「石田彰さんのフィッシュ・アイを大切にしながら、蒼井翔太にしかできないフィッシュ・アイを表現しようと考えました」/『美少女戦士セーラームーン』蒼井翔太インタビュー

アニメ

公開日:2021/1/27

蒼井翔太

 現在、絶賛公開中の『劇場版 美少女戦士セーラームーンEternal〈前編〉』。セーラー戦士たちの前に立ちはだかる強敵デッド・ムーンの女王ネヘレニア。そのしもべであるアマゾン・トリアのひとり、魚の化身フィッシュ・アイに扮したのは、大人気声優の蒼井翔太さんだ。「フィッシュ・アイとの出会いは自分の人生の中でとても大きなもの」という想いを、存分に語っていただきました。

――蒼井さんはテレビアニメ版『美少女戦士セーラームーン』(92年~97年)の大ファンであるとうかがいました。

蒼井:そうなんです。5歳くらいのときからリアルタイムでずっと観ていました。学校ではセーラームーンごっこをして、タキシード仮面や亜美ちゃん(セーラーマーキュリー)役をよくやっていました。僕の人生はほとんどセーラームーンと共にあったというか、いつもそばにいてくれて、欠かせない存在だったんです。

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――なぜそんなにもこの作品に惹かれたのでしょうか?

蒼井:今でもそうなのですが、僕は昔からキラキラしたものや綺麗なものが大好きだったんです。宝石のオモチャとか、ラムネの瓶に入っているビー玉とか。セーラームーンには、そんなキラキラがたくさん詰まっていて、まるで宝石箱みたいに感じられたんです。キャラクターの瞳も輝いていて、ひとりひとりの変身シーンもそれぞれに個性があって美しいですよね。子どもの頃、母親にセーラームーンの絵本を買ってもらって「あなたはこういう、女の子たちが好きそうなのが好きなのね」なんて言われたこともありました。それくらい、物心ついた頃から好きだったんです。

――印象に残っているエピソードを教えていただけますか。

蒼井:第一期の終盤45話「セーラー戦士死す! 悲壮なる最終戦」は、タイトルも含めて強烈なインパクトがありました。当時はまだ幼くて理解がついていかなかったのですが、それでも「みんな死んじゃった……」と、観ながら涙が出てきました。アニメを観て泣くなんて生まれて初めてのことだったので、自分でも驚きました。セーラー戦士には星のさだめがあって、常に死と隣り合わせで、残酷な運命を背負いながらも懸命に戦っている。そんなことを思いつつ、彼女たちの抱えるいろんな葛藤を想像すると涙があふれてきて……。色々な感情を学んだ回でした。

――印象に残っているキャラクターも教えてください。

蒼井:衝撃的だったのは、セーラーウラヌスこと天王はるかさんです。うさぎちゃんをはじめとする基本の5人ももちろん素敵ですが、(海王)みちるさんと共に登場したとき、この方たちはなんなのだろう……と心がざわつきました。明らかにうさぎちゃんたちとは異なる雰囲気を醸し出してて、はるかさんは性別すらも曖昧な感じが本当にミステリアスで、そこがたまらなく魅力的でした。演じる緒方恵美さんのお声もすごく格好よくて、この方はすごいぞ、と感じましたね。

蒼井翔太

――他にはどんなキャラクターに心を奪われましたか?

蒼井:これはもういろんなところで言っているのですが、フィッシュ・アイは別格的に大好きです。なんといっても声がかわいい。それと、ターゲットを男性にしていた点が新鮮でした。アマゾン・トリオの他の2人のタイガーズ・アイとホークス・アイは女性を標的としていましたが、フィッシュ・アイは女の子の扮装をして男性を狙いにいく。しかも獲物であるはずのまもちゃんに本気で恋をしてしまう。そんな健気なところも、かわいいなあと感じました。

――演じていたのは石田彰さんですね。そのキュートな美声が当時は話題になりました。

蒼井:ですよね。僕もクレジットを確認して、大きな衝撃を受けました。実は僕は、自分のこの声にずっとコンプレックスを持っていたんです。それでいじめに遭ったり、学校にいけなくなった時期もあって。そんな自分にとって、フィッシュ・アイのかわいらしい声を男性が演じているということは、とても大きな励みというか、ものすごく嬉しかったんです。同時に、声優という仕事をそのときに初めて認識して、今思えばそれが現在の自分につながっている気がするのです。

