死にたがりの娘とドSな鬼畜ヒーローがお家騒動に立ち向かう! レトロラブロマン『天堂家物語』開幕

マンガ

更新日:2016/4/6


『天堂家物語』(斎藤けん/白泉社)

 昨今、ドSといいつつ実は優しい見守り系男子の多いなか、久しぶりに鬼畜なヒーローを見つけ、ぞくぞくさせられた『天堂家物語』(斎藤けん/白泉社)。「人を助けて死にたい」という死にたがりの少女と、「俺を守って死ね」と有無を言わさず威圧する名門旧家・天堂家の雅人の奇妙な契約関係を描いた時代浪漫です。

 捨て子だった自分を育ててくれた老人を亡くし、天涯孤独となった主人公の少女。「とにかくできるだけ多くの人を助けたい、人を助けて死ねばじっちゃんは喜んで自分を迎えてくれるはず」という彼女が助けたのが、川に身を投げた伯爵令嬢・鳳城蘭。天堂家に嫁入りするくらいなら死んだほうがまし、という蘭の代わりに天堂家に赴いた少女は、けれど、速攻で婚約者の雅人に偽物だとバレて吊し上げられます。その後、刺客を返り討ちにした体術を見込まれ、蘭が見つかるまで身代わりを務めることを雅人に強要されるのですが、この男がまあ、なかなか歪んでおりまして。

 家に帰りたがる少女を諦めさせるため、思い出詰まった家と畑を焼き尽くすわ、じっちゃんの位牌を踏みつけにするわ、「俺を守って死ね」と押し倒すわ、少女に対する言動は正直悪役そのもの。……なのですが、不穏な噂の絶えない天堂家という檻の中で、一人何かと戦い続ける雅人が、少女のまっすぐで健気な姿に絆されていくのが読みどころのひとつ。というか、「こんな妙ちきりんな阿呆娘、どうとでも丸め込めるし利用してやる」と思っていただろう雅人が、案外一筋縄ではいかない少女になんだかんだと振り回されて、逆に掌で転がされている姿が見物、というほうが正しいかもしれません。

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 どうにかして自分を求めさせたい雅人に対し、じっちゃんと死ぬこと以外にまったく興味のない少女。思い通りにならなければならないほど、雅人は少女への執着を深めていき、少女もまた雅人と触れ合う時間を増やすことで執着――生きる意味を見いだしていくのです。その2人の掛け合いは、可愛らしくもあり、おかしくもあり、そして切なくもあります。

 2巻では少女にちょっかいを出そうとする謎の男が登場したり、本物の蘭が見つかったら雅人の傍にいる必要はなくなると気づいた少女がわずかに動揺したり、2人の関係性もほんの少し深まります。「俺を守って死ね」というのも、かなり歪んだプロポーズじゃなかろうかと思ったものですが、2巻最後のあのセリフもまあ、なかなかの歪みっぷりでございました。でもその歪みにときめいてしまうから、不思議なものですね。雅人をとりまく天堂家の謎も少しずつ明かされ……そうになったところで待て次巻! となってしまったので、少女とともにお座りして待機していようと思います。

文=立花もも