TVアニメ放送直前! 先輩・後輩で語る『BLACK』のキモとは――『はたらく細胞BLACK』榎木淳弥×日笠陽子対談

アニメ

公開日:2021/1/9

榎木淳弥・日笠陽子

はたらく細胞BLACK
TVアニメ『はたらく細胞BLACK』 TOKYO MXほかにて、毎週土曜24:00より放送 (C)原田重光・初嘉屋一生・清水茜/講談社・CODE BLACK PROJECT

 TVアニメ『はたらく細胞BLACK』の放送がスタートする。「体内細胞擬人化アニメ」を掲げた『はたらく細胞』をご覧になったことがある方は、きっと『BLACK』の冒頭で衝撃を受けるだろう。これから始まる新しい仕事に向けて期待を膨らませる、主人公の赤血球AA2153(CV:榎木淳弥)。しかし彼の希望は、さまざまなトラブルを抱えた体内の「ブラックな労働環境」の前に、はかなく打ち砕かれる。彼は、果てしない労働の末に、何を見つけるのか――などと大げさに紹介してみたけど、『はたらく細胞BLACK』は、大人なら誰でも身に覚えがありそうな身体のトラブルを扱いつつ、シニカルなユーモアが効いた、楽しいエンタメ作品である。本作を、考察原稿やインタビューとともに、ご紹介していきたい。

 今回は、赤血球AA2153役の榎木と、体内の細菌を相手に奮闘するクールな先輩=白血球役の日笠陽子に、『はたらく細胞BLACK』の面白さを語り合ってもらった。メインキャラクターとしての共演は初めてというふたりだが、劇中の赤血球&白血球の関係性さながら、互いに影響を与え合う声優界のよき先輩・後輩としての側面が垣間見える対談となった。

「なんでこんなにつらいのに働かなきゃいけないんだ」って赤血球が苦悩していくところが、この作品のテーマ(榎木)

──『はたらく細胞BLACK』の映像を観させてもらったんですけど、1話からめちゃくちゃ面白くて。

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日笠:あっ、よかったです。

──多くの人に観てほしい作品だな、と思いました。おふたりは、完成した映像をご覧になって、どんなことを感じましたか。

榎木:映像になると、けっこう色味が黒かったなって思います(笑)。赤血球だから赤いのかな、と思いきや、血流が悪そうな色をしていたり、体内の通路にも何かがへばりついていたり。開始早々、「この身体には何かあるんじゃないか」と思わせるような、細かいところまで工夫がされているな、と感じましたね。台本を読んだときは、大人がかかりやすい病気を扱っていたので、僕自身も興味深く見させてもらいました。改めて、注意喚起をされたというか。

──確かに、赤血球(AA2153)の先輩たちは、ことごとく土気色の顔してますよね。そこに、あの身体のヤバさが出てるというか。

榎木:そうですね(笑)。もう、みんなボロボロなので。最初は、研修段階では希望に満ちた感じなのかな、と思うんですけど、よくよく見たら教官も目が死んでるし。そういう細かい表現は面白いところですね。

日笠:『はたらく細胞』というと、わたしもそうですし、他の皆さんも、まずは『はたらく細胞!!』のほうをパッと思い浮かべると思うんですよ。ちょっとポップな感じといいますか、子どもも観られる内容なのかな、と思うんだけど、「そう思って入るとヤケドするぞ?」みたいな(笑)。タイトルの『BLACK』にかかってる部分が、映像の色味もそうなんですけど、ブラックな身体、ブラックな会社、ブラックな働く環境、というところにもかかっていると思うので、怖い作品だな、と思いました(笑)。

──(笑)1話でも、平和な空気は5分くらいしか続かないですしね。榎木さんが演じる赤血球も、楽しい仕事を想像しながら、「血小板ちゃんかわいいな」とメモを取っているけど、その2分後くらいには全力ダッシュさせられてるし。

榎木:「ゴーゴーゴー!」って言われながら(笑)。実際、あんな感じでいきなりブラックな側面を見せつけられると、現実と違って辞めようもないですからね。なので、もう受け入れるしかないんだろうな、みたいな感じで見ていました。自分だったらどうするかな、と想像したけど、「つらいけどもやるしかない」というところはあるんだろうな、と思いましたね。覚悟を決める間もなく働かざるをえない、というか。その環境が、決断力や判断力を鈍らせるんだろうな、と。

──日笠さんが演じる白血球さんはもともと体内にいて、細菌を倒すなどして活躍をしているわけですけども、彼女の背景についてはどう想像しましたか?

