裏垢男子（42歳会社員）×インフルエンサー（男子高校生配信者）の不思議な友情にほっこり!? 『不動さんの裏垢活動』

　SNSによって、人と人が簡単に繋がれる時代。実生活では出会わないような人たちと、些細な偶然から知り合い、気がつけば腹を割って話せるような素敵な友情が生まれていたりする。もちろんトラブルや人間関係の悩みもSNSにはつきものだが、そんな不思議で運命的な縁に巡り合える場所でもあるのだ。

『不動さんの裏垢活動』（藤峰式/講談社）の主人公、不動敬一もSNSによって思わぬ友情を手に入れた一人である。

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　不動敬一、42歳、出版社の販売部に勤める会社員、独身。日々の仕事を淡々とこなし、夜ご飯は半額になったお弁当。部下の尻拭いをしながら、行き場のない承認欲求や孤独感に襲われる毎日。そして、それが積もり積もった結果、彼はこうなった。

　彼の誰にも言えない秘密。それはSNS上で女性のフリをして裏垢活動をしていることだ。

　脚には自信のある不動さんは、素性を隠し、脚の自撮り写真をアップする「K」というアカウントを運用していた。ハイヒールやガーターベルトなどのアイテムを手に入れては、自慢の脚とともに写真をアップする。反応は上々で、好意的なコメントが並ぶ。

　しかし、そんな彼の楽園は突如「炎上」によって様変わりしてしまう。仕事中にスマホを開くと、びっくりするほど多くの通知。自分のアカウントに対して、身に覚えのない誹謗中傷コメントが並ぶ中、「良くんの配信で取り上げられたからって調子に乗るなよBBA」の文字。

「良くん」とは、今若者を中心に人気を集める男子高校生の配信者だ。あるとき配信で「脚フェチ」を自称し、「K」のアカウントをよく見ていると発言したことで、良の熱心なリスナーが敬に嫉妬し突撃してしまったというわけである。

　炎上はおさまらず、泣く泣くアカウントを停止することになった不動さん。それを知った良から突然DMで直接謝りたいと連絡が来たことで、彼ら2人の不思議な関係が始まることになる。

　直接会ったことで男性であることがバレてしまったが、良の反応は不動さんにとって意外なものだった。

　女性のフリをしているとか、おじさんがパンケーキだとか、そういうのは良にとって全く関係がないみたいだ。そのままの姿を受け入れてくれる良に、不動さんも心が和らぐ。そして、彼らの友情はそこからゆっくりと紡がれていくのである。

「裏垢」というワードから、ちょっといかがわしいイメージや展開を想像していたが、実際はとってもピュアで、ハートフルな男の友情物語である。映えない生活を送っていた不動さんは、良と出会うことでたくさんの新しいものに触れて、少しずつ世界が広がっていく。そして、良も不動さんの何気ない一言や行動で、心が軽くなったり、我慢していたことに挑戦できたりする。

　42歳会社員と男子高校生、言葉だけ見たらきっと交わらないような2人が、SNSをきっかけに唯一無二の関係を築いていく。その姿を見ていると、自分が普段感じているような常識ってすごくちっぽけで退屈なものなんじゃないかって思えてくる。ジェネレーションギャップだって、気の合う2人の間ではより仲良くなるためのスパイスなのだ。なんだか応援したくなる2人の友情を、これからもずっと見届けたい。

文＝園田もなか