激動の日本において”警察”はどう生まれたのか?『ハコヅメ』作者が描く、本格幕末コメディ!

マンガ

PR公開日:2023/12/18

だんドーン
だんドーン』(泰三子/講談社)

 『ハコヅメ〜交番女子の逆襲〜』の作者・泰三子氏が「日本警察の父」を描く幕末史コメディ『だんドーン』(講談社)の第1巻が発売された。著者自身も警察官勤務の経験があり、前作では現代の交番女子の物語を描いた。当作品ではその交番女子の大先輩にあたる、日本の近代警察を作った男・川路利良を主人公に、江戸時代から明治時代にかけての幕末を描いている。

 川路利良とは、薩摩藩主の島津斉彬につかえていた家臣である。武士制度の中ではかなり身分の低い生まれであり、周りからもよく馬鹿にされていた。彼自身も、細かいことを気にしたり、人の様子をうかがったりばかりする、武士らしからぬ自分の気質に劣等感を抱いていた。

 しかし、そんな彼のことを斉彬はどこか評価している様子で、利良が13歳の頃から様々な道場に入門させて勉強もさせてきた。斉彬は温厚な人物として描かれていて、身分に問わず、多くの人間の声に耳を傾ける。そして、浦賀にペリーが来航してから大混乱をしていた日本国内において、ナポレオンのような存在が皆の心を一つにすると考えていた彼は、日本のナポレオンになれと薩摩で鳴かず飛ばずの役人生活をしていた西郷吉之助(のちの西郷隆盛)を抜擢した。川路はそんな西郷の補助役に抜擢されるのだった。

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 激動の日本において、斉彬のもと、西郷と川路は次第に自分たちの才能を開花させていく。川路が自分のことを武士らしくないと思っていた気質が、諜報や買収などの情報戦では重宝されることとなる。空気が読めないと役人の世界では通用しなかった西郷が、諸侯の間では「嘘がつけない」ことを評価され、純度の高い薩摩の使者として喜ばれるのだった。

 あらすじだけを見れば、ちょっとお堅い歴史物のように思えるかもしれないが、泰三子氏が描く『だんドーン』はそう一筋縄で説明ができる作品ではない。かなり絶妙に現代的な会話やネタが入れ込まれており、どの人物もかなりキャラが立っていて、ストーリーも単純明快、気がつけば川路と西郷の二人のタッグに胸を掴まれている。時には、「貝合わせ」を誤解した二人がそういう道具を売っているお店に行ったり、脚気でしんどいときに彼らに白米を食わそうとする家族に絶望したり、彼らの人間味溢れる日常パートもふんだんに描かれている。

 笑わされたと思ったら、泣かされたり、腹が立ったと思ったら、拍子抜けしたり、シリアスとユーモアの見事なバランスですっかり作品の虜になってしまった。

 ちなみに、現代における警察の仕事は、江戸時代は「卑職」とされ、代わりにヤクザや前科者が「岡っ引き」として仕事をしていた。と言っても、彼らはその見返りに賭博や売春といった違法行為を見逃してもらうなど、決して健全な体制ではなく、市民も泥棒や強姦にあったところで、犯人を捜してもらえるとは思っていなかった。彼らが生きていたのはそういう時代であり、そこから川路がどのように警察を作っていくのか、そしてそれを作者はどう描くのか、これからがかなり楽しみな作品である。

 また、作者の泰三子氏がダ・ヴィンチWebのために描き下ろしたイラストも初公開。「コミックDAYS」では試し読みも行っているため、チェックしてほしい。

▼『だんドーン』【コミックDAYS】第1話
 https://comic-days.com/episode/4856001361330679089

文=園田もなか

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