高岡早紀「意外と普通でしょ?『魔性』と言われても受け流せるようになった」――家族、恋愛、女優業について綴った初エッセイ

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更新日:2021/5/26

 なんで私、いつも魔性の女って呼ばれるんだろう――。女優・高岡早紀の初エッセイ『魔性ですか?』(KADOKAWA)。家族のこと、恋愛のこと、女優業のこと。高岡早紀である自分と、高岡佐紀子である自分。すべてを本音で語りつくした同書をふりかえり「意外と普通の人でしょ?」と言う高岡さんにお話をうかがいました。

(取材・文=立花もも 撮影=山口宏之)

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『魔性ですか?』
『魔性ですか?』(高岡早紀/KADOKAWA)

――〈いつの頃からか、名前の上に「魔性」の二文字がつけられるようになりました〉と前書きにありますが、高岡さん=魔性の女というイメージは、確かにいつのまにか浸透していましたね。

高岡早紀氏(以下、高岡) ね。本にも書いたけど、若かりし頃は今以上に魔性=悪女っていうイメージが強かったから、もうほんとそういう表現やめて~って感じで、インタビューとか、記事の内容をチェックさせてもらえるときは、全部削除してもらっていたんです。でもだんだん、世間的にそんなに悪い使われ方をすることが少なくなってきて、人を惑わすくらい魅力的な女、って意味もあるんだと知ったら、私自身、それほど抵抗がなくなってきた。年齢も重ねて、そういうふうに言っていただけるだけでありがたい、って思える余裕が出てきましたね。

――2013年に『アウト×デラックス』に出演されたときは、まだ魔性と呼ばれることに抵抗を示してましたよね。

高岡 あれはまたマツコさんが「魔性ねえ~~」みたいな感じで言うから(笑)。一言でも発すれば「ほらそれが魔性なのよ」って。そのときも悪い意味で使われていないのはわかっていたし……うまいお断りの言葉が見つかってなかったんですよね。でも実際、困ると思いません?「そんなこと言わないでくださいよ~」「違いますよ~」っていうのはなんか違うし、かといって「ありがとう」っていうのも変でしょう?

――たしかに(笑)。

高岡 今はまあ「そうですけど?」って冗談めかして返すこともあるし、「魔性でもなんでもいいですよ~」ってスタンスで受け流せるようにはなったかな。私が魔性かどうかなんてことは、思う人の自由ですし。

――それで初のエッセイのタイトルは『魔性ですか?』に。

高岡 もちろん、未だにネガティブな印象で私をそう呼ぶ人もいると思うんです。でもSNSで本の告知をしたら「素敵な女性ってことですよ」って言ってくれる人もいて。魔性という言葉に対するとらえ方も、私に対する印象も、人それぞれ違ってあたりまえなんだから、文章を通じて素の私をさらけだすことで「どう思いますか?」って皆さんに聞いてみた感じです。でもほんと、私の日常をそのまま書いただけなので、自分としては新鮮なことは特にないし、読んでおもしろいのかしら? と疑問はありますよね。おもしろかったですか?

――おもしろかったです。こんな言い方をすると失礼かもしれないのですが、めちゃくちゃちゃんとした方だなあ、と。

高岡 あら、そうですか。ふふふ(笑)。

――長女気質でしっかり者だし綺麗好き、というのはもちろんですが、体型維持のためにストイックになりすぎることはないけど「ソファに寝転がってテレビを見ながらお菓子を食べるなんてことは絶対にしない」とか、すごく背筋がのびているというか……。ああそうか、ゴロゴロお菓子を食べるような生活をよしとしてたら、そりゃ太るよなって思いました。

高岡 あはははは!

――かといって、張り詰めすぎているわけではなく、手を抜くところはちゃんと抜く。自分が心地よく生きていくために日常を整えることに決して手を抜かない方なんだな、と。

高岡 本のなかにも少し書いたけど、それはやっぱり、離婚した経験が大きかったかもしれないですね。子供たちが私との生活を楽しいと思ってくれなきゃ、離婚した意味もなくなってしまう。私自身が楽しく生きたい、っていうのはもちろんあるけど、私が笑顔で過ごすことで子供たちに笑顔が増えて、みんなでハッピーになれるのが一番だな、って考えるようになったときから、どんどんポジティブになっていった気がします。

――それ以前は、ネガティブになりがちなところもあったんですか?

高岡 そんなになかったような気がしますね。なんでこんなに前向きな性格なのか、自分でもよくわからないけど、単にうしろを向くことを知らないだけじゃないかしら。

――それは子供の頃から、ですか?

高岡 あのね、子供の頃のことを自分にも聞いてみて? 覚えてないでしょう?

