共同制作だから実現できたクオリティ──TVアニメ『takt op.Destiny』MAPPA・MADHOUSEプロデューサー鼎談

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公開日:2021/11/3

takt op.Destiny
TVアニメ『takt op.Destiny』テレビ東京系6局ネット・BSテレビ東京にて、毎週火曜24時より放送中 (C)DeNA/タクトオーパスフィルハーモニック

『takt op.(タクトオーパス)』は、DeNAとバンダイナムコアーツによる新規メディアミックスプロジェクト。クラシック楽曲をモチーフに、その力を宿して戦う少女「ムジカート」と彼女たちを率いる指揮者「コンダクター」の物語が描かれていく。現在、TVアニメ『takt op.Destiny』が放送中で、今後はスマートフォンゲーム化も予定されている。

原作は、「サクラ大戦」シリーズで知られる広井王子氏。キャラクターデザインにLAM氏を起用するなど、豪華クリエイターの参加も話題を呼んでいる。アニメは、MAPPAとMADHOUSEの共同制作だ。

そんな一大プロジェクトを、クリエイターやキャストへのインタビューを通して深掘りしていく特集企画がスタート。今回はクリエイターにスポットを当て、TVアニメを共同制作するMAPPAとMADHOUSEのプロデューサー陣に話を聞いた。登場するのは、MAPPAの木村誠氏、川越恒氏、MADHOUSEの福士裕一郎氏。ピアノ演奏とバトルという難度の高いシーンを盛り込みつつ、どのようにして作画のクオリティを高めていったのか。熱量高いスタッフをまとめる3人に語っていただいた。

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音楽とアクションという、ひとつの要素でも大変なのに、両方入っています(木村)

──木村さんはプロデューサー、川越さんと福士さんはラインプロデューサーとして『takt op.Destiny』に関わっているそうですが、そもそもTVアニメにおいて、プロデューサー、ラインプロデューサーはどういった役割を担っているのでしょうか。

福士:ラインプロデューサーは、制作現場を管理する仕事です。『takt op.Destiny』で言うと、DeNAから企画書をいただき、映像を納品するまでのスタッフ管理、スケジュール管理を行うのが主な役割です。そこから監督が表現したいことを、決められた予算内、スケジュール内に収まるようにしてお客さんに届ける仕事ですね。細かいところでの調整やトラブル対応などがよくあります(笑)。

川越:僕も福士さんと同じ役割です。福士さんはMADHOUSE側、私はMAPPA側でスタッフの手配をまとめています。

木村:プロデューサーは、よりビジネス的な立場で作品に関わります。監督に企画を持ちかけたり、プリプロ(プリプロダクション。企画書をもとに脚本、設定など、アニメーション制作に必要な素材を準備すること)を作ったりという制作に携わりつつ、営業や完成した作品をどう売っていくかというビジネス的なことを考えて動いています。

──TVアニメでは、複数のスタジオによる共同制作は珍しいですよね。そもそもなぜ共同制作することになったのでしょう。

福士:簡単に言うと、MAPPAとMADHOUSEは創業者が同じ会社なので、遺伝子が一緒だったのでしょうね(笑)。

川越:大きい理由はそこですよね。MADHOUSEを立ち上げたのは、丸山(正雄)。MADHOUSEを退職後に、丸山が設立したのがMAPPAなので。

福士:MAPPAは、2021年に10周年を迎えました。私がMADHOUSEで仕事を始めてから10年以上になりますが、傍から見てもすごいチャレンジを続けている会社だなと思っていて。自分も新鮮な気持ちでチャレンジしてみたくて、ご縁のあったMAPPA社長の大塚学さんに何か一緒に仕事ができないかとお話ししたんです。3年前、食事会の帰り道に話したことだったのですが(笑)、大塚さんはその言葉をしっかり受け止めてくださって。木村さんにも伝えてくださっていたようで、「今回この企画を一緒にやりませんか?」と話を持ち掛けていただきました。それが今回の共同制作のきっかけです。

──スタジオ同士で、横のつながりがあるものなんですね。

福士:情報交換はけっこうしています。

木村:このスタジオで仕事をしていたスタッフが、今度はこっちのスタジオに……ということも、よくあります。

福士:最近はスタッフの社員化が進んでいますが、まだまだフリーのスタッフもたくさんいます。直接面識がなくても、「あのスタジオにはこういう制作の人がいて……」という情報はけっこう把握しているんじゃないでしょうか。

──お互いのスタジオに対する印象は?

