猫と暮らす全ての人に捧げる号泣本! 最愛の猫ポッケが病気に…残された時間の中で見つけた飼い主にできる”見送りのための旅支度”

マンガ

公開日:2022/12/7

ポッケの旅支度
ポッケの旅支度』(イシデ電/KADOKAWA)

 愛猫との生活が長くなると、傍にいてくれることが当たり前であるかのように錯覚してしまう。我が家には3匹の猫がいるのだが、各々が自由気ままにゴロゴロしている光景が当たり前のものになっていて、誰かひとりでも欠けた日常は想像できない。

 命に限りがあることなど分かっているのに、愛猫と一緒に過ごす時間は永遠に続くように思え、「猫が死ぬ」という事実を自分ごととして考えることができなかった。

 だが、『ポッケの旅支度』(イシデ電/KADOKAWA)を読み、考えが変わった。死を恐れて別れから目を背けるのではなく、死が訪れることを受け止めた上で、うちの子を愛し抜こうと思えたのだ。

 本作はTwitterで多くの共感を呼び、単行本化された実録系猫コミックエッセイ。病気が判明し、残された時間がわずかとなった愛猫ポッケくんとの日々が描かれている。

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最愛の猫ポッケが腎臓病に…限りある時間をどう過ごすか?

 野良猫にご飯をあげる住人が隣のアパートにいたことから、作者宅では窓を開けていると、時々、猫が侵入。愛猫のポッケくんとピップちゃんも、そうした経緯で出会った。

 きょうだいである2匹はノミだらけで猫風邪を患っており、体からは強烈な臭いが…。当時、作者は初めての連載に注力し、荒れた生活をしていたため、2匹を迎えるのは難しいと思っていた。

 そんな時、飼い主に立候補したのが、アシスタントをしていた先輩漫画家。だが、上司とも言える人に悪臭を放つ猫を託せないと思い、作者はワクチンや健康診断などを終えてから譲渡することを決意。1カ月間、子猫たちのケアに励んだ。

 実は作者、子どもの頃から共に暮らしていた愛猫を2年前に亡くしており、ポッケくんたちをかわいく思うも、愛しはしないと思っていたそう。

 ところが、譲渡準備期間中に情がうつり、結局、2匹を自宅に迎えた。猫を迎えると、荒廃していた暮らしは劇的に改善。猫貯金のために禁煙し、飲みに行ってもハシゴせず帰宅するように。2匹は愛情を受けながら、大人になっていった。

 そうして、15年弱の月日が流れた、ある日。ポッケくんの歩き方がおかしいことに気づく。便秘が酷くなり、時々、布団の上で便をするようにもなったが、作者は一切責めなかった。

 だが、体を心配し、動物病院で精密検査をしてもらうことに。すると、2匹とも慢性腎不全であることが判明。ポッケくんは、ステージ2まで進行していた。

 やがて、ポッケくんはおしりから液状の便を落とすようになり、その姿を目にした作者は「猫は死ぬ」という事実を、どう受け止めるべきか悩み始める。

 そんな苦しみを知ってか知らずか、ポッケくんは無邪気な姿を披露。作者は病身の猫に救われながら、闘病生活をサポートし続けた。

 次第にポッケくんは衰弱。ご飯や水を口にできなくなり、トイレにも入れなくなった。そうした姿を受け、頭に浮かんだのは、医療費を稼ぐことに奮闘し、看取ることができなかった先代猫の最期。

 そこで、今回はそばに寄り添い、ポッケくんが最期まで自分らしく生きられるよう、尊厳を守りながら見送ろうと決意。天国への旅支度をするポッケくんを、温かく見守り始めた――。

 本作に描かれている看取り前や看取り後の心理描写はとてもリアル。胸が締め付けられるものもあるが、リアルであるからこそ、いつもそばにいてくれる命の尊さに改めて気づけ、自分が望む別れ方を考えるきっかけを得られもする。

 個人的には火葬時の心理描写が特に心に刺さり、涙が止まらなかった。

 猫は気まぐれで人間に媚びないのに、最期の瞬間まで飼い主を愛してくれる優しい動物。彼らを何度抱きしめても、どれだけ愛していると伝えても、最期の時にはさまざまな後悔がこみ上げてくることなど目に見えている。

「正解の愛し方」とはどんなものだったろうと、自身の一挙一動を振り返り、謝りたくなることもあるだろう。

 だが、完璧な愛し方が分からなくても、最期の瞬間まで目の前の命と真摯に向き合えば、「この家で過ごせてよかった」と思いながら、天国へ旅立ってもらえるかもしれない。「限りある命を最期まで全力で愛すこと」は猫の“下僕”にしてもらえた私たち飼い主に与えられた特権であり、見送る側ができる旅支度でもあると思うのだ。

 これまで嬉しいことや楽しいことを半分こしてきたように、この先、感じるかもしれない苦痛や痛みも分け合おう。読後、愛猫にそう声をかけたくなったのは、きっと筆者だけではないはず。

 猫と共に生きるとはどういうことなのかを綴った本作はコロナ禍で動物を迎える家庭が増えている今だからこそ、読んでほしい作品でもある。

文=古川諭香

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