静かなテンションで紡がれる物語はとてつもなくシュール!『女の園の星』『カラオケ行こ!』…中毒性が高い和山やまマンガ

マンガ

更新日:2021/9/9

 絵柄は繊細でシリアス。それなのに、静かなテンションで紡がれていく物語はとてつもなくシュールで、奇想天外。じわじわした笑いに襲われる。そんな作品を描くのが、今、注目を集めるマンガ家・和山やまさんだ。特に、女子校教師の日常を描き出した『女の園の星』(祥伝社)は、「このマンガがすごい!2021」(オンナ編1位)や「次にくるマンガ大賞2021」(コミックス部門4位)にも選出され、中毒者が後を絶たない。さらには、男子中学生と39歳のヤクザの奇妙な友情を描く『カラオケ行こ!』(KADOKAWA)も「このマンガがすごい!2021」5位にランクインしている。新作が待ち遠しいばかりだが、ここであらためて、和山やま作品をご紹介しよう。ひとたび作品を読めば、あなたもきっとこの独特な世界観にハマってしまうに違いない。

『女の園の星(1)【電子限定特典付】 (FEEL COMICS swing)』(和山やま/祥伝社)

『女の園の星(1)【電子限定特典付】 (FEEL COMICS swing)』(和山やま/祥伝社)

 舞台は女子校。主人公はそこの学校で2年4組の担任を務める国語教師の星先生。天真爛漫な女子高生たちと星先生の、くだらなくて、じわじわと笑えてくる日常を描いた『女の園の星』(和山やま/祥伝社)は、独特の空気感とユーモアセンスで唯一無二の存在感を持つ作品だ。1話完結で、話が進んでいく。この物語には、特段大きなイベントが起こるわけではない。例えば、教師の結婚に沸きたち記者会見のような盛り上がりを見せたり、夜に外で飲んでいる先生を見つけたらSNSでクラス中の生徒に話が広がったり、等身大の女子高生の「いかにもありそう」な日常が描かれている。さらに、星先生が着ているシャツが商店街で3枚セット5000円のような、“どうでもいいかもしれない”情報はたくさん出てくるのだが、肝心の登場人物の人となりはほぼ掴めない。だが、登場人物がミステリアスである故、読者は、彼らがどんな人間なのかと想像せずにはいられなくなり、いつの間にか作品世界へ惹き込まれてしまう。「え? なにこれ?」の連続で、ページをめくる手が止まらない本作。星先生から目が離せない。
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『女の園の星 2 (フィールコミックス)』(和山やま/祥伝社)

『女の園の星 2 (フィールコミックス)』(和山やま/祥伝社)

 和山やまさんの作品の味わいは独特。ひとつの文学作品のように、コマとコマのあいだに「間」が感じられる。文学作品には行間を読んで想像する楽しみがあるが、和山やまさんはそれをマンガで実現してみせる。『女の園の星』(和山やま/祥伝社)の第2巻でもそれは同様。たとえば、小林先生の秘密が明らかになる話は絶妙だ。星先生のクラスの女子生徒・若尾は若いコンビニ店員に惹かれているのだが、ある日、星先生と若尾は、そのコンビニ店員に対し、小林先生が「週末うち来るの?」と話しかける現場を目撃する。直後に小林先生と彼の関係が明らかになるのだが、その前後の間の取り方に笑わされる。独特の空気がこのマンガ全体に立ち込めている。所謂女子校らしい遠慮のなさも、この作品の魅力で、2巻も爆笑必至。「ずっと終わってほしくないなあ」と思えるマンガなのだ。

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『夢中さ、きみに。』(和山 やま/KADOKAWA)

『夢中さ、きみに。』(和山 やま/KADOKAWA)

『夢中さ、きみに。』(KADOKAWA)は、文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞や手塚治虫文化賞短編賞など多くの賞を総ナメにした短編マンガ集で和山さんのデビュー作にあたる。描かれるのは、何の変哲もない男子高校生の日常なのだが、その何気ない日常が狂おしいほど愛おしく感じさせられる。登場人物たちのセンス抜群のやりとりと、秀逸な笑いが最高で、読み終えるのが惜しいとさえ思わされてしまう作品だ。マイペースなお調子者の林くん。大切な人の笑顔を守りたい目高。過去のトラウマゆえに変人を演じる二階堂…。本書を読み始めると、もしかしたら私たちの生活にも実は彼らのような存在が潜んでいるのではと思わずにはいられない。さらに、注意深く読んでいると、さまざまな箇所に、ニヤリと笑ってしまう仕掛けも。ぜひ繰り返し読んで、この本でたくさん心を揺り動かしてみてほしい。

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『カラオケ行こ! (ビームコミックス)』(和山 やま/KADOKAWA)

『カラオケ行こ! (ビームコミックス)』(和山 やま/KADOKAWA)

『カラオケ行こ!』(和山やま/KADOKAWA)は、『女の園の星』とも『夢中さ、きみに。』とも異なるテイストのギャグマンガ。淡々とした作風で描かれるのは、合唱部部長の男子中学生・岡聡実と39歳のヤクザ成田狂児の奇妙な友情(?)だ。「カラオケ行こ!」と見ず知らずの中学生を誘い、歌唱指導をしてほしいと申し出るヤクザは常軌を逸しているし、そんなヤクザに怯えているのかと思えば、歌の率直な感想をズケズケ言ってしまう中学生も只者ではない。最初は突然声をかけてきた狂児にドン引き状態の聡実だったが、次第に自分と対等に接しようとする彼の姿に次第に心を許していく。ギャグマンガとはいえ、この作品には感動のシーンも。読後はまさかの結末にしばらく余韻に浸ってしまった。ぜひこのマンガのもつオリジナリティをあなたも味わってみてほしい。

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 和山やまさんは令和再注目のマンガ家のひとりといっても過言ではない。その人気はとどまることを知らず、『夢中さ、きみに。』がマンガ賞をダブル受賞したのも、初連載『女の園の星』1巻が単行本化したのも、『カラオケ行こ!』が刊行されたのもまだ去年のこと。これからどんな作品で私たちを楽しませてくれるのだろうか。

文=アサトーミナミ

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