友達以上、恋人未満。『ホリミヤ』でもっとも気持ちが揺れ動くのはこのふたり──山下誠一郎×小坂井祐莉絵 対談

アニメ

公開日:2021/1/17

ホリミヤ
TVアニメ『ホリミヤ』 TOKYO MXほかにて毎週土曜24:30より放送中 (C)HERO・萩原ダイスケ/SQUARE ENIX・「ホリミヤ」製作委員会

 現在放送中の、TVアニメ『ホリミヤ』。原作マンガの『ホリミヤ』は、WEBコミック『堀さんと宮村くん』から作画を新たにリメイクされた作品だ。メインキャラクターの堀と宮村を中心に、魅力的な登場人物たちの掛け合いと青春模様が楽しい映像作品に仕上がっている。ぜひ、たくさんの方に、この作品に触れてほしいと思う。ダ・ヴィンチニュースでは、先行して配信したコミック『ホリミヤ』の試し読み&原作者対談に続き、メインキャストたちの対談・座談会や監督の言葉を通して、TVアニメ『ホリミヤ』の楽しさをお届けしていきたい。

 キャスト対談第2回には、堀と宮村のクラスメイトである石川透役・山下誠一郎&吉川由紀役・小坂井祐莉絵が登場。よくある「友達キャラ」では終わらないリアルな高校生像を浮かび上がらせたふたりが、作品に込めた思いとは。ふたりの対照的な高校生時代も明らかに!

高校生のメンタルは“作った”というより“思い出した”に近かったかもしれません(小坂井)

──はじめに、おふたりが原作『ホリミヤ』を読んだ感想を聞かせてください。

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山下:タイトルどおり、堀さんと宮村くんのエピソードが主体ですが、群像劇のようですよね。登場キャラクターが増えるごとに、各キャラの新しい一面が描かれていくので、感情移入しながら読みました。しかも、きれいごとだけでなく、喧嘩をしたり他人と自分を比べて迷ったりするリアルな高校生活が描かれているんです。甘いだけじゃないビターな悩みも、しっかり丁寧に描いているのが印象的でした。

小坂井:私はオーディションを受ける前に予習のためにコミックスを買ったんですが、面白くてどんどん先まで読んじゃいました(笑)。山下さんが今お話ししていたように、登場人物みんなにスポットが当たるのも面白かったですし、例えば告白したあとにフッた側とフラレた側双方の気持ちが描かれているのも興味深くて。エンターテインメントとして笑いながら読める作品であり、感慨深くもある。そんなところに引き込まれていきました。

──山下さんから見た石川 透、小坂井さんから見た吉川由紀は、どんなキャラクターでしたか?

山下:原作を読んだ時は、宮村を支える友人ポジションという印象から入りました。でも、透自身にもスポットが当たっているんですよね。堀に告白して玉砕して、それだけでは終わらない。堀への思いを引きずるちょっと繊細な時期を踏まえつつ、徐々に変化していくところに人間らしさを感じました。単なる“友達キャラ”という形式的な役回りではなく、リアルな人間として描かれているところが魅力的だな、と。

小坂井:確かにそうですね。

山下:友人として宮村を支えているけれど、逆に宮村が何気なく放った言葉が透に刺さることもあって。持ちつ持たれつというか、ふたり一緒に歩んでいる感じがしました。透のほうが兄貴的な感じで、心の中で世話を焼いている感じはしますけれど。

──考えてみると、不思議な関係ですよね。

山下:石川は堀にフラレますが、だからと言って堀とも宮村とも距離が遠くならないのがいいんですよね。友達として受け入れて、ふたりを応援するところは器の大きい男だなと思いました。

──由紀についてはいかがでしょう。

小坂井:原作を読んだ時から、大好きなキャラクターでした。ビジュアルも何もかもが「かわいい!」って。由紀ちゃんのかわいさって、ラブリーというよりはナチュラルですよね。

山下:そうだね。

小坂井:絶妙なかわいさですよね。サバサバしたかわいさなら堀さんだし、きゅるんきゅるんしたかわいさと言えばレミちゃん。桜ちゃんは落ち着いたかわいさで。みんなそれぞれ違ったかわいさがありますが、私は原作を読んだ時から由紀ちゃんがお気に入りでした。しかも演じていくにつれて、由紀ちゃんの表面的なかわいさだけでなく、内面の繊細さも伝わってきて。由紀ちゃんも透くんもそうですが、この作品に登場する人たちはすごくリアルなんですよね。ストーリーが進むにつれて、感情が深まり、どんどん好きになっていきました。

山下:『ホリミヤ』の女子ってみんな強いよね。

小坂井:強い!

