アイドルマスター 15周年の「今までとこれから」④(菊地 真編):平田宏美インタビュー

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公開日:2020/11/9

『アイドルマスター』のアーケードゲームがスタートしたのが、2005年7月26日。以来、765プロダクション(以下765プロ)の物語から始まった『アイドルマスター』は、『アイドルマスター シンデレラガールズ』『アイドルマスター ミリオンライブ!』など複数のブランドに広がりながら、数多くの「プロデューサー」(=ファン)と出会い、彼らのさまざまな想いを乗せて成長を続け、今年で15周年を迎えた。今回は、765プロのアイドルたちをタイトルに掲げた『MASTER ARTIST 4』シリーズの発売を機に、『アイドルマスター』の15年の歩みを振り返り、未来への期待がさらに高まるような特集をお届けしたいと考え、765プロのアイドルを演じるキャスト12人全員に、ロング・インタビューをさせてもらった。彼女たちの言葉から、『アイドルマスター』の「今までとこれから」を感じてほしい。

 第4弾は、菊地 真を演じる平田宏美に話を聞いた。「性格的には自身と真逆」と語る菊地 真とどのように向き合い、ステージに立ってきたのか。長い時間を一緒に過ごしてきたメンバーへの想いや、ライブの記憶とともに振り返ってもらった。

菊地 真
(C)窪岡俊之 (C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

『初星宴舞』は、私の中で完成されたライブ

――『アイドルマスター』が15周年を迎えたことについて、どのような感慨がありますか。

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平田:最初にこのプロジェクトに関わったときに、そこから15年やるとは誰も思ってはいなかったと思うので、本当にあっという間に15年経ったなって思います。ひとつひとつ、お仕事をいただいて、歌を歌って、その先もあって、を繰り返してきた結果15年経った感じなので、気持ち的には当時のままの気がします。客観的に、『アイドルマスター』は手探りなプロジェクトだったんだな、と思っていて、私もこの菊地 真という役が、初めて役名がついた役だったんです。ド新人だったので。スタッフさんたちは、私の中ではいろんなお仕事をすでにされてきた方たち、というイメージだったんですけど、たぶんアイドルのプロジェクトを制作するのは、みんな初めてで。みんなで探り合いながらやってるんだなって感じるプロジェクトだったし、振り返ってみると初期のことをよく思い出しますね。

――なるほど。

平田:最初は、ライブをすると言っても、ゲームの歌をちょっと紹介する、くらいのライブだと思っていました。「『アイドルマスター』の世界を知ってください」みたいな。でも、実際には、声優という「声の俳優」の仕事の役割を、さらに広げてくれたんじゃないかなって思います。私自身も菊地 真としてキャラクターソングを歌っていますけど、ここまで自分も前に出て表現することは想像してなくて。声の仕事における、さらに違うルートの開拓をしてくれたのかなって思いますし、真が歩いていくその後ろをついていったのかな、みたいな感覚があります。

――先ほど、「ド新人だった」とおっしゃってましたけど――。

平田:ド新人でした。オーディションに受かったのが、23歳とかだったかな? で、「真、決まりました」って言われてから、まずはセリフじゃなくて歌録りから始まって、「えっ、歌?」みたいな(笑)。「真がいなかったらどうしていたんだろうなあ?」って思いますね。

――オーディションで出会って、演じたり歌ったりする中で、真のパーソナリティについてどんな気づきがありましたか。

平田:性格面で言えば、本当に私と真逆なんです。私自身はすごく後ろ向きなので、常に最悪のことを考えて、「ここに行き着かなければいい」みたいな考え方を持って行動してるんですよ。たとえば、ライブに出て、「イヤモニの音が切れたらどうしよう?」とか考えちゃう(笑)。でも、真は絶対そんなことを考えない。「ボク、ここまでやったから。よし、アピールするぞぉ!」みたいな感じだから、そのポジティブさを表現させてもらえているのは、実際の自分の性格とは真逆だけども、そういう部分を自分も持ってるんだなって、気づかせてもらいました。何か落ち込むことがあったときに、芝居には絶対それが乗らないようにはしないといけないし、そこで気持ち的にオフからオンにするところが大変ではありますけど、演じていてすごく楽しいですね。

