オードリー若林正恭、第3回斎藤茂太賞受賞! 「正論が強い時代に、グレーなものをグレーなまま書いた」

エンタメ

2018/7/30

 その旅は、マネージャーからの「今年は夏休みが5日取れそうです」という一言から始まる。

 テレビで観ない日はないのではないか、というほどに多忙を極める人気お笑い芸人、若林正恭。彼は、その言葉を聞いた瞬間、念願だったキューバ旅行を実現できるかもしれない、と期待に胸を膨らませる。

 2017年に出版された『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』は、そんな彼が単身キューバを訪れた3泊5日の旅の記録である。

 番組などで海外ロケに行くことは多くあるだろうが、この旅には支えてくれるマネージャーもスタッフもいない。グーグル翻訳と片言の英語を使いながら、ときに現地のガイドや知人に頼りながら、アメリカと国交を回復したキューバという国を眺めていく。

 一見、終始、素朴な旅のエッセイである。マンゴージュースやロブスターに舌鼓を打ち、現地の人に葉巻の吸い方を教えてもらい、革命博物館やゲバラ邸などで歴史を辿る。しかし、その旅には彼自身が感じている鬱屈とした思いが根底に存在しており、彼は果たして何が「幸せ」なのか、答えを探ろうとする。

 そんな彼の旅の記録が、第3回斎藤茂太賞を受賞することになった。

「斎藤茂太賞」とは、日本旅行作家協会が、創立会長の故・斎藤茂太氏(作家・精神科医)の志を引き継ぐため、氏の生誕100年、没後10年にあたる2016年、旅にかかわる優れた著作を表彰するために創設した賞である。(最終選考委員は下重暁子氏、椎名誠氏、芦原伸氏、種村国夫氏)

 第三回斎藤茂太賞授賞式は、2018年7月26日に行われた。今回特にこの受賞作を強く推したという椎名誠氏は、今回の受賞作について「この人は、旅の途中で様々な思索をします。それがまた、旅の原点的な魅力と読者に対する感動を与えてくれました。旅の原点にさかのぼるような佳作だと思います」と述べた。

椎名誠氏

 斎藤茂男賞の授与をうけて、著者の若林も今回の作品の受賞について語った。

「まずは、受賞させていただいてありがとうございました。これを機に、事務所がもっと長い休みをくれるようになったらな、と思っています。

 正直、これを書いているときは賞をもらえるなんて全く思っていなくて。というのも、今の時代は正論が強い時代だと思っていて、グレーなものをグレーなまま書いて伝わるかなと思って書いていました。だから結果的にこうやって選んでいただいて本当によかったなと思います。

 今回、ピュアな視点とものの考え方というところで評価していただいたそうなんですが、僕、今年39歳で。ピュアって言われてていいのかなって疑問はありつつも、小さい頃から周りの大人に「面倒臭いことを考えるな」とか「余計なことを考えるな」と言われてきたので、ものの考え方を褒めてくれる人がいるんだというのは嬉しかったですね。斎藤茂太さんや選考委員の方、そして親父に、この考え方のままいけ、と言ってもらえているような気がしました。

 このキューバの旅行に行ってから、一人旅にはまりまして、モンゴルとかアイスランドとかにも行っています。斎藤茂太さんの名言で、感動はストレスの最大の対処法だ、というのを書かれているのを読んだことがあって。たしかに旅は必ず感動があるので、もう一度言いますけど、長めの休みをもらって色んな国に旅に行きたいなと思うようになりました。」

 若林氏が「こんなくだけた式なら緊張しなくてよかった」と語るほど、終始和やかな雰囲気の中でとりおこなわれた授賞式。実行委員長の市岡正朗の「若林さんの作品を読んで、旅の感動というのは、旅先というよりも旅人の心の中にあるんだなと改めて感じました」という閉会の言葉により締めくくられた。

 たしかに、旅の感動は、行くひとによって違うものになるだろう。しかし、若林氏が当時の一人旅によって得られた、喜びや気づき、もどかしさ、苛立ち、心震える言葉にはできない感情、それらすべては、あのときのキューバの景色とともに、たしかにこの作品の中にある。

文=園田菜々