美容研究家として活躍する、かつてのいじめっ子に復讐するはずが…? 誰かの「容姿」への考えが変わるマンガ『ブスなんて言わないで』

マンガ

公開日:2022/7/3

ブスなんて言わないで
ブスなんて言わないで』(とあるアラ子/講談社)

 自分の容姿が好き――。自信を持って、そう言える人は一体どのくらいいるのだろう。近頃は人を見た目で判断する価値観にNOが叫ばれるようになってきたが、私たちはSNSなどを通し、会ったことのない他者の容姿を簡単にジャッジし、ジャッジされている。

 そんな時代であるからこそ、手に取ってほしいのが、マンガ『ブスなんて言わないで』(講談社)。著者は『美人が婚活してみたら』(小学館クリエイティブ)で注目を集めた、とあるアラ子氏。

 本作は、マンガサイト「&Sofa」にて連載中の話題作。さまざまなコンプレックスを抱え、自分の外見を愛せない登場人物たちの葛藤や奮闘から、読者は「私の愛し方」を学ぶ。

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美容研究家として活躍する美人のいじめっ子に復讐するつもりが…

 外出時はメガネや帽子、マスクを着用し、顔を隠す山井知子。彼女は高校時代、「ブスだから」という理由でいじめを受けていた。

 いじめの主犯格は、白根梨花。美人の梨花は直接手を下さず、いつも遠くからニヤニヤ見ているだけ。知子は梨花に負けるのが嫌で、頭にリボンをつけるという自分のスタイルを貫きながら1日も休まずに通学していた。

 だが、心は知らないうちに限界を迎えていた。突然、校内で倒れてしまい、それを機に不登校に。なんとか高校は卒業できたものの、なるべく人と顔を合わせなくていい職に就き、交友関係も築かずに細々と暮らすようになった。

 そんな知子の希望は、「ルッキズム」という言葉が広がりを見せていること。見た目で人を判断しない方向に社会が変わり始めていることを受け、トラウマと前向きに向き合えるようになってきた。

 だが、ある日、かつて自分をいじめていた梨花が美容研究家として成功し、反ルッキズムの活動家になっていることを知り、心がざわつく。自分がしてきたことを棚に上げて…と憤りを覚えた知子は梨花の命を奪い、復讐を果たそうと考えた。

 しかし、事態は思わぬ方向へ向かう。梨花のオフィスを訪れた知子は面接希望者に間違われ、中へ通されたが、彼女を殺すことができなかった。それならばせめて、と思い、梨花が雑誌で語る「自分の容姿に自信を持とう」という、差別される側に変化を求める考えを否定し、思いの丈をぶつけた。

いくらお前らが「自分に自信を持ちましょう」と喚き立てても 現実ではテレビでもネットでも雑誌でも広告でも 自分と真逆の顔の人間が 美しいと持て囃されてる そんな世の中で必死に正気を保って生きてる人間の気持ちがお前らにわかんのかよ?

 すると、梨花の口から思いもよらぬ言葉が。なんと、自社で働いてほしいと告げられたのだ。

 どうせ、「あなたを救いたい」とか偽善的なことを考えているのだろう。それならば、差別される側に変化を求める、その考え方を変えてやる…。

 そう考えた知子は梨花のオフィスで働くことに。それを機に自分だけでなく他者の容姿についても深く考えるようになっていく――。

「美人」にもルッキズムの呪いがある

 本作には、知子以外にも、シークレットブーツを仕込む男性や摂食障害を経験したプラスサイズモデルなど、外見のコンプレックスを抱えながら生きている人が多数登場する。どの心理描写もリアルで、自分が感じてきた痛みが重なりやすい。

 そして、知子が敵視する梨花も、容姿にまつわるコンプレックスを抱えているということに大きな意味がある。

美しく生まれてしまった者には 美しく生まれてしまった者なりの地獄があるんだよ

 梨花のような美人は、世間一般からみると外見の悩みがなさそうに思われやすい。だが、梨花は美人であるがゆえに見た目だけで好かれたり、勝手なイメージを押しつけられたりしてきたため、高校時代はあえて周囲から浮く黒ギャルになり、友人の前では下品な行動をとるなどし、美人であることを隠そうと努力していたのだ。

 こんな風に、十人十色のルッキズムの呪いがしっかり描かれているのが、本作のすごさだろう。容姿へのコンプレックスはさまざまだからこそ、誰かの生きづらさを自分のものさしで判断せず、たとえ理解ができなくても、苦しみを知る努力をしていきたいと思わされた。

 自分の容姿へのコンプレックスとどう向き合い、誰かの生きづらさをどう受け止めるか。その答えを、本作から見つけてみてほしい。

文=古川諭香

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