毎週更新! みんなで語る『バック・アロウ』特集⑤――中島かずき(シリーズ構成・脚本)インタビュー【前編】

アニメ

公開日:2021/2/6

バック・アロウ
TVアニメ『バック・アロウ』 TOKYO MXほかにて毎週金曜24:00より放送中 (C)谷口悟朗・中島かずき・ANIPLEX/バック・アロウ製作委員会

 信念が世界を変える! 壁に囲まれた世界リンガリンドに、謎の男バック・アロウが落ちてきた。壁の外から来たというその男をめぐり、リンガリンドの人々が動きはじめる――。『コードギアス 反逆のルルーシュ』を手掛けた谷口悟朗監督、『プロメア』や『キルラキル』の脚本を手掛け劇団新感線の座付き作家としても知られる脚本家・中島かずき、『サクラ大戦』シリーズや『ONE PIECE』の楽曲を手掛ける田中公平が組む、オリジナルTVアニメ作品『バック・アロウ』が放送中だ。

 信念が具現化する巨大メカ・ブライハイトを駆使して、壁の外へ帰ろうとするバック・アロウ。その彼をめぐってリンガリンドの国々は、さまざまな策謀をめぐらしていく。ものすごいテンポ感とともに、壮大な世界が紡がれていく「物語とアニメの快楽」に満ちた、この作品が描こうとしているものは――? オリジナルアニメ作品ならではの「先が読めない面白さ」を伝えるべく、『バック・アロウ』のスタッフ&メインキャストのインタビューを、毎週更新でお届けしていきたい。

 第5回に登場してもらったのは、シリーズ構成と全話脚本を手掛けた、中島かずき。実は、今回の『バック・アロウ』の脚本は2017年に一度全話分脱稿していたという。谷口悟朗監督とタッグを組み、ロボットアニメを作ったことへの想い。そして、信念が具現化してロボットになるという本作ならではのアイデアについて語っていただいた。

「信念」のとらえ方が幅広いほうが面白いだろうな、と思った

――中島さんは過去のインタビューで、自分の仕事は「(演出家からオーダーを受けて執筆する)注文住宅型」だとおっしゃっていました。舞台の演出家からの注文と、今回のようにアニメとして谷口悟朗監督やプロデューサーから受け取る注文は、違いを感じますか。

中島:舞台はやっぱりキャスティングですよね。この原作を書いてほしいとか、このキャスティングで書いてほしいというオーダーが多いです。劇団☆新感線はオリジナル作品ですけど、基本は主役が決まっていて、この主役でどんな作品をやろうか、ということになるわけです。そこが舞台の一番の特徴だと思います。アニメでは「この声優さんで作品を作ってください」という経験は、今のところないですね。『バック・アロウ』に関して言うと、「谷口監督とオリジナル作品を作りませんか」ということで、プロデューサーから話をいただきました。谷口さんの作品は『ガン×ソード』とか、『プラネテス』とか好きなものがけっこうあって、しっかり作品を作る監督さんだなと思ったので、これはやってみようと思ったんです。

advertisement

――じゃあ、今回は「谷口監督と組む」という注文、リクエストから始まった、と。

中島:今回の企画は「人」から始まった感じがあります。そういう意味では、舞台の注文とアニメの注文はあまり変わらないかな。キャストではなく、今回はスタッフだったわけですけど。

――おふたりでどんなお話をして、今回の作品の内容が決まっていったのでしょうか。

中島:かなり早い段階で「ロボットアニメを作ろう」という話が出てきたんです。それも、プロデューサーからの注文だったような気がします。

――谷口監督もさまざまなロボットアニメを手掛けていらっしゃいます。谷口監督のロボットアニメで印象に残っているものはありますか?

中島:ロボットアニメとして谷口さんの作品を観ていたわけではないんですが、たまたま『ガン×ソード』の第1話を観ていたんです。ちょうどあのころ自分は『天元突破グレンラガン』の準備をしていて、TVアニメを積極的に観ようとしていた時期だったんですね。『ガン×ソード』は、銃と剣を並べただけでシンプルなんですがいい響きで「この組合せがあったのか。やられた」と思ってタイトルだけで見始めたんです。だから1話の後半で「これはロボットアニメだったのか」と驚きました。『コードギアス 反逆のルルーシュ』もそうなんだけど、谷口さんの作品は「見せたいもの、伝えたいテーマやシチュエーション」があって、その中のいち要素としてロボットを置く、というそのバランス感覚が良いなと。

