オレ様皇帝&けなげな少女が、妖魔に支配された都を救う。急速に物語が深みを増していく少女西遊記『トリピタカ・トリニーク』

マンガ

公開日:2017/8/18

『トリピタカ・トリニーク』(鈴木ジュリエッタ/白泉社)

 元気だけがとりえの幼い少女・花果が、師匠・玄奘法師を救うため、その身体を乗っ取った三蔵とともに打倒妖魔の旅に出る、新感覚西遊記マンガ『トリピタカ・トリニーク』(鈴木ジュリエッタ/白泉社)。トリピタカはサンスクリット語で三蔵、じゃあトリニークってどんな意味なんだろう……というのがもしかしたら最後のキーになるんじゃないかと思われる本作、2巻が発売された。

 故郷の村を妖魔に襲われ、唯一の家族である心優しき師匠の身体を暴れん坊オレ様男に乗っ取られ。散々な花果は、都で目的を達すれば身体を返してくれるという、三蔵と名乗るその男とともに旅に出る、というのが物語のはじまり。実は三蔵というのも偽名で、この男、中身は都にいるはずの皇帝・李世民。彼もまた妖魔によってその身を奪われてしまい、国を救うために決死の覚悟なのだった。最初はいやな奴だった武人・河伯とその兄・冰夷を仲間に引き入れたのが1巻。この兄弟が沙悟浄と猪八戒なのかしら……と思っていたら、出てきましたよ、猪八戒的なポジションの人! その名も、王仕亥(おうしがい)。妖魔に支配された宮廷で、人が変わったようにおそろしい恐怖政治を敷く皇帝から、皇妹を守ろうと果敢に立ち向かう若き宮廷兵士。そう、2巻からは謎だらけの宮廷内部と、諸悪の根源である偽皇帝の目論見が少しずつ明かされだすのです。いや~~~~、これがなかなか、悲惨でエグくて、イイ!

 主人公の花果は、とにかくかわいい。けなげで、ひたむきで、幼い純真さとまっすぐな正義感を持っていて。そんな彼女を利用する三蔵も、なんだかんだと国を想う皇帝だし、花果のことも身体を張って守ってくれるし、力関係の実際は花果>三蔵な感じが微笑ましい。ときどき登場する妖魔は確かに怖いけど、どこかほっこりしながら展開していた1巻から急転、2巻はかなり緊迫感を増していく。妖魔の危険も及ばず、都の平和が守られていたことに安堵する三蔵を奈落に突き落とすように、阿鼻叫喚に包まれる凄惨な夜。花果がうっかり迷い込んでしまった宮廷で、想いと力が及ばず起こる悲劇。これ……三蔵はまだ知らないけど、知ったらそうとうショックを受けるんじゃ……と胸が痛くてならないものの、王仕亥に降りかかる苦難もふくめて、そこが面白さを増しているのも事実。事態の深刻さと非道さが、明らかになればなるほどまた、花果の純真無垢さがきわだって救いとなっていくのもたまらない。ああそうか、この子はそういう役目を負っているのか……と、ただかわいいだけだった少女が強い輝きを放ち始めるのが今巻なのだ。

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 そして忘れてはならないのが、河伯&冰夷の兄弟愛。悩める忠義青年・王仕亥の登場に彼らの存在が霞かける……なんてことはもちろんなく、互いにコンプレックスを抱えながら尊重し合う2人と、そこに至るまでの過去も描かれて、物語がぐっと深みを増していく。さらに、迷い込んだ宮廷で対面した偽皇帝・首羅に、なぜか花果が求愛されるというハプニングも起こり、がぜん、今後が楽しみになってきた本作。まずは幾重もの苦しみにおかされた都の人たちを助けることができるのか、その冒険の続きを待ちたい。

文=立花もも