――覚えてませんね(笑)。

高岡 あはは。でもまあ、そうですねえ。ネガティブではなかったけれど、すごく引っ込み思案な子供だったと思います。今と比較すると自分でも信じられないんだけど、あんまり人としゃべることが好きじゃなかったし、友達も多いほうではなかったし、大騒ぎしたような記憶もなくて。だからどちらかというとポジティブな人間になったのは、女優のお仕事をするようになってしばらくしてからだと思う。

――女優としての強みは「自(分を)信(じている)」というお話もありましたね。プロフェッショナルとして、作品をよりよいものにすべく常に真剣に向き合ってきた、その蓄積が自信につながっているんだと。

高岡 何かを信じるって、不確かなものじゃないですか。もちろん、自分以外の何かを信じることで生きていける人もいるだろうけど、私は、自分の手でつかめないものをつかもうとしたりすがったりすることが、ピンとこなくて。でも積み重ねてきた経験とか、自分にとって確かなものなら信じられるし、それが後押ししてくれて先に進めるのかなって思うんですよね。それに……他人にはなかなか信じてもらえないじゃない? だったらせめて自分くらいは自分のことを信じなきゃ。その結果、他人も信じてくれるなら、それはありがとうって感じですね。

――高岡さん自身が、あまり他人を信じすぎていないというか、期待していない感じがすごくいいなあ、と本を読んでいても思いました。お子さんたちに対しても、愛情はあふれているし距離も近いのに、大事なところでは構いすぎず、そっとしておくじゃないですか。

高岡 あ、そうですか?

――若い俳優さんに対しても、ちょっとちょっと、と思うことがあっても言わずにおく、とか。

高岡 ああ、そうねえ。でもたぶん、言いたくなる人はまだ、年齢が若い人たちに近いからじゃないのかな。今の若い人たちが生きている常識って、私たちのそれと全然違うでしょ? 「私たちが同じ年くらいの頃は」なんてとても言えないっていうか、アドバイスのつもりで頓珍漢なことを言って鬱陶しがられるほうが多いと思うんですよね。へたしたら、自分の子供より年下なんだもん。もうほんと、びっくりしちゃう。きっと、私くらいの年齢になれば自然と言わなくなりますよ。

――でも、何歳になっても言う人は言うと思うので……。言わない選択ができるというのが、高岡さんの姿勢をあらわしているのかな、と。

高岡 どちらがいいのかな、と迷うときはありますけどね。言ってあげたほうがいいことも、当然あると思うから。ただ私には、それがいいことなのか悪いことなのかの判断がつかない。それこそ自信をもって「これは言うべきだ!」って思えるなら、言えばいいと思うんだけど、わからないうちは遠巻きに様子を見ておいて、必要なときに近づけばいいかなと思います。子供たちに対しても同じですね。判断のつかないことは言わないし、やらない。

――逆に、現場で言うべきことは率先して言う、というのもすごくいいなと思いました。お弁当を最初に食べるのも、順番を気にしているからではなくて、みんなに遠慮させないため。その場にいる人たちにとって、何が一番必要なのかを常に考えているんだな、と。

高岡 まあやっぱり、せっかく出会ったからには楽しい思い出にしたいじゃないですか。でもそれも、年齢を重ねて気づいたこと。こういうインタビューも、昔はあんまり自分のことをしゃべるのが得意ではなかったんです。でもせっかくなら楽しくおしゃべりしたほうが、聞きに来てくださる方も嬉しいだろうし、私も楽しい。そうすれば、またどこかでお会いしたときにもっと楽しい時間を過ごせるだろうし、仕事してよかったと思っていただけることが、また次の仕事につながることもありますし。お互いにとって、いいことしかないんですよね。ただこういうバランス感覚って、子育てしている人ならみんな身に着けてるんじゃないのかなあ。

――自分のためではない人付き合いも多いですし、とにかくやらなきゃいけないことがたくさんありますからね。

高岡 そうなの。料理と一緒で、手際よくやらないと時間がかかってしょうがないから、自然と合理的に物事を整頓するクセがついてくる。これやっている間にあれを片づけて、とか、ここは手を抜いても大丈夫だけどここはちゃんとやらなきゃ、とか。

――母としての一面も語られているのが、読んでいてとてもおもしろかったです。高くて買えないカリフラワーの話、すごく好きでした。

高岡 あはは! あのケチな話!(笑) 子供の頃から好きだったのは、安くて身近な野菜でたくさん食べていたからなのに、なんで大人になって自分で働くようになった今、高くて食べられないんだろう、そんなのおかしくない? っていう……。もうほんと、そういうなんてことない話ばっかり書いちゃったんですよね。意外と普通の人だってことが、伝わるといいんだけど(笑)。

 後編では、「なぜかクセのある役ばかりくる」という高岡さんに、6月18日公開予定の映画『リカ~自称28歳の純愛モンスター~』について伺いました。お楽しみに。