世はマンガアプリ戦国時代――その戦略に迫る!!

マンガ

公開日:2021/9/18

 マンガを読むのは、もっぱらアプリ。そんな人も増えてきている近年、紙のマンガ誌を圧倒する勢いでアプリ発ヒット作も続々登場している。しかし、正直なところ、各アプリの特長をよく知らない読者が少なくないのではあるまいか。そこで5つの人気アプリ関係者にインタビュー。その特長と戦略に迫る!!

(取材・文=野本由紀)

 

advertisement

少年ジャンプ+

新たな才能を生み出す仕組みを構築し、ヒットを連発!

少年ジャンプ+

『週刊少年ジャンプ』電子版やオリジナル作品を配信する集英社のマンガアプリ。『SPY×FAMILY』『怪獣8号』『ダンダダン』などのオリジナルのヒット作を連発し、最近では読み切り中編『ルックバック』も大反響を呼んだ。まさに、マンガアプリ界の絶対王者。

人気作!

『ルックバック』書影

集英社・細野修平さん(「少年ジャンプ+」編集長)
「ブランド力があり、作品の持ち込みも多い『週刊少年ジャンプ』ですが、デジタルに弱いという課題がありました。デジタルでも『ジャンプ』の領地を作りたい。さらに、『ジャンプ』を超えるヒットをデジタルから生み出したい。そんな思いからスタートしたアプリです」

ヒットを生み出す仕組みとして、まず取り組んだのがマンガ投稿・公開サイト「ジャンプルーキー!」。「ジャンプ+」の編集者に作品を評価してもらえるうえ、連載も目指せる体制を整えた。昨年12月からは、「少年ジャンプ+」での連載権を獲得できる「インディーズ連載」もスタート。編集者との打ち合わせなしで自由に描けるとあって、新人が続々と集まっている。

「『ミュータントは人間の彼女とキスがしたい』『今夜僕らはお泊りをする』は、こうした取り組みから生まれた作品。更新されるたびにコメント欄が盛り上がり、濃いファンがたくさんついているのを実感します」

読み切りマンガは年に300本以上掲載。「数を打たないとヒットは出ない」と細野さんは語る。

「新人作家には、連載になるかどうか気にせず、まず面白い読み切りを書いてほしい。それによって、自分の武器を知ってほしいと願っています。今後の目標は、『ジャンプ』のようにヒットを継続的に生み出せるシステムを構築すること。データ分析に力を入れて1日100万人以上に読まれる作品を増やし、『ここに来れば面白いマンガが読める』という場を作っていきたいです」

細野修平
ほその・しゅうへい●2000年に集英社に入社し、『月刊少年ジャンプ』『ジャンプSQ』を経て、12年から『週刊少年ジャンプ』編集部へ。14年に「少年ジャンプ+」を立ち上げ、17年に編集長就任。『テガミバチ』『終わりのセラフ』などを担当。

 

マガポケ

オリジナル作品でアプリ発のヒットを目指す

マガポケ

 オリジナルマンガのほか『週刊少年マガジン』『別冊少年マガジン』『月刊少年マガジン』『月刊少年シリウス』などの連載作品・完結作を無料で楽しめる講談社のアプリ。6周年を記念し、『GIANT KILLING』『亜人』『課長 島耕作』『寄生獣』など6作品の全話無料キャンペーンも。

人気作!

『可愛いだけじゃない式守さん』書影

講談社・平岡雄大さん(「マガポケ」チーフ)
当初は“週マガを読めるアプリ”として誕生した「マガポケ」も今年で6周年。現在は“オリジナルのヒット作を創出するアプリ”として機能している。

「『イジらないで、長瀞さん』『可愛いだけじゃない式守さん』と続くラブコメ路線、『転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます』などの異世界転生ものが、大きく伸びています。『十字架のろくにん』は、雑誌から『マガポケ』に移籍したところヒットにつながりました」

