WEBまんがを楽しみながら、ゆるく宇宙を学んでいく! LINEスタンプ「ごきげんぱんだ」でお馴染みのにしむらゆうじさんインタビュー

アニメ

公開日:2021/4/7

「ごきげんぱんだ」「こねずみ」などLINEスタンプも大人気のクリエイターにしむらゆうじさん原作の『宇宙なんちゃらこてつくん』が、NHK Eテレでアニメ化決定! 俳優ムロツヨシさんもナレーションとDAXAというキャラクターの声優を務める本作ですが、4月7日(水)からの放送を前に、にしむらゆうじさんご本人にインタビューを決行! 制作秘話をうかがいました。

《インタビュー》
ムロツヨシ「山田孝之みたいに生きたい、星野源みたいに歌いたい、と思ったって僕には無理」アニメを観た「子どもたちに『ムロさんが出てる!』と言われたい」

――アニマル国の宇宙アカデミーに通うこてつくんが、宇宙飛行士をめざす学園まんが『宇宙なんちゃらこてつくん』。描き始めたのはやはり、宇宙にご興味があったからなのでしょうか?

にしむらゆうじ(以下、にしむら) 実はあんまりでした(笑)。最初に、2019年で月面着陸50周年だから宇宙ネタで描いてみませんか? というオファーを頂いて。僕自身は、興味がないわけじゃないけど、人並みっていうか、テーマとして突っ込んでなにかをつくろう、と思うほどではなかった。でも、せっかくの機会ですし、知らない分野に挑戦することで、知識や表現の幅も広がるんじゃないかと思って、描き始めました。

――にしむらさんは、LINEスタンプのイメージも強いですけど、ご自身のブログやTwitterでもまんがを描いて発信していらっしゃいますよね。

にしむら そうですね。あとは日清食品さんの日清カップスープの公式キャラクターを描かせてもらって、連載もさせていただいたり、少しずつまんがの仕事が増えてきていて。やったことのない仕事にもどんどん挑戦していきたい、と思っていたころでもありました。

――未知の分野で連載を開始して、約1年半でアニメ化決定はすごいです。

にしむら 率直な感想としては、「はやいな!」と(笑)。もともとアニメ化できるようなコンテンツを、というお話ではあったんです。でも、そう簡単に実現するものじゃないだろうから、今年がだめでも来年かなあ、くらいの気持ちでいて。それが、原作もまだ40話ちょっとしかないのに決まってしまって、うれしい反面、大丈夫なんだろうかとちょっとそわそわしています。アニメでは原作にない宇宙雑学もちょいちょい入れていくみたいなので、放送開始までには、もうちょっと勉強しておかなきゃな、と(笑)。

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――でも、WEBまんがにも、ところどころ宇宙の小ネタが入っていて、「へえ~!」と思わされることが多いです。しかもそのどれもが、物語を邪魔しない。あくまで、「こてつくん」と仲間たちの学園ドラマとして楽しめるのがいいな、と。

にしむら それなら、よかったです。知識を入れることばかり考えすぎるとカタくなっちゃうので、それよりはまずキャラクターマンガとして楽しんでもらえるものを、と思っているので。そもそも、宇宙にまつわる本って、どんなにわかりやすさをうたっているものでも、難しいんですよ。一言で伝えられる話って、基本的にはあまりない。あるとしたら、それなりの予備知識をもっていることが前提となっている。

――たしかに……。宇宙は無重力、といわれても、それがどういうことなのか、具体的に聞かれるとよくわからないですよね。

にしむら 人が浮く、っていうのは、みんなイメージしやすいと思うし、水をこぼすと玉になってぷかぷか浮かぶっていうのも、よく聞きますよね。でもそれ以外は何が起きるのか? っていうのは、少なくとも僕は考えたことがなかった。だから、あんまり表現されない方法……「きざみ海苔をごはんにふりかけたらどうなる?」というような、できるだけ日常とリンクしやすいシチュエーションで描くようにしています。

第19話「のり」

――「おたま」というキャラクターが、宇宙ステーションで食べてもらえる「なつかしのたけのこごはん」を考えるところですね。きざみ海苔をかけたら、無重力空間では散らばっちゃう。だからごはんにまぜたほうがいい、という流れには、なるほどと思いました。

にしむら エピソードの主軸は、あくまで、料理に一生懸命なおたまがメニュー開発にいそしむ、というところ。炭酸入浴剤でロケットをつくれるよ、という小ネタも、文化祭のだしものという前提があるから描けるわけで、どの小ネタも、物語を邪魔しないように演出のしかたを考えています。その点、「月に行ってきた」と嘘をついて客寄せしているお店のエピソードは、描きやすかったです。嘘を見破るために、こてつたちが宇宙ネタを披露するだけでよかったので(笑)。

第29話「ほんと?」

――にしむらさんご自身が、調べていて「へえ~!」と思ったことはありますか?

