【毒親体験談】元・子どもたちの毒親育ちエピソードと“その後”を描いた実録漫画9選

マンガ

更新日:2022/5/31

【父と娘の毒親エピソード】実録アルコール依存エッセイ『酔うと化け物になる父がつらい』

『酔うと化け物になる父がつらい』(菊池真理子/秋田書店)は、大人になった著者がアルコール外来の取材をきっかけに「父は、アルコールによって壊れたのかも」「自分の家族はおかしかった」と気づいたことで生まれたノンフィクション作品。中学生になる頃には母が自殺、父の酒癖の悪さに振り回され続けた著者が、幼少期から今にいたるまでを赤裸々に実録漫画化している。

『酔うと化け物になる父がつらい』(菊池真理子/秋田書店)
『酔うと化け物になる父がつらい』(菊池真理子/秋田書店)

思い出の父はいつも酔っぱらい、自殺した母は“召使い”

 著者の人生最初の記憶は、夜寝ていると酔っぱらった父親からめちゃくちゃに顔を撫でられ起こされたこと。お花見に出かけた先で恥ずかしいくらい大声でがなる父、朝まで友人と麻雀をして、プールに行く約束を守ってくれなかった父――、著者が思い出す父はいつも酔っぱらっている。

 シラフの時の父は無口で大人しいが、酒を飲むと豹変して手が付けられなくなるのだ。子どもの頃はそんな父が怖くて、著者は母を置き去りにして、妹と自分の部屋に引きこもっていたという。

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 著者から見た母は、父の召使いや酔っぱらった時の介護人。母は宗教に救いを求めるが、精神が安らぐことはなく、著者が中学2年の時に自殺する。

 母の死後、1カ月もしないうちに、父は再び酒を飲み始める。突然化け物になる父と、どう向き合えばいいのか分からない著者。本当は関わりたくないけれど、酔った父はストーブに頭をぶつけたり、湯船に頭を突っ込んで眠ったり…「関わらないとこの化け物は死んでしまう」と感じるようになる。

アルコール依存の毒父を嫌いになれない娘の心境とは

 改めて毒親とは、子どもの成長に悪影響を与える存在を指す。本作は酒に溺れた父との暮らしのなかで、自分の心を見失った著者の経験が描かれている。本作で注目すべき点は、毒であるはずの父を、著者はどうしても嫌いになれないことだ。

 漫画家デビューが決まった時、著者は酔った父から「応援する!」と前向きな言葉を受け取る。こうした酔った父がイヤじゃない日が、時々プレゼントのようにやってくるのだ。

 また、著者は無意識に自分が父みたいな人をかっこいいと思っていることに気づいてしまう。穏やかで、酒やタバコをやらない男性を見ても「つまらない」「男のくせに」とひどいことを思ってしまうのだ。著者は父のように酒を飲み、高圧的に振る舞う男性を恋人に選んでしまう――。

 父の存在が、確実に著者の未来にまで影を落としている。しかし嫌いにはなれない著者の複雑な心境に、共感を覚える人は多いだろう。毒親が子の成長にどんな影響を与えるのか、客観的に考えられる実録作品である。

【父と息子の毒親エピソード】毒親から生還した元・子どもたちを描く実録漫画『毒親サバイバル』

 毒親から生還した有名無名11人の赤裸々な体験談をコミック化した『毒親サバイバル』(菊池真理子/KADOKAWA)。本作は、アルコール依存症の父親との顛末を描いた『酔うと化け物になる父がつらい』の著者が毒親育ちの人を取材し、コミックエッセイとしてまとめた作品である。

『毒親サバイバル』(菊池真理子/KADOKAWA)
『毒親サバイバル』(菊池真理子/KADOKAWA)

 アルコール依存症の親、暴言と暴力の親、価値観を一方的に押し付ける親、お金をむしりとる親、無関心な親…。著者を含む、有名無名の11人が親から受けた傷はそれぞれ違う。自分が親と同じ道を選ばないために、全力で“サバイバル”してきた11人の体験談は、毒親の呪縛から逃れるヒントになるだろう。

肉体的に勝るようになっても息子が父から受けた毒の影響は消えず…

 本作には体験談としてはあまり上がってこない「父と息子」の毒親エピソードがある。ライターの成田全さんは幼い頃、教科書や遠足代など学校生活に必要なお金でも、父に正座で頼みこまなければならなかったという。

