19世紀パリ×吸血鬼×スチームパンク! 魔導書に導かれし吸血鬼と人間たちの物語──TVアニメ『ヴァニタスの手記』花江夏樹・石川界人対談

アニメ

公開日:2021/9/8

ヴァニタスの手記

吸血鬼(ヴァンピール)に呪いを振りまくといわれる、機械仕掛けの魔導書(グリモワール)「ヴァニタスの書」。この書に導かれ、吸血鬼の青年ノエと吸血鬼専門医を自称する人間ヴァニタスが、運命の邂逅を果たす──!

現在放送中のTVアニメ『ヴァニタスの手記』は、19世紀パリを舞台にした呪いと救いの吸血鬼譚。原作者・望月淳さんのコミックを、『鋼の錬金術師』『交響詩篇エウレカセブン』など、数々のハイクオリティアニメを制作したボンズが流麗なアニメーションに仕上げている。

その放送に合わせて、ダ・ヴィンチニュースでは原作者や制作スタッフ、キャストへのインタビューを実施。今回はヴァニタス役の花江夏樹さん、ノエ役の石川界人さんのふたりが登場、役柄への思い、吸血シーンの感想を語る!

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噛み合わなさやぎこちなさが、ヴァニタスとノエの関係性の面白さ(花江)

──まず、原作や脚本を最初に読んだ時の感想を聞かせてください。

花江:「ヴァンピール」や「ヴァニタスの書」といった専門用語が多いので、最初は難しい話かなと思ったんです。でも、読み進めていくうちに、この世界観がとても魅力的に思えてきました。絵とストーリーの力が強いので、難しい用語もだんだん理解できるようになるんですよね。「ヴァニタスが呪持ちとなった吸血鬼を治療する」という目的が明確なので、無理なくストーリーに入り込めますしね。ちょっと水戸黄門的な感じもあって(笑)、キャラクターもどんどん好きになっていきました。そこがすごく上手……って言い方は望月先生に対して失礼ですけど、とにかく巧みなんですよね。読んでいて尻上がりに面白くなっていく作品だなと思いました。

石川:確かに難しい言葉も出てきますけど、ナレーション的な地の文ではなくて、ちゃんとキャラクターの会話を通して説明されるので、スッと入ってきました。なにより、設定の広げ方が素晴らしいなと思いました。「式」という言葉ひとつで、魔法、歴史、燃料系の科学まですべて説明できてしまう。新しい概念の作り方が巧みだと思います。難しい用語がきちんと頭に入ったうえであらためて読み返すと、最初に読んだ時よりもさらに深くこの世界に入り込めるのが面白くて。何度読んでも楽しい作品になっていて素晴らしいなと思いました。

──そもそもおふたりは、吸血鬼に対してどんなイメージを抱いていますか? これまで好きだった吸血鬼ものの作品はありますか?

花江:僕は……『彼岸島』ですね。

石川:すごいとこ行きますね!

花江:でも、あんまり通ってきてないんだよね……。あ、映画の『トワイライト』は見たことあるな。なんかある?

石川:実は僕もあまり通ってないんですよね。役としても、ちゃんと吸血をする吸血鬼は演じたことがないかもしれません。だからこそ、この作品は新鮮です。

──花江さんはヴァニタス、石川さんはノエを演じていますが、役柄に対する印象は?

花江:人が傷つくようなことや無礼なことをズケズケ言うので、最初はとんでもないヤツだなと思ったんですよ。自由なのがヴァニタスの魅力でもありますけど、何を考えてるんだろうって。でも、あえて相手を怒らせることを言って、相手の反応を見たり言葉を引き出したりすることもあるんですよね。きちんと計算しているので、そういう意味では頭がいいんだと思います。それに、「吸血鬼を治療する」という芯の部分はブレず、その目的に向かって行動しているところもかっこいい。たまに子どもっぽいところも出ますし、いろんな表情が見られるキャラクターなので演じていて楽しいです。

──シリーズ構成・脚本を担当された赤尾でこさんも、「ヴァニタスはなかなかつかめなかった」とお話しされていました。演じる側としても大変だったのでは?

