悪口を言われても傷つかない方法は、相手の気持ちを脳内変換!?『メンタル強め美女白川さん』が潔いワケ。作者・獅子さんインタビュー!

マンガ

更新日:2021/4/13

メンタル強め美女白川さん』(獅子/KADOKAWA)

 悪口を言われても「けろっ」と受け流す『メンタル強め美女白川さん』(KADOKAWA)が話題になっている。Twitter発の漫画で、またたくまに現在7刷。読むと、勇気と元気をもらえるビタミン剤的な作品だ。主人公の白川さんは、決して鈍感ゆえの「メンタル強め」なわけではなく、自分が落ち込まないための方法、自分がご機嫌でいられる方法を誰よりも知り尽くしている。だからこそ、何を言われても受け流せる強さがあるのだ。まさに生き方のプロ。

 このインタビューで作者の獅子さんに聞いたのは、白川さんを通しての、「嫉妬、マウント、悪口」との付き合い方。自分が悪口を言ってしまうとき、逆に言われたときにどう対処するか、生きやすくなるためのヒントが満載です!

最強メンタル白川さん誕生秘話

――『メンタル強め美女白川さん』には、ネガティブな感情との付き合い方のヒントがたくさん詰まっているように思いました。もともとはご自身のTwitterに投稿していた漫画なんですよね?

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獅子さん(以下、獅子):そうなんです。最初は単純に趣味で、Twitterで手軽に読める漫画を載せてみよう、と描き始めました。まさか書籍化していただけるとは思っていなかったので、いまだに実感が全然ないんです。書店に本が並んでいるのを実際に見に行ったのに、本当かなぁ……? と思っているくらいで(笑)。

――漫画を描くこと自体は今回が初めてですか?

獅子:10代の頃から少女漫画誌への投稿はしていました。受賞することはありましたが、デビューにまでは届かなくて。会社員として働きながら趣味で描いていたものがこんなことになるとは……人生何が起こるかわかりません。

 だから、キャラクターも途中から増やしていく形で。どのキャラクターも設定をしっかり考えてから出したというより、描きながら考えました。白川さんだけは、私が松田聖子さんのことが大好きで、その影響は受けていると思います。

――松田聖子さん!

獅子:もう、かわいくて大好きなんです! 松田聖子さんのほかにも、世間で「ぶりっこ」と言われているアイドルの子やタレントさんがわりと好きなんですよ。自分にはないものを持っていて、芯が強くて。そういうのが白川さんには投影されています。

――「ぶりっこ」というと悪い印象がありますが、読んでいて嫌な感じがしません。読者の側に白川さんの頭の中や心情がしっかり見せられているからでしょうか。白川さん、表向きはニコッとしていながらも、頭ではよく考えていますよね。

獅子:白川さんは天真爛漫なキャラクターではありますが、例えば嫌なことを言われたときに、相手の気持ちを脳内変換してみるなど、分析するのが好きなんですよね。「白川さんって部長にチヤホヤされて調子乗ってる」と言われたら、この人が本当に言いたいことは「私だって仕事頑張ってるのに上司がちゃんと評価してくれない!!」であると脳内変換するとか。

――悪口言われているのにそう思えるの、強すぎます……。

獅子:でも、なるべく軽やかに見せるのは意識しています。これは描く上でのこだわりのひとつで、白川さんがセリフを言うときに、「けろっ」とか「さらっ」とか擬音語を入れているのはそのためです。

――なるほど。ほかにはこだわりって何かありますか?

獅子:ひとつの話の中になるべくひとつは印象に残るセリフを入れるようにしていることです。
「episode16町田さんの学生時代」に出てくる、「そんな失礼な人間の美意識とか信用するに値しなくないですか?」はすごく反響がありました。

――あれはスカッとします! 今後、誰かに嫌なことを言われたら思い出したい一言です。

獅子:ただ一方で、価値観の押し付けにならないようなバランスをすごく気にしていまして……。漫画に込めたメッセージが説教くさくならないようにしています。万人に面白いと思ってもらえる漫画は描けませんが、読んで傷つく方は少しでも減らしたい。根底の部分で、白川さんは「自分が正しい」とは思っていなくて、色々な価値観を尊重しながら生きているので、そこはブレずに描いていきたいんです。

嫉妬、マウント、ネガティブな感情との付き合い方

――白川さんを通して、ひがみ・やっかみ・マウントなど、ネガティブな感情について考えていきたいのですが、まず、そもそもそういう気持ちはなぜ生まれると思いますか?

獅子:やはり一番大きいのは不公平感ですよね。例えば、かわいい子がチヤホヤされていて、「どうせ私の人生にはこんな素晴らしいことは起きない」となるとか。でも、人間だからやっかむことがあるのは当たり前で、その気持ちが生まれてしまうこと自体はいいと思うんです。「何あの子ばっかり!」ってつまり、あの子が羨ましいと思うくらい自分はかわいくなりたいんだ、ということで。個人的には、なんだか人間くさくていとおしいとすら思ってしまいます。

 もちろん、やっかんで相手を攻撃するのはよくない。そして、それと同じくらい、やっかんでいる自分はダメだ、と自分に罰を与えるのもよくなくて……。

――それでは、どうすればいいでしょう?