 アプリ発のヒットを狙うには、「作品が面白いだけでは不十分」と平岡さん。

「アプリマンガは性別を問わず読まれるので、男性向け・女性向けというターゲティングよりも、ラブコメやスポーツといったジャンルのほうが重要です。さらに、読者にとってそのマンガがどんな意味を持つかを意識することが大切。癒しやストレス解消など+αの価値を提供できる作品をたくさん連載していきたいです」

 オリジナル作品を強くするためには、ユーザー数を増やすのが先決。そのために何が必要か、逆算しつつ戦略を立てている。

「新人が育たない媒体は、必ず衰退します。アプリ内の作品数を増やしたり、全話無料キャンペーンを実施したりするのも、アプリを強化して新人作家のオリジナル作品を訴求したいから。講談社の男性向けマンガなら、単行本がまだ刊行されていなくても1話単位で購入できるのも強みのひとつ。電子書店としての機能も備えつつ、オリジナル作品を生み出す媒体として強くなっていきたいですね」

平岡雄大
ひらおか・ゆうた●『ヤングマガジン』編集部を経て『週刊少年マガジン』に配属。同時に「マガポケ」運営に参画。2020年10月、チーフに就任。担当作品は『可愛いだけじゃない式守さん』『WIND BREAKER』など。

 

マンガDX+

マンガ雑誌を無料で読める! 女性向けマンガも開拓中

マンガDX+

『ドンケツ』などの人気作品、雑誌『ヤングキング』『ヤングキングアワーズ』『思い出食堂』などの最新号やバックナンバーを配信する少年画報社のマンガアプリ。裏社会、ヤンキーマンガに強い。現在、リニューアル1周年キャンペーンを実施中。9月にはダ・ヴィンチ掲載記念のキャンペーンを実施予定!

人気作!

『善悪の屑』書影

少年画報社・大野正拓さん(「マンガDX+」編集長)
「マンガDX+」のセールスポイントは、少年画報社のマンガ雑誌を無料で読めること。大野さんは「紙の信用性を活かしたアプリ運営」をモットーにしている。

「Webマンガは玉石混交ですが、出版社が運営するアプリは面白さとクオリティが保証されたマンガしか配信しません。しかも『マンガDX+』は、“1巻”ではなく“1話”で勝負できる作品をそろえています。今伸びているのは、オリジナル作品の『ボスとヤス』。『ワンナイト・モーニング』も電子メディアで人気が拡大しました」

 少年画報社と言えば青年マンガのイメージが強いが、女性向けオリジナル作品にも力を入れている。

「これまで挑戦してこなかったジャンル、特にボーイズラブを開拓しています。アプリだと投稿する側の敷居が低いのか、応募作品も増えています。BLではありませんが、ウェブトゥーンを募集した時には、6歳から82歳までの幅広い層から応募が来ました」

「マンガDX+」は、まだ成長途上だと語る大野さん。目先の売り上げにこだわらず、その先を見据えている。

「電子書籍はまだまだ伸びるし、世界にも進出できるはず。すぐに成果を刈り取るのではなく、大切に育てていきたいですね。昨年、少年画報社は創立75周年を迎えました。『赤胴鈴之助』など昭和の名作も少しずつ電子書籍化しているので、アプリ内で読めるようにしたいし、世界にも発信したい。アプリを入り口にマンガ人口を増やし、次の世代にマンガ文化を引き継ぎたいと考えています」

大野正拓
おおの・まさひろ●『ヤングキング』『ヤングアワーズ』編集部を経て、「マンガDX+」を立ち上げる。少年画報社で役員を務めつつ、編集者として『KIPPO』「アオバ自転車店」シリーズの担当も続けている。

 

マンガワン

面白い作品をノンジャンルで集めた“闇鍋”アプリ

マンガワン

 Webマンガ配信サイト「裏サンデー」から派生した、小学館のマンガアプリ。オリジナル作品『ケンガンアシュラ』などの人気作のほか、「裏サンデー」の連載を先行配信している。スマホの通信速度制限がかかってもサクサク読める、軽快な操作性も大きな特長だ。

人気作!