花江:たまに本当のことを言うんですけど、それがわかりにくくて。これは本気で言ってるのか、ブラフなのか。本気っぽくトーンを落とす会話でも、どこに重きを置くのかがつかみづらくて大変でした。音響監督さんと毎回ディスカッションして、「ここは本当のことを言っています」と事前に教えていただくようにしています。

──ノエはいかがでしょう。

石川:ノエは純粋というか、むき身という印象の強いキャラクターです。本来この年齢の人ならフィルターを通しそうなところを、そのままポンと言葉に出してしまったり。先入観や偏見の目もあまりないので、思ったことを言うんですよね。「ヴァニタスは人間だから」「この人は吸血鬼だから」「この人は偉いから」と気にせず、感じたことをそのままきちんと伝える人だなと思います。

──たとえばどんなシーンでそう感じましたか?

石川:オルロック伯爵と初めて話した時、いきなり机を蹴り飛ばして「オレ達が犯人を捕まえてくればいいんですね」って言ったところです(第2話)。人間界にも吸血鬼界にも影響力を持つ伯爵に対してそんなことを言ったら、自分の立場が危うくなるって大人ならわかるはず。でも、ノエは誰が相手だろうと「それは違う」と思ったら、正そうという動きを見せるんです。

──収録時に、おふたりで演技について話すことはありますか?

石川:演技の方向性についてはないですよね。「こういう車欲しいんですよね」みたいな雑談はしますけど(笑)。

花江:テストがあって、音響監督の若林(和弘)さんと「こういう風にしよう」というお話があって、それで本番を録る感じなので。お互いが「こうしよう」って話すことはそんなになかったですね。

──最初の収録の際、音響監督の若林さんとはどういう話をしましたか?

花江:ヴァニタスは、オーディションで演じた雰囲気のままで大丈夫でした。ただ、第1話はちょっと敵っぽい感じで登場するんですよね。ノエからすると、急に窓から飛び込んできて襲ってくるヤツという見え方なので、僕も若干悪役っぽく演じていたんですけど。とはいえ、ヴァニタスは吸血鬼の専門医であり、彼らを治療するためにやってきた人物。「そういう部分は残しつつ、なおかつ何も知らない人から見ると悪にも取れるように」というディレクションがありました。

──なかなか難しいですね。演じるにあたって、「ここだけはブレちゃいけない」という部分はどこでしょう。

花江:自分の目的に関することはブレないようにしています。とはいえ、目的のためには手段を選ばないし、突拍子もないこともする。そこはちょっと難しかったですね。

──ノエはいかがでしたか?

石川:僕は、ノエみたいな役に慣れていないのもあって、台本をがっつり読み込んで収録に臨みました。でも、ノエはなにか物事が起きた時に先々のことまで考えるわけではなく、その場その場で言葉を発するタイプ。そこについては、かなりディレクションをいただきました。「考えすぎ」「物語がわかりすぎ」って。ノエの場合、今この場で起きたことに対する疑問を口にしているのであって、相手や物事に向き合っているわけではない。そういったすり合わせは、じっくり行いました。

──おふたりの掛け合いの中で生まれた演技、おふたりならではの空気感みたいなものはありましたか?

花江:ヴァニタスとノエは、あまり噛み合わないふたりです。なので、距離感やテンションはあまり気にしなくていいのかなと思いました。そんなに意識しなかったよね?

石川:話速(発話速度)も全然違いますしね。

花江:ヴァニタスはかなり強引に話を詰めるし、ノエも頑固なところがある。その噛み合わなさやぎこちなさが、ふたりの関係性の面白さでもあるので、あまり相手のペースには合わせなかったかな。

石川:そうですね。

──ヴァニタスとノエの関係性については、どうとらえていますか?

花江:悪友的な感じ? ヴァニタスは「もうついてくるな」って感じでツンケンしてますけど、お互いに助けることはある。ヴァニタス的には、ノエは都合のいい男……?

石川:間違いない。

花江:ただ、そういう感じだよね……と思っていたら、意外といい感じになってきて。信頼関係がだんだん築けてきてるぞ、みたいな感じですかね。

石川:僕は、利害関係の一致なんじゃないかなって思います。噛み合わないところはあるけれど、利害が一致しているから行動をともにしている。演じ手としては、そこはずっと変わらないですね。

ヴァニタスの手記

ヴァニタスの手記

ヴァニタスの手記

ヴァニタスの手記

吸血シーンは、普通に恥ずかしいですよ……?(笑)(石川)

──冒頭でもお話が出ましたが、アニメでは難しい専門用語を文字ではなく音で理解してもらわなければなりません。その点で難しさは感じませんでしたか?

