スピッツ、椎名林檎、木村カエラまで。日本を代表するCDジャケットデザイナー、成功の秘訣は「あまのじゃく」!?

エンタメ

2017/5/3

『死んだらJ-POPが困る人、CDジャケットデザイナー 木村 豊』(江森丈晃/エムディエヌコーポレーション)

 150万枚以上のセールスを記録し、スピッツをスターダムへと押し上げた傑作アルバム「ハチミツ」。少女がギターを抱えて笑っているそのジャケットをはっきりと思い出せる人は多いだろう。バンドメンバーが映っていないにもかかわらず、完璧にスピッツの世界観を再現したデザインは、リリースから20年以上が経過してもいまだに、「ハチミツ」の甘く切ない音楽性を訴えかけてくれる。

 スピッツをはじめ、椎名林檎、AKB48、木村カエラ、ユニコーンといった人気アーティストのジャケットデザイナーを務めている木村豊氏。彼のクリエイションに迫った一冊が『死んだらJ-POPが困る人、 CDジャケットデザイナー 木村 豊』(江森丈晃/エムディエヌコーポレーション)である。インタビュアー泣かせとして有名な木村氏が語った、貴重なものづくりの思考法は多くの職業人の刺激となるだろう。

 おそらく、日本のポップミュージックを愛する人の大半が、木村氏がデザインを手がけたCDを手に取った経験があるのではないだろうか。木村氏のデザインの何がすごいのか、木村カエラが詳しく証言してくれている。

ただのデザインじゃないんです。木村さんのデザインは。アーティストがつくり出した、音、歌詞、世界観、喜びも、悲しみも、そのときの気持ちすべてを、ジャケットに収めることができる、すごい人なんです。

 CDジャケットの中には有名人を起用して話題性を呼んだり、とにかくインパクトを重視して目を引こうとしたりするタイプのデザインも存在する。しかし、木村氏のデザインはあくまで作品の内容を忠実に反映させたうえで、しっかり個性的なのである。それゆえ、名だたるアーティストからも信頼され、長年にわたってタッグを組み続けているのだろう。

 第1章ではスピッツ、椎名林檎などアーティストごとのデザイン論を語っているが、アーティストが変わればコンセプトも全く変わっていくのが驚きだ。たとえば、椎名林檎の官能的なジャケットデザインと、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのイラストレーター中村佑介を前面に押し出したポップなデザインは、同一人物によるものと思えない。自身も音楽を愛している木村氏は、だからこそアーティストの生み出す世界観を深く理解し、大切にできるのだろう。

 木村氏が自身を評する言葉で印象的なのが「めぶんりょう」と「あまのじゃく」というキーワードである。数値よりも感覚を重視するという点で「日本人的」だと自己分析する木村氏は、デザインに関しても数字を絶対視していない。きのこ帝国「桜が咲く前に」のポラロイド写真に象徴されるような、あえてフォーカスが外れているアナログ感触が作品に温かみをもたらしているのである。また、撮影現場の状況でデザインが変わっていくことも歓迎しているとも述べている。このセンスを言い表す言葉がないため、平仮名で「めぶんりょう」と表記されている。

 「あまのじゃく」というのは、木村氏が流行から常に一定の距離を置いてきたデザイナーだからだ。木村氏が駆け出しの90年代前半、日本では渋谷系ブームが到来し、洋楽に寄せたデザインが隆盛となった。しかし、木村氏は「ポスト渋谷系」として別の可能性を探り続ける。結果、モデルの顔が見切れている「ハチミツ」や、日本語を大胆にフィーチャーした椎名林檎「無罪モラトリアム」のアイディアへとつながっていくのである。

 日本を代表するジャケットデザイナーとなった近年でも、ぼくのりりっくのぼうよみ、赤い公園といった新進気鋭のアーティストと仕事をするなど、木村氏の感性は衰えることがない。時代に流されず、後世まで残っていく仕事を成し遂げたい読者は木村氏の言葉に耳を澄ませてみよう。

 なお、第4章ではCDジャケット制作の裏側をかなり専門的に解説してくれているので、デザイナー志望者は必読である。

文=石塚就一