天才棋士の日常を妻が描いてみたら大反響。「この漫画、主人公がいいよね」by渡辺明。 『将棋の渡辺くん』インタビュー【後編】

マンガ

公開日:2016/2/27

将棋の渡辺くん
(伊奈めぐみ/講談社)

 渡辺明竜王の妻である伊奈めぐみさんが、棋士と家族の日常を描く漫画『将棋の渡辺くん』。【前編】では、一般的に「普通」と思われていることからはかなりかけ離れた、破天荒な行動や言動が漫画で次々と炸裂していたことに驚いた人も多いことと思う。そこで、渡辺さんがどれだけ凄い棋士なのか説明しておこう!

 渡辺さんは1984年生まれ。15歳で四段に昇段してプロ棋士となり、21歳7ヶ月という史上最年少&最速で九段へ昇段。これまでに将棋七大タイトルのうち4つを獲得しており、中でも七大タイトル戦では名人戦と並ぶ最高位「竜王戦」に20歳で初優勝している。さらにその後、竜王戦で2012年まで9連覇を成し遂げ、最長連覇と最多獲得期数となる10期(2015年にも優勝)の記録を持ち、「永世竜王」の資格(就位は引退後)を獲得、タイトル獲得記録16で歴代6位という棋界トップクラスの実力と人気を誇る棋士なのだ。

…ということで、【後編】です!

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【前編】はこちら
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「読者の方に喜んでもらえるんだったら別に構わない」

――死ぬほど虫が嫌いなのに、死んだネズミをつかむのは平気、ぬいぐるみと一緒に寝て、雲行きの怪しい日に洗濯物を頼んで出かけたのに「ばっちり全部の窓閉めといたから」とドヤ顔されて洗濯物ばびしょ濡れ、家族でスケートに行ったときにはまったく滑ることができずセミのように壁にくっついてた、干支が12あることは知っているものの、絵を描かせてみると5つしかなく、拙い絵と、「たつ」が孔雀、「み」がニワトリという衝撃発言に伊奈さんは震撼…とエピソードに事欠かない渡辺さんです。

子どもの頃に経験があるものは普通にできるんですけど、やったことがないものについては想像がつかないみたいで、アイススケートは感覚がわからなかったみたいですね。干支は毎年わかってないです。子丑寅、くらいまでで、その後は怪しいですね(笑)。あとは家事や育児も最初はまったくできなかったんですけど、最近ちょっとずつできるようになってきてるんです。ここ2年くらいは男性だけの初心者コースの料理教室に通っていて、数カ月に1回くらい料理してくれることもあるんですよ。初心者なので、ハンバーグとか麻婆豆腐、親子丼といった定番のものですけど。

(C)伊奈めぐみ/講談社

――【前編】で真人間になってきている、というのはそういうこともあるんですね。渡辺さんはハマったこと、好きなことにはとことんのめり込むタイプですから、今後はすごい料理を作り始めたりとかするんですかね?

料理に関してはハマってるという感じではなくて、私が漫画を描き始めて忙しくなったので、そういうときに自分で作れた方がいいかな、と思ったみたいです。私にやり方を聞くと叱られると思ったのか、すぐに料理教室に申し込んでました(笑)。

――必要にかられて、だったんですね…ところで渡辺さんは漫画について何かおっしゃってますか?

ブログや漫画に描いて「ダメ」というのはないですね。そういうところは心が広いなと思います。彼自身が漫画好きなので、「読者の方に喜んでもらえるんだったら別に構わない」と言ってますよ。

――それって、自分が漫画になることが嬉しいんですかね!?

いや、特に何も思ってないと思いますけど(笑)。旦那にはちゃんと原稿確認をしてもらっているんです。内容もそうですし、将棋の符号なども載ってるんで、そういうところも確認してもらったりとか。細かい人なので、誤字脱字を見つけたこともありますよ。読んだ感想ですか? それもないです。自分のことが描いてあるだけですから(笑)。

――自分の日常が描かれてるだけ…なんと寛大な(笑)。ネタはどうやって作ってるんですか?

