毎週更新! みんなで語る『バック・アロウ』特集⑥――シュウ・ビ役・杉田智和インタビュー

アニメ

公開日:2021/2/20

バック・アロウ
TVアニメ『バック・アロウ』 TOKYO MXほかにて毎週金曜24:00より放送中 (C)谷口悟朗・中島かずき・ANIPLEX/バック・アロウ製作委員会

 信念が世界を変える! 壁に囲まれた世界リンガリンドに、謎の男バック・アロウが落ちてきた。壁の外から来たというその男をめぐり、リンガリンドの人々が動きはじめる――。『コードギアス 反逆のルルーシュ』を手掛けた谷口悟朗監督、『プロメア』や『キルラキル』の脚本を手掛け劇団☆新感線の座付き作家としても知られる脚本家・中島かずき、『サクラ大戦』シリーズや『ONE PIECE』の楽曲を手掛ける田中公平が組む、オリジナルTVアニメ作品『バック・アロウ』が、いよいよオンエアを開始した。

 信念が具現化する巨大メカ・ブライハイトを駆使して、壁の外へ帰ろうとするバック・アロウ。その彼をめぐってリンガリンドの国々は、さまざまな策謀をめぐらしていく。ものすごいテンポ感とともに、壮大な世界が紡がれていく「物語とアニメの快楽」に満ちた、この作品が描こうとしているものは――? オリジナルアニメ作品ならではの「先が読めない面白さ」を伝えるべく、『バック・アロウ』のスタッフ&メインキャストのインタビューを、毎週更新でお届けしていきたい。

 第6回に登場してもらったのは、天命宮大長官を務めるレッカ凱帝国の軍師的存在(だった)、シュウ・ビ役の杉田智和。知識欲と行動力が旺盛で、周囲のキャラクターを翻弄することも多いエキセントリックな彼を、どのように演じたのか。作品に対する想いと合わせて、たっぷりと語ってもらった。

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憧れの念や経験が全部、この『バック・アロウ』に活きた

――谷口悟朗監督作品にはどのような印象をお持ちでしょうか。

杉田:「自分にとっての谷口悟朗監督作品はどこからなのか」という問いに対して、僕は『無限のリヴァイアス』『スクライド』『プラネテス』を挙げますね。作品としては『プラネテス』が特に好きで、人に薦めるならこの作品です。『ガン×ソード』は、難しいことを考えずに毎週びっくりしたほうが楽しい物語だけど、主人公だけは常に殺伐としている。それが逆に魅力に映っていると思います。『バック・アロウ』は、『ガン×ソード』のテイストに近いかもしれませんね。

――中島かずきさん脚本作品への印象はいかがでしょうか。

杉田:脚本の中島かずき先生は、特撮の分野でもかなり有名な方ですし、『天元突破グレンラガン』と『キルラキル』の印象も強いですね。今までアニメという形で中島さん脚本の作品には関わったことがなかったのですが、舞台演出が印象的。言葉をボールにしているイメージがあります。キャラクター同士が交わす言葉のキャッチボールが、とにかく気持ち良くてしょうがないですね。様々な層を許容するところ、温かさを感じるのは、中島さんの脚本ならではだな、って思います。

――満を持しての谷口監督、中島さん脚本の作品に初出演とのことで。

杉田:これまで抱いていた憧れの念や経験が全部、今のこの『バック・アロウ』に活きたなって思います。本当に嬉しいですし、幸せです。こういうことは、普通は言わないんです。「お客さんの心理は鍵付きロッカーにしまえ」という持論があるので。それをしないと公平な判断が下せないと思うんですが、『バック・アロウ』に関してはそんなことはなかったです。いつものように自分を厳しく律していたら、この作品に向かう自分じゃないなと。楽しいと思う気持ちを忘れたら駄目だなと思っています。本作に関しては、思考レベルを落としていったほうが面白いと思います。下げるのであれば、極限まで下げたほうがいいです(笑)。

――難しいことは考えないほうが楽しめると。『バック・アロウ』はオリジナルアニメ作品ですが、本作の全体的な印象を教えて下さい。

杉田:演じきったあと、自分が楽しむ側に戻ってアニメを観たら、30分がとても早くて。子どもの頃に感じた、好きなアニメを観てワクワクする感覚が蘇りましたね。もちろん他作品が退屈というわけではなくそれぞれ魅力がありますけど、その中でも『バック・アロウ』は楽しさゆえに時間の進みが爆速で。それはすごく印象的です。

