ニセの記憶は簡単に植えつけられる!全米で話題の「記憶ハッカー」が明らかにした、あいまいな人間の記憶の実態とは?

科学

2017/1/26


『脳はなぜ都合よく記憶するのか 記憶科学が教える脳と人間の不思議』(ジュリア・ショウ:著、服部由美:訳/講談社)

 旧友と昔話に花を咲かせると、自分と旧友との間で記憶に食い違いがあることに気づかされる。人間の記憶はあいまいだ。嫌なことをトラウマにしたり、自分に都合の良いことだけを記憶し続けるのが人の性なのだから、ある程度は仕方がないだろう。しかし、都合の良いことを記憶しているだけではなく、ありもしないことを自分の記憶だと信じ込んでしまう場合もあるらしい。記憶に関する驚きの実態に触れられた本が今話題を呼んでいる。

 心理学者・ジュリア・ショウの著書『脳はなぜ都合よく記憶するのか 記憶科学が教える脳と人間の不思議』(服部由美:訳/講談社)は、人間の記憶の不確かさに触れた驚愕の1冊。ジュリア・ショウ氏の専門は、「過誤記憶」。実際に起こった出来事に基づいていないのに、本物のように感じられる記憶について研究し、人にニセの記憶を植え付ける実験さえ行っている。彼女は自身のことを「私は記憶ハッカー。私は起こっていないことを起こったと人に信じ込ませる」と表現しているが、人にニセの記憶を植え付ける方法は、意外にも単純。ある出来事を視覚的にイメージし、それをひたすら繰り返すだけで、どうやら人は誤った記憶を「本当の記憶」だと信じてしまうらしい。

 人は簡単に出来事の情報源を忘れてしまう。自分で体験した出来事なのか、人から聞いた話なのか、混同することは実は珍しいことではない。その代表例ともいえるのは、幼い頃の記憶だ。特に、「赤ちゃんの時の記憶がある」というのは、心理学者からすれば、明らかな過誤記憶だという。成人が乳児期、幼年期の記憶を正確に思い出せないことは、以前から研究により明らかにされており、これは、赤ん坊の脳が長期記憶を形成、蓄積することが生理学的に不可能であるためだという。成人期まで残る記憶の形成がはじまるのは2歳~5歳の間というのが研究者による定説。つまり、分娩室の様子やベビーベッドに吊りさげられていたおもちゃの記憶などがある人は、両親などから繰り返し聞かされた話を自分の記憶として認識している可能性が高い。

 たとえば、被験者に、あらかじめ被験者の両親から聞いておいた実際の出来事2件について質問した後、「5歳の時、家族の友人の結婚式に参加した」という嘘の出来事について尋ねるという実験がある。目を閉じ、その出来事をイメージさせることを1週間間隔で3回繰り返させると、被験者の25%は明らかに作り話である出来事の記憶を明確に持っていると錯覚し、その他12.5%も部分的な記憶があると誤解した。こんなにも簡単に記憶がゆがめられてしまうのだから、幼年期の記憶の出所を取り違えてしまうことは、決して少なくはなさそうだ。

 最近の出来事についても、人の記憶はあいまいだ。国際的な非営利団体の報告によると、2015年にDNA鑑定によって受刑者の無実が証明された事件は325件だが、そのうち、235件もの事件で目撃者の誤認が関わっていた。目撃した後に新しい情報に触れてしまうと、記憶は瞬く間に変化してしまう。かと言って、ある人物の目撃情報を言葉で書き留めなかった人のうち61%は並べた顔写真から正しい人物を見分けることができたが、言葉で書き留めた人では27%しか見分けることができなかったという実験結果もある。経験したことをメモしたり、言葉にしたりすると、さらに記憶は損なわれてしまうようだ。

 人の記憶はこんなにもあいまいなものなのか。近年はインターネットに情報が溢れ返り、誤った記憶を自分の記憶として勘違いしてしまう機会も昔よりも遥かに増えている。記憶に自信がある人もない人も、人間の記憶の不確かさが恐ろしくなるに違いない1冊だ。

文=アサトーミナミ