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「移住」って実際どうなの?「どこに住むか」は「どう生きるか」――ところ変わればココロも変わる

『いきたい場所で生きる 僕らの時代の移住地図』(米田智彦/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

 「朝六時。ふと目が覚めた私は、ベランダに出てこう考えた……」。この書き出しで、皆さんの実生活に則して文章を続けるとしたら、どのようなフレーズが頭に思い浮かびますか?

 考えついた文章やイメージは、家の立地やベランダからの眺めが少なからず関わっているのではないでしょうか。ある人は「分かってはいたが、家の前は壁だ。深呼吸にはそぐわない」という一方で、別の人は「ぜいたくな悩みかも知れないが、タワーマンションの最上階というのは寂しいものだ。春だというのに、ここでは我が愛鳥・ピーちゃんの鳴き声しか聞こえない」となるなど、何人かで試しに作文してみたら違いを楽しめそうです。

 多くの人にとって、ベランダに出ただけで「陽光」だの「せせらぎ」だのという習字のような光景が眼前に広がっているということは、旅先でもない限りのそうそうないのが現実でしょう。『いきたい場所で生きる 僕らの時代の移住地図(米田智彦/ディスカヴァー・トゥエンティワン)』には、生きていく場所の大切さを感じ取った末に移住を思い立ち、可能性の海に飛び出していった33人の物語が描かれています。

「移住」という言葉は、かつて新天地を求めて日本人がブラジルへ渡ったことや、リタイア後のセカンドライフといったニュアンスで使われるのが一般的でしたが、本書の冒頭では今日の「移住」という言葉のイメージについてこう述べられています。

「働き蜂」として社会の歯車にならず、個人としての豊かさを手に入れるために「移住」を選択する人が増えている−理想の暮らしに対する人々の大きな意識の転換が、今日の「移住」のイメージを変えた。

 国内・ヨーロッパ・東南アジア・南米など、様々な場所で生活を送る移住者たち全員が言及しているのは、働き方についてです。近年、オフィスにいないと仕事ができないという価値観は崩壊しつつあり、海を眺めながら値下げ交渉を、山の中にいながらスカイプ面接をすることが可能になってきています。

いつの間にか日本人は、土地というものに縛られるようになってしまったという感覚がすごくありますね。そこから解放されることが、僕たち一人ひとりのクリエイティビティを発揮するところに、けっこうダイレクトにつながっているんじゃないかと思っています。

 著者が書中の対談でこう指摘していますが、今多くの人が欲しているのは、土地を単に所有することよりも、「自分が今その地に立っている」という実感なのではないかと感じさせる事例があります。国立競技場が再建されるにあたり期間限定で富士山が見えることが話題となり、神宮外苑から見えるその眺望を求めてそこかしこから人々が訪れていることです。富士山がまたいつか見えなくなっても、それによって誰かが即死するわけではありません。しかし、「自分は確かに生きている」という感覚を不確実で複雑な世の中でつかむ上で、約100km先の富士山が鮮やかに見えるということは、人間にとって大きな道標となるのでしょう。

 どこで、どんな物を見ながら、どんな人々に囲まれ、何を思い生きていきたいか……生き方は一つではないのだと、移住者たちがした選択のアーカイブから想像を膨らますことができる一冊です。

文=神保慶政



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