史上最も説得力のあるUFO遭遇事件「ニミッツ事件」。アメリカ国防省自らが公開し、存在を認めたUFOと地球外生命体と最前線

社会

公開日:2024/1/24

UFOvs.調査報道ジャーナリスト
UFOvs.調査報道ジャーナリスト』(ロス・コーサート:著、塩原通緒:訳/作品社)

「大統領に就任したとき、UFOについて調べましたか?」

 この質問はアメリカで人気のトーク番組「ジミー・キンメル・ライブ!」でゲストとして出演した(元)大統領への最初の質問としてお約束となっている。出演したジョージ・W・ブッシュ、ビル・クリントン、そしてバラク・オバマたちが出演した際に、彼らはユーモアを交えて司会のジミー・キンメルとUFOについてのやり取りをしてスタジオは笑いに包まれるのだ。アメリカでの“UFO”の扱いは、“政府が隠蔽している”ことと“政府はUFOを否定する”がセットとして語られ、大統領となったらその秘密を知ることができるはずだということである。なぜ“UFO”の存在を政府は否定、または隠そうとしてきたのか? そもそもUFOは実在するのか?

 ロス・コーサート『UFOvs.調査報道ジャーナリスト』(塩原通緒:訳/作品社)は、ジャーナリストである著者がアメリカという国家とUAPとの関わりを丹念に調査し、信頼に足る証言を積み重ねた一冊である。

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※UFO(未確認飛行物体:unidentified flying object)という名称は現在では公にはUAP(未確認異常現象:Unidentified Anomalous Phenomena)という名称にとって変わられている。またUAPのAが当初aerial(空中)であったが、後に空中だけでなく水中や宇宙空間といった全領域を含むことで現在のAnomalous(異常)が使われるようになった。

 本書は、1947年にニューメキシコ州ロズウェル近郊に墜落した正体不明の機体に端を発するロズウェル事件に始まり、UAPが国家安全保障上の脅威となるか判定するアメリカ空軍の“UFO”調査「プロジェクト・ブルーブック」など、現在では映画やドラマの題材としても扱われているほど有名な出来事やプロジェクトが数々登場する。1953年に合衆国航空軍団によって創設された第4602航空諜報部隊(AISS)は、未確認物体や宇宙空間から落下した残骸についての情報が入ればただちに世界中のどこへでも出向き、密かにそれらの物体を回収する任務に就いていたという。これなどまさに都市伝説化されたUFOの目撃者の前に現れる黒づくめの男たち「メン・イン・ブラック」は実在したのではないかと思えてくる。

 20世紀のUAP/UFOの扱いは多くの目撃証言や写真、映像があったとしても、政府や国家が公に認めることはなく、社会的にも報道などで真面目に取り扱うことはタブーとさえ思われていた。また多くの航空機のパイロットはそれらを目撃したとしても報告することでキャリアが終わってしまうので(精神的に問題があると判断されるため)好んで報告することはなかったという。しかし、21世紀に入り史上最も説得力のあるUAP遭遇事件が起きたことで、後の政府の対応は180度変化することになった。「ニミッツ事件」である。

 2004年11月に空母ニミッツを中心とした艦隊が中東への配備前の準備訓練中、高度24,000メートル上空を時速100ノット(時速185.2キロメートル)というかなり遅い速度で移動している物体をレーダーで探知する。2機のF/A-18スーパーホーネットを発進させ確認に向かわせるが、そこで12メートルほどの白い「チクタク」(形状がイタリア発のミント菓子に似ていることから)のような物体と遭遇する。翼もなく回転気流もないその物体はF/A-18スーパーホーネットの動きをそっくり真似し始め、パイロットがその知的な動きにゾッとしたという。その後に機体の周囲を一周すると、空中で停止してから瞬時に飛び去った。パイロット曰く、「ライフルの弾丸のように、徐々に加速することなく、視界から消えた」という。この事件はまだ続く。次に現場に到着したパイロットはこのUAPを照準に捉えることに成功する。この映像は録画されていたが、だれだかわからない二人の人間がヘリでニミッツにやってきてデータを回収していったという。しかしなんと2007年にその映像が流出。

 現在も動画共有サイトで「FLIR1」と呼ばれ見ることができるこの映像は、2020年にはアメリカ国防省自らが公開したことで、国家がこれまで約70年におよび否定してきたUAPについて、その存在を公に認めたことになったのである。

 そして現在では国防省がUAPの情報を公開するサイトを開設し、科学者たちもUAPの科学調査に同意。報道なども真面目にUAPを取り扱い始め、元パイロットの目撃証言をもとにアメリカ下院議会は公聴会を開き、政府がUAPの存在やテクノロジーについてこれまで隠蔽してきたのではないかとの告発までが行われるようになった。

※アメリカ国防省が設立したUAP調査機関AARO(全領域異常対策室)のサイトでUAPに関する情報を公開している https://www.aaro.mil/

 また本書は2021年に原書が出版されたが、2023年9月に改訂版として大幅な加筆が入ったことで、翻訳である本書もそれに合わせ発売を延期し増補部分を追加。2023年に入りアメリカによる中国の偵察気球の撃墜からバイデン大統領のUAPへ対応と姿勢など、最新のアメリカの状況が追加されている。

 本書を読み進めると、空にはいまだ説明のつかない現象が発生していることは間違いないように思えてくる。しかしそこに地球外起源の知的な存在があるのか、つまり宇宙人は存在しているのか? という疑問の答えはまだよくわからない。

 パンクバンド「ブリンク 182」のボーカルで、地球外生命体の存在を信じているトム・デロングが軍高官と接触し、軍がロズウェルの砂漠で地球外起源の技術研究を極秘に行っていると語り、航空宇宙企業ロッキード・マーティンの「スカンクワークス」(アメリカの最新鋭航空機の設計を担った同社の極秘部門「先進開発計画」の通称)の元責任者ベン・リッチ曰く、「あの砂漠には、きみの理解を50年超えたものがあるんだよ。あと50年で作られるだろうと思うものじゃなく、あと50年で理解できるようなものだ」との言葉も飛び出す。こうした眉唾モノの証言についても著者が丁寧に調査していくと、概ねその根拠となる情報源は正しかったりするのである。するとだれの言葉が真実で、どれが嘘、妄想なのか。もっともらしい証言が実はなにか別の存在を隠すための方便なのではないか? とも感じてくるのである。

 ただはっきりと言えるのは“火の無い所に煙は立たぬ”という言葉の通り、本書にはその“煙”がはっきりと立ち上っているのである。それもいくつもの煙が。だからこそ、その煙の元となる火はたしかに存在するはずなのである。

 そう考えると、今後公開されるUAPの新たな情報について本書を手に答え合わせをする楽しみもあるのかもしれない。いま空で何が起こっているのか、いま我々が空を見上げるべき理由が『UFOvs.調査報道ジャーナリスト』には記されているのである。

文=すずきたけし

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