『プロミス・シンデレラ』書影

小学館・和田裕樹さん(「マンガワン」編集長)
「NetflixやHuluなどの定額制動画配信サービスと同じように、マンガアプリも面白い作品があるところに人が集まります。他社と差別化を図るためにも、『マンガワン』はオリジナル作品で勝負。ページ数や表現の制約から解き放たれ、何でも掲載できる場だからこそ、器用にまとまったものよりも0点か100点かという作品を発掘したいですね」

 和田さんがそう話すように、「マンガワン」の掲載作品は7割がオリジナル。女性向けも含めてオールジャンルの作品がそろっている。

「オリジナルでは『ケンガンオメガ』『灼熱カバディ』『出会って5秒でバトル』が人気です。個人的な注目作は、『裏バイト:逃亡禁止』。他のどのマンガにも似ていない、天才的な作品です。女性向けでは『青のオーケストラ』、ドラマ化された『プロミス・シンデレラ』。既存の作品では、『ポケットモンスター』から『闇金ウシジマくん』まで載っています。普通のマンガ雑誌ではありえない、カオスなラインナップですよね(笑)。この闇鍋感が『マンガワン』の特色です」

 コメント機能を搭載し、ユーザー間で作品愛を共有できる仕組みも作っている。

「『マンガワン』が最も重視しているのはその点です。最新話が更新される0時になると、全国からユーザーがアクセスし、コメント欄で感想を言い合います。そのライブ感をぜひ味わってほしい。“マンガはひとりで静かに読むもの”というイメージが覆されると思います」

和田裕樹
わだ・ゆうき●2001年に小学館に入社後、『コロコロコミック』編集部に10年、『週刊少年サンデー』編集に5年在籍。その後「マンガワン」事業部に異動し、19年から編集長に。主な担当作品は『出会って5秒でバトル』。

 

LINEマンガ

作品点数70万点以上!スマホマンガの代表格

LINEマンガ

 各出版人気マンガ、オリジナル作品や独占・先行作品など、70万点以上を配信。2013年にサービスを開始し、ダウンロード数は国内マンガアプリで最多を誇る。ユーザー層の男女比率はバランスがとれている。タテ読みカラーのwebtoon(ウェブトゥーン)も充実している。

人気作!

『女神降臨』書影
(c)yaongyi/LINE Digital Frontier

LINE Digital Frontier・平井漠さん(同社執行役員)
 70万点以上もの作品点数で、他を圧倒する「LINEマンガ」。特定のジャンルに偏らず、幅広いラインナップで読者を楽しませている。

「重要なのは、いかにしてユーザーに面白い作品と出会っていただくか。特に若年層は、積極的に作品を探すことをあまりされないようなので、自然な形で新しい作品に出会えるよう意識しています。読書傾向から好みに合いそうな作品をおすすめしたり、“1冊無料”キャンペーンを行ったり、作品を手に取っていただくための間口を広げています」

 オリジナル作品のラインナップも圧巻。人気がでてきているのが、ページをタテにスクロールするwebtoon(ウェブトゥーン)だ。

「ウェブトゥーンの配信からずいぶん経ち、多くの方が抵抗なくタテ読みを受け入れてくださっています。女性向けでは『女神降臨』『再婚承認を要求します』、男性向けでは『喧嘩独学』『入学傭兵』などが特に人気ですね。海外市場ではタテ読みがスタンダードですし、今後は日本発のタテ読みマンガをもっと海外でヒットさせたいと考えています」

 誰もがオリジナル作品を投稿できる「インディーズ」コーナーを設け、新たな才能の発掘にも意欲を見せている。

「評価が高い作品はお試しで連載してもらい、反応が良ければ継続して本連載していただきます。『次にくるマンガ大賞』にノミネートされた『先輩はおとこのこ』もインディーズ発。インディーズやオリジナル作品で差別化を図り、『LINEマンガ』を作品発表の場として盛り上げていきたいです」

平井漠
ひらい・ばく●2013年、LINE入社。「LINEマンガ」の企画担当を経て、現在、LINE Digital Frontier株式会社の執行役員COO。