怒涛の9カ月連続放送! 今の『転スラ』を見逃すな!――『転生したらスライムだった件』音響効果・小山恭正インタビュー

アニメ

公開日:2021/5/17

転生したらスライムだった件 第2期
TVアニメ『転生したらスライムだった件 第2期』 (C)川上泰樹・伏瀬・講談社/転スラ製作委員会

 スライムに転生してしまったサラリーマンが始める新しい異世界ライフ! 主人公リムルは彼を慕い集った数多の魔物たちと<ジュラ・テンペスト連邦国>を建国し、「人間と魔物が共に歩ける国」というやさしい理想を形にしつつあった。だが、この世界には、魔物に対して敵意を向ける存在がいた――。

『転生したらスライムだった件』は、著者の伏瀬が小説投稿サイト「小説家になろう」で連載し、人気を集めた作品。川上泰樹によるマンガ版が執筆され、そのマンガ版をベースにアニメ化が行われた。アニメの第1期は2018年10月からスタート。第2期の第1部が2021年1月から3月まで放送され、4月からはスピンオフ作品『転生したらスライムだった件 転スラ日記』のアニメ版も放送開始。7月からは第2期の第2部が放送を予定している。

 今回話を聞かせてもらったのは、音響効果を務める小山恭正氏。音響効果とは、いわゆる劇中の効果音を制作するセクション。アクションシーンの剣劇の音、魔法の音、獣たちの鳴き声だけでなく、登場人物たちの動く音や足音まで、多彩な効果音を担当している。スライムから魔王まで様々なキャラクターが闊歩するファンタジックな世界をどのように「音」で表現しているのか。『転スラ』の音響面についてたっぷりと語っていただいた。

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音響効果は、お客さんの目線を誘導することが一番大切

――アニメ『転生したらスライムだった件』のオンエア開始は2018年10月。まもなくオンエアから3周年を迎えます。お付き合いも長い作品になってきたかと思いますが、この『転スラ』という作品には、当初どんな印象を抱かれていましたか。

小山:アニメの「転生」ものが今のように主流じゃなかったときから制作を始めているので、当時は珍しい作品だなと思っていました。以前だと、主人公は苦労しながら強くなっていくものでしたが、『転スラ』にはそういう描写がほとんどない。ストレスフリーで物語が進んでいく感覚がとても面白いな、と思いました。

――『転スラ』の音響効果を制作するにあたり、コンセプトをお聞かせください。

小山:エンタメ作品なので、派手なところは派手に、気持ちいい音を付けるように。発想をあまり限定しないようにしています。たとえば、魔法陣が展開するときは、ビジュアルに科学的なイメージがあったので、機械的な音も付けてもいます。「ファンタジー作品だから機械の音はしない」といったルールに縛られないようにしています。

――いわゆるエンタメ作品として、わかりやすく音を付けていらっしゃるということなんですね。

小山:そうですね。リムルのサクセスストーリーですし、アクションがたくさんある話なので、カメラワークに効果音を付けたり、全体的にテンポを上げていくような音付けをしています。

――カメラワークにも効果音を付けることがあるんですね。『転スラ』はアクションシーンもあれば、大軍勢も登場するので、効果音の数も多くなりそうです。

小山:全部に音を付けると、お客さんの視聴環境のTV(ステレオ2ch)ではただ音量が大きいだけになってしまいます。音響効果は、お客さんの目線を誘導することが一番大切なんです。

――視聴者の目線を誘導する……具体的にどのような作業をしているのでしょうか。

小山:たとえば、モブ(群衆)が手前にいるところに、主人公たちが奥からやって来る映像があるとします。その場合は、手前のモブの足音のSE(効果音)は付けずに、主人公たちにSEを付けることで、お客さんの目線を持っていくわけです。あるいは、大規模な軍勢による戦闘シーンで、軍勢の中で主人公たちが戦闘しているときに、まわりの人たちの戦闘音を上げて、主人公たちの音を下げたら、何が何だかわからなくなる。カットごとに「ここで見せたいもの」を選別して、音を付けるもの、付けないもの、音量のレベルを上げるところと下げるところを見極めて、お客さんの目線を誘導していく。音響効果は「何を立たせるか」というのがポイントなんです。

――音響監督の明田川仁さんとの効果打ち合わせでは、どんなお話があったのでしょうか。

小山:基本的に任せてもらえています。自分はそういう現場が多いんですよね。アニメーションの現場は各分野のプロフェッショナルが集まっているので、各自の仕事が信頼の上で成り立っているんです。とくに『転スラ』は、かなりOKの幅が広いと思います。伸び伸びやらせてもらえているので、とても楽しい現場です(笑)。