日笠:たぶん、わかってるんでしょうね。自分から出て行くこともないし、身体のために働かないといけない。でもブラックに染まるわけではなく、淡々と自分の使命をまっとうするタイプだと思います。きっと彼女にも先輩がいて、性格はずっとあのままだと思うので、先輩についていきながら、自分も頼れる先輩になっていったんだろうな、と。白血球チームはみんなソルジャーというか、外敵と戦うことが多くて、武士じゃないですけど、働くというよりは戦ってる!という感じなので、精神が統一されているというか、研ぎ澄まされている気がします。

──さっき榎木さんがおっしゃったように、『はたらく細胞BLACK』では大人が身に覚えのあるテーマが多々描かれていて。収録をしていると、わりと日常での考え方に影響してくることもあったんじゃないですか。

榎木:確かに。ただ、いつも「気をつけよう」とは思いますけど、「気をつけよう」で止まっちゃうんですよね。「気をつけないと! でも、具体的に行動するのは面倒くさいな」みたいな。

日笠:実践するタイプじゃなさそうだよね(笑)。

榎木:そのとおりです。常に体調がよくない感じです。

日笠:榎木くん、収録の期間にも体調を崩してたし。

榎木:そうですね。でも、僕はすぐ病院に行きます。

日笠:(笑)。

榎木:この『BLACK』の身体の持ち主と同じで、何か起こったら病院に行く。すぐ行く習性がついてます。

日笠:珍しいね。男性はほんとに行かないじゃないですか。

榎木:だって、行ったらすぐ治るのがわかってるから。絶対行きますね。

──赤血球と白血球、メインのキャラクターをおふたりが演じているわけですけど。彼らを演じるにあたって、ここを大事にしよう、これを軸にしよう、と考えているポイントは何ですか。

榎木:最初のシーンで赤血球が嘆いていて、時間軸がちょっと先のところからスタートするんですよね。そこで、仕事に対する赤血球の思いがわかりました。まずは、そこを軸にしました。最初は、仕事に希望を持っている。社員として考えれば新入社員で、ブラックな会社だとわかって、「なんでこんなにつらいのに働かなきゃいけないんだ」って彼が苦悩していくところが、この作品のテーマなのかな、と思ったので。苦悩していく姿を軸にする感じで、自分の身体に馴染ませていきました。

──働き続ける以上、彼はずっとその苦悩を背負ってないといけないですからね。

榎木:そうですね。そこでどう答えを出していくかが、この作品のテーマでもあるので。そこがしっかりしていれば大丈夫かな、と思いました。KENNさんがやっている友達の赤血球も、まだ新米赤血球なので、彼と影響し合ったり、白血球にも影響を受けて成長していけたらいいな、と。

日笠:白血球は、やっぱり赤血球が憧れる、影響を受ける存在なので、ブラックな環境だけど先輩像は崩さないようにしたいな、と思いました。先輩であるがゆえに、ダメなところもきっとあると思うけど、そういう部分は出さないようにしたいな、と思いながら演じていました。あとは、最初は鉄仮面のように、敵を殺すことだけしか考えないタイプの人として演じているんですけど、赤血球と出会うことで、表情や感情を少しずつ取り戻して、感化されていく。そういうパワーに影響される余力は残しておきたいな、と思いました。

──ある意味、赤血球が一番諦めてないヤツだったりもしますね。

榎木:そうですね。まだ、「もういいや!」ってなってない、というか。「なんで?」って疑問に思う気持ちが、まだあるので。確かに、諦めてないですね。

榎木淳弥・日笠陽子

はたらく細胞BLACK

はたらく細胞BLACK

一話一話で、ガラガラになるまで叫びたい(日笠)

──おふたりは、これまでにもけっこう共演してきたんですか?

榎木:共演しているんですけど、日笠さんが覚えていらっしゃらない(笑)。

日笠:それ毎回言う!(笑)。

榎木:(笑)でも、レギュラーはこれが初めてですね。

日笠:メインで絡むのは初めてですね。榎木くんは、カメレオン声優さんなので。場にも溶け込むし、作品に溶け込むから。

榎木:だから忘れちゃうんですか?

