『銀河鉄道の夜』で宮沢賢治が伝えたかったこととは? 子どもを文学好きにする「まんがで読破」ジュニアシリーズ

文芸・カルチャー

公開日:2023/9/28

まんがで読破ジュニア 銀河鉄道の夜
まんがで読破ジュニア 銀河鉄道の夜』(宮沢賢治:原著、Teamバンミカス:漫画、長尾誠夫:監修/Gakken)

 正直、長い間、宮沢賢治が苦手だった。どうしてなのかといえば、幼い頃に『銀河鉄道の夜』を読んだ時に感じた、「得体の知れないものに触れてしまった感覚」が残っていたせいだと思う。「作者は何が言いたいのだろう」——子ども向けの作品だと思ったのに全く意味が分からない。どこか知らない世界に連れて行かれるような恐ろしさを感じて、最後まで読み通せなかった。だが、大人になって読み返してみれば、なんて勿体ないことをしたのだと思う。幼い頃の経験をもとに身をもって感じるのは、小説を読むのにもあまり慣れていない状態で、いきなり難解な物語に挑戦するのはかなりハードルが高いということ。親が子どもを本好きにしようとして、かえって苦手意識を持たせてしまう場合もあるのではないかということだ。

「子どもを本好きにしたい」「名作を味わってほしい」というのならば、まずは、まんがで読ませるのがいいかもしれない。オススメは、累計400万部をたたき出した名著の漫画化シリーズ「まんがで読破」シリーズのジュニア版。このシリーズは、通常版よりもひと回り大きなサイズで子どもにも読みやすいのに加え、小学4年生以上で習う漢字にふりがなが入っている。時代背景や作者について分かりやすい解説ページもあるから、教材的にも使えるし、子どもの興味も広がるだろう。

 たとえば、『銀河鉄道の夜』も、『まんがで読破ジュニア 銀河鉄道の夜』(宮沢賢治:原著、Teamバンミカス:漫画、長尾誠夫:監修/Gakken)で読めば、その印象は大きく変わる。貧しく孤独な少年ジョバンニが親友カムパネルラと巡る、まばゆいばかりの夜空の旅。奇妙な乗客たちを乗せた汽車はどこへ向かうのか。原著で読むと「ここはどういう意味なのだろう」と独特な表現に何度も中断してしまうが、まんがで読めば、あっという間に一気読み。なんという没入感なのか。物語の根底に横たわる物悲しさや切なさをこんなにもダイレクトに感じたのは初めてだ。

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まんがで読破ジュニア 銀河鉄道の夜

まんがで読破ジュニア 銀河鉄道の夜

 この本では、物語の世界観を存分に体験できるのと同時に、解説も充実しているから、作者がこの物語に込めた思いも分かりやすい。宮沢賢治が探し求めたのは、「ほんとうのしあわせ」。解説によれば、賢治は「世界が幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」と考え、自分を犠牲にしてでもみんなが同じように幸せを感じられる世界になることを夢見ていたのだという。そこには、賢治の持っていた浄土真宗や日蓮宗、キリスト教の教えなどの宗教観が反映されているらしい。……なるほど、だから、ジョバンニをはじめとする登場人物たちは、他の人の幸せのために自分を犠牲にするのか! 大人も改めてこのシリーズで名著を読めば、幼い頃は分からなかった難解な部分も腹落ちする。そして、名著の新しい魅力に気付かされるだろう。

まんがで読破ジュニア 銀河鉄道の夜

『銀河鉄道の夜』がこんなに切なくも美しい物語だったとは。苦手意識を持っていたはずなのに、まんがを読んだ後、思わず、原著にも手が伸びてしまった。子どもの頃に、このまんがに出会っていればと思うと、悔しささえ感じる。子どもも、まんがから名作に触れれば、自然と名著に親しむことができるに違いない。

「まんがで読破」ジュニアシリーズは、『銀河鉄道の夜』のほか、『蟹工船』『こころ』『西遊記』も刊行されている。ちょっと難しかったあの文学も、いまさら知らないとはいえないあの名作も、まんがで読めば一気に読める。名著の魅力がスッと伝わるこのシリーズで、親子一緒に、読書を楽しもう!

文=アサトーミナミ

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