「たった数日の関係でも子どもが心を開く一瞬を逃したくない」――『漫画家しながらツアーナースしています。』著者・明さんに聞く、ツアーナースという仕事

マンガ

公開日:2021/6/8

支える側の気持ちも描きたい

――今回のナース・先生・ママの推しセレクションで、セレクトに悩んだことや、泣く泣く入れられなかったエピソードがあれば教えてください。

:「クロス・ザ・ボーダー」は泣く泣く入れられなかったエピソードのひとつです。フランス語しか話せないクラスメイトを支える女の子のお話なのですが、今回の単行本には「友として立つ」という病気のクラスメイトを支える女の子のお話が入っているので……。一方は支えることで折れそうになっている女の子だし、もう一方は支えきれない自分に無力感を抱いている女の子。同じ切り口でもまったく違う経験をしているので、できれば一緒に載せたかったのですが(涙)。

――病気を支える立場の人たちにも目を向けているのですね。

:病棟で看護師をしている頃、患者さんはもちろん、そばにいて支えている人たちも、たくさんの悩みや苦しさ、つらさを体験しているのだと感じてきました。「私がしっかりしなきゃ」と頑張るのですが、目に見えて「できること」は限られていて、無力感を抱くことはよくあるんです。頑張りすぎて共倒れになる家族もいました。支える側は病気じゃないから、見向きされづらいんですよね。でも、助けが必要だったり悩みを聞いてほしかったりする。それは子育て中の親御さんや、悩みを抱える友人をそばで見ている「私」や「あなた」も同じで、人の数だけ色んな思いがあるだろうなと思っています。

漫画家しながらツアーナースしています。 現役ナース・先生・ママの“推し”セレクション p.141

漫画家しながらツアーナースしています。 現役ナース・先生・ママの“推し”セレクション p.142

advertisement

ダークサイドは心に秘めて漫画で暴れてもらいます

――先生や子どもたちからはさまざまな要求があって、「本当はこうしてほしい」という本音が心の中に渦巻くこともあるそうですね。そんな“ダークサイド”な明さんは、どんな時に出てくることが多いですか?

:法律上できないことを「看護師さんなのにこんなこともできないの?」といわれれば、「そっちが無知なんですよ」とダークサイド明は心の中で叫びたくなりますし、薬は使い方を間違えれば毒にもなるのに、安全な使い方をしていないのを見ると「なんで?」ともなります。こちらから「その使い方はちょっと…」と指摘して、「余計な口出しをする」と不満を持たれたりすれば、ダークサイド明は大暴れします。でも、「知れない」事情は人それぞれ。ダークサイドが表に出たところで、良い方向には行かないんですよね。だからダークサイドは心に秘めて、漫画で暴れてもらうことにしています。

――“ダークサイド”の描写はシリーズ2作目から増えている印象で……。

:バレてますね(笑)。増えた理由は、より正直に描きたいと思ったからです。そのほうがおもしろいし、読んでいて感情移入もしやすいかなと。ニコニコ笑顔ばっかりだと「本当はこう思っているのに」と感じてしまうので。ダークサイドを入れるようになってから、自分に正直な気持ちでより楽しく描けるようになりました。

 普段からSNSやWebにあふれるネガティブな言葉に、若干、というか、だいぶ疲れていたので、連載を始めた当初はあまりネガティブな言葉は描かず、楽しくて優しい漫画を描こうと考えていたんです。でも描いていくうちに、そうじゃないなと。そう思わせてくれたのは読者さんたちです。掲載当日にSNSを通じてコメントが届くのですが、時にはきつい言葉もありつつ、多くの方はネガティブな面にも共感したり、笑ってくれたりしました。「私もこんな体験をしたよ」「こういう風に思ったけど、こう切り替えたよ」「だから前向きになれるよ」と、ネガティブな気持ちからニコニコ笑顔に切り替わる体験を共有して、楽しんでくれる読者さんがたくさんいたんです。そのうち、そんな体験をもっと一緒にしたいな、たとえダークサイドでも癒しになるのかもしれないな、と思うようになりました。

「優しい人間になれた」と感じさせてくれる人たちが大好き

――わずか数日間でぐんぐん成長する子どもたちの姿に感動できるのも、本書の魅力だと思います。明さんはもともと子どもがお好きなんですか?

:私は5人兄弟の長女で、昔から自分より年下の子たちが無条件に可愛くて仕方ありませんでした。……いや、同級生や先輩も可愛くて大好きだし、病院で出会ったさまざまな年代の患者さんたちも可愛くて仕方なかったぞ、と思い直していますが……。要するに、子どもに限らず人が大好きなんですよね。その中でも、チャレンジしたり、失敗して泣いたりしながら、イキイキとしている人を見るのが大好きです。子どもたちにハラハラすることもありますが、自分も同じようにイキイキとするし、キラキラしたものを自分の中に感じる気がします。きっとそれが「生きがい」とか「生きる力」とか呼ばれるものだろうな、とも思います。

漫画家しながらツアーナースしています。 現役ナース・先生・ママの“推し”セレクション p.124

――子どもたちの姿から学ぶことも多いと。

:はい。大人になると、考えが邪魔してできないことや、逆にイヤでもやらなきゃいけないことがたくさんあります。そんな時、好奇心に向かったり、未知の恐怖に尻込みしたり、自分に素直に生きる子どもたちを見るとうらやましくなるし、「素直でいいんだ」と励まされます。小さな体で大きな悩みを抱えている子もいますが、もがきながら一生懸命に生きる姿を見ると、「偉い」とほめたたえたい気持ち、「助けてあげたい」という慈悲の気持ち、「私も頑張ろう」という生きる力、色々な感情や力が湧きあがります。

 私は、あまり、というか、かなり自分のことが好きではないし、優しくない人間だと思っています。でも優しい人間になりたいし、自分を好きにもなりたい。だから、そんな自分にちょっとでもなれる瞬間をくれる人たちの姿を素晴らしいと思うし、かっこいいと思うし、大好きだなと思います。