イヤホンの常識を捨てて成功した「エレコム」―競合他社を圧倒する「違い」のつくり方

ビジネス

2016/4/15


『すごい差別化戦略 競合他社を圧倒する「違い」のつくり方』(大崎孝徳/日本実業出版社)

 競合の多い業界は、いつも同業他社に真似されることを恐れているように思われている。しかし、実際には真似されることを恐れない会社もある。それは、他社が真似しようとしても真似しきれない強みを持っているからだ。今回は、ブームに乗って他社の真似をしたり、低価格戦争に飲み込まれたりしないようにするためにはどうしたらよいかがわかる『すごい差別化戦略 競合他社を圧倒する「違い」のつくり方』(大崎孝徳/日本実業出版社)を紹介したい。

セオリー通りにやっていたら競争に勝てない時代

 現代の消費者は既に多くの物を持っている。だから、本当に欲しい物が妥当な価格で売られているのでなければまず買わないと思った方がいいだろう。サービスもしかりで、要らないサービスをわざわざお金を出して受けることはない。しかも、ネット社会である現代は、近所の店でしか買い物ができなかった時代とは違う。今では家に居ながら北海道や沖縄の物でも手に入れられるのだから、売る側にとっても全国を相手にすることになる。扱う物によっては、全国どころか世界を相手に商売をすることになる。だから、ライバルと言える存在は昔よりも格段に増えている。

 そんな中でセオリー通りのことをやっていたら通用しない。「こうすればこうなるだろう」と当たり前のことを考えて商売をしたらどうなるか? 同じことは当然ライバルも考えているのだから、売れたとしても同じ客を取り合うことになるだけだ。だから、他との明らかな違いを作る必要がある。

当たり前のこだわりを捨てて成功したイヤホン

 音楽を聴くためのイヤホンを扱う企業は、音質の良さを競ってユーザーの取り合いをしてきた。もちろん、形状や軽さを考えながら商品開発をすることはあったが、それでも商品作りの中心には「音の良さ」があった。だからこそ、クラシック向けのイヤホンや、アニメソング専用のイヤホン、骨伝導式のイヤホンなど、各メーカーは「音」で熾烈な競争を続けてきたのだ。ところが、あるとき、エレコムはこれまでには無いターゲットに向けてイヤホンを開発し始めた。音よりもデザインや色柄にこだわった「女性向け」のイヤホンだ。音よりも見た目を重視したから、売るのも雑貨店。「イヤホンは音が大事」というこれまでの常識を無視したために、ライバルの無いところに商品を置くことができ、新しいユーザーを獲得することになったよい例だ。

マッサンと大将の差が生んだものは?

 この本の中では、ニッカウヰスキーのブランド戦略についても取り上げられている。その際、2014年9月から放送されたNHK朝の連続テレビ小説『マッサン』の登場人物、ニッカウヰスキーの創業者である竹鶴政孝氏(マッサン)と、サントリーの創業者である鳥井信治郎氏(大将)の考え方の違いでブランドに差が生まれたことを述べている。顧客の満足度を優先する大将の考え方は、マーケティングのセオリーを重視したら正しく、当時の日本人の口には合わないスモーキーフレーバーの本場スコッチウイスキーにこだわったマッサンは間違っているということになる。しかし、差別化戦略という面ではマッサンに軍配が上がる。従来の日本のメーカーに多い「顧客のニーズに合わせる」という考え方を貫くと、高いレベルで合格点をもらえる商品やサービスは提供できても、そのレベルで止まってしまう。真の意味でのブランド確立をし、高い顧客満足度を得られるロイヤリティを獲得するためには、一見間違っていると見える行動も必要だという証拠がここにある。

簡単には真似できない方法を思いついた企業が強い!

 この本では、他にも多くの企業の成功例と失敗例が挙げられている。例えば、真似されやすいパン業界の中で、フジパンの本仕込みは簡単には真似されない差別化を成功させた例として、山崎製パンのランチパックは他に真似されてしまった例として挙げられている。一見ランチパックの方が流行に乗ったように思えるが、真似が容易で、他社でも簡単な設備投資で同じことができてしまう。しかし、本仕込みは手作りのパン屋と同じ製法を取るために設備を入れ替えるというリスクを伴って成功させた例だ。そのため、他社が真似しにくい。

 他にも、レンズそのものでは差をつけにくいコンタクトレンズ業界で、安心して使い続けられるサービスを売ることで他社に差をつけたメニコンのメルスプランの例や、POSで成功したセブン-イレブンにあやかろうと多くの小売店がPOSに頼ろうとする中、依存し過ぎないという差別化を図ったヴィレッジヴァンガードの例なども興味深い。既に物が飽和している社会だからこそ、会社の規模にかかわらず、他にはない商品やサービスをいかにして提供するかを考え尽くせた会社が最後に生き残ることになるのだろう。

文=大石みずき