日笠:忘れちゃう! 「共演したことありますよ」って言われて、「あっ! そうだよね」って。

榎木:僕、おとなしいので。すみっこにスーッといるんです。

日笠:そう、隅にいるタイプのイメージ。だから今回の現場で、「こんな笑う人なんだ!」って。たぶん、これまでの現場で、笑顔を見たことがなかったと思う(笑)。わたしは現場でわあわあ話しちゃうタイプなんですけど、榎木くんは作品にのめり込んで集中しているイメージがあります。

榎木:そう見せているだけで、実は人見知りなので。学校で、昼休みに寝たふりしている子、みたいな感じです(笑)。最近、ちょっと人と話せるようになってきましたけど。

日笠:逆に『はたらく細胞BLACK』では、気を遣ってくれて、けっこう話してくれています。

榎木:今は、少人数体制で録ってるから、逆にそれが合ってるのかも。話しやすいです。大勢で話すと、ゴチャッとなって話しづらいから。

日笠:わたしも隅っこ好きです。

榎木:そうなんですか? たまに静かなとき、ありますね。

日笠:榎木くんに人見知りしてる(笑)。

榎木:会ったことあるのに?(笑)。

日笠:緊張してる(笑)。

榎木:僕は、日笠さんの人柄はいろんな人から聞いていて。「すごくいい人だよ」って聞いてたので、あまり緊張せずに臨めました。僕、まず共演する人をリサーチするんですよ。

日笠:ええっ、そうなの!?

──自分も日笠さんとお話するのは初めてですけど、他の役者さんから日笠さんの話を聞いたことがありますよ。

日笠:なんで? 怖い! みんな噂好きだ。

榎木:愛されてるんだなあ。

──たとえば、『戦記絶唱シンフォギア』の取材をしたとき、日笠さんの話題がよく出てましたね。歌のレコーディングのとき、OKが出ているのに『わたしはまだ終わってない』って言って、ひとりで歌い続けてた、とか。

榎木:何それ! 楽しんでるじゃないですか(笑)。

日笠:テンション上がっちゃってるんだよ。「まだ歌いたいー!」って言ったら「カラオケ行けー!」って言われた(笑)。

榎木:でも、大変なんじゃないですか?

日笠:大変だけど楽しいの。好きなの。大変なのが好き。

榎木:ドMですね(笑)。

日笠:「もっと大変だったはずだもん! もっと大変じゃなきゃイヤだ!」って言って。

榎木:社畜の才能があるなあ。

日笠:そう、だからたぶん、ブラック企業は意外と合ってるんだよ。作品やその中での立場にもよるけど妥協はしないタイプなんです。基本的には本番で出すものでOKをもらっていたら、それはもうOKなんですけど、悔しかったり、納得できなかったり、持って帰って後悔しそうなときは、自分から言ったりするかな。あと、のどを痛めつけたい(笑)。

榎木:マジですか!? すごいですね。

日笠:一話一話で、ガラガラになるまで叫びたい。

榎木:いやいやいや……でも、日笠さんのど強いから、なかなかガラガラにはならないですよね?

日笠:榎木くんも、叫びの演技がすごいよね? 絞り出すような叫び、というか。

榎木:赤血球、叫ぶシーンが多いんですけど。難しいですよ。

日笠:でも、いい。わたし、榎木くんの赤血球叫びが好きです。めっちゃよかった。

榎木:日笠さんすごいなあ。つらいのが好きって、ほんとに役者向きなのかもしれないすね。

日笠:つらいのは好き。でも、ちゃんと疲れるんだよ? (笑)。

──(笑)他のアニメ作品の取材では、「日笠さんがいてくれるから現場が明るくなって助かる」みたいな話を聞いたこともありますよ。

日笠:嬉しい! ありがたいですね。

榎木:ご自身でも言ってましたもんね、「芝居するときに意識することは、現場の空気」って。そのとき、「ああ、自分のことじゃないんだ」って、ハッとさせられました。

日笠:一緒の作品をやる人、関わる人、できるだけみんなハッピーでいてほしい。だから、『はたらく細胞BLACK』も売れるといいよね。

榎木:そうですね、確かに。売れたらみんな、ハッピーになるし。

日笠:でも、8話くらいで、「現場、まとまったな。じゃ、日笠のキャラクター殺そう。もう用なし!」みたいな感じによくなる(笑)。一時期、8割くらいのところで死ぬ役がめっちゃ多かったなあ。「あいつの役目、終わったから」って。

榎木:「空気作ってくれたな」って(笑)。

日笠:谷口(悟朗)さんとか、それめっちゃ言ってた(笑)。失礼な! 最後までいきたいんだ、わたしは。

榎木:いや、でもそれは重宝されますね。

──今は、収録も全員揃ってできない環境ですけど、日笠さんは常に現場でそういう心がけをしてるんですか。

日笠:できるだけ、前後に収録する人とは話をしていましたね。最後まで会えなかった人もいたけど。

榎木:想像しながらやるのは大変でした。

日笠:そういえば、道端で平川(大輔)さんに会ったよね?

