駅を訪れる異世界人の心を魅惑の「駅メシ」でおもてなし! 異世界で繰り広げられる、グルメファンタジー『異世界駅舎の喫茶店』

マンガ

公開日:2017/6/6

『異世界駅舎の喫茶店』(神名ゆゆ/KADOKAWA)

 近年、『異世界居酒屋「のぶ」』や『異世界料理道』『異世界料理バトル』など、異世界転移系にグルメ要素をプラスした作品が人気を集めている。そんな中、『異世界駅舎の喫茶店』(神名ゆゆ/KADOKAWA)というコミックが5月22日(月)に電子書籍化され、各電子書店にて好評配信中だ。元々は小説投稿サイト「小説家になろう」で連載されていた小説が原作で、昨年行われた第4回ネット小説大賞の受賞作である。

 本作品は、名古屋への帰り道である特急列車の中から始まる。しかし、主人公・黒金タクミはうたた寝をしてしまう。そして目を覚ますと、そこは名古屋……ではなく、異世界だった。そして、横に寝ていたはずの奥さん・黒金柚は、なんと猫の亜人になっている。彼女は記憶をなくし、なぜだか「ニャーチ」と名乗っている。

 タクミが困惑しながらも、降り立った「ローゼス=ハーパー線」の終着駅「ハーパータウン駅」の駅長に事情を話すと、彼らはどうやら「時線の転轍」によって異なる世界へ移ってしまったようなのだ。タクミは駅長の計らいで、暫くの間このハーパータウン駅で駅員として働くことになった。

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 タクミは改札口横に喫茶店「ツバメ」をオープンし、列車を待つ人々をもてなすことにした。彼には元々、柚と一緒に喫茶店をひらくという夢があり、そのための勉強もしていたのだ。彼が作る料理は、ブラウンシチューを煮詰めてかけた鉄板ハンバーグ、エビフライ丼、カレーピラフなど、こちらの世界の読者が見てもヨダレが出そうなものばかり。これらの料理に馴染みのない異世界の住人たちは、一口食べるなり大喜び。喫茶店に立ち寄るのを楽しみにするようになる。

 この喫茶店で、タクミは料理で人々の心を癒していく。美味しいものを食べると幸せになるのは、異世界の人々も同じ。彼は自身が勉強していた料理だけでなく、「シナモンコーヒー」など、異世界の文化も取り入れ、より喜んでもらえる喫茶店を目指していく。そうこうしているうちに、「俺を弟子にしてくださいっ」と通い詰める客や、遠方からわざわざやってくる客まで現れる人気店になっていく――。

 このように、一見大した問題もなく幸せに異世界生活を送っている2人だが、柚……ニャーチは、1巻ラストでもまだ記憶を取り戻せていない。しかし、2人の絆の強さを見ていると、やはり仲良し夫婦なのだと感じ、心が温かくなる。たまに他の客相手に嫉妬しているニャーチも可愛い。そして無自覚ではあるが、ふと柚だった時の記憶を垣間見せることもあり、タクミをドキッとさせる。

 ニャーチは、柚としての記憶を無事取り戻せるのだろうか。2人は元居た世界に、そして名古屋に帰れるのだろうか。また、タクミが時々見せる、名古屋人魂や名古屋弁にも注目したい。『異世界駅舎の喫茶店』には、これからもどんどん美味しい料理が登場する。このようにどこを取っても楽しめる本作品を、ぜひとも味わい尽くしてほしい。

文=月乃雫