山下:自立してるというか、そう簡単にはなびかないというか。言い方は悪いけど、軽い女じゃない。由紀にしても、こう見えて実はすごく芯があるよね。

小坂井:確かに、どのカップルも全員女の子が引っ張っていますね。

山下:頼もしいです。

──演じるうえで、事前に準備したことはありますか?

小坂井:私、高校生がいるとちょっと見てました(笑)。

山下:あ、街を歩いてる高校生を?

小坂井:そうです。近くにいたら「何しゃべってるんだろう」「今の高校生って何が好きなのかな」ってこっそり会話を聞いてみたり。『ホリミヤ』の時代設定は今より少しだけ前ですが、高校生の気持ちを思い出すために観察していました。

──実年齢と違う役を演じるのは、声優という仕事の醍醐味でもありますよね。高校生スピリットをどのように取り戻していったのでしょう。

山下:「高校生とは」という定義も、難しいですよね。「ウェーイ」ってやってるおバカなイメージもあれば、境遇によっては大人以上に成熟した高校生もいますから。『ホリミヤ』の場合も、喧嘩してぶつかったり、気持ちがすれ違ったりする場面が脚本として用意されているので、あまりセリフの裏を読みすぎず、そのまま気持ちをぶつけるよう意識しました。そのストレートなぶつけ方が石川の高校生らしさなのかなと思ったので。「こういうふうに言ったら、きっと宮村は怒るからやめとこうかな」と相手の裏を読むようなマインドにはならないだろうな、と。むしろ「自分はこう思う」とぶつけたあとに、宮村には宮村の事情があったんだな、と知っていく。その繰り返しによって、角が削られて丸くきれいになっていく。それが大人になるってことなのかなとも思いました。自分が高校生だったときと比べると、彼らは僕の実体験が参考にならないくらい爽やかでしたけど(笑)。

──え、どんな高校時代を過ごしてきたんですか?

山下:『ホリミヤ』で言えば、セリフも発さずにすぐ帰宅するヤツですね(笑)。

小坂井:それじゃ石川役を演じるの、大変だったのでは?

山下:透は、自分にとって憧れであり理想でしたね。高校時代の自分に「大丈夫。お前、あと10年くらい経ったら爽やかな学校生活を送れるから」って声をかけて励ましてあげたい(笑)。

小坂井:面白い!

山下:『ホリミヤ』の学校生活は、ひとつひとつが新鮮でしたね。「よっしゃ、学校行事が来た!」「放課後、買い食いしちゃうか」って。そんな経験、なかったですから。

小坂井:えーー!

山下:だからこそ、収録でもあまりガチガチに固めすぎずに臨みました。アフレコも少人数だったので、最初はぎこちなさもあったけど、回を重ねるごとにチームワークが深まっていったよね。

小坂井:確かに。アフレコで初めて顔を合わせましたし、コロナ禍なので最大4人での収録でしたもんね。

山下:小坂井さんは、由紀なみに輝いてる高校生活を送ってたんでしょ? カースト上位の。

小坂井:由紀に近いところはありますが、そんなに輝いてたわけじゃないですよ(笑)! 生徒会に入っていましたし、私も由紀ちゃんみたいにカラオケが好きで友達を誘っていましたけど。先ほど山下さんが「高校生は裏を読まずに言葉を発する」とおっしゃっていましたけど、確かに私もそうでした。おいしいものを食べると体が揺れるし、素直に感情をアウトプットしちゃうタイプなので。由紀ちゃんは一番高校生らしい高校生だと思いますし、表面的な部分は私も似ていたかもしれません。

山下:似てるってことは、“あの頃の輝いていた私”をそのまま出せばよかったってこと?