転生したらスライムだった件 第2期

転生したらスライムだった件 第2期

スライムは生の音と楽器を混ぜて、かわいらしい音になるようにしています

――『転スラ』で音響効果を付けるうえで、リムルにどのような効果音を付けていますか。

小山:最初に、第1期監督の菊地(康仁)さんと、スライムの音の方向性を話し合いました。とくに第1期の第1話、第2話は、ほぼスライムしかいませんからね。あまり生々しい音を付けるとかわいくなくなってしまうし、かといってカートゥーン(海外の子ども向けアニメ)みたいな音にすると、かわいくなりすぎてしまう。そこで楽器の音などを混ぜて、アニメ的になりすぎないようにしていきました。全体のキモになる音だと思ったので、そのときにスライムの音をかなり作り込みましたね。

――リムルの跳ねる音、ぷにぷにする音、転がる音、すべる音など、スライムの様々な動きに音が付いています。

小山:ひとつの音に決め込んでしまうと単純になってしまうので、要所ごとに変えていきました。リムルが軽く動くときの音は、実は「水滴」の音なんですよ。または「ボトルの中に入っている水を揺らしたときの音」ですね。「ボトルの中の水の音」を加工すると、わりとSFっぽい音になるんです。また、リムルが汗を出すときは「水っぽい音」をさらにつけたり、大きく動くときはほかの音も混ぜています。ジャンプするときは「スプリングの音」を加工して、カートゥーン的な音になりすぎないように。着地のときは生の音にティンパニのような音を付けて、生音だけにならないようにしています。生音だけにするとリアルになりすぎてしまうので、かわいらしい音になるように、いろいろな音を混ぜているんです。

――動きだけでなく、感情にもあわせて効果音を付けていますね。

小山:びっくりしたときには、エイトビットのピコピコした音を入れていますね。スライムのときはいわゆる顔芸が多いので、そのリアクションにあわせてエイトビットの音と生の音を混ぜています。ただし、リムルで使った音は、他のキャラクターには使っていません。リムルの音はリムル専用にしています。

――この『転スラ』本編で使ったリムルの効果音は、『転生したらスライムだった件 転スラ日記』でも使っているんですか?

小山:『転スラ日記』でも、本編と同じものを使っています。お客さんに同じ世界観ということを見せなくてはいけないので、スピンオフだとしてもリムルの音は共通ですね。

――リムルが人間の姿をするようになってからは、どんな音を付けていますか。

小山:人間の姿になってからは、ごく普通の人間として音を付けています。女の子としての音を付けていますね。リムルは性別としてはわからないところがあるんですが、体形や体重、見た目に合わせた音にしているんです。最近、身体がちょっと大きくなっちゃいましたけど、女の子っぽい音の付け方はこれからも変わらないと思います。

――リムルは変化を続ける主人公ですからね……。ちなみに、男の子と女の子では効果音の付け方は変わるものなんですか?

小山:簡単に言うと、足音の重さが違います。女の子は、足音が軽くなりますね。あとは、女の子のときは優しい音をつけるようにしています。でも、それはあくまでニュアンスの違いですね。実際、リムルは最強ですから、戦闘シーンは激しい音を付けています。

――この『転スラ』にはいろいろなモンスターや動物が出てくると思いますが、そういった音はどのように付けていったのでしょうか。

小山:『転スラ』では、モンスターも基本的にアフレコで声を入れているんです。そこに、こちらで音を足すようなかたちが多いですね。たとえば、ランガのギャグシーンでは、アフレコで演じてくださったお芝居に、こちらで音をいろいろと足しています。

――アフレコのときに、ランガ役の小林親弘さんは吠え声や鳴き声などのお芝居を収録しているそうですね。

小山:そうなんです。小林さんが全部演じてくださっていて、その声だけでも十分面白かったんですが、シーンのギャップを出そうと思って、そのうえに犬の甘えた声や鼻息などをこちらのアドリブで足したんです。序盤の話数でそういった作業をしたら、現場で評判が良かったので、レギュラー化してその後もずっと付けています。結果、自分の仕事を増やしてしまったかたちになりましたね(笑)。

――モンスター系はキャストさんのお芝居と、小山さんの効果音の共演ということですね。

小山:ヴェルドラも最初に出てきたときは、ギャグ的な印象があったので、いちいち動くたびに重い音を付けて、その重量感をギャグにしていく、ということをやっています。

――第2期第1部の最後にはヴェルドラが再登場しました。

小山:やっと登場しました。でも、復活したヴェルドラは人間の姿になっていたので……もしかしたら、あのドラゴンの重い音は今後使わないかもしれません(笑)。

転生したらスライムだった件 転スラ日記

転生したらスライムだった件 転スラ日記
TVアニメ『転生したらスライムだった件 転スラ日記』 TOKYO MXほかにて毎週火曜23:00~放送中 (C)柴・伏瀬・講談社/転スラ日記製作委員会

音を付けるときは、設定や裏設定を知りすぎないほうが良い

――『転スラ』の音響効果で特徴的なものはありますか?

