『がんばってるのになぜ僕らは豊かになれないのか』井上純一インタビュー!

コミックエッセイ

公開日:2021/3/13

『がんばってるのになぜ僕らは豊かになれないのか』書影

『がんばってるのになぜ僕らは豊かになれないのか』
井上純一 KADOKAWA 1100円(税別)
働く人足りないならなぜ給料上がらない? 銀行の金利はなぜ安い? 中国人妻の月(ゆえ)さんが感じている身近な経済の疑問について夫である作者がわかりやすく解説。笑って読めて役に立ち人に教えたくなる経済マンガ。

 コロナ禍で休廃業や失業者が急増しているにもかかわらず、政府は国民を支援するお金を出し渋って緊縮財政を続けている。

 なぜ日本はこんなにも弱者に冷たい国になってしまったのか? どうすれば私たちは豊かになれるのか? 新刊『がんばってるのになぜ僕らは豊かになれないのか』で、身近なお金や経済の疑問に答えて、希望ある未来のヒントを描いた井上純一さんに話を聞いた。

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政府と日銀は親子と同じ 国の借金はないのも同然

『がんばってるのになぜ僕らは豊かになれないのか』コマ

 新型コロナウイルスの影響で失業者が急増している。ところが政府は10万円再給付の国民の要望をあっさり退けた(2021年1月時点)。

 私たち日本人がいつまでも豊かになれないのは、こうした国の緊縮財政に原因があると井上純一さんは「キミのお金はどこに消えるのか」シリーズで伝えてきた。新刊『がんばってるのになぜ僕らは豊かになれないのか』ではさらに一歩踏み込んだ内容で、今こそ知っておくべきお金の常識をわかりやすく描いている。

「新型コロナのパンデミックで、先進国の大半が国民への給付金や休業補償などの財政支出を拡大しました。IMF(国際通貨基金)も今はお金を使えと世界中に呼びかけています。そんな中、国の借金を言い訳に緊縮財政を続けているのは日本だけ。でも政府と日銀は同じ家計でやりくりしている親子のようなものですから、自国通貨建ての国債では財政は破綻しないんです。これは財務省も公式ホームページで説明している紛れもない事実です。それよりも、私たちが注目すべきは物価です。経済が回りはじめると物価が上がりますが、今は下がっています。これは、国が使うお金(国債)がまったく足りていないということ。税金も下げて消費を増やさないといけない状況なのです」

『がんばってるのになぜ僕らは豊かになれないのか』コマ

 しかし、“国の借金を減らすためには増税が必要”と述べる政治家は多い。その言葉を信じて、「子孫に莫大な借金を残したら大変だ!」と不安を煽られている人が大半だろう。メディアやテレビなどのマスコミも、国債の発行に頼らず国民の税収などによって赤字財政の黒字化を目指すいわゆるプライマリーバランス(PB)論を前提にした情報ばかり発信している。

 そんな状況のまま30年間もデフレ・低インフレが続いている今の日本で、私たちが豊かになるため自分たちにできることはないのだろうか?

「それはやっぱり選挙で減税や財政支出拡大を公約にしている候補者に投票することです。直接的にはそれぐらいしかできませんが、日本が借金大国だという間違った思い込みを捨てて、国がもっとお金を使わなければ経済状況はますます悪化すると理解することが大事なんです。そのため新刊のマンガでは、僕の妻の月さんがおかしいと感じている身近なお金や経済の疑問に答えるかたちで、問題解決の糸口をわかりやすく描きました」

 月さんの質問はたとえば、「日本、保育士足りないなら給料上がるデショ。働く人足りないなら給料上がる当然。なんでそうならナイ?」「銀行は経営苦しなら預金の金利上げればイイジャナイ!! 金利が低いからみんなお金あずけマセンヨ!!」「なんで日本は30年近く低インフレ~デフレが続いてるのに消費増税しましタカ!?」といったもの。