小坂井:だから、そこまでキラキラしてないですって(笑)。こんなにスカートも短くなかったし。

山下:萌え袖は?

小坂井:カーディガンだけは自由に選べる学校だったので、好きなものを着ていましたけど。でも、台本を読んでいくにつれてみんなの関係性が見えてきましたし、映像を拝見して「あ、教室ってこうだったな」と呼び覚まされるものがあって、どんどん当時の気持ちが引っ張り出されていきました。特に透と由紀については、思春期ならでの気持ちがすごく繊細に描かれていますよね。「しゃべれるだけでうれしかったな」という高校生のメンタルは、“作った”というより“思い出した”というほうが近かったかもしれません。

山下:僕の場合、120%フィクションでしたけどね(笑)。

小坂井:えー、透を演じる山下さんのこと「さすが……!」って毎回感心していたのに。

山下:まがいものですよ(笑)。でも、毎日毎日楽しそうにやってましたね、透くん。僕も透を演じるのが楽しかったです。

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透と由紀は、沸点が上がらない低温の関係なんです(山下)

──演じるうえで、特に大切にしたのはどんなことでしょうか。

山下:心の機微が大切な作品なので、セリフのニュアンス、細かい言い方は意識しました。ちょっと切なさを足したり、「平気なようでいて心がズキッとしているのかな」と内面を意識したり。ただ、彼らも狙ってかっこいいセリフを言っているわけではないんですよね。例えば、由紀に対して「桜が雪に“溶けてください”とお願いしたと言うのか?」と言うセリフがあるのですが、透本人はサラッとさりげなく発しているのに由紀の心に届くんです。それを(イケボで)「桜が雪に“溶けてください”とお願いしたと言うのか?」って言うのは違うじゃないですか。

小坂井:それは違う(笑)。

山下:それだと狙いすぎですよね。物語としてシーンに合った声で演じつつ、意図しないところで相手の心を動かすこともある。そのバランスが難しかったです。

小坂井:私の場合、由紀ちゃんを演じるうえで軸にしたのは明るさです。由紀ちゃんは元気で活発なキャラクターですが、ストーリーが進むにつれてどんどん繊細な面も見えてきます。落ち込む場面では沈んだ演技をしたのですが、「ちょっと沈みすぎちゃってるかな」「もう少し淡々と」というディレクションをいただくこともあって。そこで気づいたのが、どんな状況であっても由紀ちゃんは根本的な明るさをなくさないということ。常に明るさを軸にして演じました。

──お話を伺っていると、セリフに表われていない感情、セリフの行間を表現するのが難しい作品ではないかと思いました。セリフには描かれない感情を、どのようなニュアンスで表現したのでしょうか。

山下:そこはアニメの強さだと思うんです。この作品は、画が素晴らしくきれいですから、セリフはガチガチに作りこまず、表情の細やかさに委ねた部分もありました。あとは、ご覧になった方々がどう感じるかでしょうね。観る方によって答えが違う作品なのかなと思います。自分でも「これ、どうなんだろう」「いや、これ好きなの?」って思うこともありましたし。

小坂井:わかります! 「気持ちを伝えたいの? 隠したいの?」みたいな微妙な感じが、またいいんですよね。

山下:特に透と由紀は、白黒きっぱりつけられない間柄じゃないですか。堀さんと宮村くんに関しては、宮村が思いを言葉にしてくれますが、それができないのが僕ら。沸点が上がらない、ちょっと低温な関係ですよね。見てる分にはかわいいんだけど……。

山下小坂井:もどかしい!