花江:確かに、音でパッと聞くと「何だろう、今の言葉」となってしまうんですよね。特徴的なワードや専門用語は立たせて、わかりやすく伝わるように意識しています。脚本もその点に気を遣っていて、例えば「境界」を「狭間」に言い換えているんですね。多分「教会」とごっちゃにならないように、言葉を変えているんだと思います。

石川:ヴァニタスは、難しい用語が多いから大変そう……。

花江:頑張って伝えなきゃって思いますね。

石川:ノエは語彙力がそこまでないので(笑)。視聴者の方と同じ目線で、難しい言葉を聞く立場なので、あまり意識することもないですね。逆に、ヴァニタスは禍名(まがつな)も読むし、セリフを通して用語の解説もするし、「あー、大変そう」と思いながら見ています(笑)。

──個人的には、石川さんが「ヴァニタス」と言う時、毎回きちんと「V」の発音になっているのがすごいなと思います。

石川:「バニタス」になっていると、ディレクションされるんです。「ヴァ」にしてくださいって。監督から聞いたのですが、僕がノエを演じることになったのは「一番自然に『ヴァニタス』と発音していたから」という理由もあったらしいんですよね。

花江:え、そこ!?

石川:僕、「ヴァ」と「バ」に勝手にこだわっていた時期があって。ちょうどその頃にオーディションを受けたんです。だから、確かにそこはこだわりのポイントかもしれないですね。今はそこまでこだわってないんですけどね(笑)。

花江:ヴァニタスが大変だったのは、3行以上の長いセリフがすごく多いことかな。3行以上あると、けっこうしゃべってるなって僕は思うんですけど。

石川:確かに、3行のセリフってけっこう長いですよね。

花江:視聴者の方にどう聴こえているかはわからないですけど、台本だとそれなりに長く感じるセリフが多くて。それでも、原作からカットされている部分もあるので、その分量の中で伝えるべきことを伝えなければいけないという大変さはあります。

──このインタビューは第10話が放送された後に公開されます。ここまでで、印象に残っているシーンやセリフはありますか?

花江:たくさんありますね……。ヴァニタスとノエが、バディとしてだんだん信頼を深め合っているので。ふたりが言い争いから仲直りする時計台のシーン、それ以降のお互いを信頼して行動するシーンは印象に残っていますね。ワンクール通して見た時に、ふたりの変化が感じられるんじゃないかと思います。

──強烈な出来事があって信頼が深まったというより、ともに行動するうちに徐々に信頼感が芽生えていったという印象でしょうか。

花江:強烈な出来事が多すぎて、逆にそれを強烈と感じなくなっているのかも(笑)。

石川:同胞や仲間が死んでしまったり、殺されそうになったり。大きいことの積み重ねばかりで、小さな出来事なんてなにひとつありませんから(笑)。フィクションだから小さいことのように感じるかもしれませんが、現実として考えるとすごい事件の連続ですよね。

──石川さんは、どんなシーンが印象に残っていますか?

石川:ローランが、今まで信じてきたものをポジティブに覆していくところが面白いなと思いました。ヴァニタスとノエの関係の変化も面白いですが、ローランが第10話で自分の価値観を変えるのが印象に残っています。若干遠回りしましたけど。

花江:若干(笑)? 

──話数が進むにつれて、キャラクターも増えていき、関わりも深まっていきます。気になるキャラクターはいますか?

花江:やっぱりジャンヌですね。ヴァニタスとの関わりも深いですし、最初は「業火の魔女」として登場するじゃないですか。感情のスイッチが少ない殺戮マシーンなのかなと思いきや、ヴァニタスに翻弄されていく姿がかわいらしくて、とてもいいですよね。吸血シーンもかなりセクシーで。単純にジャンヌみたいなキャラが好きなので、登場するとうれしくなります。今後のヴァニタスとの展開も楽しみですね。

──ギャップに魅力を感じるのでしょうか。

花江:ギャップもそうですし、見た目もすごく好きです。水瀬(いのり/ジャンヌ役)さんの演技もいいですよね。

石川:いいですねー。

花江:普段、水瀬さんがあまり演じることのなそうなタイプで。

石川:僕がこのタイプの水瀬さんを見たのは、「魔法少女リリカルなのは」シリーズ(『ViVid Strike!』フーカ役)以来です。

花江:とっても新鮮でいいなと思いました。

──ご本人も「守られるようなポジションの役が多くて、自らが盾になり守る戦士的な役割の女の子は、初挑戦になると思います」と言ってました。

花江:どんどんやってほしい。息遣いが素晴らしいんですよ。

石川:この“いのりん”は強いぞ。今度、ふたりで突然「いのりん」って呼んでみませんか(笑)?