――オーディションで出会ったときから、ご自身と真逆のイメージがあったんですか。

平田:オーディションのときはすべての資料を見せてもらって、「選んでください」って言われたんです(笑)。そこで決めなきゃいけないっていうことだったので、私は真とあずさで迷いました。でも当時は、やっぱり自分の声質を考えたら真かなって。真は、少年のようにしか見えなかったけど、これだけアイドルの女の子がいる中で、ボーイッシュな感じの子なのかな、と。まあ、大まかなところは合ってたんですけど、まさかあそこまで乙女乙女してるとは思ってなかったです(笑)。

――(笑)最初の印象と、その後の真の姿には、だいぶギャップがあった、と。

平田:そうですね。それはたぶん、どんどん積み上げていく上で肉づけされてきたことなのかな、と思っていて。初期の段階では、ボーイッシュ寄りな感じが強かったかなと思うんですけど、CDドラマとかの収録を重ねていった結果、ボーイッシュだけではないさまざまな側面も見せられて(笑)。その肉づけの部分は、最初はどう演じることが正解なのかがわからなかったんです。真の声のベースはもちろん持っていなければいけないし、でも前後のセリフの流れで見ると、これは普通の「かわいい」が正解ではない。ちょっと外した痛さがかわいい、みたいな(笑)。それでやってみたら皆さんに受け入れていただけたので、「あっ、これが正解か」と。ドキドキしながら、世に出ていった感じでした(笑)。

――ライブではアイドルとしてステージに立ってきたわけですけど、その楽しさ、喜び、難しさについてお話いただけますか。

平田:私自身は、「キラキラしたステージに立つぞ~!」と思ってこの仕事を始めたわけではないので、最初は葛藤があったと思います。楽しさは、やっぱりプロデューサー=お客様がいて、生のリアクションを感じられること。舞台上で、「お客さんがこんなに楽しんでくれてるんだ」って伝わってくるのは、やっぱり楽しいですね。難しさは――みんなが見ている真は、スッとしているじゃないですか。私自身は、舞台に出るときに、そこまでビジュアルを真に寄せているわけではなく、どちらかというと好き勝手やったりしてるから(笑)。人前で歌を歌ったりすることが得意なわけではないので、テンションを自分の中で上げていくために、「今回は面白ヘアにしていこう」とか思って、でもそれが真と全然違う方向に行ってたらそれは申し訳ないなと思いつつ。常に悪い方向に考えちゃうから、そういう気持ちのまま舞台に立つのはよろしくないと思うんです。「これだったら、いける」みたいな、自分の中での暗示じゃないですけど、そういうことを考えているので、ビジュアル面でちょっと相反することが起きてしまうかも?と考えると、そこにちょっと難しさがあるかなって思います。でもそこは経験を積めば積むほど、たぶんみんなにも私を通して真がちゃんと見えているんだな、とわかってきたので、その不安に関しては解消されていきましたね。

――これまで、『アイドルマスター』はいろんなステージに立ってきたわけですが、特に印象に残っているライブはありますか。

平田:私の中で、『初星宴舞』は今までのライブの中で一番完成された765プロダクションのライブだったな、と思っていて。そこで自分がソロで歌った“迷走Mind”は、それまでにも何回か歌わせていただいたんですけど、初めて「楽しい!」と思えました。他のメンバーは、ライブで歌ってるときに楽しんでいる感覚がたぶんあると思うんですけど、私の場合は、「今までやってきた練習の成果を、プロデューサーに楽しんでもらうためにやる!」みたいな気持ちだったので、自分自身が楽しいっていう感覚がなかったんです。でもそれは、役者としてもったいないな、と思っていて。ちゃんと仕事はしたけど自分が楽しかったか聞かれたら、「頑張りました」だったので、楽しんでやっているメンバーを見て、うらやましいと思うことがすごくありましたね。

――そこはたぶん、皆さん近い感覚を持っているんじゃないですか。どこで「楽しい!」に気づくのか、タイミングが違うだけであって、間違えずに完成度を上げられるように、担当するアイドルにちゃんと見えるように、頑張る。最初から「楽しい!」に到達するのは難しいのかな、と。

