怒涛の9カ月連続放送! 今の『転スラ』を見逃すな!――『転生したらスライムだった件 転スラ日記』相澤楓馬(CGIディレクター)インタビュー

アニメ

公開日:2021/7/6

転生したらスライムだった件 転スラ日記
TVアニメ『転生したらスライムだった件 転スラ日記』 (C)柴・伏瀬・講談社/転スラ日記製作委員会

 スライムに転生してしまったサラリーマンが始める新しい異世界ライフ! 主人公リムルは彼を慕い集った数多の魔物たちと<ジュラ・テンペスト連邦国>を建国し、「人間と魔物が共に歩ける国」というやさしい理想を形にしつつあった。だが、この世界には、魔物に対して敵意を向ける存在がいた――。

『転生したらスライムだった件』は著者の伏瀬が小説投稿サイト「小説家になろう」で連載し、人気を集めた作品。川上泰樹によるマンガ版が執筆され、そのマンガ版をベースにアニメ化が行われた。アニメの第1期は2018年10月からスタート。第2期の第1部が2021年1月から3月まで放送され、4月からはスピンオフ作品『転生したらスライムだった件 転スラ日記』のアニメ版も放送。そして第2期第2部の放送が、7月6日(火)よりスタートする。

 今回話を聞かせてもらったのは、『転スラ日記』でCGIディレクターを務めた相澤楓馬氏。彼は『転スラ』シリーズを手掛けるアニメーション制作会社・エイトビットの生え抜きで、『転スラ日記』監督の生原雄次のもとで技術を身につけたという、まさに『転スラ』育ちのスタッフだ。彼は『転スラ日記』でいよいよディレクターとしてその実力を発揮しはじめた。このインタビューでは、彼の仕事ぶりだけでなく、『転スラ日記』の生原監督との師弟関係についても語っていただいた。

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担当したカットが、商品化されてTシャツになりました(笑)

――相澤さんは『転生したらスライムだった件』『転生したらスライムだった件 転スラ日記』のどちらにも関わっていらっしゃいますが、その両作品に関わっていて、それぞれどんな印象をお持ちですか。

相澤:本編(『転スラ』)は第2期がかなりシリアス、ハードな印象で展開していますよね。一方『転スラ日記』はすごくハートフル。『転スラ』(第2期第1部)『転スラ日記』『転スラ』(第2期第2部)と、9ヵ月の間にテイストの違う作品が上手いこと挟まれていて、とても面白い9ヵ月だなと思っています。そもそも、この『転スラ』シリーズは、幅広い年代の方に見ていただいている作品だと思います。美容室で髪を切ってもらっていた時に、そこの美容師さんが『転スラ日記』を見てくれているそうで驚きました。本当にいろいろな人が見てくれているんだなと。スタジオの中にいると、みなさんがどれくらい作品をご覧になっているのかわからないところがありますが、あらためて身近なところで作品ファンの存在を感じると、さらにやりがいを感じます。

――相澤さんは『転スラ』シリーズで活躍されていますが、制作会社のエイトビットに参加して何年目になるのでしょうか。

相澤:僕がエイトビットに入って、3年目になります。もともとアニメが好きで、専門学校を卒業してエイトビットに入社しました。最初は『ミイラの飼い方』という作品でCGまわりを手伝わせていただきました。自分の名前がクレジットされるようになったのは『転スラ』の第1期が初めてでした。

――『転スラ』第1期のお仕事で印象に残っていることは?

相澤:入社してからは、初めてのことばかりだったので、すべてが印象に残っているのですが、第2話でリムルがヴェルドラに無限牢獄の解析することを説明するために、リムルとヴェルドラがカートゥーン(アメリカンコミック)風のタッチになるんです。そのカットを僕が担当していたのですが、商品化されてTシャツになって(笑)。

――あのコミカルなカットを担当されていたのは、相澤さんなんですね。

相澤:そうです。ポップな文字を動かして、リムルがヴェルドラを捕食して、胃の中に入ったヴェルドラが破壊しようとする。そのカットをコミカルに描きました。

――相澤さんは、もともとアメコミなタッチの絵がお得意だったんですか?