日々「これは使えるかな?」というネタをメモして、それを組み合わせて作ってます。1ページの漫画を描くのに、3つくらいのネタを混ぜる感じですね。漫画なのでオチをつけたりすることはありますけど、内容に関してはほぼすべてあったことです。無いことを描くと、「それはやってない、言ってない」ってチェックがありますから(笑)。ネタはまだあるんですけど、ホントいつまで続くか、という感じですよ。

――お子さんもよく漫画に登場していますが?

息子は私が漫画を描いていることは知ってるんですけど、どの雑誌に載ってるとか、単行本が出たという話は一切してないんです。でも外から噂は聞くみたいで、「お母さん、本出したんだよね? 友達の家で読んできた」って言ってきたり。結構この漫画って、子どもたちも読んでくれてるみたいなんですよ。でも読んできたっていうだけで、何も感想は言わないんですよ。新聞の取材を受けたときも、友達のお母さんが記事を読んで、そのお子さんに話したことをうちの子が聞いてきて、「お母さん、取材受けたの?」って(笑)。

――じゃあこの記事も、どこかで読まれるかもしれないですね。

意外と子どもってネットを見てるんですよね。お友達がiPadなどを持っていたりするので、その子は私のブログを読んでるんですよ。そうするとウチに遊びに来て「あ、これブログに載ってた」って言うのが聞こえるんです。これを買ったとか、ブログに写真を載せてるので。でもウチの息子はブログを見ていないので、何を言ってるのかわからなくて「え?」って感じで。その会話を部屋の外から私がドキドキしながら聞いてます。


将棋の深いネタも入れたりしています

――伊奈さんは主婦としても忙しい毎日と思いますが、いつ漫画を描いているんですか?

朝起きて、子どもを送り出して、午前中は洗濯や掃除をして、昼ごはんを食べてから仕事してますね。でも夕方には子どもも帰ってくるし、夕飯の支度もしないといけないので、3時間くらいですね。あとは夕食後から寝るまでにやったりしています。

――漫画は通常、まず話やネタを考えて、それを「ネーム」という話の内容をコマ割りをしたラフスケッチのようなものを描いて編集者へ送って、それでOKが出ると原稿に鉛筆で下書きして、ペン入れやベタ塗りを行い、仕上げにスクリーントーンなどを貼ったり、はみ出したところなどにホワイトで修正をして完成という作業ですが、連載で一番大変なのはどんなところですか?

私、ネームの段階ってほとんど絵を描かないんですよ。基本的にセリフと説明だけなんです。一番嫌いな作業は下書き。下書きって、一から自分で真っ白なところに描かなきゃいけないじゃないですか? 何をどう描いたらいいか、頭の中のイメージはあるんですけど、それを描こうと思っても上手く描けない。それが悩みですね。こうしたいなぁ、が紙に行かないんです(笑)。これができるともっと楽なんでしょうね。他の漫画家さんはそれがスッとできるんでしょうけど。

――今後はどんな感じで連載を続けていきたいですか?

展開もない漫画なので、そんなに展望もないですね。打ち切られるまでは続けたいと思います(笑)。

――そんなことおっしゃらず! 夏頃には第2巻も出る予定なんですから! では最後に読者の方へメッセージをお願いします。

将棋を知ってる方も、知らない方も、それから子どもからお年寄りの方まで、いろんな方に読んでもらえると嬉しいですね。そういったことも意識して、わかりやすく描いています。将棋を知らない方だと将棋の難しいことはわからないでしょうからなるべく避けて、ただ「将棋マンガ」でもあるので、将棋を知ってる方にも物足りなく思われないよう将棋の深いネタを入れたりしてます。この漫画で将棋に興味を持って「将棋をやりたい」っていう方が増えたらいいですね。

「別冊少年マガジン」連載
将棋の渡辺くん』コミックス1巻好評発売中!

著:伊奈めぐみ
定価:本体800円(税別)
出版社:講談社
第1話が読める! 試し読みページはこちら

取材・文=成田全(ナリタタモツ)