ごく普通の女子高生が「孫子の兵法」でトップアイドルを目指す!? 寂れた商店街再生のために、ニューヒロインが誕生

マンガ

更新日:2017/4/10

『孫子のアイドル兵法!』(わだぺん。/KADOKAWA)

 依然として続くアイドル戦国時代。AKB48に代表される48グループやその公式ライバルである坂道シリーズ、地方で活躍するロコドルたち……。トップを目指す彼女たちは、文字通り戦乱の時代に身をおいている。そして、そんな戦いを勝ち抜くために必要なのが、「戦略」だ。いかにファンの心をつかみ、アイドルとしての価値を高めていくのか。そこでは想像を絶するような頭脳戦が繰り広げられているのだろう。

 3月9日(木)に第1巻が発売された『孫子のアイドル兵法!』(わだぺん。/KADOKAWA)は、そのように頭脳と戦略を駆使しトップアイドルを目指す女子高生たちの物語だ。彼女たちがアイドル戦国時代を勝ち抜くために活用するのが、中国春秋時代の兵法書「孫子の兵法」。戦の指南書とアイドル。一見するとまったく親和性がないようだが、前述の通り、アイドルが売れる=戦いに勝つこと。戦争で勝利を収めるための理論がまとめられた「孫子」は、彼女たちにとって売れるための道筋が指南されているといっても過言ではないのだ。

 本作の主人公は、平凡な女子高生・富士塚さくら。彼女は寂れた「江古桜商店街」にある小さな喫茶店の一人娘だ。さくらの目下の悩みは、自分が育ち、慣れ親しんだ商店街の再開発。廃れていく一方の商店街に税金をつぎ込むことはできないという区議会の判断により、商店街は潰される寸前なのだ。しかし、それを黙って受け入れることなんてできない。家族や街のみんなとの思い出が詰まった商店街を絶対残したい。そこで彼女の叔母のみのりが提案したのが、「アイドルによる活性化」である。ご当地アイドルの元祖・Negiccoを例にとり、商店街を盛り上げるために地方アイドルを生み出そうというのだ。

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 しかも、国民的アイドルグループ「AMP」のセンターを務めており、半年前に芸能界を電撃引退した〈ゆりりん〉が地元に帰ってきているらしい。彼女の力を借りれば、きっと江古桜は再び盛り上がるはず。……けれど、どうやら彼女には秘密があるようで、あらためてステージに立つ気はないらしい。そこで白羽の矢が立ったのが、さくら。ゆりりんは自らの経験と「孫子の兵法」を活用し、さくらをトップアイドルすることを宣言するのだ。

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 とはいえ、どう考えてもズブの素人であるさくら。本人もアイドルなんてできるのかと不安の色を隠せない。そこでゆりりんが語るのが、「孫子の兵法」の次の一節。

“彼を知り己を知れば百戦殆うからず 彼を知らずして己を知れば一勝一負す 彼を知らず己を知らざれば戦うごとに必ず殆し”

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 この言葉の意味がわからないさくらを、ゆりりんは秋葉原にある「AKIHABARAバックステージpass」へと連れて行く。そう、ここはアイドル「バクステ外神田一丁目」がキャストとして働く、実在のカフェレストランだ。(大食いアイドル「もえあず」こともえのあずき所属のアイドルグループと言えばお分かりになる方も多いだろう。)そこでさくらは、〈諸星あずな〉らレジェンドキャストと出会い、アイドルの実情を教えてもらう。やがて、さくらは自身もアイドルとして戦うことを決意するが、これこそがゆりりんの目的。

 人は相手や状況がわからないことに対して、一番不安を感じてしまうもの。だからこそ戦いの前に相手を知り、また自分自身を知ることで、初めて全力で戦えるようになる。アイドルについて知らなかったさくらも同様。バクステメンバーに会ったことで、自分にもできることがあるのだと前を向けるようになったのだ。本作ではこのようにさくらが何かに躓くたび、ゆりりんが「孫子の兵法」の一節を引用し、手を引っ張っていく。

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 ちなみに、著者であるわだぺん。さんは、『東京自転車少女。』でも知られるマンガ家。ストーリーテリングの巧みさはもちろん、登場する女の子のかわいさにも定評がある。さくらやゆりりんが奮闘する姿は本物のアイドルのようで、思わず応援したくなるだろう。

 潰れかけた商店街再生のために立ち上がった、ふたりの女子高生。彼女たちの戦いは、まだ始まったばかりだ。

文=五十嵐 大