相澤:絵コンテ(第2話の担当は小島正士)に「アメコミ風」という指示があったので、生原(雄次)さん(CGIプロデューサー/グラフィックデザイナー)や同じ部署の先輩に相談して、アドバイスをいただきながら描いていきました。

――ほかに『転スラ』第1期で印象に残っているところは?

相澤:対豚頭帝(オークロード)戦でオークがたくさん登場するときにモブ(群衆)のオークをひたすら動かしたり(第1期第14話)、暴風大妖渦(カリュブディス)戦で空泳巨大鮫(メガロドン)をたくさん動かしたりした(第1期第19話)のは、記憶に残っていますね。『転スラ』本編はどうしても戦闘シーンが多くなるので、戦闘中のエフェクトなどでも3DCGを使うことが多かったです。

転生したらスライムだった件 転スラ日記

転生したらスライムだった件 転スラ日記

転生したらスライムだった件 転スラ日記

生原さんに、クリエイターとしての基礎を1から10まで教わった

――先ほど生原さんからアドバイスをいただいたということですが、相澤さんにとって生原さんとはどんな存在ですか。

相澤:僕は右も左もわからないまま現場に入ったので、生原さんが上司としていていろいろなアドバイスをくださって、クリエイターとしての基礎を教えていただきました。1から10まで丁寧に全部を教えていただいたので、生原さんと出会っていなかったら、現在の自分はいないと思います。こうやって取材を受けたり、今回、CGIディレクターという役職に付いて仕事ができているのも生原さんのおかげです。

――生原さんのお仕事で、相澤さんの印象に残っているものは?

相澤:生原さんは『転スラ』で「大賢者カット」と呼ばれるカットを担当されているんです。リムルがスキルを得たときや使うときに挿入される大賢者のグラフィック表現なんですが、初めて見たときは「アニメでこんな表現ができるんだ」と驚きました。生原さんにしか作れないカットだと思っています。あと、生原さんのお仕事でインパクトがあったのは、魔法陣です。魔法を使うときに、いろいろな魔法陣が出ていると思うのですが、生原さんはそれぞれに意味を込めて魔法陣を作っているんです。その意味を僕に説明してくださったんですが、たとえば魔法を詠唱するときの単語や魔法の属性にまつわる要素を汲み取って、デザインに反映しているんですよね。本当に、この世界の魔法を熟知している人じゃないと思いつかないだろうと感じるほど、しっかりと設定されているんです。

――その魔法陣の説明を、相澤さんはそれぞれ聞いているんですね。

相澤:そうですね。作業中に僕がふらっと生原さんが作業している傍にいって「魔法陣を作っているんですね!」と言ったら「これにはこういう意味があるんだよ」と説明してくれたんです。「本当に緻密に作られているな」と感心するばかりでした。

――『転スラ日記』で相澤さんはCGIディレクターという役職に就かれています。これはどんな経緯があったのでしょうか。

相澤:生原さんから電話が掛かってきて「CGIディレクターをやるぞ」と言われたんです。僕は初めてのディレクターだったのですが、生原さんが「補助としてつくから、いっしょにやってみようか」と言ってくださって、挑戦することにしました。

――『転スラ日記』で3DCGIが活躍しているところは、どんなところでしょうか。

相澤:『転スラ日記』ではルックに直接かかわることが多いです。たとえば3日記に登場する「ひまわりもどき」は3DCGですね。5日記の屋台も3DCGで描いています。11日記にはクリスマス屋台なので、ここは3DCGでとても豪華な屋台を作りました。あとはいわゆるモブ(群衆)ですね。いろいろなところで3DCGが使われているのですが、いかに『転スラ』の世界観になじませるか、ルック開発がとても重要だと思っています。

――「世界観になじませる」にはどんな作業をされているのでしょうか。『転スラ日記』の3DCGの工程をお聞かせください。

相澤:まず演打ち(演出打ち合わせ)で生原監督から、劇中に登場するモデルを指定していただいて、そこから先行して3DCGモデルを作るんです。そのあとに、登場話数の美術ボード(美術監督が描く背景の見本)をいただいて、それに合わせてCGモデルを調整して、色味をボードに合わせていきます。ここで世界観となじむように色味を調整しているんです。