――たしかに。お話自体もわかりやすく進むので観ていて本当にあっという間でした。

杉田:あとは谷口監督の演出でしょうね。話が進むごとにOPとEDの絵に変化が出るところとか。個人的に好きだったOPの演出は、最初はシルエットしか出ていなかったキャラクターが、物語に出てきたら姿が明かされるところ。「それ、谷口監督のやつだ!」ってなりますよね。

――レッカ凱帝国の軍師的存在のシュウを演じられておりますが、彼の印象はいかがでしょうか。

杉田:シュウでオーディションの話が来たときに「綺麗な男だ……受けよう!」と思ったのが第一印象です。キャラクターの中では比較的モノを考える方ではありますけど、他の人たちに同じことを求めないんですよね。「君らは愚かで頭が悪いから、もっと思考したほうがいいよ」とは言わない。不条理や矛盾を突きつけられやすい今において、シュウのような考えの奴って異端扱いされがちですけど、そのかわし方も上手い人だな、と思いました。

――演じる上で意識されたことをお聞かせください。

杉田:シュウは顔は笑っているけど、頭の中では全然違うことを考えてるように見える。そういう部分はお芝居の中にも盛り込んでいます。自然に出たことを信じようという場面も意図的に作ってみたりもしてまして、シュウがリアクションをして口をぱっと開けたときに、テストで「ほっ!」って言ったんです。そこを自分で気に入って、本番も「ほっ」て言ったら、そのままオンエアに乗りましたね。あとは、彼を演じるにあたって情報をたくさん集めたり、勉強もしました。「なんで諸葛孔明は手に羽扇みたいのを持ってたのかな?」とか無駄に調べたりしましたけど、そこはあんまり意味なかったです(笑)。

――羽扇に意味はなかったんですね。

杉田:趣味だったらしいですよ。あとは貿易で手にしたものが多いとか、面白い解釈をたくさん知れました。だから、シュウについては、自分自身の人生に照らし合わせながらどうやって彼と向き合っていくかを考えました。考えた結果、僕は「騙されて楽しい」でしたね。騙されることって普通なら駄目なことですけど、作品とシュウにだったらありだなと。人って騙されたら基本憤慨するんですけど、作中でシュウの仕掛けるモノに驚かされるのは、とても気持ちがいいものなんですよ。良い意味でキャラクターに驚かされ続けるのは楽しくて、僕自身もそれを難しく考えることはせずに楽しんでいます。

 あと、自分の人生において「言い訳」がひとつのテーマでして。ここで面白いことが言えなかったら、不良は僕を殴るだろうなってなったときに言い訳をするんです。知恵を利かせて何か面白いことを言ったり、格闘ゲームのキャラクターの声真似をすると、ゲーセンにいる不良って笑うんですよ。結果、僕は殴られることを回避できる。僕の人生、そういうやり取りの繰り返しだったなって。でも、シュウは殴られるどころか、死が隣り合わせにある幼少期を過ごしてる。そのときから生きていくための言い訳といいますか、処世術が自然に身についているんだなと思って。

――杉田さんのテーマとシュウの処世術、通ずるものを感じますね。

杉田:シュウの言い訳は楽しいですよ。でも、「ちょっと失敗したのをごまかしてるだろう、お前!」ということもあったり(笑)。そんな失敗をごまかす場面というか、自分でも追いつけない、理解の範疇を超えているものがこれから出てくると思うんですけど……すでにアロウという存在がなんなんだろうという感じですが。今の時点ではこう言ってるけど、後々変わるかもしれない。そういう部分も全話を通して観てほしいです。

――ちなみに、シュウでオーディション受けられたとのことでしたが、シュウ以外も演じられたんでしょうか?