川越:実は、僕もMADHOUSE出身なんです。3年ぐらい在籍して、少し業界を離れていたんですが、丸山がMAPPAを立ち上げる時に呼んでもらいました。なので、福士さんのことももともと存じ上げていて。僕がいた頃からすごいタイトルを担当されていたので、勉強させてもらうというか、どういうやり方をされているのか見せていただきたいなという気持ちはありました。MADHOUSEに対しても、ずっと頑張っているスタジオだなという印象でしたね。

──おふたりともMADHOUSEに在籍していた時期があるんですね。

川越:ちょっとだけ時期がかぶっていました。キャリア的には福士さんが先輩です。今回初めて一緒に仕事することになりました。

──木村さんはいかがでしょう。

木村:僕はMAPPAに来る前、フジテレビで「ノイタミナ」(フジテレビ系列の深夜アニメ枠)のプロデューサーをしていました。MAPPAとは『残響のテロル』でご一緒して、クオリティの高い作品を作るスタジオだなと外部の立場から思っていました。その後ツインエンジン(アニメ企画プロデュース会社)に行った時、福士さんとお会いしました。やっぱり業界にいると、同じ業界内で活躍しているプロデューサーの名前が耳に入ってくるんですよ。福士さんがすごいという話は業界中に行き渡っていたので、なんとか一緒にお仕事できないかとツインエンジン時代にお話を持ち掛けたのですが撃沈しました(笑)。その後、いろいろなご縁があってMAPPAに入り、今回DeNAから『takt op.Destiny』のお話をいただいたんです。企画を聞いた時から大変そうだなと思いましたし、「福士さんとご一緒できたら素敵だよね」と社長の大塚と話していて。そこでご相談した次第です。

──やっぱり企画段階から、すでにカロリーの高そうな作品だと思っていたんですね。

木村:音楽とアクションという、ひとつの要素でも大変なのに両方入っていますからね(笑)。

──その必然性もあっての共同制作だったのでしょうか。

福士:私の場合は、「共同制作をやってみたい」という気持ちが先に立っていました。その時はまだ企画の外側しか見ていなかったので、中身のほうは「まだよくわからないけど大変そうだな」くらいの感じでした。とはいえ、作画の労力もMAPPAと一緒なら半分になります。半分に全力を尽くせるので、ぜひやってみたいと思い、やらせていただくことになりました。

──共同制作と言いますが、どのように分担しているのでしょう。

川越:全12話なので、シンプルに6本ずつ半分に分けて制作しています。メインスタッフに関しては、キャラクターデザインやモンスターデザインはMADHOUSE、美術、色彩設計、3DはMAPPAが担当しました。

福士:MAPPAが制作の母体なので、MADHOUSEは現場スタッフをメインに入れさせてもらいました。最初は企画概要しか知らなかったと言いましたが、実は後半にかけて熱い展開があるという話は聞いていて。その時から、包み隠さず「後半の熱い展開をやりたいです」とお伝えしていました。スケジュールに関しても、川越さんが苦しい中調整してくれて、とてもありがたいです。

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曲調によって鍵盤を叩く強さが違うので、演奏を撮影し、譜面をもらって演技をつけていきました(川越)

──DeNAの企画書を読んだ時、どんな面白さを感じましたか?

木村:最初は設定しかなかったんです。ムジカートとコンダクターという設定があって、ゲームもリリースされるということしか決まっていなかったので、シナリオはいちから作っていきました。素敵な設定を生かしてどうドラマを作るか、激論を交わしていきましたね。ゲームのアニメ化は過去にも経験していますが、今回はアニメを先に展開するメディアミックスプロジェクトです。僕らが面白いと思うものを頑張って作り、ある程度自由にやったあとでDeNAにバランスを取っていただきました。

福士:絵に関しても、アニメ制作側で苦労しながら作りました。美術設定設計もいちから世界観を作っていきましたよね。

川越:何もないところから、監督にイメージを出してもらって作っていきました。オリジナル作品ならではの、一から作る楽しさ、難しさがありました。

──原作つきではない、オリジナル作品ならではのやりがいについてお聞かせください。

木村:放送時期が決まっている中で、いちから作りあげていくのでライブ感がありますよね(笑)。原作ものはストーリーが決まっているので、それを立脚点にして映像を作っていきますが、オリジナルはシナリオから作らなければなりません。キャラクターデザインに関しても、LAMさんの絵をベースにしつつ、長澤(礼子)さんにアニメ版のデザインを起こしてもらいました。そこが難しさでもあるし、自分たちがいいと思うものを作れるという楽しさもあります。

福士:オリジナルは考え出すと手が止まってしまいますが、実際にやることは視聴者に喜んでいただく映像を作ることだけかなと思っていて。原作をいただいて、ストーリーを開発して、作った成果物を少しでも多くの方に喜んでいただく。そう思って作っています。