――『転スラ日記』の3DCGにおいて、従来と「変わったもの」を作ることはありましたか。

相澤:変わったものだと3日記のモンスターソード(クロベエが打ったゴブタの剣)ですね。すごくグネグネ動くんですけど、3DCGで作っているんです。あれは最初にお話しいただいたときに、どうしようかなと思った要素でしたね。

――あれは原作マンガの『転スラ日記』にも登場していた武器でしたが、アニメ版はすごく気持ち悪い動きをしていましたね。

相澤:見た目、動きをどうするか。最初は止め(静止した状態)で出すという予定だったんですが「気持ち悪くしたい」というリクエストがありまして、ぐりんぐりんに動かすことにしました。イメージとしては、剣の鞘から出ようとして、鞘からにじり上がっている感じ。足もぐねぐねと動かして、できるかぎりグロテスクにしました(笑)。ただ、完成形ができるまでは時間がかかって。モデリングの担当者と打ち合わせを重ねたり、生原さんとご飯を食べつつ「あれ、どうしたらいいですかねえ」と相談して、いろいろな試行錯誤を重ねていきました。

転生したらスライムだった件 転スラ日記

転生したらスライムだった件 転スラ日記

転生したらスライムだった件 転スラ日記

リムルの成長物語に自分の人生を重ねていく

――生原さんは『転スラ日記』では監督に就任されました。いっしょにご飯を食べたりしながら打ち合わせをするんですね。

相澤:そうですね。ご飯を食べるときに、いろいろな話をしています。生原さんは料理するのがお好きなんですが、たまにご自宅に呼んでいただいて、生原さんの料理をいただきながらお話をすることもあります。

――エイトビットの3DCGIチームは、かなり家族的な感じなんですね。ここまで『転スラ日記』に関わってみて、どんなことを感じていますか。

相澤:『転スラ日記』は日常的にあるものを3DCGで作ることが多くて、いかに世界観に溶け込めるかという課題に挑戦させてもらえたと思っています。屋台やモブを3DCGで作っているんですが、それぞれにかなり細かいネタを仕込んでいます。たとえばモブでもよく見ると、カップルのモブがいたり、モブの人間関係みたいなものもあるので、そういうところも『転スラ日記』を見返すときには楽しんでいただけると嬉しいです。あと、『転スラ日記』は描写がとても美しくて、BGオンリー(背景美術だけのカット)で風景を見せたりするカットは、とても開放感があります。今のご時勢はなかなか外に出られないので、『転スラ日記』の風景を楽しんでいただきたいです。

――CGIディレクターとしてお仕事してみての手応えはいかがでしょう。

相澤:最初に入ったときは、ひとつの3DCGを扱うのにいっぱいいっぱいだったんですけど、いまは生原さんに教えていただいて、3DCGのみならず撮影やいろいろなところに自分の味を出していくことができるようになりました。とはいえ、まだまだ勉強をしていかなくてはいけないと思っています。

――『転スラ』のアニメーションはまだまだ『転スラ』続くわけですが、相澤さんの今後の抱負をお聞かせください。

相澤:僕はアニメ『転スラ』の制作開始といっしょに仕事を始めたようなところがあって。なんか、リムルがヴェルドラに会ったり、最初の村でリグルたちと出会って、少しずつ成長していく過程を、僕がエイトビットに入っていろいろな人と出会っていく流れに重ねているんです(笑)。リムルといっしょに成長していく感覚を味わっています。そういう個人的な共感があるので、『転スラ』をよりエモく感じますね。

――相澤さんはエイトビットのリムルなわけですね(笑)。相澤さんがリムルだとすると、相澤さんの師匠的なポジションでもある生原さんは?

相澤:生原さんは……「大賢者」じゃないですかね。いろいろと知恵を貸していただいていますから。心強い「大賢者」とともに、僕もこれからも頑張っていきたいと思っています。

TVアニメ『転生したらスライムだった件』公式サイト

取材・文=志田英邦

相澤楓馬(あいざわ・ふうま)

CGIディレクター。『ヤマノススメ サードシーズン』でマテリアルデザインを担当。『転生したらスライムだった件』(第1期)でCGスタッフの一員として活躍する。ソフトテニス経験者だったことで『星合の空』ではさまざまな分野で活躍。『転生したらスライムだった件 転スラ日記』でCGIディレクターに就任する。


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