杉田:カイは録ってみたけど提出はしなかったのかな。不思議とシュウに歩み寄るのは、オーディションの段階からけっこう気持ちが良くて、他がまったく見えなかったんですよね。決まったら決まったで、誰よりも全体を見渡さないと、みんなに面白いドッキリを仕掛けられないなって思って。サプライズって、仕掛けてる側だけが楽しかったら面白くないですし、そうなったらおしまいですから。全体を見渡すような役柄ということもあって、谷口監督や中島さんから台本とは別で「密書」と呼んでいる秘密の資料を頂きました。

――密書には何が書かれているんでしょうか。

杉田:密書には、シュウには知っていてほしい情報、この先の展開が書かれていました。演じる側も新鮮に驚いてほしいから、自分の中でしまっておこうと思って、誰にも言わなかったんですよ。僕は先に展開を知ってましたけど、それはそれで芝居にすごく役立ちました。

――密書でこの先の展開を知った杉田さんの中で注目のキャラクターは?

杉田:重要人物は誰かと挙げたら、ビットの動きを見ててほしいですね。視聴者の心理に一番近いのが彼ですので。成長していくのを横に立って盛り立てていく係がシュウになるのかな。

――ビットとシュウ、意外な組み合わせに見えますね。

杉田:シュウは自分で「僕、天才だから」って言うけど、まさにその通りの人。その天才が脅かされたり、逆に驚かされる側になることがある。それがアロウで、彼のことが本当に面白くて仕方ないんですよね。対象的なのがビットで、かといって見下したりバカにすることはしない。逆に庶民であることがとてつもない個性と財産で、興味の抱き方がアロウとは別のベクトルで気になる存在なのかなと。

 ビットに関しては、6話からに注目ですね。シュウがビットのことを大元帥様と声を掛けて、とにかく彼を持ち上げてやる気を引き出していく。それに彼も答えてくれて。普通だったら相性は最悪だろうなって思うんですけど、そんなことはなく面白い関係だなって思います。

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取材で最後にメッセージを聞かれるといつも迷いますが、本作に関しては簡単。僕はシュウ・ビと『バック・アロウ』が、心の底から大好き

――シュウといえば、旧友のカイも気になるところですが、演じられてる方が置鮎龍太郎さんで、大ベテランの方ですね。

杉田:カイは置鮎さんで目上の方ですが、同じ目線、同列の目線でモノを考えなければいけない。普通だったら少し焦るけれど、『バック・アロウ』に関しては自然に、逆に状況を楽しもうと思いました。プレッシャーや緊張がなくて、「今週も収録おもしろかったなー!」ってだんだんと語彙力が低下していくんです。本編であれだけ難しいことを何行もしゃべってるのに(笑)。

――他に気になるキャラクターはいますか?

杉田:エッジャ村の村長のバークでしょうか。彼からすれば危機的状況に陥ったとき、普通は混乱して何も言えなくなるなって思って。そこはちょっと観てほしいです。庶民代表はビットですけど、彼は若くて未来があるので。自分が中年から老人に差し掛かってくると、バークさんの言葉が割と心に来るものがあるというか、同じ立場に立ったら同じことをきっと言うなって思いましたね。空から降ってきたアロウを見たらそりゃあ怖いよなと。あとは小清水さん(フィーネ役:小清水亜美さん)のところ!

――小清水さん演じるフィーネは、リュート卿和国におりますね。

杉田:小清水さんは谷口監督や中島さんの脚本と相性がいいんでしょうね、持っている感性や爆発力みたいなものが。力はすごいんだけど、自分にもお釣りが帰ってくる、そしてダメージを生む。それが出来る人っていそうでいないので、だからこそあの世界観に合っているんだろうなと。あと、彼女が出演している『コードギアス 反逆のルルーシュ』がゲーム『スーパーロボット大戦』に出たときに、やたらとこのゲームに登場する他作品のキャラクターと絡んでいて、改めて相性抜群なんだなと思って(笑)。『バック・アロウ』もぜひ『スーパーロボット大戦』に殴り込んで頂きたいです。

――ブライハイトもありますし、出られそうな予感がありますね!

杉田:中島さん脚本の『グレンラガン』も出てますし。何個か自分の中で野望があって、シュウが自分のブライハイトを手に入れて、アロウと合体するパターンとか。あとはシュウが新しい戦艦になって……でもエルシャがいるからどうしよう。戦艦の後ろにくっつけられないかな(笑)。

――そういえば、シュウの信念が気になりますね。

杉田:それはアニメ全話を通して、ぜひ皆さんに考えてほしいなと。僕は谷口監督や中島さんに、彼の信念はあえて聞かなかったんです。シュウと一緒に驚きたいから。知ったときに「やった! めっちゃ楽しい!」って、また語彙力が低下するという。もうそれでいいんです、難しく考えなくても許されるんですから。