花江:絶対気持ち悪がられるでしょ(笑)。

石川:それはそれでうれしいじゃないですか(笑)。

──石川さんが気になるのは?

石川:ドミです。かわいいですよね! これまでは、それこそジャンヌみたいな純粋なキャラが好きだったんです。もちろん今も好きですけど、最近はちょっと強気にふるまってる女性が見せるギャップにやられがちで(笑)。普段は強気なのに、吸血される時には耳が真っ赤になりますし、実は一番闇が深いし。そういうギャップにやられてます。男の子ですけど、下地(紫野)さんが演じるルカもかわいいですよね。ジャンヌのことをすごく大切に思っているのが伝わってきて。

──そう言えば、水瀬さん・下地さん・茅野(愛衣/ドミ役)さんの鼎談では、「石川さんの吸血シーンがすごい」と盛り上がっていました。

石川:えー、よかった! 僕、茅野さんにはそれこそ10代の頃からずっとお世話になっているんです。お姉さんのような存在なので、吸血シーンでは「はは、子どもが頑張っておるわ」と思われているんじゃないかと思っていました。そう言っていただけるのはうれしいです!

──「吸い慣れてそう」って言ってましたよ。

石川:吸い慣れてる!? そんなに吸血鬼役やってないのに……。

花江:僕も吸うシーンはやってみたかったです。ヴァニタスは吸われることしかないから。

石川:ノエは吸うし、吸われるし。

花江:いいね、二度おいしい。お得だよ(笑)。

石川:でも、普通に恥ずかしいですよ……(笑)?

──完成したアニメをご覧になった感想は?

花江:とてもきれいですよね。そもそも原作が全編色つきで読みたいくらい美しいんですけど、アニメでも原作の雰囲気が損なわれることなく表現されていて。特に蒼の色使いがとてもきれいで、何回も見直したくなる映像だなと思いました。そこに梶浦(由記)さんの音楽が乗るとさらにリッチになり、雰囲気もぐっと増すんですよね。すべてがひとつになった映像を見て、アフレコの時とは全然印象が変わりました。

石川:水瀬さんがジャンヌのような守る側の役を演じたり、茅野さんが勝気に見える女性を演じたり、一見意外そうなキャスティングも魅力ですよね。かと思えば、先生役を演じていらっしゃる石田彰さんのように、僕らからしても「この方しかいないよね」というキャスティングも。僕は声のつき方がとても気になるので、今後登場するキャラクターもどんなキャスティングか楽しみです。

──1クール目はもうすぐ放送が終わりますが、今後の見どころや2クール目に期待することをお聞かせください。

花江:まだまだ謎になっている部分も多いですよね。まずは、1クール目でしっかり謎を提示して、キャラクターたちを好きになってもらいたい。そうすると、2クール目でどんどん謎が明かされていくのが気持ちいいんじゃないかと思います。あとは、当初は敵対していた仲間と共闘する展開もあるので、そこも楽しみですね。

石川:シャスールの基地潜入編が終わり、物事が解決したと思いきやまだ謎は残っています。さらに事件もどんどん起きるので、どんな人物がどういう関わり方をするのか楽しみにしてほしいです。すでに登場しているキャラクターやその過去も、ここからどんどん深掘りされていくのでぜひ楽しみにしていただければと思います。

取材・文=野本由起



TVアニメ『ヴァニタスの手記』公式サイト

花江 夏樹(はなえ・なつき)
アクロス エンタテインメント所属。2011年、声優デビュー。TVアニメ『東京喰種』の金木研役、『四月は君の嘘』の有馬公生役で注目を集め、第9回声優アワード新人男優賞を受賞。2016年~2020年、TV番組「おはスタ」でメインMCを務める。2019年に放送が開始したTVアニメ『鬼滅の刃』で竈門炭治郎役を演じ、2020年、第14回声優アワード主演男優賞を受賞。

石川 界人(いしかわ・かいと)
プロ・フィット所属。2012年『あの夏で待ってる』でアニメデビュー。2013年4月にTVアニメ『翠星のガルガンティア』のレド役で初の主役を演じる。2014年、第8回声優アワード新人男優賞を受賞。近作に『盾の勇者の成り上がり』岩谷尚文役、『ハイキュー!!』影山飛雄役など。

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