「モテ」から解放されて、さらに高みへ!『そねみん』作者・まずりんが語る今後の野望

マンガ

更新日:2021/9/29

そねみん そねみの森のなかまたち
『そねみん そねみの森のなかまたち』(まずりん/KADOKAWA)

 かわいい森の動物(?)たちが、セレブ妻やキラキラ女子への「妬み(ねたみ)」「嫉み(そねみ)」「僻み(ひがみ)」をぼやき合う。そんなかわいさと“毒っ気”のバランスが秀逸で、連載中から大反響を呼んでいた漫画『そねみん そねみの森のなかまたち』(以下、『そねみん』)が、待望の単行本化! 9月24日(金)に発売される。

 作者のまずりんさんは、前作『独身OLのすべて』で多くの女性たちの共感(叫喚)を集めた、まさに“あるあるの名手”。今作の『そねみん』にも、思わず「わかる〜!」と叫びたくなるエピソードが多数散りばめられている。さらに、それがギャグ漫画に昇華されているので、読むとスカッとした気分になれるのだ。

 ゲラゲラ笑えてストレス発散にもなる。そんな作品を生み出してくれたまずりんさんに、制作秘話やご自身のこと、そして今後の野望についてもインタビューしてきた。

(取材・文=近藤世菜)

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そねみんたちのモデルはドリフの「雷様」だった!

——まずはやっぱり、『そねみん』が生まれたきっかけを教えてほしいです!

まずりんさん(以下、まずりん):編集さんと新連載の打ち合わせをしたとき、すぐにアイデアが出てきたんですよね。子どものころ、『ドリフ大爆笑』の「雷様」のコントが大好きで。あんなふうに、登場キャラクターがずっとしゃべってるだけっていう話を描いてみたかったんです。

——だからメインキャラクターは「雷様」と同じく3匹なんですね! ちなみにキャラクターデザインはどうやって決まったんですか?

まずりん:デザインより先に、「ねたみん」「そねみん」「ひがみん」って名前が決まったんですよ。もちろん由来は「妬み(ねた)」「嫉み(そね)」「僻み(ひが)」です。とにかく「かわいいもの」が描きたかったので、動物をモチーフにしました。ねたみんだけは2つデザイン案があって。キツネっぽい感じにしようかとも思ったんですが、いろいろ設定が広がりそうなので“おばけ型”を採用しました。

『そねみん そねみの森の仲間たち』p.7

——たしかに、作中で明かされるねたみんの裏設定には驚きました! 読者のみなさんには単行本を読んで確認していただくとして……。グッズ化できそうなほど、かわいい見た目の3匹が毒を吐いたりぼやいたりするという絶妙なバランスがいいですよね。

まずりん:私、かわいいものしか描けない呪いにかかってるんです(笑)。でも人間性がひねくれてるから、隠しきれない毒がにじみ出てきちゃうんですよね……!

——ちょっと反応しづらいですが……(笑)。ところで、前作の『独身OLのすべて』から引き続き、『そねみん』にも誰もが共感する「あるあるエピソード」が多数散りばめられていますが、ネタ収集の方法を教えてください。

まずりん:やっぱり飲み屋さんがいちばんですね。コロナ禍以前はよく飲み屋さんに通っていたんですが、ひとり酒なので自然と周りの話が耳に入ってくるんですよね。だから、それをネタにすることが多かったです。でも、もし自分が逆の立場だったらと思うとゾッとします(笑)。私なんか酔っ払うと下ネタを言っちゃうので、誰かにネタにされてたらどうしよう……! 

——たしかに酔っ払ってるときの自分の言動って恐ろしいですよね……! ちなみに実体験をネタにしたりはするんですか?

まずりん:しますよ! 『そねみん』の中に、OLさんが酔っぱらいのおじさんにからまれてお説教される話がありますが、まさに私の実体験です。ムカつきましたけど、「ネタにしてやる!」と思って我慢しました(笑)。

『そねみん そねみの森の仲間たち』p.44

——それにしても、飲み屋さんでのネタ収集がメインだと、コロナ禍ではけっこう大変そうですね……!

まずりん:そうなんですよ。連載の途中からコロナ禍に突入してしまって……。担当編集さんがリモートで打ち合わせをしてくれてたんですけど、ぜんぜんネタが出てこないんです。たぶん、コロナウイルスへの憤りが大きすぎて、日常のささいな怒りに気付かなくなっちゃってたんだと思います。毎回なんとかひねり出して、無事に最終回を迎えられました。

——ネタの収集にSNSは活用されますか?