 成田さんは父から褒められたことは1度もなく、とにかく否定されてきた。幼い頃は手を出されることもあったが、成長するにつれ肉体的には成田さんが父に勝るようになり、殴られることはなくなったそうだ。

 成田さんが就職すると、両親は離婚する。母も父の態度にずっと我慢してきたのだ。父のいない生活に安心したのもつかの間、父に否定され続けてきた成田さんは職場で人に褒められても「おべっか使って仕事押し付けるのか…?」と素直に気持ちを受け取れないでいた。

 人からの良い評価や感謝を素直に受け止めることができないという毒父の影響は残っていたものの、楽しそうに仕事をしている人たちの姿に影響を受け、成田さんもやりがいのある仕事に飛び込んでいく。

毒親育ちから毒親に悩む人へのエール「捨てちゃいけないのは自分の人生」

 親に苦しむ子どもたちのほとんどは「家族ってこんなもの」「これが当たり前」と思いながら、親の毒に気づいていない。そしてさすがにヘンだと気づき、親と距離を置ける大人になってからも、目に見えない「毒」に悩まされ続けるケースは多いようだ。

 毒親から生還した成田さんのエピソードの締めくくりには、こうある。

世間には人生を楽しんでる人がたくさんいて
楽しんでいいってことも教わりました
だからそうじゃない親の言うことは聞かなくていいし捨てたっていい
捨てちゃいけないのは自分の人生のほうです

 成田さんのなかにある生きづらさのようなものは、父が死んだ今でも、多少は残っているそうだ。しかし時間をかけて少しずつ、自分に自信がついてきているともいう。

 毒親から生還した彼らのエピソードから、傷を負い続けず「自分の人生を生きる」ヒントを探してみてはどうだろう。

【汚屋敷に住む毒母】絶縁もできないヤバイ母との実録漫画『母を片づけたい』

『母を片づけたい〜汚屋敷で育った私の自分育て直し〜』(高嶋あがさ/竹書房)は「毒親ぶり」に加えて、「家の中が汚なすぎる汚屋敷住人」である実母とのエピソードを漫画化した作品。家の中にも、娘の心にもゴミをため込む毒母と決別し、著者が自分なりの片づけ方法を見つけるまでを描く。

『母を片づけたい 汚屋敷で育った私の自分育て直し』(高嶋あがさ/竹書房)
『母を片づけたい 汚屋敷で育った私の自分育て直し』(高嶋あがさ/竹書房)

 著者の家庭は家中をゴキブリが歩き回り、食卓には賞味期限を無視したサイコロステーキ。幼少時はいつも同じ服を着て過ごし、頼みの綱である学校給食が絶たれていた夏休み明けの弟は栄養失調でガリガリに…。

 本作では汚屋敷住人としても、親としても常識が通じない毒母に、著者が苦しめられたエピソードが多数紹介されている。たとえば家を片づけようとすると「勝手に捨てるな!」と激昂されるのは当たり前。別居をした後も週に1度は著者に会いに来て、延々と愚痴を聞かせる。著者の成長や成功をひがみ、暴力を振るう。親の性のことをあけすけに聞かせるなど、さまざまな毒を著者に吐きかける。

 母の異常性やキレると何をするか分からない性格から、著者は今も絶縁をせず、別居するにとどまっているそうだ。

「自分も母と同じ道を辿るのでは…」という娘の恐怖、その対処法は?

 離れて暮らすようになった後でも、毒母の影響がすべて消えたわけではない。そのような環境で育った著者自身、片づけやキレイの状態が分からず成長してしまったのだ。自身の収納下手に直面して、自分も母と同じ道を辿るのでは…と恐怖にとらわれることもあったという。

 本作はそんな悩みに対策を打つべく、著者が試行錯誤しながら自分らしい「片づけかた」を学んでいくという内容にもなっている。小さなゴキブリが入り込んだご飯や、外から見えないようにカーテンを閉め切って暴力を振るいだす母など、幼少期のエピソードは壮絶であるが、全体的にコメディチックに描かれているため、重くなり過ぎずに読める。

 子どもは生まれる環境や親を選べないため、毒親&汚屋敷住人の母親がいることはどうしようもない。しかし著者が自分の収納下手と向き合い、自分らしい片づけ方法を探していく姿は、親は変えられなくても、自分の人生はよい方向に変えられるということを教えてくれる。

