「誰かの特別になる」ってどういうこと? 一筋縄ではいかない少女同士の恋を描いた『やがて君になる』【著者・仲谷鳰さんインタビュー】

アニメ・マンガ

2016/5/6

『やがて君になる』(仲谷鳰/KADOKAWA)1巻&2巻

 誰かを特別に想う――。ごくシンプルなこの感情を丁寧に描いた、『やがて君になる』(仲谷鳰/KADOKAWA)。本作は、女の子同士の間に芽生える“特別な感情”をテーマにした作品だが、誰もが共感できる“恋の痛みや喜び”を丁寧に描いているため、恋愛マンガ好きの人にぜひ読んでもらいたい作品だ。それを裏付けるように、第1巻が発売されるやいなや重版が決定し、多くの読者からの支持を証明した。しかも、Amazonには今後の展開を期待する読者からのコメントが多数寄せられる熱狂ぶり。そこで、4月27日(水)に待望の第2巻が発売されたことを記念し、著者である仲谷さんにインタビューを敢行。本作の魅力について深掘りしてみた!

誰かの特別になる、ということ

 本作は、高校に入学したばかりの小糸侑と、生徒会役員である七海燈子との恋愛を丁寧に描いた物語。なりゆきで生徒会を手伝うことになった侑が燈子と出会い、少しずつその距離を縮めていくさまが描かれている。

仲谷鳰さん(以下、仲谷)「元々、商業で描かせていただく前に、女の子が大勢出てくる作品の二次創作の同人作品を描いていたんです。でも、私自身は特に百合とは意識せずに人間関係を描いているつもりだったんですけど、登場人物が女の子だらけなので周囲からは百合を描く作家だと思われていて。それで、一度恋愛を全面に打ち出した作品を描いてみようかなと思っていたところに、タイミングよく声をかけていただいて、本作を描くことになったんです」

「少女漫画やラブソングのことばは、わたしのものになってはくれない」という独白からわかるように、侑は“誰かを好きになる”“特別になる”という感情がまだ理解できていない。そういった感覚は仲谷さん自身も持っているものなのだろうか。

仲谷「そこまで極端ではないものの、そういった気持ちはわかりますね。ただ、好きという感情はわかる・わからない、のふたつにきっぱりわけられるものでもなくて、人の感情ってグラデーションみたいなものだと思うんです。それは時期やタイミングによっても移り変わっていくんじゃないかなって。だから、わかる人にもわからないという人にも、どちらにも共感していただけるように意識して描いています」

 そんな複雑な想いを抱く侑というキャラクターを構築するにあたっては、身近な人に話を聞いたりもしたそうだ。

仲谷「編集さんのお知り合いの方で、『家族以外の人を特別に思う気持ちがわからない』と仰っている人がいたんです。『血のつながりがあれば特別だけど、それ以外の他人を特別だとは思えなくて、そんな感覚のままお付き合いした人とも、やはり違和感が強くて別れてしまった』って。そんな話を参考にしながら、侑というキャラの見せ方を考えていきました」

 逆に燈子は、すでに「特別」を知っているキャラクターだ。侑に対し顔を赤らめたり、「キスしたい」と願望を口にしたり、彼女のなかでは「好き」という感情が日に日に大きくなっていく。それに対し、侑は「ずるい!」と嫉妬のような想いを抱く場面も。

仲谷「侑に夢中になっていく燈子とは裏腹に、侑自身は『自分だけが取り残されていく』と嫉妬に近い感情を抱いているんですよね。そのふたりの温度感がおもしろいという声もいただくので、ちゃんと読んでもらえているんだな、とうれしくなりました」

侑と燈子を取り囲む周辺人物にも血が通う

 侑と燈子のほかにも、本作には魅力的なキャラクターが大勢登場する。侑と燈子のキスを目撃してしまう槙くん。侑の出現により、“燈子の隣にいる”というポジションを奪われてしまった沙弥香。生徒会のメンバーでもある彼らが、侑と燈子の恋路にどのような影響をもたらしていくのかも見どころのひとつだ。

仲谷「百合マンガでも、なるべく現実的な路線で描いていきたいという気持ちがあって、男性キャラクターは意識的に登場させたかったんです。特に槙くんは、侑と似ているようで対照的な人物。『好き、特別』という気持ちを知りたくて焦っている侑と、恋愛感情なんてわからなくてもいいと思っている槙くん。その対比が見せられればと思っています。沙弥香は2巻の予告にも入れているんですけど、今後スポットが当たっていきますね。彼女が燈子に抱いている想いがなんなのか、楽しみにしていてほしいと思います」

 また、現在発売中の『月刊コミック電撃大王』6月号では、新たな主要キャラクターも登場するのだとか。

仲谷「実は、1巻からすでにさりげなく登場していたカップルが、最新11話で物語に絡んでくるんです。でも、それまではモブキャラっぽく描いていたので、いったいどのキャラクターなのかは読み込んでいる人でもわからないかもしれません(笑)。その辺の答え合わせも楽しんでいただければ」

 今後はそういった周辺人物たちも動き出し、物語により一層深みが生まれそうだ。では最後に、今後の見どころをどうぞ!

仲谷「1巻では侑と燈子の間に芽生える気持ちというものを丁寧に描かせていただきました。そして続く2巻で、燈子の抱えている過去も明らかになって、ようやく物語が大きく動き出します。
 本作は“百合マンガ”ですけど、広い意味の恋愛マンガとしていろんな人に読んでもらいたいと思っています。男性が読んでもおもしろいと思いますし、もちろん百合好きの人にも満足していただけるかな、と。そして、百合が苦手な人にも、その入り口としてぜひ手に取っていただきたいです。それと、すでに読んでくださっているファンの方々のなかには、侑が今後どうなっていくのかを非常に気にされている方も少なくないと思うんです。でも、侑がどんな結論を出したとしても、納得していただけるような物語にしたいと思っているので、今後とも見守っていただければ、と思います!」

 人が人を好きになる。そこに芽生える感情は、異性同士であろうと同性同士であろうと大きな違いはないはず。“誰かの特別になる”ということは、いったいどういうことなのか。それを繊細な筆致で、至極丁寧にすくい取ろうとする本作は、やはり大勢の読者の心を動かすだろう。好きを知らない少女が出会う、一筋縄ではいかない恋愛――。その行方を、ゆっくり追いかけてみてほしい。

文=五十嵐 大