獅子:やっかむ気持ちの根底にあるものは何かな、と考えてみるのはいかがでしょうか。自分が本当は何を考えていて、何に傷ついていて、何に悩んでいるのかを根底のところまで掘り下げて見つめると、むやみに人を傷つけずに済むと思います。

――それこそ、白川さんでいうところの「脳内変換」を自分に対してやるってことですね。やっかむ気持ちを掘り下げて脳内変換すると、「自分も認めてもらいたい」という寂しい気持ちがあると判明する、など。

獅子:そうですね。「あの子が嫌い」「ムカつく」という陰口とか、「何それ自慢?」などとマウント取られた気持ちになるとき、そこには嫉妬だったり、不平不満だったり、色々な要素が内包されているんですよね。

悪口を言われたときに傷つかない方法

――では逆に、陰口を言われたときに傷つかないにはどうすればいいでしょう……?

獅子:前提として、どんなに聖人君子でも完全にみんなから好かれるのは難しくて、どうしたって嫌われてしまうことはあります。陰口を言われるのは私だけじゃない、とまずは思うことでしょうか。

――それはわかります。わかるんですけど! わかるんですけど……! やっぱり、どうしても傷つきはします。

獅子:先ほどの「やっかむ側」の逆の話になりますが、陰口を言う側は、100%その相手が憎いというよりも、嫉妬とか不満とか自信のなさとかストレスとか、何かしらの色々な要素が絡まっているんですよね。その人のストレスはその人が解決する問題であって、自分が背負う問題ではない、と自分と相手とを切り分けて考えると少しラクになるかもしれません。あとは、普段褒められたことや嬉しかったことをノートに記しておいて、傷ついたときに見返すのもいい方法かと思います。

――ノートに自分の喜びを詰め込むのは、まさに白川さん的な解決法ですね。白川さんは陰口に限らず、何か失礼なことをされたときに笑って受け流すのが印象的でした。例えば、 「episode18クリスマスケーキと白川さん」では、知り合いのおじさんに「25歳かぁ~! そろそろ結婚?」などと失礼なことを聞かれ、笑って流します。一方で、怒らないことで相手が失礼なことを言ってることに気づかず、損することってないのかな、とも……。きっちりNoを突き付けるのか、白川さんのように笑顔で受け流すのか、どちらがいいのでしょう?

獅子:白川さんはそもそも、「受け流す自分が好き」というのがあるんですよね。なので、受け流すのがしんどいのに白川さんを真似て頑張るのは、心の健康のためによくないとは思っています。

 もし、白川さんが誰かに「それやめてください」と主張するとしたら、主語を自分にして言うんじゃないかな。「私はそんなふうに言われるとつらいんです」とか。相手を責めたり攻撃したりする言い方はしないと思います。それは、相手に嫌われるのが怖いとか、良い人だと思われたい、というわけではなく、「自分の心を守るのが大事」だからです。

――あくまでも自分がどう感じたかを伝える。

獅子:自分の主張を聞き入れてもらうための「自分を主語にする」なのです。「あなたが悪い」と言っちゃうと、話を聞き入れてくれるのも難しくなり、かえって向こうが反発することにもなってしまいかねないんですよね。

担当編集Iさん:白川さんイズムって、一貫して「相手の問題だよね、それって」なんだと思っています。「マウントを取られた」「ひがんで悪口を言ってくる」などは全部相手の問題だから、相手から向けられた敵意や悪意に「なんであなたはそんなことするの?」と同じ土俵で言い返してしまうと、相手の問題のために自分の時間を使うことになってしまう。

――ああ……わかります。

担当編集Iさん:白川さんは自分自身を慈しんで、自分が楽しく生きるためにいる。根底にあるのはそういうことなんですよね。マウントや陰口にしても、「あの人はこういうことに対してこう思うんだ」で終わり、と。

――そうありたいです。ちなみに、獅子さんはTwitterを主に使っていらっしゃいますが、知らない人から嫌なことを言われたご経験ってありますか?

獅子:あります、あります。以前、Twitterで何十人の人から一斉に白川さん漫画についてディスられたことがあって。それも、私宛てに来るんじゃなくて、ほかの人が無断転載して、そのリプライ欄が地獄絵図になっていたという。

――うわぁ……。

獅子:第一話の、白川さんが口角をキュッとするシーンに対して、「口角ってバカじゃねーの!!!」とか言われて、すごかったです(笑)。あとは、「なんでこんな漫画描くんだ」とか、「私の会社にこんな意地悪な人はいませんけど」とか。

――フィクションの作品に対して、「私の会社にこんな意地悪な人はいませんけど」と怒るのはすごいですね。

獅子:作者のアカウントに向けて言われているわけではないので、当事者不在で大人数で陰口を言うのが楽しいと思ってしまう、人間の悲しいサガなのかな……、と思いました。あと、この人たちはすごくストレスが溜まっているんだろうな、とも。無断転載に対しては「それは無断転載なので消して下さい」とは言いましたが、ディスりに関してはそこまで引きずらなかったです。

――そうなんですか。メンタル強い!

獅子:全然そんなことはなく、漫画については、傷つくことを言われてもそれ以上に漫画を描くのが楽しいからです。日常生活ではむしろメンタルが弱くてマイナス思考になってばかりで。だから、白川さんは自分とは全然似ていないキャラクターですね。描くときは「白川さんだったらこうするんじゃないか」とか、あるいは自分が落ち込んでいるときに「白川さんにこう言ってもらえたら嬉しいな」とか、白川さんに憑依してもらっています(笑)。

――「白川さんにこう言ってもらえたら嬉しいな」は良いですね。落ち込んだときのために、私も心に小さな白川さんを住まわせておきたいです。大変参考になるお話をありがとうございました!

取材・文=朝井麻由美

獅子さんがダ・ヴィンチニュースのために描き下ろしてくれたイラスト

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