかを考えながら歌入れをしたという――わたししか得をしない話でした(笑)。

──(笑)途中お話したように、「残るもの」として今回のキャラソン・コレクションを完成させることができたわけですけど、今後のご自身の活動にとって、この作品はどういう意味を持つと思いますか。

中島:この1枚を出せたことによって、「わたし、声優もやらせてもらってるんだなあ」っていう嬉しさが、実感として身にしみました。「これだけ味方がいるじゃん」「キャラクターの後ろには、作品を愛してくれてる人たちがいっぱいいるじゃん」って肯定された感じがするし、その肯定感が、今後自分の背中を押してくれる存在に、確実になってくれると思います。キャラクターたちが「いいんだよ」って言ってくれたと感じられたことが、一番の財産になりました。20代の頃じゃなくて、10年やってきてこのコレクションが出せてよかったな、と思います。

取材・文=清水大輔