「愛」の種類はひとつじゃない――音楽朗読劇『嵐が丘』出演者の笹翼・山崎はるかインタビュー

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公開日:2020/2/19

 エミリー・ブロンテによる唯一の長編小説とされる『嵐が丘』。本作は、「嵐が丘」と呼ばれる屋敷に住むアーンショー家の主人に拾われたヒースクリフと、アーンショー家の娘であるキャシーを中心に物語が描かれていく。

 拾われの身だった自分に、分け隔てなく接してくれたキャシーに惹かれるヒースクリフ。キャシーも自分と同世代で、当たり前のように一緒に過ごすようになったヒースクリフを愛おしく思うようになる。次第にふたりは、「魂を分け合っている」と言うほどの関係になるが、身分や価値観の差により、すれ違ってしまう。

 それでも、離れることがなかったふたりだが、キャシーが上流階級の家庭で育つエドガーから求婚されたのをきっかけに、ひずみが生まれる。キャシーが、エドガーからの申し出を受け入れようとしていると知ったヒースクリフは、すぐに「嵐が丘」を飛び出す。そして、「愛」と「憎しみ」の感情を持った彼が再び「嵐が丘」に戻ってきたことで、悲劇が加速していくこととなる。

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 世界三大悲劇のひとつとされる『嵐が丘』は、これまで多くの人に衝撃を与え、映画・舞台化などもされ続けてきた。そんな本作が、2020年2月17日(月)~24日(日・祝)にかけて、音楽朗読劇として展開される。演出を担当するのは、オペラ・ミュージカルのほか、『アイ★チュウ ザ・ステージ』などの舞台演出も手掛ける田尾下哲。出演者は公演ごとに異なり、合計34名の声優がその日ごとの組み合わせで、『嵐が丘』の世界を作り出す。

 今回は、24日の公演にヒースクリフ役として出演する笹翼と、21日(金)・22日(土)の公演にキャシー、そしてその娘のキャサリン役として出演する山崎はるかにインタビュー。作品に触れてみた感想や、登場人物への印象などを中心に、お話を聞かせてもらった。

キャシーに対する「愛」の種類は、ひとつだけではない

――世界三大悲劇のひとつとされる『嵐が丘』。最初に物語を読んだときの感想を教えてください。

山崎 ここまでの歪んだ「愛」を私個人としては理解し難かったので、衝撃を受けました。ヒースクリフもキャシーも「そこまでするの?」っていうくらい、激しい行動や言動をするんですよね。それでも想い合えているのは、深いなと思いました。

 僕も「愛」の深さを感じました。それゆえに、「恨み」「憎しみ」の気持ちも強かったのかもしれないと思っています。この作品に限らずですが、色々な作品を観て僕は、「愛」と「恨み」「憎しみ」の感情って、実は近いところにあると感じていて。だから、ヒースクリフの「愛」は深すぎて、「復讐」を考えるまでに至ったのかなと思いました。

山崎 なるほど……。私は、近くないと思っちゃうタイプなんですよね(笑)。だからこそ、キャシーに対して「復讐する」と言いながらも、愛の言葉も呟くヒースクリフのことを理解し辛いのですが、同時にすごさも感じています。どちらかというと、キャシーの行動原理のほうがまだ分かるかな。私がこの時代に生きていたなら、たぶんキャシーと同じように、身寄りのない幼馴染のヒースクリフよりも、裕福な家庭で育ち、自分を愛してくれるエドガーを選んでしまう気がします。貧困を考えて、というだけでなく、粗暴でどうしようもない兄から逃げたかったという気持ちも、彼女にはあったと思ったので。

――酒に入り浸って仕事をせず、育児も放棄、キャシーやヒースクリフにも強く当たる兄・ヒンドリー。確かに、そんな人が当主の家からは、逃れたくもなる気がします。

山崎 だから、エドガーを選ぶのは、自然な気がするんですよ。とは言え、ヒースクリフとキャシーの強い関係が嘘だった訳でもない。だって、「魂でつながっている」とまで言っているくらいですから。彼女にとっては、ヒースクリフと結婚することが、絶対の幸せではなかったのかなと思います。

 僕は「魂でつながっている」と思った人に出会ったことがまだないのですが、そういう人が近くにいたら、すごく複雑な感情が渦巻くと思うんです。作中でヒースクリフは、キャシーに対して「俺はお前だ」と言いますが、それだと、キャシーのことが好きなら、自分のことも好きってことになるじゃないですか。反対に、キャシーが嫌いなら、自分も嫌いってことになる。だから、純粋な「愛」じゃなくって、ミルフィーユのように何層も重なった「愛」があるのかなと思ったんです。キャシーに対する「愛」の種類は「好き」というひとつのものだけではないと感じました。

山崎 それだけ複雑な感情が渦まいているヒースクリフに関していえば、やっぱり「愛」と「憎しみ」は近いところにあるのかもしれないですね。

――対して、キャシーはどういう人物で、何を考えて行動していると山崎さんは捉えていますか?

山崎 キャシーは、幼い頃から素直すぎる物言いをしますし、やりたいことはやるタイプだとも感じましたので、わりと真っすぐな性格なんだと思います。ただ、心の奥底に「ヒースクリフ」という存在があって、アーンショー家に仕えるネリーに、エドガーから求婚されたことについて話すあたりから「迷い」が生まれている。そして、ヒースクリフが「嵐が丘」を出ていったあたりからは病んでしまいがちになって、次第にヒステリックになっていき、最期を迎える前には、ヒースクリフに対して異常なほどの愛を示します。

――ヒステリックになったのは、ヒースクリフと出会ってしまったから?