平田:よかったぁ。いや、でもほんとに『初星宴舞』のときに初めて感じられたので、2年前くらいですよね。「楽しいって、こういうことなんだな」っていう。“迷走Mind”は、1番はガチガチに緊張してたんですけど、2番から、何がきっかけなのか、急に楽しくなってきて。「これかあ!」って。その瞬間に視野が広く見えて。ダンサーさんが楽しくやっている表情まで見えたから、『初星宴舞』は私の中で完成されたライブです。まあ、1番からいけたらよかったんですけど、そこは次への目標として持っていたいですね。

菊地 真
(C)窪岡俊之 (C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

いつまでも、この『アイドルマスター』の世界でみんなと一緒にいられたら

――15年間、真と一緒に歩んできたと同時に、765プロダクションのアイドルの演じる皆さんとも長く時間をともに過ごしてきたと思うんですけど。他のキャストさんとの印象的なエピソードをお聞きしたくて。ちなみに仁後真耶子さんと話したときに平田さんの話題が出て、「ご飯を食べるのが速い」と(笑)。

平田:地味なクレームを言わないでよ、と言いたい(笑)。ツアーのとき、仁後と行動することが多いんですよね。「前乗りして、ちょっと遊びに行こうぜ」って、声をかけることが多くて。そのときに、私が早々にご飯を食べてジーッと仁後を待ってるから、それがプレッシャーだったのかな(笑)。直ちゃん(若林直美)や仁後もそうですし、同じように切磋琢磨してたときのメンバーが『アイドルマスター』にはいて、事務所の垣根を越えて一緒にいたので、仲間同士、友達みたいな感覚もあるし、ちょっと家族的な感じもあります。つながりが濃いし、他のいろんな現場で会っても安心できるし、「このメンバーでほんとによかったな」って、いつも思いますね。そのメンバーたちと、今でも一緒にこの仕事ができているのは、こんなに嬉しいことはないなって思いますし、すごく感謝しています。

――平田さんにとって、『アイドルマスター』と向き合う覚悟を決めるきっかけになった楽曲、シンプルに音楽として好きな楽曲は何ですか?

平田:歌に関しては、ゲームで録った“迷走Mind”が確実に、キャラクターが固まった瞬間でした。“迷走Mind”の前は、「もっとカッコよくやったほうがいいのかな」って考えながらやっている部分があったと思うんですけど、“迷走Mind”はスッと入れた曲で。「ここ強調しようぜ」みたいな感じじゃなく、自然と真のカッコよさを表現できたんじゃないかと思っています。私の中では、きっかけの曲ですね。音楽的に好きなのは、“It’s Show”と“おもいでのはじまり”が好きで。“It’s Show”はすごく盛り上がるから、いつかライブで歌いたいなあと思っています。“おもいでのはじまり”は、最初に聴いたときに「なんていい曲なんだ」と。いい曲すぎて、収録のときに曲を書かれた方に「最高にいい曲ですね。ありがとうございます」って、お礼を言ったのを覚えています。『アイドルマスター』が積み上げてきたものを思い出させてくれるような曲なので、また歌えたらいいなって思ってますね。

――15年続けるということは、演じる方のライフステージもどんどん変わっていくじゃないですか。その中で、『アイドルマスター』や真との向き合い方について、どのように考えていたんでしょうか。

平田:実は、メットライフドームの10周年のライブのときが、私にとっていったん区切りというか、そのあと当分ライブはお休みすることになっていたんです。子供のことを考えると短くても2年くらいは休まなきゃいけないかな、いつ復帰できるのか、ライブには次はいつ出られるのか……って思ってたので、10周年のとき、初めてライブで泣いたんです。10周年まで『アイドルマスター』がやれてよかった、でもこれが私の中でのラストライブかもしれない、と思ったら、涙が出たんです。それ以降、復帰してからはカラッカラで「いえ~い」みたいな感じですけど(笑)。オファーを改めていただいたときは「やるやる!」ってなりましたし、なんの迷いもなかったです。「やった、出られる!」みたいな感じでした。