まずりん:そねみんがやってるような“キラキラ”アカウントは、見てると楽しいですよね。食べ物の写真のはしっこに、ハイブランドのお財布がチラッと写り込んでたり。遠回しに自慢してくる感じがおもしろいです(笑)。

『そねみん そねみの森の仲間たち』p.31

自分の「妬み(ねた)」「嫉み(そね)」「僻み(ひが)」は作品に描いて浄化する

——作中で3匹は、名前のとおりいろいろなことに難癖をつけていますが、まずりんさん自身が「妬み(ねた)」「嫉み(そね)」「僻み(ひが)」を感じることはありますか?

まずりん:個人的に引っかかるのは、作中でも触れた「ていねい人(びと)」ですね。シンプルな暮らしを感じさせる、オシャレな写真をSNSにアップする人たちのことなんですけど、実際に写っている商品を調べると、ものすごく高価だったりとか。「あ、コレ“ていねいかつ上質なマウント”だわ」って思いますね。完全に僻み(ひが)ですけど(笑)。あと、飲み屋さんで出会った「羽振りのいい男性」が、自分で稼いだお金じゃなくて、親が経営しているマンションからの不労所得を使っているのを知ったとき、結局それかよって思いました(妬)。

『そねみん そねみの森の仲間たち』p.85

——いい感じに毒が出てきましたね(笑)。

まずりん:でも、以前に比べるとだいぶ角が取れてきてはいるんですよね。実家に帰るたびに、家族にも「性格が丸くなってる」と言われるくらいなので。

——そうなんですね! なにか丸くなるきっかけのようなものはあったんですか?

まずりん:前作の『独身OLのすべて』で、自分のなかの「妬み(ねた)」「嫉み(そね)」「僻み(ひが)」は描ききってしまったんだと思います。あの作品は、ほとんどすべて自分の実体験や感じていることをネタにしてましたから。正直、ネームを切るのが本当に苦しかったんですよね。自分の暗い部分と向き合わないといけないので、どうしても憂鬱になってしまって……。それに比べると『そねみん』は、すごくやすらかな気持ちで描けました(笑)。

——作品に描くことで、後ろ暗い感情が解消されたわけですね。

まずりん:本当にそうだと思います。あのころは、恋愛や結婚を「しないといけない」ことだと感じていて、だからどうにかしてモテたかったんですよ。そういう気持ちが浄化されたので、『そねみん』には恋愛エピソードはまったくと言っていいほど出てきません(笑)。私自身、色恋に関することで頭を悩ませることもなくなりましたし、フィールドが一段上がった感じです! これから肉体的には衰えていく一方ですが、精神的にはどんどん高みに昇っていきたいですね。

——「描いて、浄化されて、高みに昇る」って、素晴らしいループだと思います。

まずりん:そうですよね。ただ、周囲から“迷惑な人”だと言われたくないので、周りの意見を聞くことも大切にしようと思います。そねみんとひがみんはこのままいくと“迷惑な人”になってしまいそうですが、ねたみんがたしなめてくれるかな(笑)。そういう、たしなめてくれる友達がいるといいですよね。

『そねみん そねみの森の仲間たち』p.99

夢はギャグ漫画で子どもたちに「毒を与える」こと

——次回作の構想があれば教えてください!

まずりん:やっぱり「かわいいもの」が描きたいですね。私、「かわいいもの」が大好きなんですよ。だって、「シルバニアファミリー」の公式アンバサダーを務めてるくらいですから! 子どものころは、憧れがありつつも持ってはいなくて、大人になってからすっかりハマってしまいました。今は、赤ちゃんだけでも100匹以上集めてます。家具を揃えたり、かわいい写真を撮ったりしているうちに、自分のなかの子ども心がすごく満たされるんですよね。

——なるほど……! ということは、もう「毒」は封印ですか?

まずりん:いや、それは隠しきれないので、自然と出てきちゃうと思います(笑)。実は、私には叶えたい夢があって、子どもたちに「毒」を与えるようなギャグ漫画を描きたいんです。私自身、子どものころに岡田あーみん先生の『お父さんは心配症』や『こいつら100%伝説』を読んで育ったので。王道の少女漫画よりギャグ漫画を好む子って、私と同じくクラスのすみっこにいると思うんですよ。いつか、そういう子が笑ってくれるような作品を描けたらいいですね。ぜひ『りぼん』や『なかよし』で連載したいので、関係者の方からの連絡をお待ちしています(マジで)。

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