榎木:会いました! 司令役の平川さん。

日笠:この作品では、平川さんとは一緒にやったこともすれ違ったこともなかったので、平川さんにめっちゃ文句言って。

榎木:司令、いつも役に立たないんです(笑)。

日笠:だいたいの原因、司令だからね。

榎木:そう。司令は何も解決できないから、それを責め立てて、僕らは帰っていきました。

日笠:平川さんは「えー、ほんとお?」って言いながら、収録に向かっていきました(笑)。

榎木:穏やかな感じで(笑)。

日笠:(笑)優しいからね。

──さっき日笠さんが、榎木さんの赤血球の叫びがすごくいいと言ってましたけど、榎木さんから見て日笠さんのお芝居は──榎木さんは覚えているんですよね?

榎木:覚えてます! 当然です!(笑)。

日笠:イヤミ言うじゃん、榎木ぃ~?(笑)。

榎木:だって、素晴らしい方ですから!

──(笑)日笠さんが役者としてすごいな、と思うところとは?

榎木:作品ごとにスタイルを変えているのかなって思っています。別の現場、『富豪刑事』で会ったときに、僕は日笠さんの役にリアリティを感じたんです。でも、別の現場で会ったときはデフォルメされていたりする。現場ごとに、まわりの人に合わせて適切な調節をされているんだな、と。あとは、やっぱり空気作りですよね。現場の空気作りは、浪川(大輔)さんにも通じるものがあって。

日笠:いや、それはつらい。だって、浪川さんだよ?(笑)。

榎木:(笑)いい意味ですよ? 『BLACK』には出てないですけど、浪川さんがいてくださると現場の空気がよくなって、みんなの緊張が解けて、総じてクオリティが上がる。やっぱり、芝居って緊張しているとよくないと思うので。

──日笠さんの存在によって、フィルムがよりよくなる。

榎木:よりよくなりますね。

日笠:わたしは、もともと緊張しいだったんですよ。で、自分が新人のときに先輩が緊張をほぐしてくれて、作品を楽しめたことがあったので、その作品が自分の中で印象に残っていて。「楽しかったな」「一生懸命頑張ろうって、前向きになれたな」って思えたから、それが始まりかもしれないです。

──まわりの人や後輩に、それを返していく。

日笠:うん。返したいなあって思います。

──素晴らしいですね。ちなみに『はたらく細胞BLACK』では、細胞たちが個性的なキャラクターとしてたくさん出てきますけど、思わず推したくなっちゃう細胞はいましたか。

日笠:精子くん。

榎木:ああ、かぶった!(笑)。フォルムが好きですね。

日笠:あと毛母細胞さん。わたしたち、こういうにょろ~っとしたフォルムが好きなのかな(笑)。

榎木:精子くんはつぶらな瞳で、浮いていて。テストのとき、絵を見て笑っちゃって、本番もけっこうきつかったです(笑)。

日笠:「なんなの? なんでそのデザインにしちゃったんだよ!」って(笑)。

榎木:笑わせにきてますよね(笑)。いやー、面白いかったですね。

──『はたらく細胞BLACK』は楽しいアニメーションでありつつ、いろんなことを気づかせてくれたり、教えてくれる作品だと思うんですが、視聴者の方にどのように楽しんでほしいですか。

榎木:まずは何も考えずに観て、笑ってほしいです。「こういうことに気をつけないといけないんだなあ」って、考えさせられる部分もあります。地域によるのかもしれないですけど、オンエアでは前の時間にきれいなほうの(笑)『はたらく細胞』が流れているので、続けて1時間観てもらうと、すごく差が出て、そのギャップでさらに笑える作品になるんじゃないかなと思います。『BLACK』は、全体の空気感はけっこうシリアスなんですけど、シュールな笑いも感じられる作品なので、難しいことは考えずに、ぜひ楽しんでもらいたいです。

日笠:『BLACK』で描かれていることを、ちょっと知識として貯め込んでもらったりしつつ。あとは、毎週だいたいBパートの終わりで、次の病気が始まるんですよ。息つく暇もなく次の病気になるし、休む暇はないと思いますので、最後まで一気にドーン!と皆さんに観てもらいたいと思います。

TVアニメ『はたらく細胞BLACK』公式サイト

取材・文=清水大輔  写真=藤原江理奈
スタイリング=久芳敏夫(BEAMS)[榎木]
ヘアメイク=川端麻友(フリンジ)[榎木]、北原由梨(e-mu)[日笠]