志望者殺到!これを読まずに声優を目指すな! 2017年声優総選挙5位・関智一が教える声優業界のホントの事情

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更新日:2017/5/8

『声優に死す 後悔しない声優の目指し方』(KADOKAWA)

 現在、声優を目指して専門学校や養成所、劇団で学び始める人は、年間3万人に上るという。そのうち事務所に所属できるのは200人だけ。はれて声優になったとしても、生き残るのは容易ではない。同期200人との競争に勝ち残れず、長年バイトで食いつないでいる声優も多いのが現状だ。

 このような声優業界のリアルを明かすのは、「声優総選挙2017」で5位にランクインした関智一氏。『ドラえもん』の骨川スネ夫、『妖怪ウォッチ』のウィスパー、『機動武闘伝Gガンダム』のドモン・カッシュ、『PSYCHO-PASS』の狡噛慎也など、数々の役を演じてきた人物だ。

 その関氏がこの度、初の著書『声優に死す 後悔しない声優の目指し方』(KADOKAWA)を上梓した。

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 声優としてのキャリア25年に加えて、養成所の講師として声優志望者を指導すること10年。長いキャリアから見えてきた声優の目指し方や、声優として生き抜く方法が記してある。関氏独自の仕事論も熱く語られており、声優志望者はもちろん、何かの道を極めたいという人にも非常に参考になるだろう。

■盛られがちな養成所の実績

 本書には、「そんなこと書いていいの?」と思うようなウラ事情も書かれている。そのひとつが、声優を目指す多くの人が通うことになる、専門学校や養成所についてだ。

 簡単に専門学校と養成所について説明すると、専門学校は特定の事務所の運営ではないため、複数の事務所にアプローチすることが可能。養成所は各事務所が運営しているため、評価されればそのまま運営事務所に所属することになる。最近では、専門学校を経由して養成所に入所する人が増えているそうだ。

 声優志望者が養成所を選ぶ際、卒業生の実績は特にチェックされるポイントだろう。しかし、養成所の卒業生として紹介されている名の知れた声優は、生粋の養成所出身ではないことが業界全体として多々あるという事実を関氏は紹介する。

 どういうことかというと、劇団や専門学校ですでに頭角を現している人を事務所がスカウトし、特待生のようなかたちで養成所を経てデビューさせているパターンが多いのだとか。そうしておけば、人気が出た際に生徒募集のための大きな実績となるからだ。

 今も昔も、長年声優として食べている人で、一般応募のパターンはレアだという。一般応募の場合は、養成所での激しい競争を勝ち抜いた時点(事務所に所属できた時点)で燃え尽き症候群になってしまうケースも見られるようだ。

■ビジネスの糧にならない方法

 燃え尽き症候群になるのも理解できるほどに、養成所の競争率は高い。関氏が講師をつとめるアトミックモンキーの養成所の場合、1年生として入所する声優志望者が160人。その中から優秀者60人が、2年生に進むことができる(2017年現在)。

 その後も1年間のゼミが用意されているが、最終的に事務所に所属できるのは毎年ひとりかふたりだけだという。

 つまり、所属の確率は約1%。そして、養成所には事務所の運営を安定させるビジネスの側面がある。「アニメやゲームが趣味だから声優になりたい」「声優になったら楽しそう」といったようなライトな動機では、養成所のビジネスの糧になるだけで若き日の1〜3年を無駄にしかねない。

 関氏はこうした養成所の現実も正直に生徒に伝えているそうだ。厳しい現実を承知の上で覚悟を決めて声優を目指すなら、デビューのために養成所を逆に利用してやるくらいの気持ちで、ボロボロになるまで本気で稽古に取り組んでほしいと語る。

 アニメやゲームが好きならば、どれくらいの情熱があるのか。そしてその情熱を芝居にも本気で向け続けられるのかどうかを、関氏は志望者に問いかける。

 芝居への情熱は、養成所での学びにも大きく関係してくる。養成所は、声優になるための場であると同時に、礼儀や物事に取り組む姿勢、真剣に意見し合える仲間など、その後の人生に役立つものを、演劇を通じて得られる場でもあるからだ。

 まさに「後悔しないための声優の目指し方」が、本書には書かれている。

■関氏自身は一般応募の生徒

 さて、ここまで読むと「一般人には声優は無理」と思うかもしれない。けれども諦めることなかれ。何を隠そう、著者の関氏自身がスカウトではなく、一般ルートから今の地位まで登りつめたのだ。

 スタートは16歳。勝田声優学院という私塾に入り演技の基礎を学んだという。勝田声優学院を経て、東京俳優生活協同組合の養成所にオーディションを受けて入所した。そして、養成所の同期400人のなかから、事務所に所属できる3人に選ばれた。

 倍率100倍以上だった養成所の選考に勝ち残るまでの過程や、芝居に対する苦悩、当時の講師とのエピソードも詳細に書かれており、ひとりの声優志望者の実録としても楽しめる一冊となっている。

 特に、故・水鳥鐵夫氏(『キン肉マン』のブロッケンJr.役で知られる声優)とのエピソードは名言が満載だ。この出会いが関氏の大きなターニングポイントだったことがうかがい知れる。

■なぜか特別袋とじも付属

 本書では、プロとして声優になった後のサバイバル法にも触れられている。オーディションに受かる秘訣や、新人が仕事を得るための方法などが、関氏自身の事例を交えて紹介されているのだ。

 すでにデビューしている新人声優にも役立つ情報がまとまっていると言える。もちろん、声優ファンにも業界を知るための本としてうってつけだろう。

 また忘れてはならないのは、関氏は下ネタ大好き声優ということ。ラジオやフリートーク等での過激な発言から、ネット上でゲス声優と呼ばれることもあるほどだ。本書は発売2週間で増刷が決定したそうだが、普段の下ネタトークをよく知るファンからは、真面目に語る関氏に驚いたとの声も聞かれる。

 しかし、安心してほしい。本書には、なぜか袋とじが特別付録で付いている! 袋とじと言えばムフフな内容を特別に封じ込めていることが多いのだが…。中身はぜひ手にとって見てほしい。

文=武藤徉子