――それほど思い入れのあるキャラクターを演じることになった経緯をお聞かせください。

蒼井:この役はオーディションを受けていただきました。当日、オーディション用ブースに入ったら、壁一面に登場キャラクターたちのデザイン画が貼られてあり、まるでセーラームーンの博物館状態でした。僕にとっては夢のようで、夢中になって眺めていたら、「蒼井さん、そろそろ始めますよー」とブースの外から声をかけられて、心の準備がっ(笑)

――ファンならどうしても眺め入ってしまいますよね。

蒼井:ガラスを挟んだ向こう側に音響監督はじめスタッフの方々がいらしたのですが、真ん中にひと際すごいオーラを放っている女性がいました。うさぎちゃん役の三石琴乃さんでした。こちらに向かって微笑んでいる三石さんを見た瞬間、肩がぴーんと張ってがちがちに緊張して……。それでも自分の出せるものをすべて出しきり、終了後に「ありがとうございました」と一礼すると、涙がぽろぽろ出てきてしまったんです。

蒼井翔太

――緊張がほどけて?

蒼井:それもありますが、自分の人生で重要な、大切な人物であるフィッシュ・アイのオーディションを受けたんだ、やりきったんだという思いがあふれてきたからだと思います。受かってもいないのに泣くなんておかしいですよね。でも、僕としてはあのオーディションでの体験は本当に大きなものだったんです。

――みごとオーディションに合格してフィッシュ・アイを演じることになるのですが、どのような点を大切にしましたか?

蒼井:僕が大好きだったフィッシュ・アイは、やはり石田彰さんのフィッシュ・アイなんです。だからといって石田さんと同じように演じては、キャラクターに対しても石田さんにも失礼なのではないかと思いました。ただ真似をすればいいというものではない、と。自分に感動を与えてくれた石田彰さんのフィッシュ・アイを大切にしながら、蒼井翔太にしかできないフィッシュ・アイを表現しようと考えました。

――劇場版のフィッシュ・アイは、なんとも妖艶で色気があって、セーラーマーキュリーを誘惑する手練手管にぞくぞくしました。

蒼井:ありがとうございます。なんとかしてマーキュリーを陥れてやろうという思いで演じましたので(笑) フィッシュ・アイも亜美ちゃんも水を司る者同士ですが、亜美ちゃんには水特有の優しさや柔らかさがあるのに対し、フィッシュ・アイの水には怖さや危うさ、引き込まれてしまいそうな得体の知れなさが潜んでいます。彼らの対決には、そんな水の対比がよく現れていますね。全力を尽くして亜美ちゃんを誘(いざな)いましたので、ご期待ください。

――タイガーズ・アイ役の日野聡さん、ホークス・アイ役の豊永利行さんと揃ってキメ台詞を放つ場面、とても素敵でした。収録現場はどのような雰囲気でしたか?

蒼井:幸運にもコロナの前の時期だったので、3人一緒にアフレコをすることができました。テストの段階から「あ、すごくいいチームワークだな」という感覚が生まれて、日野さんと豊永さんとで本当によかったな、と感じました。それぞれが動物から――僕は魚ですけれど――人間に変身した瞬間のテンションの高さと嬉しさ。演じていて胸が躍りました。みんなちょっとギャルっぽい感じで、それがまた合っていて(笑) 休憩中には3人でバーみたいな空間を作って、「あらやだ姉さん」なんて会話をしていました。そこへまこちゃん役の小清水亜美さんが、お客さんのノリで参加してくれたりと、今思うと本当に楽しい、忘れられない現場でした。

――最後にセーラームーンの一ファンとして、今回の劇場版をご覧になった感想をお聞かせください。

蒼井:原作の“デッド・ムーン”編にあたるこの劇場版は、夢というテーマを描いています。これはセーラームーン全体にいえることなのですが、夢を大切にして、覚悟や決意を胸に抱いて諦めずに生きていく。そんな想いが込められているような感じがします。どんなにつらいことが起きても、けっして諦めない。今の自分にできることを精いっぱいやっていったら、きっといつか希望の光が見えてくる。彼女たちの姿から、そんなことを教えられました。こんな状況だからこそ、いっそう、そう感じられたのかもしれません。今の時代にシンクロするメッセージとして心に響きました。

取材:文=皆川ちか
写真=北島 明(SPUTNIK)
衣装制作=山下昇平

この記事で紹介した書籍ほか

ダ・ヴィンチ 2021年2月号

出版社:
KADOKAWA
発売日:
ISBN:
4910059870218