 親と子の人生は、まったくの別物なのである。

【毒家族から逃げ出した娘の体験談】家族に苦しむ人へおくる“解毒”コミックエッセイ『ゆがみちゃん』

『ゆがみちゃん 毒家族からの脱出コミックエッセイ』(原わた/KADOKAWA メディアファクトリー)は、著者の毒家族との壮絶な体験を漫画化した作品。家族に苦しむ人へおくる“解毒”コミックエッセイである。

『ゆがみちゃん 毒家族からの脱出コミックエッセイ』(原わた/KADOKAWA メディアファクトリー)
『ゆがみちゃん 毒家族からの脱出コミックエッセイ』(原わた/KADOKAWA メディアファクトリー)

 罵倒や暴力によって、わが子をコントロールする父、兄妹を徹底的に差別し、娘の人格を否定し続ける母、新興宗教を家族に強要する祖母、大人のいない場所で妹をいじめる兄――、著者で本作の主人公・ゆがみちゃんは「毒家族」が支配する家で育つ。

可愛がられて育ったはずの兄はギャンブルに溺れ…

 本作では毒親エピソードに加え、兄と妹・ゆがみちゃんの複雑な関係性も描かれる。ゆがみちゃんと違い、兄は母や祖母から可愛がられ、甘やかされながら育てられた。

 しかしそんな兄は高校に馴染めず休みがちになったり、働かず親からのお小遣いでギャンブルにのめり込んだりする。さらに兄は嫌なことがあると、妹であるゆがみちゃんに八つ当たりをし、暴力を振るって発散しようとする。ゆがみちゃんとは違い、母から甘やかされて育ったはずの兄であるが、心はぐちゃぐちゃに歪んでしまったのだ。

 ゆがみちゃんにとっては兄も毒家族の一員であるが、やはり兄もまた毒親の被害者といえるのかもしれない。

離れて暮らしても「毒親」に苦しめられる毎日、それを救った“1冊”との出会い

 10代で自殺しようとまで追い詰められたゆがみちゃん。しかし父から「この家から出ていけ!」と何度も怒鳴られ、ある日「もう出ていけばいいのでは」と気づく。コツコツと貯金して、毒家族のいない地でひとり働き出すと、世の中にはいろんな人がいて、嫌な人ばかりじゃないと感じられるようになる。はじめて「毎日楽しい」と思える日々がやってきたのだ。

 しかしそばにいなくても、親の毒はまだまだ抜けない。結婚の障壁になったり、電話先で「殺す」と父から怒鳴られたりして、ゆがみちゃんは精神的に不安定になっていく。そして彼に八つ当たりをする自分の姿が「大嫌いなあの親たちと同じではないか」と気づいてショックを受ける。

「頭がおかしい」といわれて育ったゆがみちゃんは、精神科や心療内科への通院に抵抗感が強い。彼女の転機は、書店で見かけた『母がしんどい』(田房永子/KADOKAWA)だった。

 本稿でも紹介したとおり『母がしんどい』は世に毒親という言葉を広めるきっかけになった1冊である。ゆがみちゃんは「なんでこんなに同じなんだろう」と涙があふれだし、最後まで読むと心の歪みが消えていくような感覚になったという。

 毒家族や「それでもあなたの親なんだから」といった一般論に苦しめられてきたゆがみちゃん。これまでの自分を振り返ってみると、そんなに大したことはないと思いこんで、自分の感情にフタをしていたことに気づく。

 こうして自分の体験談がもしかして誰かの役に立つかも、と生まれたのが本作である。本作を作ることで、ゆがみちゃんは改めて自身を振り返る結果となり、「自分は自分」という意味をきちんと理解できるようにもなったそうだ。

 ゆがみちゃんをはじめ、本稿で紹介してきた実録漫画の子どもたちの前には毒親とは別に、何度も「一般論」が立ちふさがり、彼らを苦しめる。そんなに酷い親なら逃げればいいというくせに、「でもやっぱり家族」「親孝行しなきゃ」と親を避ける子のほうがおかしいように言うのである。

『母がしんどい』を読んで、ゆがみちゃんの目に涙があふれたのは、こうした「一般論」という呪縛から解放された側面も大きいだろう。他の人の体験談を知ることが、自分の中にたまっていたものを“解毒”したのである。

 本稿では母と娘をはじめ、父と息子、祖母と孫などさまざまな関係性においての毒親エピソードを取り上げた。自分が置かれている状況に近い体験談を読んでみることで、知らずに親から受けていた「毒」に気づけることもあるだろう。

 毒親問題は、子の我慢だけでは解決しない。毒親から解放され自分らしく生きるための一歩として、元・子どもたちの体験談に耳を傾けてみてほしい。