小坂井:ハモってしまいましたね(笑)。

山下:このふたりはこのままでもいい関係なのに、第三者が「お前ら付き合ってるんだろう?」って恋愛の枠にはめようとしてくるんですよね。だから彼らは悩むんですよ。「え、俺たちは彼氏と彼女ってことにならなきゃいけないのか?」って。その悩み方が、ふたりの関係性の特徴ですよね。よくある「お互い好きだね。じゃあ付き合おう」ではなく、言葉にしなくても成立する関係でしたから。順序をすっ飛ばした関係性を、元に戻そうとするからこそ歯車の軋みが生まれているんだと思います。

小坂井:今の話を聞いて、自分が大人になっちゃったのかなと思いました。高校時代は“恋人”とか“付き合う”とか関係性を定義することはなかったじゃないですか。“お付き合い”“結婚”という関係性をきちんとしたがるのが、大人なのかなと思って。

山下:お互いに「なんかいいな」と思い合うだけで十分なんだよね。そこから「お付き合いしましょう」という形になる人もいるかもしれないけれど、そうでなくてもそれでいい。

小坂井:透と由紀ちゃんに関しては、観る方の年齢や性格によっても印象が変わりそうですよね。「もどかしい」と感じる方も「わかるよ」という方もいると思います。

山下:透と由紀は、賛否あることをやっている気がしますね。人によっては彼らをずるいと思うかもしれません。でも、それを重く描きすぎないのが『ホリミヤ』のいいところ。ギャグも多いですし、濃ゆいキャラもどんどん増えていきますし。

小坂井:井浦とか井浦とか井浦とかですね(笑)。堀さんと宮村くんは関係性ができあがっていますし、レミちゃんと仙石くんもすでにカップルです。でも、透と由紀ちゃんだけがすごくリアルに揺れているんですよね。気持ちが一番動いたり、自分を投影したりするのは、桜ちゃんも含めたこの3人の関係性ではないかと思います。みんな魅力的でみんないいキャラなので、高校生のリアルな感情、関係性の変化を楽しんでもらえたらうれしいです。

──ちなみに、おふたりがお好きなキャラクター、気になるキャラクターは?

小坂井:山下さんの推し、私は知ってます(笑)。桜ですよね?

山下:桜はどんどん表情豊かになっていくのが素敵なんだよね。面白いキャラだと思うし、すごくかわいくない?

小坂井:私も桜ちゃん、大好きです!

山下:小坂井さんは、異性キャラで推しはいる? 透、宮村、仙石、柳。堀パパ、進藤……。

小坂井:あ、進藤、好きです!

山下:宮村と進藤は、関係性萌えだよね。

小坂井:そうなんです。ふたりの関係性には惹かれるものがありますよね。

山下:関係性で言えば、堀家が思いのほかカオスで面白くない?

小坂井:魅力的すぎて、堀さんの両親の高校生時代も見てみたいですもん。『ホリミヤ』と言いつつ、堀さんと宮村くんだけではなく、ほかのキャラも魅力にあふれているのがこの作品のいいところですよね。

──ひとりひとりのキャラについて、どんどん掘り下げられていきますよね。現在第2話まで放送されていますが、アニメをどのように楽しんでほしいですか?

小坂井:私も2話まで観させていただきましたが、すっごくきれいな作品に仕上がっているんですよ。どこを切り取ってもポスターにできるくらい。表情の繊細さも感じられますし、アニメらしいコミカルな要素も混ざっていて。どんな気分の時でも楽しめる作品なので、「私の息抜きは『ホリミヤ』を観ることです」ってなってほしいです(笑)。

山下:登場キャラクターの誰もが何かを抱えていて、観る人の数だけ答えがある作品ですよね。まさに青春だと思います。原作の素晴らしさをそのままアニメにしつつ、楽曲や演出などアニメならではの表現方法も用いられていて。どんな方が観ても誰かしら共感できる人が必ずいるので、「あ、わかる」とか「あー、そう来るか」とか思いながら楽しめると思います。普段僕らが生きていて感じるようなことを肯定してくれるアニメだと思うので、せわしない時代ですがこの作品でちょっと心をホッとさせてもらえたらうれしいです。そうやってのんびり観ているうちに、気づけばどっぷり『ホリミヤ』に浸かって、マンガや周辺アイテムにもハマっていくんだろうなと思います。

小坂井:(机の上に置いてあった原作『ホリミヤ』のメモリアルブックを見つけて)あ、この本見たことないです!

山下:(小坂井の反応を見て)……ってなっちゃう作品なので(笑)。マンガとアニメを見比べてもらえると、もう一度新たな発見を楽しめる作品にもなっていると思います。ぜひお楽しみください!

TVアニメ『ホリミヤ』公式サイト

取材・文=野本由起