――その感情のスイッチについて、詳しく聞きたいです。10周年で、「もうこのステージに立てないのかも」と思って感極まってしまう部分、それでもやっぱりやりたいって思わせる引力が、『アイドルマスター』にはある。それってなんでしょうか。

平田:私たち、765プロのメンバーもそうだけど、ひとつの日常だったと思うんですよ。そこでずっと一緒にいたからこそ、「オファーが来たらやるっしょ」みたいな(笑)。ほんとに、みんながそこにいるから、ですよね。それしかないです。絶対に、待っていてくれてるわけじゃないですか。

――15周年やってきて、それぞれの人生のステージは変わっていくけど、『アイドルマスター』は変わらず向き合い続けたいものである、と。

平田:そうですね、すごく大切なものなので。なくしたくないものだし、お声がかかればいつでも行ける体勢でいたいな、と思っています。

――今回は『MASTER ARTIST 4』のCDが出るわけですけど、新曲の“Ever Sunny”は非常に真らしい楽曲でしたね。

平田:歌詞を見たときに、「これは真の視点ですか、プロデューサーから見た真を歌うんですか」と、答えを求めたんですよ。そうしたら、「それぞれの中で答えが欲しいわけだから、明確にボクがこうだからっていうことをやってほしくはない、平田さんが思う感覚でやってくれればいい」と言っていただいて。そこで、「ああ、すぐ答えを求めちゃう悪い癖!」と思ったんですけど(笑)、そこで「そうか、そういうこともあるんだ」と。すごく爽やかで、でもなんかちょっとドキドキするような曲ですよね。絶対、絶対にみんな気に入ると思うので、ぜひとも聴いてほしいです。

――らしさも出せるし、解釈の余地を残して、新しさも表現できている曲、ですかね。

平田:そうですね。なので、もっと内面に踏み込んだ真の表現があるかなって思いました。すごくいい曲をありがとうございますって思っています。

――今回は“New Me, Continued”という曲も収録されていて、歌詞の中の《変わりゆく景色/変わらない願い》が印象的でした。先ほど『アイドルマスター』との向き合い方の話をさせてもらいましたけど。長く続けているからこそ変わっていかないといけないこともあるし、変わってはいけないこともある。《変わらない願い》という歌詞について、平田さんは何をイメージしましたか。

平田:まずは、自分自身がこれからも『アイドルマスター』の世界に関われたらいいな、ということは、変わってほしくないかなって思いますね。本当に、それに尽きるかな。変われたらいいな、と思うのは、私たちは765プロダクションでいて、『ミリオンライブ!』とも関わりを持っていたりしますけど、『シンデレラガールズ』や『SideM』とかはあまり深い関わりがないので、今後関わっていけるようなことがあったらいいなあ、と思います。なんだろう、現状で満足しているわけではないんですけど、いつまでもこの『アイドルマスター』の世界でみんなと一緒にいられたらいいな、という感覚はすごく強いので。そこにプロデューサーの人たちもいて、みんなで歳を取っていけたらいいですよね。「一緒に還暦迎えようぜ」みたいな(笑)。そんな感じでいられたら、幸せだなって思います。

――ご自身のキャリアのほぼすべてを一緒に歩んできた『アイドルマスター』というプロジェクトは、平田さんにとってどういう存在ですか。

平田:もう、『アイドルマスター』は平田宏美という声優を作り上げてくれた作品のひとつだと、確実に言えますね。もし『アイドルマスター』が1年くらいで終わっていて、そのときに真以外の役を仕事として経験していなかったら、それはもう自分は向いてないと思って区切りをつけないといけない、と思っていたので。結果的には、「ありがとう、今でも」みたいな感じですけど(笑)。それくらい、ある意味決意をさせてくれたし、今でも続いているということは、私を引き止めてくれて、私を作り上げてくれた存在だと思っているので、感謝しかないです。菊地 真を通して私を知ってくれた方が本当に多いので、ほんとに愛すべき存在ですね。

――では、その真に一言メッセージをお願いします。

平田:もう、そのままの真でいてほしいです。あとは、変な無理はしないでほしいかな。でも、チャレンジすることは大切だから、前向きに、人生を楽しんでくれたらいいなって思ってます。そんな真を、今後も常にポジティブに演じていきたいと思います。


取材・文=清水大輔