「死は生への架け橋」――死について考えることの大切さを教えてくれる1冊

暮らし

公開日:2022/8/11

死にゆくあなたへ 緩和ケア医が教える生き方・死に方・看取り方
死にゆくあなたへ 緩和ケア医が教える生き方・死に方・看取り方』(アナ・アランチス:著、鈴木由紀子:訳/飛鳥新社)

死にゆくあなたへ 緩和ケア医が教える生き方・死に方・看取り方』(アナ・アランチス:著、鈴木由紀子:訳/飛鳥新社)は、「死について考えることの大切さ」を教えてくれる1冊だ。

 正直、タイトルは少しぎょっとする。普段の私はあまり手に取らない書籍かもしれない。「怖い」からだ。「死」についてなど考えたくない。暗い気持ちになりたくない。そう思う人も、少なくないはずだ。

 しかし本書は、私が想像していた内容とは違った。暗い気持ちどころか、清々しい気持ちにすらなった。誰でも死は恐ろしい。自分の死も、身近な人の死も。けれど、目を背けることなく、死にまっすぐに向き合うことの大切さや重要性を、著者が悩み苦しみながら得てきた知見から、余すことなく書かれている。

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 著者のアナ・アランチス氏はブラジルで緩和ケアや老年医学を専門にしている女性医師だ。本書はブラジルでベストセラーになっただけでなく、多くの国で出版されている。

 通常、医師は病気を治すことが仕事だが、緩和ケア医である著者は少し違う。緩和ケア医は、治る見込みのない患者の身体的・心理的負担を減らすためのさまざまなサポートをする。そのため著者は、自分の仕事を「死にゆく人のケア」だと考えているそうだ。

 本書は、著者が緩和ケア医を目指した理由や、挫折体験などの自伝的な内容にもふれつつ、紙幅の多くを「死について緩和ケア医が伝えたいこと」について割き、章立てでまとめられている。その一部を紹介しよう。

「1日の終わりを心待ちにしないで」

 自分がいつかは死ぬことを、常日頃から意識している人は少ないだろう。そんな時、著者の言葉が胸を刺す。

過ぎていく時間の中で、あなたは何をするつもりですか? 何をしていますか?
その問いかけが、あなたに賢い選択をさせる鍵になるでしょう。
限られた時間の中で、何をするのが正解なのでしょうか?

 もしあなたが、休日だけを楽しみに嫌々仕事をしていたり、それほど好きじゃない友人や恋人と惰性で付き合っていたり、休日、大して興味のないSNSをぼーっと観ているようなら、一度考えてみるといいかもしれない。「それは正解なの?」と。

「死にゆく人の悲しみを誇りに変えて」

 死に直面した当人だけではなく、身近な人の死を見届けなければならない人に向けたメッセージも書かれている。

死にゆく誰かのために私にできる最善のことは、ただそこにいることです。その人のために、その人のそばにいることです。
それは、その人に心から同情して初めてできることなのです。

 死にゆく人に「共感」すると、相手の痛みや苦しみまで取り込んでしまい、最期までそばにいることが苦しくなってしまう。だから共感ではなく(それがまったく必要ないわけではないが)、他者の苦しみを理解する「同情」が大切だそうだ。

 そして、あなたが寄り添うことで、死にゆく人の、病気を前にした挫折感を、苦しみに向き合う勇気ある誇りへと変えてあげることもできるのだという。

 死にゆく人にとって、寄り添ってくれる人は「自分には価値があり、大切で、愛されていると感じ」させてくれる存在でもあるのだ。

「死は生への架け橋」。いい人生のために、「死」について話すことが必要なのである。

文=雨野裾

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