――「ロボットアニメ」というと、中島さんも『天元突破グレンラガン』をお書きになっています。また『プロメア』にもロボットが登場します。中島さんにとって「ロボットアニメ」を描く面白さとはどんなところにあるのでしょうか。

中島:ロボットアニメはロボがありきなんです。『プロメア』でも「ロボットを出してほしい」というオーダーが、プロデュースサイドからありました。『プロメア』の人体発火現象が起きている世界観の中でどうやってロボットを出すのか、という話になっていったんです。今回も、わりと初期に「ふたりでやるならロボットアニメだよね」という話があったような気がします。そこで最初に考えたのは「信念が具現化してロボットになったら面白いんじゃないか?」ということでした。

――信念が具現化(機装顕現)して、巨大メカ・ブライハイトになる。そしてその信念の持ち主はブライハイトのパイロットになる。登場人物の「信念」の描き方が、この作品の特徴ですね。信念という言葉は、辞書によると「正しいと考える、自分の考え」と出てきます。あるいは「宗教を信じる気持ち、信仰心」とも。中島さんにとって「信念」とは、どんなものなのでしょうか。

中島:作品の中でも言っていますが「その人の精神支柱だ」ですね。その人がよって立つときに一番頼りにしている言葉、みたいなことですね。「これが私の生き方だ」と。『バック・アロウ』では、ブライハイトに乗るまではパイロットも自分の信念がわからない。乗ってみて初めて、自分の信念に気が付く、ということになっていて。ブライハイトに機装顕現して「ああ、私の信念ってこういうことだったんだ!」とわかる設定になっているんです。

――信念について考えるときは、ブライハイトのビジュアルと一緒に打ち合わせをされていたんですか?

中島:脚本打合せの際は言葉だけです。天神英貴さんによってビジュアル化されたのは、ずいぶんあとでした。本打ちでは「どういう信念があるんだろう」という話になって。「俺は強い」とか「清潔が好き」とか。「二度寝をする」とか、「こたつが大好き」とか。そういった信念のアイデアを出していったんです。

――「二度寝をする」……。そんなアイデアが出てくる現場は楽しそうですね。

中島:もしかして、酒を飲んでゲラゲラ笑いながら、与太話を飛ばし合う、そんな現場を想像してますか(笑)? いや、そんなことは一切ありませんよ。ちゃんと打ち合わせの場で、シラフでこういう話をしていたんです(笑)。 

――すみません。でも、それくらい幅の広い「信念」を考えていらしたんですね?

中島:「信念」のとらえ方が幅広いほうが面白いだろうな、と思ったんです。第1話でアタリー・アリエルがブライハイトに乗ったときに、信念が「とりあえずやり過ごす」であることがわかるんです。「とりあえずやり過ごす」って一見ネガティブな言葉に聞こえるけれど、視点を変えればポジティブに捉えられる。

――そうですね。アタリーは「とりあえずやり過ごす信念力」で、敵のブライハイトの攻撃を無効化していきます。

中島:「それが信念かよ」と思えるようなものが、戦いやドラマの中でちゃんと機能していく。作劇上、そういう見せ方ができそうだなと思ったんです。第1話では「天下無双」を信念とするカイ・ロウダンのブライハイト・ギガンが出てきて、アタリーの「とりあえずやり過ごす」という信念のブライハイトが出てくる。この作品は、これくらいの幅があるんだと示したいなと思っていました。

――この作品で描かれる信念は、かなり大きなものになりそうですね。

中島:ちなみに、信念には「宗教を信じる気持ち、信仰心」という話がありましたが、僕が一番好きな宗教は、いしいひさいちさんの四コマに出てきた「借金かえしちゃいけない教」です(笑)。ヤクザに借金を返せと言われても、宗教の教えで返せないってやつですね。まあ、余談ですけど。

バック・アロウ

バック・アロウ

バック・アロウ

バック・アロウ

バック・アロウが表の主人公なら、シュウ・ビは裏の主人公

――中島かずきさんが『バック・アロウ』の脚本を脱稿されたのは2017年と伺いました。2021年のオンエアまでのタイムラグで印象が変わったことはありましたか。

中島:『プロメア』や『髑髏城の七人』よりも前に書いていましたね。ただし、映像化まで時間が空いたとはいえ、『BNA ビー・エヌ・エー』(2020年4月放送の中島かずきシリーズ構成作品)のような、今の世界をシチュエーションにした作品だったら、もっと影響が出たかもしれません。特に、この3年のズレは大きかったと思うんですね。幸い『バック・アロウ』は場所も時間も現代とはつながっていない架空の世界ですので、比較的影響が少なくて済んだかなと思います。偶然とはいえ、そんな設定にしておいて助かりました。純粋に物語の世界を作っていけたし、時代の変化による齟齬はなかったと思っています。

