羽生世代に風穴を開けた! 将棋界の貴公子・佐藤天彦の「逆算のメソッド」とは?

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更新日:2017/7/18

『理想を現実にする力(朝日新書)』(佐藤天彦/朝日新聞出版)

 ここ数年、将棋に視線が集まっている。最近では史上最年少プロ棋士で現役中学生の藤井聡太四段(14歳)が連勝記録を作り、また多大の功績を残しつつお茶目なキャラクターで人気の加藤一二三の引退も大きく報道された。三浦弘行九段の不正疑惑は結局濡れ衣だったが、その問題とも通底する棋士と人工知能の対決からは目が離せない。

 とはいえ近年で将棋界をもっとも大きく揺るがしたニュースといえば、第74期名人戦ではないか。数あるタイトルの中でも最高峰と言われる名人位は羽生善治・森内俊之といった「羽生世代」の鉄壁の牙城。あまたのトップ棋士が落とそうと試みるも挑戦権さえ奪えない、難攻不落の要塞だった。しかし、それを攻略した若者が現れたのだ!

 佐藤天彦、趣味 はクラシック音楽とファッション(中近世テイストのアン・ドゥムルメステールを愛用)。ニックネーム「貴族」。当時28歳の彼が下馬評を覆して羽生に勝った瞬間、将棋界に新世代の風が吹き込んだのは間違いない。

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 『理想を現実にする力(朝日新書)』(佐藤天彦/朝日新聞出版)はデビューも遅く、パッとしない時期も長かった著者がどのようにして名人に登りつめたのか、その心の持ち方が将棋を知らない人にも理解できるように書かれている。もし今ビジネスや人間関係に停滞しこれまでにない発想が必要な局面にいるなら、本書から「次の一手」を考えみてはどうだろう?

理想を掲げ、そこにたどり着く方法を現実的に逆算する

 まずは理想を掲げ、それと現実 の違いを客観的に見極める。何が足りないのか、何をすべきなのか。理想を実現するために現在できることを明確にしたら、ひたむきにそれだけに集中する。逆に言えば、今はそれだけをマイペースにやればいい。どんなに地味な努力でも、間違った方向に歩いていないことが大事だ。

自分の性分にあった勉強をコツコツ続ける

 佐藤の場合、流行の指し方よりも自分がこれはと思う名棋士の指し方を学ぶことに時間を割いた(棋譜並べ)。流行にのって目先の勝ちを拾いに行くより、本質的な強さを身につけるために。棋譜を読むことで指し方のみならず、棋士の感情まで感じ取れるのが面白かったからでもある。自分が好きな勉強法をブレずに続け、学びを深めていこう。

「幸せ装置」をたくさん用意 する

 天才集団と呼ばれる棋士の中で日々しのぎを削れば、ストレスも溜まる。溜まりすぎると余計なことを考えて集中力が削がれ、勝利を逃すことも。だからこそリフレッシュできる楽しみを見つけておく。ファッション、家具、音楽、美味しいもの…。自分のこだわりをつきつめると世界が広がり、活力が湧いてくる。何より、楽しい!

 他にも「精神力より状況作り」「マイナス感情は論理的に攻略」などすぐに取り入れたくなる新世代の発想が満載だ。

文=青柳寧子