――キャストさんのお話がちらっと出てきましたが、本連載記事ではこれまでのキャストさん方から杉田さんの演技が印象的だと言及されてますね。

杉田:彼ら、彼女たちから飛んできたボールのおかげでシュウのサプライズがより華やかなものになりました。感謝しきれません。

――そんな杉田さんが、「この方、いい芝居をしているな」と思ったキャストさんを挙げるとしたらどなたでしょうか。

杉田:少年時代のシュウを演じた上田麗奈さんでしょうか。上田さんは僕の芝居をわざわざデータで取り寄せて、聴き込んで研究してくださって。しゃべり方から何からすごく寄せてきて、シュウの子ども時代を演じたのが彼女で、本当に幸せです。軽く好きになりかけて、もっとこの子のことを知りたいと言ったら「杉田を上田に近づけるな!」と言われたりもして(笑)。それに対して潘ちゃん(レン役:潘めぐみ)がむちゃくちゃ怒って、「なんなんですか! 杉田さんには、シュウにはカイがいるでしょう!」って、「わぁ、カップリング厨だ! 逃げろ!」と(笑)。そんな笑い話もありましたけど、ここは潘ちゃんにします。レンは、力はあるけれどシュウの発言を素直に受け取る、いじってなんぼなキャラクター。潘ちゃんもレンと同じように「どうしてなんですか?」って言ってきますし、これはナイスキャスティングだな、面白いなって思いますね。本人に言うと喜んじゃうから黙っていてください(笑)。

――物語の舞台となる壁に囲まれた世界・リンガリンドや、信念が具現化してブライハイトになるという世界観で、気になったことをお聞かせください。

杉田:空からラクホウが降ってきて天の贈り物と言ってるけれど、都合のいい解釈でそういうことにしているのか。正体はわからないけれども、空から降ってくるサプライズをこぞってみんな求めるなぁって思いました。あとは、農業をやったことがある身からすると、エッジャ村は悪い土と痩せた畑で作る作物だけじゃ足りないだろうし、毎日どうしてるんだよ!って。あと、アタリーはあのスタイルを維持できるのかという……。

――色々考えると、気になることはたくさんありますね。

杉田:何かしらの仕掛けとして『バック・アロウ』に対して思う疑問点に対して、「何故なんだろう?」と思うのは、すでに作品を楽しめているんですよね。考えることをやめようとか、考えなくてもいいって言っていたけども、考えるんだったら極端に考えたほうがむしろ楽しい。そんなに浅いものではないですし、そういう風にも対応している作品ですので。

――今後の展開で楽しみにしていることを教えて下さい。

杉田:TVアニメをすべて録り終えて『バック・アロウ』は終わり、ではないと思うんですね。見てください、どこぞの『コードギアス』の主役を。異世界、いくつ行ったよ(笑)! いろんな未来を考えられますし、とにかく他作品との絡みも楽しみです。あと、今後の放送に出てくる各話のゲストは見てほしいな。6話のゲストは子安武人さんで、とにかく来てほしい人がもう6話にして投入されるという。「なんだ、この贅沢は! やったー!」という(笑)。縁深い人がどんどん出てくるので、放送が楽しみですね。

――では、『バック・アロウ』の今後を楽しみにされている方にメッセージをお願いします。

杉田:取材で最後にメッセージを聞かれるといつも迷いますが、本作に関しては簡単です。僕はシュウ・ビと『バック・アロウ』が心の底から大好きです。みんなも楽しい『バック・アロウ』を観ようぜ! こんなに簡単な言葉で人に勧めることはあまりしないのですが、皆さんいかがでしょうか? 宜しくお願いします。

――ありがとうございます。次回のキャストインタビューは、小清水亜美さんが登場します。先ほど、小清水さんについて語って頂きましたが、今一度メッセージをお聞かせください。

杉田:いい芝居をする小清水亜美さんを「湧いてる湧いてる、いい小清水湧いてる!」という言葉で表現するのですが……本作でもガンガンにいい小清水が湧いていたので、エキサイトしました。これからも身体と心を壊さない程度に、小清水亜美さんでいてください。

『バック・アロウ』特集 第7回(谷口悟朗監督インタビュー)は2月26日配信予定です。

TVアニメ『バック・アロウ』公式サイト

取材・文=永野鈴夏