――中島さんの作風の中でも、時代に合わせて変化していく作品と、時代の変化が影響しない作品があるということですね。『バック・アロウ』は壁に囲まれた世界リンガリンドを舞台とするストーリー。いわば異世界の物語となりますが。

中島:脱稿からオンエアまで3年の時間が経っても、脚本上での影響は大きくなかったですね。しいていえば、想定外のだったのは『進撃の巨人 Final Season』と放送時期がかぶってしまって、梶(裕貴)くん(バック・アロウ役、『進撃の巨人』では主人公エレン役)が壁から出たり、入ったりして、どっちだよ! という状況になっていることぐらいですね(笑)。

――完成した映像をご覧になって、ご感想はいかがでしたか。

中島:脚本を書いたときに、(1話の分量として)長いんじゃないかと思ったんです。それはアニメーション制作をしてくれたスタジオヴォルンの三田(圭志)社長も「カットしようにも余分なところがない、でも本当にこれが1話に全部収まるんですかね」とふたりで話をしたことがあったんです。ところが、実際に絵コンテになってみたら、過不足なく脚本が入っているんです。谷口監督の情報の整理の仕方と、それをエンタテインメントに仕立てる力がさすがだなと思いました。「あ、これを残してくれるんだ」というネタもしっかりと入れてくださって。

――絵コンテをご覧になって中島さんが修正しているのでしょうか。

中島:今回はほぼないですね。最初のうちにシュウ・ビのセリフは独特なので、修正させていただいたところはありました。ただ、実際に絵コンテ作業に入ってから、ボリューム感の調整やラストの展開など直したい部分も出てきたので、去年、後半三分の一くらいの話数はコンテに入る前に脚本を手直ししています。

――シュウ・ビは、カイ・ロウダンとともに裸一貫からレッカ凱帝国でなり上がったという過去を持っている。そんな彼がカイを置いて、レッカ凱帝国から、グランエッジャへ投降します。このふたりの掛け合いがとても印象的ですね。

中島:今回、バック・アロウ役の梶裕貴くんとシュウ・ビ役の杉田智和さんが、とにかく上手いんです。アロウは記憶もなく、信念もないキャラクターなので、中身がない。中身がなくても、梶くんの声の「主役力」によって主人公が成立しているところがあります。杉田さんは頭が良いクセ者感を、僕が想定していたものとは違う方向性の芝居で成り立たせてくれていて、それがまた面白くなっている。「ああ、そう来たか、でもそれでOK!」というところがたくさんあって、収録も面白かったですね。

――役者さんが予想以上のお芝居をされていたんですね。

中島;実は脚本を書いているときは、アロウやシュウはもうちょっと年齢感が上のイメージだったんです。キャラクターの絵があがってきたら、年齢感が若くて、明るいイメージがあった。そのときオーディションで梶くんが来ていたので、「梶くんが良いんじゃないの?」と思ったんです。そうしたら、見事にその若い感じをしっかりと合わせてくれたんです。

――この記事が載るころは第5話までがオンエアされています。第5話以降をどのように楽しんでほしいとお考えですか。

中島:第5話までは予定調和的に見えたかもしれないけど、今回の『バック・アロウ』は第5話でセットアップが終わるんです。個人的には、アロウが表の主人公なら、シュウは裏の主人公。このふたりの物語がここから動いていきます。ぜひ、第5話以降の人間関係を見てほしいなと思います。

後編へ続く(2月12日配信予定です)

TVアニメ『バック・アロウ』公式サイト

取材・文=志田英邦

中島かずき(なかしま・かずき)
劇作家・脚本家・小説家。福岡県出身。劇団☆新感線の座付作家として活動。2003年に『アテルイ』で第2回朝日舞台芸術賞・秋元松代賞、第47回岸田國士戯曲賞を受賞。アニメ作品では『天元突破グレンラガン』『プロメア』などを手掛ける。2021年は劇団☆新感線 41周年春興行 Yellow 新感線『月影花之丞大逆転』を予定。