“ヤンキーと優等生の恋”の扉を開いた一冊。多彩なジャンルの物語に出会える『群青学舎』

マンガ

公開日:2022/10/1

群青学舎
群青学舎』(入江亜季/KADOKAWA)

 小説やマンガを好む人のなかには「私はラブコメが好き」「未来が妄想できるSFが読みたい」など、ある程度好きなジャンルが定まっている愛好家も多いはず。好みの傾向に合わせて作品を選ぶのも楽しいのですが、これまで興味がなかった系統の物語に、突如心を鷲掴みにされるのも、最高の出会いですよね。そんな物語の探求者におすすめなのが、全4巻の『群青学舎』(入江亜季/KADOKAWA)です。

 同作は『北北西に曇と往け』などで知られる入江亜季先生が、2005年から08年の3年間『月刊コミックビーム』で連載していた作品。連載といっても、すべてのストーリーがつながっているのではなく、一話完結の読み切りもあれば、前後編、五話完結もあり、長短さまざまなエピソードを連載形式で執筆していた作品です。

 バラバラなのは物語の長さだけでなく、一つひとつのジャンルも多種多様。たとえば、第一話「異界の窓」は、“しっぽ”が生えた小学生の山背くんと、ある日突然彼のしっぽが見えるようになった同級生・大森くんの不思議な交流を描いたファンタジー。しかし、つづく第二話は学校一のモテ男のクリスと、不機嫌顔の美少女、マリオンちゃんが“最悪の出会い”をする「とりこの姫」というラブコメディです。それぞれ内容が独立しており、一作を読み終えた余韻にひたりつつ、新たな作品にページを進められる構成になっています。

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 このように、多彩なジャンルの物語が一冊に詰め込まれているので、読み進めるうちに新たな“萌えの扉”を開いてしまうのも『群青学舎』の魅力のひとつ。

 筆者は第一巻に収録されている「白い火」を読んで、“ヤンキーと優等生の恋”という扉を開きました。同作は成績優秀な女子高生の一条さんと、彼女と同じ学校に通う素行が悪い男子生徒・静間(しずま)の恋物語なのですが、マジメな生徒と不良のピュアラブではありませんでした。なんと、前編は一条さんが静間に“お金を借りる不穏なシーン”からはじまるのです。どうやら彼女は、度々彼にお金を借りているらしく、体の関係もあるなど、甘々な雰囲気は皆無。常にひりついた空気がふたりを包んでいます。学校内で鉢合わせても挨拶を交わさず、関係を隠している彼らに、もどかしさと切なさ、そして萌えを感じました。

 一条さんと静間が交際をはじめた経緯は不明のままなので、読み手にはその出会いを妄想する余地が残されています。ありがたいですね。ちなみに一条さんがお金を借りる理由は、後の中編・後編で明かされるのでご安心ください。

 この「白い火」に出会って以来、筆者は優等生と不良が出てくるマンガが気になるようになりました。どうやらこの世には、たくさんの優等生とヤンキーのマンガが存在しているようです! まだまだ人生を楽しめそうな予感がします。みなさんも『群青学舎』を読んで、新たな扉を開いちゃってください。

文=とみたまゆり

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