うっかり失言で恐怖の公開羞恥に! 炎上からのネットリンチで、人生を破壊されないための教訓

社会

公開日:2017/3/29

『ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』(ジョン・ロンソン:著、夏目 大:訳/光文社)

 毎日のように有名人がSNS上で「炎上」を招いてしまった事件が報道されている。不特定多数から受ける批判の数々は「ネットリンチ」と呼ぶに相応しいが、同時にこんな疑問も浮かんでくる。果たして、攻撃される側は、それほどまでに悪質な罪を犯していたのだろうか?

『ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』(ジョン・ロンソン:著、夏目 大:訳/光文社)は欧米で起こったネットリンチの事例を取り上げ、その原因と傾向を分析していく。誰もが当たり前のようにSNSを利用している世の中で、炎上に遭わずに過ごすためにはどうすればいいのか、万が一炎上が起こってしまったらどう振る舞うべきなのかを学べる一冊だ。

 著者は過去、SNS上で間違った発言、横柄な発言をしている人間を批判してきたと告白している。いわば、ネットリンチに積極的に加担してきた側の人間だ。そんな著者が本書を執筆するきっかけになったのは、Twitter上で自身のなりすましを発見したときだった。著者の思考とはまるっきり違う言葉を拡散させていくなりすましを迷惑に感じた著者は、なりすましの主たちに抗議する。しかし、「実験」と主張する彼らはアカウントを消したものの、最後まで自分たちの非を認めなかった。

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 誰もが思いもよらず、ネットリンチに処される時代がやってきたのかもしれない。そう考えた著者は、似たような事例を取材し始める。

 ジャーナリストのジョナ・レーラーはベストセラーとなった著書に、出典のない表現が混じっていることを、同業者によって看破された。彼は謝罪会見をネット中継する間、SNS上で膨大な誹謗中傷を浴びせられ、完全に社会的地位を失ってしまう。

 ジャスティン・サッコはTwitter上で数少ないフォロワー相手に、人種に関するブラックジョークをつぶやいたところ、すぐに炎上し、ネットに姿まで晒されて失業する。そのうえ、グーグルで彼女の名を検索すれば、1ページ目は悪評で埋め尽くされる状態がしばらく続いた。彼女は再就職先でも過去を知られるのではないかと怯えて過ごすことになる。

 ソフトウェア技術者だったハンク(仮名)は、同業者向けカンファレンスの最中に不謹慎なジョークを口走ったことを、同席していたアドリアという女性にネット上で晒され、やはり失業してしまう。ところが、アドリアの行為もやりすぎだとしてネットユーザーからの反感を集め、彼女の勤め先のウェブサイトが腹いせに攻撃される。結果、責任を取らされてアドリアも失業した。まさに負の連鎖である。

 上記の人物たちには確かに非があるが、世界中から攻撃され、将来さえも奪われるほどの悪人だといえるだろうか? 著者はネットリンチを現代の公開羞恥刑だと仮定する。そして、「恥」とネットリンチの関係を探るべく、さまざまな「恥」のエキスパートに会いに行く。人前で裸を晒すポルノ現場や、恥ずかしがることなく相手に本音をぶつける講座への取材を続けても答えはつかめない。あまりにも「恥」の捉え方が集団によって違いすぎるため、共通する理論が見つからないのだ。

 しかし、実は「集団によって価値観が変わる」という現象こそが答えだった。現代では、会社や家族だけでなく、SNS上でもさまざまな集団を形成できる。そこでは、価値観が同じ人だけが集まり、考えが強化されることで異質なものへの免疫を無くしていく。結果、大多数を占める価値観から外れた人間は、容赦なくネットリンチの対象となっていく。

 現代を生きる人間なら誰もが、ネットリンチを受けたり、リンチに加担して誰かの人生を壊してしまったりする可能性と無縁ではないだろう。だからこそ、誰かと同じであることで安心するだけではなく、自分を持って生きることが大切になる。自分を信じる気持ちがあれば、理不尽なリンチに参加することも、リンチに傷つくこともないからだ。

 著者は現代でも公開羞恥を判決に取り入れている判事に話を聞きにいく。慈悲のない堅物と予想していた判事は、気さくな態度で著者を迎える。法で実施される公開羞恥には期限と規則があるぶん、ネットリンチよりも倫理的だ。そう考え始める著者に、判事はこう返した。

「そう、あなた方の方が怖い。怖いんですよ」

文=石塚就一