課題を見据えてまずは実践、行動! 4つの指標を念頭に、目標に対する思考とプロセスをアップデートしよう

ビジネス

公開日:2023/3/10

解像度を上げる――曖昧な思考を明晰にする「深さ・広さ・構造・時間」の4視点と行動法
解像度を上げる――曖昧な思考を明晰にする「深さ・広さ・構造・時間」の4視点と行動法』(馬田隆明/英治出版)

 ひとつの年度が終わり、心機一転、新しい年度が始まろうとしているこの時期にピッタリなのが、本稿で紹介する『解像度を上げる――曖昧な思考を明晰にする「深さ・広さ・構造・時間」の4視点と行動法』(馬田隆明/英治出版)です。著者の馬田隆明氏は、おもに東京大学卒業生向けにスタートアップを支援するプログラム「FoundX」のディレクターで、スタートアップ企業の支援や起業家精神の養成に精通している有識者です。

 企業において新しく社員を迎える側としては「なんだか指示がふわっとしている」と思われるのはイヤですし、逆に新しく組織に入る側にとっては「この人の言い回しはどこかで聞いたことがあるな、自分のオリジナルな意見を言ってくれないかな」と思われてしまうのは残念です。迎える側と迎えられる側がそろって「で、何だったんだろう今の会議」となるのも避けたいところ。これら全てのザンネンな光景を防いでくれるのが「解像度」です。もともとは写真等の画像のキメ細かさについての用語ですが、転じて、「理解度の正確さ」「物事を表現するときの精細さ」「思考の明晰さ」をも意味するようになりました。

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 たとえば、新緑の季節に公園へ散歩にでかけたシチュエーションを想像した場合、個々人の解像度によって、以下のような形で「世界」に違いが出ます。

公園に行って「緑が生い茂っている」という風に認識するか、木の種類の名前まで言えて、さらにその同じ木の中でもこの木はどのように異なるのか、そしてその葉っぱの葉脈の特徴まで言い当てられるか。木の種類や葉脈の特徴まで言える人は、高い解像度で公園を歩き回ることができ、その公園の美しさをもっと楽しむことができます。

 本書によると、「解像度」は大きく分けて以下の4つの指標で測ることができるといいます。

①深さ:原因や要因、方法がどれだけ細かく具体的に掘り下げられているか
②広さ:原因や要因、アプローチの多様性がどれだけ考慮されているか
③構造:「深さ」と「広さ」をどれだけ整理できているか
④時間:経時変化、因果関係、プロセス、フローをどれだけ捉えられているか

「公園を散歩する」という日常的なシチュエーションからビジネスシーンに話を戻しますが、「解像度」が向上すると、仕事のやり方にどのような変化が起きてくるのでしょうか。ともすると、「一発、一瞬でとんでもなく画期的かつ具体的なアイデアが、シャッターを一回押しただけかのようにシャッと出てくる」というように思えてしまうかもしれませんが、実はそうではなく、「ひとまず行動、実践してみる」というマインドになることが多いそうです。

「自分で動いて検証しなければ無意味」「行動なくして解像度は上がらない」というモットーのもと、課題を見据えた上で「これなら役立つかな」という成果物をスピーディーかつ丁寧に生み出し続け、「発見」と表裏一体の「良い失敗」を重ねていく。

 たとえば、本書でも紹介されているMVP(Minimum Viable Product)という考え方は、実用に耐えうる最小限の機能のみを備えた製品をリリースして、新規ビジネスや新しい製品開発に活用していく手法で、シリコンバレーでも主流だといいます。完成型を世に出して「ニーズがない」と気づいて軌道修正できなく大失敗や大損失をするよりも、その前のいわば「準備中」の段階で多くの人のニーズを吸い取っていったほうが「役に立つ」「愛される」製品やサービスになる可能性が高いということです。

私たちはつい、周りから批判されないように、完璧なものを作ってから周りに共有しようとしてしまいがちですが、それではしばしば無駄が発生してしまいますし、改善の機会を逸してしまう、ということです。多くの場合、目標は自分自身が批判されないようにすることでなく、成果物を良くすることのはずです。そうであるなら、最低限のものを早く作り、周りに共有して、周りからの批判やフィードバックを活かしながら成果物を改善していったほうが、より良いものを作れますし、早く進めます。

 最後に、「新年度のカッコいいスピーチ」をするのにもピッタリのフレーズが本書にはちりばめられています。その中のひとつに「未来に生きて、欠けているものをつくる」というものがあります。「解像度」を高めていった先の到達地点のひとつかと思いますが、「理想を生き、未来を想像して、そこに到達するために何が不足しているかを見出して価値創造をしていく」ということです。年度終わりの一冊、あるいは年度初めの一冊として、ぜひ手にとってみてください。

文=神保慶政

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