小山:『転スラ』の特徴をもうひとつ挙げるとすると、テロップ(大賢者の解説シーン)ですね。テロップのところは面白いです。大賢者のシーンはスーパーコンピュータがすごい演算をしているんだろうという設定を個人的に考えて、効果音を付けています。リムルの成長に合わせて、大賢者も少しずつ意識が芽生えていって、クールなだけでなくユーモラスな感じになっていくんです。リムルが間違ったときは、効果音で「ブッブー」みたいな音を付けて、ギャグみたいな表現にしています。

――第2期第35話の大賢者から智慧之王(ラファエル)へ進化するシーンは、まさに効果音も含めてドラマがありました。あのシーンは大変だったのでは?

小山:そうですね。でも、第2期で一番大変だったのは、ヒナタ(・サカグチ)とリムルの戦闘シーンです(第30話)。あそこは作画とカッティングが良くて、しかも戦闘中はほとんどしゃべっていない。絵と効果が主役になるカットも多かった。効果音の乗りが良い話数でした。

――やはり作画が良いと、効果音も乗りやすいんですね。

小山:絵がすごかったので、効果音も負けないようにしたいなと。音数も多かったんですが、それだけでなく、単純に気合も入っていましたね。

――リムルが暴食者(グラトニー)を発動したときは、かなりドロドロとした音がついていましたね。

小山:スライムが暴走しているイメージですね。あそこはイメージ優先で音をつけていました。これだけ長く関わっていると主人公チームに思い入れがあるので、音で主人公たちをブーストする、応援していく、みたいな感じがあります。

――『転スラ』は剣と魔法の世界でもあります。魔法の描写については、どのように効果音を付けていきましたか?

小山:音を付けるときは、設定や裏設定を知りすぎないほうが良いと思っているんです。とくに音響効果って裏設定に縛られやすいんですね。たとえば、ロボットの音を付けるときに「実は裏設定でロボットじゃないんです。動力は人工筋肉なんです」と言われたら、見た目がロボットであっても、違う音を付けざるを得ない。ダビング(音響作業の最終工程)をするときに「何か足りないな」と言われてしまう。しかも、原作を読めばわかるという設定もあると思うんですが、アニメだけを見ている人に伝わらないといけませんから。アニメの絵を活かすためにも、なるべく情報を入れず、絵(映像)のインスピレーションを優先して付けていますね。

――第2期はとくに大規模な魔法の発動シーンがありました。第34話の「神之怒(メギド)」は、どのようなイメージで音を付けようと考えていましたか。

小山:「神之怒」には、リムルが動いたときに付けていた「ボトルの中で水を振ったときの音」を混ぜていきました。絵的にもそういう要素がありましたし、音としてもそこに引っかけるのが面白いなと。軽い音だけど、やっていることは禍々しい。そういうバランスを考えて音を作っていきました。

――1万5000人の兵士を殺戮する、かなり衝撃的なシーンでした。その見え方のバランスをかなり調整しながら作っていったんですね。

小山:絵的に、血がほとばしるような描写もなかったので、こちらも血の音を一切つけませんでした。神之怒のシーンをさらっと描いている分、それ以外のシーンはかなりエグい音を付けています。とくに異世界人の3人(ショウゴ、キララ、キョウヤ)のシーンでは、派手な音を付けていきました。

――『転スラ日記』ではどのように効果音を付けていったのでしょうか。

小山:全体的なコンセプトは変わらないんですけど、監督(生原雄次)の意向で、『転スラ日記』では、あまり音で説明をしない方向性になっているんです。ゆるやかな日常を表現したい、ということだったので、カメラワークがついても音を付けないようにしています。ただ、動きに細かく音を付けているので、音数はあまり変わっていませんね。

――本編もいよいよ第2期の第2部が始まろうとしています。

小山:楽しみですね。この先の話の続きが気になるので、どんどん続きをやってほしいです。このままライフワークとして『転スラ』を続けていけたら良いなと思っています。

TVアニメ『転生したらスライムだった件』公式サイト

取材・文=志田英邦

小山恭正(こやま・やすまさ)
音響効果技師。『シドニアの騎士』『PSYCHO-PASS サイコパス』『ガールズ&パンツァー』『ソードアート・オンライン』『慎重勇者~この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる~』『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』などを手掛ける。


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