 そのどれもが、普段、「なんかおかしい」「なぜ変わらないんだろう?」と思いながら何もできずにいる私たちが、我慢したり、あきらめてしまっている問題ばかりだ。

「保育士の給料は民間保育所に限った問題で年収平均は342万円程度しかありません。ところが、公立保育所の保育士は公務員と同じ扱いなので、ほぼ2倍の682万円程度(2017年度練馬区実績)あるんです。ですから解決策は簡単で、民間の保育士も公務員の保育士と同じ給料に上げれば保育士不足は解消するでしょう」

『がんばってるのになぜ僕らは豊かになれないのか』コマ

公務員の数を増やして給料を上げれば経済が回る

 しかし現実に目を向けると、“税金の無駄使いだから公務員はもっと減らせ”“公務員の給料はもっと下げるべきだ”といった世論も根強い。この公務員バッシングのような考え方が、結局は国民全員の生活を苦しめている遠因になっているという。

「コロナ禍で公務員のボーナスが下がって大喜びしている人がいますけど、公務員の給料やボーナスが減ったら会社勤めの人の給料も減ります。国の真似をして民間企業も人件費を減らします。それは逆効果なので、公務員の報酬は上げてもらって、会社員の給料もそれと同じくらい上げろ! って言わなきゃダメなんですよ。公務員の数も増やしてその人たちの消費量が増えれば、経済を回すことにもつながります。それと、公務員の年収が上がれば優秀な人材が集まります。公務員の質が上がると、僕たちが受けられる公共サービスの質も上がるので、結局は国民が得するんです」

 実際は、生活困窮者の支援に自治体の対応が追いついていない。経済は縮小するばかりで、物価が下がり、給料が下がり、少子化が進んで格差は広がるばかりだ。

「国をそこまで緊縮財政に走らせているのは、国民なんですよ。まず国民の意識が変わらなければこの国は変わりません。本来であれば、財政支出を拡大している他の先進国に逆行する日本政府に対して、マスメディアや経済学者が真っ先に反発すべきなのにそれさえもない。だから、僕たちが豊かになれないのは政府を変えようとしない自分たち自身の問題なんだよ、ということをこの本で伝えて希望の未来を見せたかったんですよね」

 月さんとの丁々発止のやりとりを楽しみながら正しいお金の知識を学んだら、次は行動を起こすべし。未来を考え、未来を変えるために、選挙に行くのはもちろん、身近な人と語り合ったりSNSで発信するなどして声をあげていくことが大事なのだ。

取材・文=樺山美夏 (c)井上純一/KADOKAWA

井上純一(いのうえ・じゅんいち)●「希有馬」名も持つ。TRPGデザイナー。マンガ家。玩具会社「銀十字社」代表取締役。代表作には「スタンダードRPG」シリーズの『アルシャードセイヴァーRPG』『エンゼルギア天使大戦TRPG』『天羅万象』ほか。著作に『中国嫁日記』『中国工場の琴音ちゃん』など多数。

本書を読めば身近なお金&経済の問題がわかる!

Q1 なぜ日本の銀行の利子は低いの?

『がんばってるのになぜ僕らは豊かになれないのか』コマ
銀行にとって預金は借金。銀行のメイン業務はお金を貸すことだが、不景気だとそもそも借りる人がいないので預金してほしくないのだ。

Q2 なぜ買い占めは起こるの?

『がんばってるのになぜ僕らは豊かになれないのか』コマ
手に入らない「かも」と皆が思うと買い占めが起こる。重要なのは「かも」を起こさせないように物と情報を上手く世間に流すこと。

Q3 なぜ財政支出が増えても超インフレにならないの?

『がんばってるのになぜ僕らは豊かになれないのか』コマ
国が作るお金は民間に対する借用書と同じ。増税しても集めたお金は消滅するだけ。デフレのときはお金を作り続けなければ経済は回らない。

マンガの続きは本書で!

前シリーズにも注目!

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