川越:オリジナルは本当に正解がないですよね。監督やスタッフのイメージをどれだけ大事にできるかが、一番難しく、一番やりがいのあるポイントなのかなと思います。

──第1話の放送後は、Twitterでも大反響でしたね。「作画が神レベル」など、演奏シーンやバトルの作画を賞賛する声が数多く見られました。

福士:ありがたい反面、プレッシャーや今後の不安も感じます。でも、やっぱり注目されればうれしくて。どの作品でも同じですが、そういう複雑な思いはありますね。ただ、反響を多くいただけると、関わってくれたスタッフも「やってよかった」と思えるんですよね。今は作画に注目が集まっていますが、今後はストーリー、木村さん肝いりの音楽の良さも届くはず。すでに「SEがすごい」という意見がSNSに書かれていましたが、そういうコメントを見るとスタッフの素晴らしさが届いたんだなとうれしくなります。

──木村さんは音楽プロデューサーも務めています。音へのこだわりをお聞かせください。

木村:今回音楽をお願いした池(頼広)さんは、壮大な曲もジャジーな曲も作れるマルチな方。池さんにお願いできたら、素敵なものができるだろうなと思いました。しかも今回は、演奏シーンなど普段のアニメではやらないこともたくさんあって。ピアノの演奏シーンの撮影協力をしてもらうなど、いろいろ大変な思いをさせてしまいました。

──撮影の協力とは?

木村:ピアノの演奏シーンでは、鍵盤の指の動きを描く必要があります。そこで、池さんにピアニストを呼んでいただき、カメラを入れて撮影して、それを参考にしながら作画やCG制作を進めていきました。

福士:その音が、実際に作中でも使われていますよね。

川越:しかも、ただピアノの音と指の動きを合わせればいいわけではなく、曲調によって鍵盤を叩く強さが違います。それも撮影し、譜面をもらって曲に合うように演技をつけていきました。その点でも池さんに協力をお願いしています。

──その甲斐あって、演奏シーンは素晴らしい仕上がりでしたね。打鍵のタッチも伝わってきました。

福士:演奏シーンが多い話数は、川越さんの仕切りでしたよね。

川越:僕は以前、『坂道のアポロン』という音楽もののアニメを制作したことがあるんです。せっかくもう一度やるならもっとうまくできる方法はないかと模索して、3Dのスタッフに相談したり、作画のプランを試作したりしながら演奏シーンを考えていきました。まだ反省点はありますが、第6話にも演奏シーンがあるので、ブラッシュアップしてもう一段上のものをお見せしたいなと思っています。そもそもアニメは1秒24コマなのですが、曲によっては24コマでは収まりきらないほど音数があるんです。つまり1秒間に24コマ以上指が動いているので、アニメで表現しきれないんですね。それをどう描いていくか、悩みながら演出を考えています。

──実際どうするんですか?

川越:それっぽい絵にします(笑)。

福士:音楽は変えられないので、指の動きで整合性をつけ、違和感が目に残らないように苦労しながら作画しているんですよね。

川越:そのとおりです(笑)。キーになる音は、指の動きでも押さえるようにしています。

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キーワードは“チャレンジ”。20代の若手スタッフを重要なポジションに抜擢しています(福士)

──もうひとつの見どころとして、バトルアクションがあります。

川越:バトルシーンが多い話数は、福士さんの担当ですよね。

福士:最近私はアクション要素の少ない作品を制作することが多かったのですが、「今回は新しいチャレンジをするんだから、スタッフもチャレンジしよう」と一緒に飛び込んでもらいました(笑)。

──コンダクターの指揮に合わせてムジカートが戦うという、少し変わったバトルが描かれています。しかも、同じムジカートでも運命とタイタンでは戦い方が違いますよね。そのあたりの表現についてはいかがでしょう。

福士:武器の設定が大変でしたね。ゲームにも登場するキャラクターは武器の設定がありましたが、アニメから登場するキャラクターは設定もオリジナル。なおかつ、デザインに音楽モチーフを入れるというルールがありました。さらに、武器をどうやって使い、どんなエフェクトにするかというアニメーションの表現も考える必要があります。やりがいを持って臨んでいますが、総じてハードルが高いなと思いました(笑)。

──高いハードルをどうやって越えていったのでしょうか。

福士:越えようと思わないと、越えられないんです。あとは、現場のスタッフにいかにして頑張ってもらうか。私の仕事は、自分で手を動かすというよりはスタッフと連動するものなので。各スタッフの魅力を引き出せるような配置を心がけています。

