Apple製品を徹底分解! Appleの強さを内部から確認する『なぜAppleは強いのか――製品分解からわかる真の技術力』

ビジネス

公開日:2023/11/18

なぜAppleは強いのか――製品分解からわかる真の技術力
なぜAppleは強いのか――製品分解からわかる真の技術力』(清水洋治、株式会社テカナリエ/技術評論社)

 iPhone、iPad、Apple Watchなど、革新的なガジェット(デジタル家電)を次々と生み出してきたApple。

 日本でも圧倒的なブランド力を持っており、デザインの美しさや、操作のしやすさのファンになり、長らく愛用している人も多いだろう。

 一方で、「Apple製品の内部の機構がどう優れているのか」を説明できる一般ユーザーは少なく、ましてや製品を分解したことがある人はほぼゼロのはずだ。

 そんなApple製品を徹底的に分解・解析しているスゴい本が『なぜAppleは強いのか――製品分解からわかる真の技術力』(清水洋治、株式会社テカナリエ/技術評論社)。著者は年間100以上の製品の分解、チップ開封解析を行う企業・株式会社テカナリエの代表だ。

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なぜAppleは強いのか――製品分解からわかる真の技術力
iPhone Xを分解した様子。電池パックがL字に配置されているのにまず驚く

本書では

・iPhoneのX(2017年)以降
・iPad Proの10.5(2017年)以降
・Apple WatchのSeries 5(2019年)以降
・AirPods Series(2017年の初代以降)
・独自プロセッサのM1を搭載したMac製品(2020年以降)

 などを主に分解。顕微鏡や走査電子顕微鏡(SEM)なども用いて内部を詳細に観察・解説し、その内部写真をメインに構成している。Apple WatchやAirPodsなどは、その形状に合わせて部品の形状や配置がトータル設計されている様が見て取れるのが非常に面白い。

なぜAppleは強いのか――製品分解からわかる真の技術力
こちらはAirPods(第2世代)の内部の様子

 また初代AirPodsの「うどん」と呼ばれた棒状の部分に充電池が入っていたこと(第2世代のAirPods ProではそこにBluetoothアンテナが入っている)、iPhoneが初代(2007年)から13 Proまでの約15年で体積を減らしながら圧倒的な高性能化を果たしたことなど、素人が読んでも興味深い話は多いはずだ。

 iPhone 14 Proの基盤分解で、キオクシア、村田製作所、アルプスアルパインなどの日本の企業の部品が出てくることにも驚く人は多いのではないだろうか。本書はこのように、身近にあるのに全く知らないApple製品の中身をつぶさに観察できる内容となっている。

小型の部品の集積が表す「Appleが飲み込んだ市場の巨大さ」

 そして本書の真骨頂は、その分解を通じて、タイトルの通り「なぜAppleは強いのか」を著者ならではの視点で解明していることだ。

 その一例としては、著者が「究極のエコシステム」「まさにスケーラブルコンピューティング」と呼ぶような製品開発・製品展開の在り方が挙げられる。

 たとえばApple製品では、ディスプレイサイズの全く異なるiPhoneとMacにおいても、同じCPUを2倍、4倍に増やすような形で内部が構成されている部分があるという。またスマートスピーカーのHomePodでは、過去のiPhoneやApple Watchで使われていたプロセッサがそのまま再利用されているケースもあった。

 Appleという企業に対しては、尖った製品を生み出すために一つ一つの製品に強いこだわりを持ち、妥協なき開発をしている……というイメージを持っている人が多いだろう。しかし、あえて分かりやすく・なおかつ意地悪な言い方をすれば、「部品の使い回し」「コピペで2倍にして転用」といった効率的なやり方も一部で取り入れ、製品のバリエーションを増やし、より高性能な製品を作ってきた企業でもあるわけだ。

なぜAppleは強いのか――製品分解からわかる真の技術力
Apple Watchも徹底分解。世代ごとの進化が分かるのも面白い

 またApple Watchの進化を紹介しながら綴られた、以下の文章も非常に含蓄深いものだった。

スマートフォンは多くの既存デバイスを飲み込みながら進化を続けてきました。携帯電話、デジカメ、ポータブルオーディオ、ICレコーダーなどの市場はすべてがスマートフォンに吸収されています。同様にスマートウォッチは鍵や財布、機能としてのリモコンなどを飲み込み始めています。成長のための財源は、既存のビジネスを飲み込むことにあります。スマートウォッチが進化する過程で、既存のビジネスがターゲットにされているわけです。

『なぜAppleは強いのか――製品分解からわかる真の技術力』より

 iPhone、Apple Watchのようなモバイルデバイスには、引用文にあったような電子機器の機能が非常に小型化した部品となって埋め込まれている。その部品の全容をあらわにする本書は、Appleが飲み込んできた市場の巨大さと、その賢い成長戦略を明らかにする内容にもなっているのだ。

文=古澤誠一郎