山崎 うーん……ヒースクリフに愛されすぎたからかもしれません。彼が自分の前に紳士な姿で戻ってきて、しかも「愛」を伝えてきたから、「愛」を思い出しちゃったのかも。ヒースクリフが出ていったままなら、ヒステリックにはならなかったと思います。

 戻ってきても、復讐する必要があるのか……と個人的に思いました。

山崎 確かに。復讐しようとするほうが、絶対に苦労しますもんね。

 しかも、紳士っぽくなれたなら、別の幸せを見つけることだってできたはず。ただ、ヒースクリフとしては、「復讐」が生きる糧だったのかなとも思います。あの時代に、たった3年で身だしなみが整い、紳士のような振る舞いを取れるようになるには、血反吐を履くほどの努力が必要だと思います。その努力は、キャシーやヒンドリーを見返す、復讐してやるという気持ちがなければ、きっと続かなかったんじゃないかな。

冒頭・終盤で登場するキャサリンと中盤で登場するキャサリンの違い

――本作には、キャシーとエドガーの間に生まれた娘のキャサリンも登場します。そんな彼女も、ヒースクリフにとっては復讐の対象となっています。

山崎 自分が愛していたキャシーの娘であるキャサリン。でも、何も知らない彼女に対してのヒースクリフの復讐は、悲しさを感じます。

――キャサリンからは、ヒースクリフがどう映っていると思いますか?

山崎 エドガーに大切に育てられたキャサリンは、ヒースクリフと自身の関係について、何も知らされていません。最初にヒースクリフと出会った頃は「叔父様」と丁寧に呼んでいました。ただ、何度か接していくうちに、ヒースクリフと自分の母親たちの関係を悟り始める。キャサリンは、ヒースクリフから酷い仕打ちを受けるようになりますが、心のなかでは彼を「かわいそうな人」と思っているのかもしれません。大人ですよね。

 物語の冒頭で、本作のストーリーテラー的な役割も担うロックウッドが、キャサリン に対して「あなた、17歳なんですね」と言います。この驚きは、何気ない会話のひとつだと思っていたのですが、大人びている印象があることを表現していたのだと、稽古を通じて感じました。

山崎 冒頭で大人びているキャサリンと、中盤に登場する幼い頃のキャサリン……朗読劇をご覧になる方には、ぜひ比べてみてほしいです。冒頭の彼女のことをよく覚えておいてください!

 『嵐が丘』は、冒頭と終盤が同じ時系列、序盤~中盤が過去の話という展開になっていて、色々なところに伏線がちりばめられています。点と点が繋がってひとつの線になったとき、さらに物語の深みを感じられると思うので、常に集中して聞いていただければと思います。

――その他、作品で注目してほしいポイントは?

山崎 キャシーとヒースクリフの関係が変わっていく様を見てほしいです。幼い頃のふたりの接し方、途中の言い争い、そして、何と会話しているのか分からないくらいの激しいぶつかり合い……。ふたりの関係性を会話劇で丁寧に表現できればと思っておりますので、注目していただけると嬉しいです。

 朗読劇は、視覚で得られる情報があまりなく、ほとんどが声や音で状況を説明することになります。だからこそ、観ている方々も、より深くストーリーや芝居にのめりこめると思っています。また、今回は、演じる役者が日や時間によって変わるので、どの役者がどういう解釈をしているのか、見比べていただくのも楽しいかもしれません。演じる全員が皆様の心に残るような悲劇をお届けできるよう、稽古を頑張っていますので、ぜひ劇場へ足を運んでみてください。よろしくお願いします!

ヒースクリフ役
笹翼
Tsubasa Sasa

Profile
9月12日生まれ。
主な出演作
<メディアミックス>『VAZZROCK(バズロック)』大山直助役
<アプリ>『白猫プロジェクト』ジェレミア司祭役
<アプリ>『錬神のアストラル』ヤジロー役

笹翼 公式HP
http://object-co.jp/cast/sasa.html

笹翼 公式Twitter
https://twitter.com/tsubasa_sasasan

キャシー/キャサリン役
山崎はるか
Haruka Yamazaki

Profile
6月27日生まれ。
主な出演作
<ゲーム>『アイドルマスターミリオンライブ』春日未来役
<TVアニメ>『同居人はひざ、時々頭の上』ハル役
<TVアニメ>『ハヤテのごとく』水蓮寺ルカ役

山崎はるか 公式HP
https://yamazakiharuka.com/profile/

山崎はるか 公式Twitter
https://twitter.com/yamazaki_haruka

音楽朗読劇「嵐が丘」詳細
★日程 2月17日(月)~2月23日(月・祝)※時間は日により異なる
※笹翼の出演公演は2月24日(月・祝)12:00~/18:30~、山崎はるかの出演公演2月21日(金)19:00~と2月22日(土)19:00~

★出演
【男性】
石谷春貴・市川太一・伊東健人・笠間淳・神尾晋一郎・狩野翔・川島得愛・菊池幸利・駒田航・笹翼・白石兼斗・田丸篤志・千葉翔也・土田玲央・中澤まさとも・中島ヨシキ・西山宏太朗・新田杏樹・濱野大輝・広瀬裕也・安田陸矢・山本祥太・米内佑希・若山晃久
【女性】
青山吉能・阿部里果・古賀葵・鈴木絵理・諏訪彩花・田中美海・沼倉愛美・村中知・山崎はるか・吉岡茉祐

★会場 TOKYO FM HALL

★チケット(全席指定)
¥7,000

★一般販売受け付け中
・東京音協オンライン http://t-onkyo.co.jp/
・チケットぴあ https://w.pia.jp/t/arashigaoka/

音楽朗読劇「嵐が丘」公式サイト
・チケットぴあ https://arashi.rodokugeki.jp/
※情報は掲載時のものです。