にしむら つくばにあるJAXAの施設を取材させていただいたとき、『宇宙兄弟』の映画撮影が実際に行われた場所と聞いて、「へえ~!」って思いました(笑)。あとは、宇宙飛行士になるために、制限時間内に図形を言葉だけで伝える訓練をするというのも、おもしろかったです。それを聞いた相手は、正しく描けるのか? っていう、ちょっとゲームみたいな感じですね。ちなみに僕は全然、できませんでした(笑)。絵も文字もない真っ白なジグソーパズルを組み立てる、というのはマンガで描きましたけど、それも実際にやるらしいです。

「もっともっとゆるくできるぞ、がんばれ自分、と思ってます(笑)」

――そもそも、アニマル国の宇宙アカデミーという設定は、どこから生まれたのでしょう?

にしむら どうすれば楽しく、現実的に宇宙と関わっていくお話がつくれるかな、というところからですかね。アニマル国にしたのは、単純に、僕があまり人間を描かないから(笑)。あと、人間が宇宙をめざす話は、それこそ『宇宙兄弟』をはじめ、たくさんあるので。動物だけにしちゃうのがいいんじゃないか、と。

――にしむらさんの描くキャラクターは、どれも、ゆるさと一生懸命さが同居していてかわいいですよね。おじいちゃんから「将来、宇宙飛行士になるんだぞ」と言われたのをきっかけに、ひたむきにがんばる「こてつくん」と、仲間たちの青春模様を読んでいるだけで癒されます。

にしむら せっかく学校を舞台にしたんだから、いろんな性格のキャラクターを出したいな、と思って描いています。でも、あまりにテンプレに描くとつまらないので、ちょっとずつずらそうと。たとえばひかるは紅一点なんだけど、ただかわいくてチヤホヤされるだけじゃつまんないから、いちばんマイペースで人の話を聞いてない感じにしよう、とか。それがゆるさにもつながっているのかもしれないです。

――女の子でいうと、グループの輪からは外れていますが、こてつにライバル意識を燃やしがちな「みちこ」が好きです。負けん気が強すぎて。

にしむら みちこは、感情表現を抑制しなくていいので、表情を描くのが楽しいですね。気に入らないことは気に入らないって叫ぶ。自分がいちばん賢いと思ったらそういう態度に出る。っていう、なにも我慢しない子だから(笑)。そういう意味では、おたまも楽しいかな。宇宙食のクラスではちょっと浮き気味だけど、変にカッコつけたり、ちゃんとしなきゃと思ったりせず、自分の思ったことをチャレンジしていく自由な子なので。

――じゃあ、「こてつ」と最初に友達になった「ニコ」は描きにくかったりするんですか? どちらかというとクールで、感情を抑え気味な子ですよね。

にしむら 逆に描きやすいです(笑)。というのも、恥ずかしがったり、素直になれなかったりする彼の心の動きは、わりと誰しも抱えているものだと思うので。表に出さないぶん、本当はこんなふうに考えているんだよ、意外とアツいところもあるんだよ、っていうエピソードをどんどん描きたくなってしまう。

第36話「みつどもえ」

 こてつはこてつで、いつもまっすぐで仲間思いで、描いていると平和な気持ちになれるので……うん、描きにくい子はいないし、みんな描いていて楽しいですね。「このキャラクターを描きたい!」っていうよりは、こてつと友達になるのはどんな子だろう? その子にはどんなライバルがいるだろう、先生はどう接するかなあ、っていうふうに、関係性で膨らませていくからかもしれないです。

――たしかに。どの子たちも、仲間とわちゃわちゃしているときに、意外な個性が垣間見えるのも読んでいて楽しいところです。

にしむら 僕はあんまり、上手に描こうとか、カッコいい作品にしようとか、思わないようにしていて。ゆるさがかわいい、っておっしゃっていただきましたけど、僕自身があんまりはっきり主張するタイプでもないというか、わりといいかげんで曖昧なところがあるので、それを変に隠さないほうがいいような気がしているんですよね。だから、描いていて楽しい子たちを遊ばせて、ゆるくおもしろくしていけたらいいな、と。

――タイトルに「なんちゃら」をつけたのは、その象徴ですか?