──スタッフの熱意を感じるエピソードはあれば、お聞かせください。

福士:第1話放送後に、Twitterでスタッフが「参加しました」と発言していたんですね。おそらく自分でも「良い仕事をした」と感じてくれているからだと思います。今回の『takt op.Destiny』は、“チャレンジ”がキーワードです。キャラクターデザインの長澤さん、モンスターデザインの原科(大樹)さんは、TVシリーズではこういったポジションを担当するのが初めての方々。いずれも20代の若手スタッフですが、こうした配置もモチベーションになっているのではないかと思います。

──あえて若手に託したのでしょうか。

福士:若さにはこだわっていないのですが、せっかくの新しい座組だったので。「この人だったら推薦できます」というスタッフを、自信を持って提案し、MAPPAからも快諾していただきました。

──福士さんから、今お名前が挙がったおふたりの魅力を紹介していただけますか?

福士:キャラクターデザインの長澤さんは、とにかく絵の魅力が詰まった方。ひとつの絵として見ても気持ちいい、センスを感じる絵を描く人です。もし「別の方で」と言われたら、もうこの作品は終わりだなと思っていました。

川越:おお!

福士:それくらいの気持ちで、名前を挙げさせていただきました。

──LAMさんの絵を、アニメのキャラクターとしてうまく変換していますよね。

福士:そうですね。アニメとして動かすためには削ぎ落とす部分もありますが、削ぎ落としすぎても絵の魅力が損なわれてしまいます。良いバランスで描いてくれて、ありがたいなと思います。レニー、ザーガン、シントラーに関しては、長澤さんがいちからデザインしています。

──モンスターデザインの原科さんはいかがでしょう。

福士:原科さんは、もうひとりで看板を張れる人だろうなと感じていて。今回キャラクターはLAMさんの原案がありましたが、D2に関しては特にデザインの変換が必要でした。この人ならできるだろうと思い、自信をもって推薦しました。武器をデザインした前並(武志)さんも、とても魅力の強い自分が大好きなアニメーターで、難しい武器デザインに取り組んでくれました。アクションディレクターの岩澤(亨)さんも今回の作品には不可欠な存在で、アクションシーンの質を上げてくれています。他のスタッフも挙げ出したらここでは語りつくせないですね(笑)。

木村:プリプロの段階でも、今回は決定稿が出るまですごく時間がかかりました。オリジナルはもともと決定稿を出すのが難しいんですけど、それにしても改稿が多かった(笑)。「これは面白いね」というものが出るまで監督もOKを出しませんでしたし、時間が限られている中で最大限粘って作りました。良いものを作ろうという熱意は、全スタッフ共通だと思います。

川越:難しいのは最初からわかっていたので、どうやって効率よくスケジュールと予算の条件をクリアしながら作っていくか、手を尽くして考えたつもりです。若手も含め、アニメーターには「頑張ってみない?」とお願いして。最後までうまくいくといいなと思っています。

──お互いが作った話数をどうご覧になっていますか?

川越:普通に「すげーな」と感心しながら観ています。

福士:私は「大変そうだな」と(笑)。演奏シーンもそうですが、普通の芝居も難しいんですよね。それに、川越さんが担当する回も、アクションが一切ないわけではありません。MADHOUSEが担当する回も、演奏シーンが全くないわけではありませんしね。

──今後、期待してほしいポイントは?

木村:序盤は時系列を行き来しながら、タクトとコゼット、運命、アンナのキャラクターの背景を描いています。そうやってセットアップされたキャラが、第5話~第8話でどう変化していくのかが中盤の見どころです。

福士:「すべてが見どころ」という気持ちで取り組んでいますが、盛り上がりのある話数は特に力を入れていきたいです。

川越:僕は先ほどもお話したとおり、演奏シーンが出てくる第6話が課題ですね。

──最後に、今後を楽しみにしている方へのメッセージをお願いします。

福士:違うスタジオによる共同制作作品はそこまで多くありません。一緒に全力を尽くした成果が、今後さらに出てくると思います。制作会社としては2社ですが、いろいろな人に関わっていただいている作品なので、最後まで見届けていただければと思います。

川越:新しいチャレンジが多い作品なので、それが画面にも表れているのではないかと思います。そこに期待していただけたらうれしいです。

木村:最終話に向かうにつれて、制作側にとってもますます大変な話数になっていきます。それに合わせて、キャラクターのドラマもどんどん盛り上がっていきますので、楽しみにしていただけたらと思います。

取材・文=野本由起


『takt op.』公式ポータルサイト
TVアニメ『takt op.Destiny』公式サイト

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