にしむら まあ、そうですね。宇宙の話をするのかどうかも曖昧な感じにしておいて、この作品の主軸がどこにあるのかは、読者のみなさんに判断してもらえるようなタイトルがいいなあ、と。だから……今は描きながら、もっともっとゆるくできるぞ、がんばれ自分、って思ってます(笑)。

――もっとゆるくできる(笑)。

にしむら そのほうが、ときどきマジメなことをキャラクターが言ったとき、際立ってくれるでしょうしね(笑)。

――先ほどお話に挙がったジグソーパズルのエピソード……宇宙飛行士にとって精神の鍛錬がいちばん必要なのだと描かれるところは、ふだんがかわいらしいだけに、グッときました。

第32話「まっ白パズルテスト」

にしむら 企画自体は子ども向けなんですけど、僕はそう思わずに描くようにしていて。どんな年代の、どんな状況の人が読んでも、どこかしらに笑ったりグッときたりしてもらえる作品にしたいんです。お話としても、最近では「宇宙アカデミー設立に秘密が……?」みたいな流れになっていますが、わりと最初から練っていたことで。意外と伏線がはってある……かもしれません(笑)。キャラクターに顔芸させたり、変なポーズをとらせたり、けっこう細かくこだわって描いてもいるので、隅々までチェックしてもらえるとうれしいです。

第43話「悪の組織」

ムロツヨシさんが演じるのは、にしむらさん考案のオリジナルキャラクター

――アニメのアフレコはご覧になりましたか?

にしむら 何度か拝見しました。いやもう、演じることを生業にしている方々の凄みを感じましたね。原作者としては、どれだけ僕の理想に近い声になるのかなあ、なんて思っていたんですけれど、想像をはるかに超えていました。キャラクターに声を寄せていく、のではなくて、声の個性を溶かしてよりキャラクターを膨らませてくださっている。なんてすごいことだろう、と感激しました。

――ムロツヨシさんの演じる「DAXA」というキャラクターは、アニメオリジナルなんですよね。

にしむら ですね。宇宙知識を紹介するコーナーみたいなのをもうけると聞いて、もしまんがのなかにも存在するとしたら、どんなキャラクターが説明するだろう? と考え、提案させていただきました。JAXAならぬDAXAという宇宙施設におけるマスコットキャラクターとして。デザインも、僕がしています。着ぐるみなんですけど、実はなかには職員のおじさんが入って、一生懸命がんばってるんです、みたいなことをお伝えしたら、ムロさんがすぐにくみとって、すばらしい演技で肉づけしてくださって。拝見していて、楽しかったです。

――DAXAだけでなく、アニメ化に際しては、原作と異なる部分も多少出てくると思うんですが、細かく監修されてるんですか?

にしむら 基本的には。何度か打ち合わせはしましたし、脚本もチェックさせていただきました。マンガでは描き切れていないこと……キャラクターの細かな設定を説明したり、「同じ内容でも、この子はこういう言い方をすると思う」とセリフを相談させてもらったり。やりとりを重ねるうちに、スタッフのみなさんも意図をくみとってくださるようになったので、だんだんと僕が何かを言うことは少なくなっていきました。でも、脚本で読むのと完成したアニメを観るのとでは全然印象が違うと思うので、今から放送が楽しみです。

――とくに楽しみなエピソードはありますか?

にしむら こてつが友達みんなとモツ煮屋さんに行く回ですね。うまく言葉にできないんですけど、Vコンテを見せていただいたとき「これはおもしろい」って思ったんです。僕の好みに合っていたというか。あとは、まだまだ続く予定のまんがと違って、限られた放送期間があるなかで、アニメがどんなふうにひとつの物語としてつくられていくのか、僕もまだわからない。原作との違いを、ひとりでも多くの読者・視聴者のみなさんと一緒に、楽しんでいけたらなあと思います。ぜひ、あわせてご覧ください。

取材・文=立花もも

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